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13 錬金術の実演をしましょう

 すでに荷物は運びこんでくれた後で、主塔は鍵がかかっていた。

 私は受け取っていた鍵をつかって扉を開く。


 外扉の内側は、短い廊下と、上へ向かう階段が伸びていた。

 石がむき出しの壁や廊下、階段がとても雰囲気があっていい。

 掃除するにも、上から掃いていった後、水を流して掃ききれない砂なんかを綺麗にできるだろう。


 そして目の前にある、一階の部屋の扉。

 古めかしい鉄の扉は、元からこの主塔で使われていたのだろう。

 それを直して取り付けたのだと思う。


 重みがある鉄の扉を開くと、その中は壁一面に作り付けの棚がある部屋になっていた。

 中央には大きなテーブルがあって、椅子もいくつか置かれている。

 飴色のテーブルも椅子も、がっしりとした木でできている。

 貴族が使うのだからと気を遣ってか、椅子は綺麗な彫刻まで入っていたが、テーブルはそっけない作りだ。

 これは私の注文通りである。


 錬金術ってほら、溶かしたりしかねない物を作るから、あまり優美すぎるテーブルでなんて作業しにくいじゃない?


 入口の近くには、私が王都の館から運んでもらった大きな櫃が二つ置かれている。

 一つは道具類。もう一つが本だ。


 そして部屋の一番奥には火を扱う竈。

 竈そのものは二つ。

 煮た方がいい物もあるので、これを作っておいてもらっていた。


 さらには洗い場もあった。

 手を洗ったり、素材を綺麗にするのもあるし、水そのものを使いたい時にもここで作業する。

 水は大きな甕があり、中には水を増やす魔石道具が入っている。水を少量入れておけば甕が満たされ、横についている止水栓を開けると流し台の上に水が流れ出てくる仕組みだ。

 便利だけど、魔石はそれなりにお金がかかるので、館の台所とここの二か所でしか城では使わない予定だ。

 町の方は、裕福な人や町長がもしかしたら持っているかもしれない。


「なんだか台所に、実験室が組み合わさったみたいな感じになったね」


 リュシアンの感想にうなずく。


「水や火を使うってなると、どうしてもこうなるのよね。師匠の工房もこんな感じだったし。あれを参考にしたの」


「ああ、たしかに。あっちの方が隠れ家っぽい感じに見えたのは、狭さのせいかな」


 そう言いながら、リュシアンは作り付けの棚なんかを見て楽しそうにしている。


「そういえば、何か作れるようになったのかい?」


「ええ、ちょっとだけ。伯爵家の館では、ローランドが異臭に過敏になってしまって、調合がほとんどできなかったのよね」


(私は天才じゃない。だから時間をかけて何度も調合したりしなくちゃいけないのに、できなかったのよね)


 なるべく部屋の中で、こっそりとできる物といえば、基礎的な物だけだ。

 それでも回数を重ねて、師匠が残してくれた見本と同じように作れるようになった物はある。


「基本的な触媒なんだけどね」


「あれ、魔術にも使えるんだよ」


「え、そうなの!?」


「魔術の使いやすさが変わるし、疲れにくいんだ。一個売ってくれたら嬉しいな」


 それは触媒を使えば、魔術師の余命も伸びる可能性があるのではないだろうか。


(あ、だからリュシアンは錬金術に目をつけたのかも……)


 他の物ではそんな効果がなかったから。

 でも錬金術の基礎的な触媒でも効果がうっすらでもあるなら、望みが出て来る。


「じゃあ、今一個作ってみる」


 触媒は劣化しにくいけれど、友達にあげるなら古いものより新しい物の方がいい。

 私は長櫃を開け、必要な道具を取り出す。


 触媒は様々な性質の物から作れる。

 材料は水や鉱石、薬草など。

 より魔力の強い素材から、その魔力を凝縮して使いやすくした物が、触媒になるのだ。


 水はすぐ用意できないし、草はできるだけ青々とした物の方がいいので、今日は鉱石を使う。


「溶岩石と、ランプの火……」


 火の魔力を沢山含んでいるのは溶岩とか、炭とかになる。

 あとは火そのものも魔力が含まれていて、それらの火の魔力を集め、余計な物を排除すると火の触媒ができるのだ。


 あとは丸いスープボウルを大きくしたような形の鉄の器。

 火にかけるために必要な台。

 溶岩石は、すでにごりごりと砕いた物があるので、そちらを使う。


 天秤を出し、荒い粉にした石の重さをはかって鉄の器に。

 ランプの芯を出して火をつけ……。


 火打石を探していたら、リュシアンが申し出てくれた。


「火ならつけてあげるよ」


 リュシアンが指先を芯に近づけると、あっさりランプに火がともった。


「魔術って便利……。使えたら良かったのに」


 つぶやきながら、ランプの上に鋼鉄の輪っかに足がついたランプ台を置き、その上に鉄の器を置いた。


 熱している間に、計っておいた石を入れる。

 それを鉄製の先端がスプーン状になったマドラーでかき混ぜた。

 もちろん、持ち手には熱くないように木が使われている。


 そうして私のなけなしの魔力を込めていく。

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