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契約結婚のその後で、領地をもらって自由に生きることにしました  作者: 奏多


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115/118

115 再会と同時の提案

 リュシアンが側に降り立つ。

 軽い着地音に、ほっと息をついてしまう。


「久しぶり、シエラ。待たせてごめん」


 今しがた戦ってきたばかりとは思えない穏やかな表情で、リュシアンが言って私に近づく。

 そして指先で頬をぬぐった。


「苦労しただろう。煤がついてたよ」


「うん、色々、色々なことがあったから」


 顔ぐらい埃や土を被っていてもおかしくない。

 でも、一生懸命やった証だから恥ずかしいとは思わない。

 ただ触れられたことより、じーっと近くにいた兵士がこちらを凝視してることの方が、妙に恥ずかしかった。


「え、ええと。どうして一人でここまで飛んできたの?」


 何か用があるはずと思って聞く。

 リュシアンはうなずいた。


「さっきの、君が作ったんだろう? もう一個持ってるかい?」


「ええ、もう二つぐらいは……」


「じゃあ来て。ここから離れさせよう」


「え、何を? わっ」


 言うなり、リュシアンは強引に私を抱えて空へ飛びあがった。


「え、あっ。ひえええええ!」


 うっかり真下を見てしまった。

 しかも足元になにもない!

 高い! 落ちたら死ぬ!

 思わず叫んでしまう私におかまいなく、リュシアンは頼んで来た。


「ほら、さっきの調合品出して」


「ひぇぇぇぇ」


「このままだとみんな竜に燃やされちゃうよ」


 そう言われて、ようやく私は恐怖を抑え込めた。


「ちゃ、ちゃんと支えてて。落ちそうで怖いから!」


 そう頼んでからポケットを探る。


「はい、これ」


 白い結晶を差し出す。


「これ、ぶつけるだけでいいのかな?」


「それで発動すると思うけど……え、まさか!」


 説明が終わらないうちに、リュシアンは無造作に火竜に近づいていく。

 これ、火竜にぶつける気だ。


 そう悟った私は、もう悲鳴も上げられない。

 だってそんなことしたら、絶対火竜が怒るでしょ!

 息が詰まるような恐怖の中、リュシアンは私の調合品をけっこうな近くから火竜に投げた。


 パシャッと広がる水しぶき。

 火竜が完全にこっちに視線を合わせ、行動を開始する。


「よし、こっちだ」


「いや『こっちだ』じゃないぃぃぃ!」


 当然のごとく火竜が吼える。

 口から噴き出す火が空を焦がし、接近していた私の皮膚まで熱い! やけどする。

 っていうか。


「うそ、誘導するの!?」


 叫ぶと、リュシアンは実にいい笑顔で肯定した。


「そうだよ。君の叫び声もその材料なんだけど……」


 まさか自分まで、火竜誘導のための道具にされるとは思わなかった。

 これ、計画を実行するためには手段を選ばないところをすごいと思うべき!? 領主として戦うなら正しいんだろうけど、恐怖がすごい。

 だって火竜がこっちに向かい始めてる!


「あと、どこに誘導したらいいかな? やっぱ水が沢山ある場所がいいと思うんだけど」


 リュシアンも空を飛んで逃げ始める。だけど口調はいつも通りだ。

 なんで平然としているの!? 絶対変だからこの人!

 とにもかくにも、私じゃどうする気なのかわからないので、水が沢山ある場所を指さす。


「水なら、湖があるから!」


「あ、山の側のあそこだね」


 リュシアンはそのまま空を飛んで、移動していく。

 火竜が追いかけ始めたことで興奮したのか、一度炎をこちらに吐いてきた。

 とんでもない熱気に、熱いはずなのに背筋が凍る。


「ひぃぃぃ!」


「シエラ、がんばって息を吸って……止めて、目を閉じて!」


 唐突にリュシアンが言い、私はなにがなんだかわからないまま、急降下する感覚にリュシアンにしがみついた。


 そのまま、冷たい水に襲われる。

 息を止めるのはできたけど、潜るためだと思わず、暴れそうになる。

 でもすぐに、顔が水面から出た。


 それから「あ」と気づく。

 火竜がついてきていたんだから、もっと潜って隠れた方が良かったんじゃ……。

 そう思ったけど、火竜としては二度も水をかけられ、目標が水の中に潜ったせいで嫌になったのかもしれない。


 一周だけ湖の上空をぐるりと回りながらじーっと私達を見下ろした後、火山へと戻って行く。

 やがてその姿は、火山の山頂からどこかへ消えた。


「火竜が、帰ってくれた……」


 これで城や町が、火竜に焼かれることはないだろう。

 ベルナード軍もすでに壊滅したし、本当に、危機は全部去ったんだ。

 ほっとして思わず座り込もうとした私は、湖の中に沈みそうになって、リュシアンに引き上げられる。


「しっかり、シエラ。もう大丈夫」


「あ、うん。その、ありがとう」


 呆然としながら、無意識で返事をする。

 それからもう一度火山の方を見て、城の方を見た。

 城の方は、油に引火した炎も小さくなってくすぶりはじめている。


 黙っていても、テオドールか消火をしておいてくれるだろう。

 避難路へ向かった人達も……きっと誰かが知らせて、戻らせてくれるに違いない。

 その後は、セレナがみんなを休ませるなり、治療の手配もしてくれるはず。


「とにもかくにも……勝ったんだ」


 そう思ったとたん、ようやく水で濡れた服の重たさを感じる。

 火竜から逃げるには、水が一番だったんだろうけど、ずぶぬれでひどい有様だ。

 そんなことを考えていると、リュシアンが私に言った。


「帰ろうか、シエラ」


 リュシアンが私の手を引く。

 もう一度抱えられ、彼の魔術で宙に浮こうとした。

 魔術は便利だけど、不安になって私は止めるように言った。


「リュシアン、魔術の使い過ぎはだめ。湖岸からは歩いて帰ってもいいから」


 さっきもとんでもない魔術を使っていた。

 魔石の助けがあっても、リュシアンの寿命が削れていそうで怖い……。

 だから使ってほしくなかったのだ。


「そうかい?」


 リュシアンは首をかしげながらも、魔術を使うのをやめてくれた。

 よかった。

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