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契約結婚のその後で、領地をもらって自由に生きることにしました  作者: 奏多


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113/118

113 戦には意外性がつきもの 2

 こちらのやってることがよくわからなかったベルナード軍は、動きが遅れた。

 燃える砂が風に飛ばされてベルナード兵士に届く。

 とたんに、もだえ苦しむ兵士達。


 どうしてそうなるのかと言えば、まず、燃える砂の熱さでやけどをする。

 しかも防御するはずの鉄鎧や、革鎧をつなぎ合わせている金具などが、石スライムと鉄などを混ぜて新たに作った、鉄スライムによって同化されていき、鎧としての形を保てなくなる。

 そこにさらに燃える砂が入り込むのだ。


 そこにテオドールが矢を撃ちこむ。

 兵士のほとんどを動員して、ありったけの矢を撃たせていた。

 

 その間も、外壁にとりついていた魔物は暴れていた。

 やがて、どこかの外壁に穴が開いたようだ。


 でもすぐに、兵士達が対応してくれるはずだ。

 ただ、これ以上外壁が壊れないように、内側ではあまり爆弾を使えない。

 そして領民には危険だからと、急いで凧の手伝いをしていた人たちを外郭から逃がした。


「油を撒け、火矢を射ろ!」


 テオドールが外郭上にいる兵士達に、次の手を指示した。

 侵入しようとした魔物や、外壁にかかるように油が撒かれた。

 そしてすぐ、用意された火矢がいくつも撃ち込まれると、魔物ともども外壁が炎に包まれる。


 炎にさえぎられて、進んで来たベルナード兵達もこちらに近づけない。

 しかし、それならばと炎が上がっていない壁に向かって、新たな魔物を


「アダン! メリーとマティアスを連れて内郭へ移動して! そのまま他の領民と一緒に避難路へ行くのよ!」


 これ以上は無理だ。

 入り込まれた時に、内郭へ逃げ込めなくなるかもしれない。

 兵士達の数がまだそろっている間に内郭へ行き、そのまま脱出を始めてもらおうとした。


「まだ……!」


 アダンが言いつのろうとしたところで、マティアスがぎゅっとアダンにしがみついた。

 メリーもさすがに不安そうな顔になっている。

 それに気づいたアダンは、悔しそうな顔をする。


「二人を任せたわ、アダン。守ってあげてね」


 やるべきことがあると思えば、逃がされたという気持ちは薄れるだろう。

 そう思って言うと、ようやくアダンはテオドールが指示した兵士と一緒に外郭から遠ざかってくれた。

 ふぅと息をついたところで、テオドールが言う。


「領主様、あなた様もお逃げください。そろそろ次の魔物がやってきます」


 テオドールに言われる。

 私はアダン達よりも足手まといだから、逆らうつもりはない。


「わかったわ。最後に、これを」


 テオドールに火山にあった炎の魔石を渡す。

 小袋に入った物だ。


「私は魔術を使えませんが?」


「大丈夫。次の魔物が来たら、今みたいに油で火をつけて。そこに、爆弾と一緒に投げ込むだけでいいの。ある程度の損傷は与えられるはずだから」


「承知いたしました」


 テオドールは即答した。

 詳しい説明をする時間がないのは、双方よくわかっていたし、敵を倒せるのなら、なんでもいいと考えたのだろう。


「気を付けて。あなたは素晴らしい騎士だし、後で領地を立て直すにしても、守り続けるにしても、あなたがいないと困るわ」


 テオドールが微笑んだ。


「そう言っていただけて良かったです、なるべく生き残ります」


 そう言って、テオドールは一礼した。

 私はうなずいて、その場を離れる。


 兵士がついて来ようとしたけれど、人手が足りないだろうと断った。

 内郭まではすぐそこだ。

 走っている間にも、何かがぶつかる振動とか、爆発音が重なって不安で足が震えそうだったけれど。


 内郭へ入ると、内庭は避難路へ向かう人の列ができていた。

 戦えない人達が先で、内郭にいる兵士達がきちんと整列を促している。

 おかげで、順次避難路に入れているようだ。

 指示を請け負ったセレナが、その中にいるのがわかる。


 そんな様子を後目に、私は内郭の見張り塔から上へ。

 状況を知りたい。

 それに、さっきの一か八かの方法が、どんな効果を生むのか確認しなくては。

 ようやく上がり切ったところで、見張りをしていた兵士にびっくりされた。


「領主様!?」


 内郭の上にいた兵士達がわらわらと集まってくる。

 彼らも詳細を知りたかったのだろう。

 遠目からは、交戦しているのがわかるけれど、どれくらいの状況なのか細かくはわからないから。


「ちょっと外郭の方が危ないのよ。状況が知りたいから上がって来たわ。一応バリスタを用意させておいて」


 私の言葉に、隊長格らしい兵士が号令をかける。

 兵士達も配置について、すでに持ち込んでいた大きなバリスタにとりつく。


 そして私は、外郭の方を見た。

 ここからだと、外郭の壁の直下はよく見えない。

 ただ、外郭の内側に待機している兵士達はまだじっとしている。だから、穴をあけられてはいないのだろう。

 その中に、傭兵隊もいるのが見える。

 彼らがいれば、多少の侵入なら大丈夫だと安心できた。


 一部、大変そうに働いている兵士達もいる。

 さっき壁を破られて、石スライムで穴を塞いだ場所のようだ。


 石スライムはこんがりと焼けるとただの石になるのだけど、まだ元気なうちは炎が迫ると逃げようとする。

 そして、逃げるとぽっかりと穴が開いてしまうのだ。


 そんなわけで、石スライムには悪いけれど、逃げた箇所には石を投げ込んで塞ぎ、焼けて石になったスライムの上に積み上げることで、穴を塞ごうとしているんだと思う。

 魔物もそこを狙おうとし、上にいる兵士達は炎でなんとか撃退しようとしているので、石を運ぶ人も大変そうだ。


 その作業が終わって、一瞬静かになった時だった。

 少し離れた箇所に、岩が飛んできたのがわかる。

 地響きに、思わず矢狭間にしがみついた。


 収まったところで顔を上げると、外郭の向こうにやたらと大きな魔物の影がある。


「あれは……」


 木だと思う。

 蔦が絡み合ってできた大樹。

 近くにいたら、見上げるほど大きいに違いない。

 その木の枝がしなるように動いて、何かを投げつけている。


「蔦の魔物の、上位種みたいなものかしら」


 大樹の魔物は、岩や、実のように成っている物をなげているようだけど、威力が今までに見た物とは違った。

 一撃で、外郭の上部の岩がぶつかった個所が吹き飛んだ。


「私が、死んだ時の攻撃、これだ……」


 蔦の魔物の攻撃は確かに危険だったけれど、妙に小さい気がしていたのだ。

 恐怖で錯覚していたのかと思ったけど違う。

 

 何も考えずに対応していたなら、これはあっという間に外郭も内郭も壊されて、全滅していただろう。

 今までベルナード軍があの魔物を出さなかったのは、何かしらすぐに出せない理由があったのに違いない。


 テオドールは外郭の下にいた兵士達を退避させたみたいだ。

 内郭に近い、ベルナード軍の正面を避けた領域へ二手に分かれて移動している。

 がれきが降って来ただけでも死ぬだろうから、兵力を温存するためにはそうするのが適当だろう。


 テオドールの方は、残っていたらしい凧を上げ、再び石スライムと火の魔力が合わさった粉をばらまいた。

 木なら、火で効果があると思ったのだと思う。

 粉が降りかかった大樹は、少し痛がるように身をくねらせる。

 でも、決定打にはならない。


 そのうちに、別の魔物達が炎であぶられてない壁にとりついたらしい。

 振動でわかる。

 外郭の上にいる兵士達が、再び油を撒き、火をつけた。


 さらに強い爆発が起きる。

 外郭の壁を壊すまでには至らなかったけれど、とりついていた魔物が吹き飛ばされるのが私の方からも見えた。

 舞い上がって落下後は動かなくなったので、魔物を十匹ほど、一気に倒せたはずだ。


 頼んでいた通り、渡していた魔石と爆弾を使ったんだろう。

 魔物を少なくできるのならそうしたい、と思って渡した物だ。

 魔力を帯びている爆弾と一緒なら、魔石もその魔力によって触発されて、爆発の手助けになるだろうと計算してのことだった。


 テオドールはそこで、ようやく兵士達全員に避難を命じたようだ。

 戦闘をしていた箇所から遠ざかっていく。

 あの大樹の魔物はまだいるから、投げられる物で即死させられるかもしれない、と思ったのだろう。

 それでも、戦況を見極めるため、テオドールは距離をとりつつも外郭の上から降りることはなかった。


 再び轟音がした。

 外郭に穴が開いた。

 炎があるから、なかなか踏み越えてはこないけれど、魔物達がまもなく出てくる。


 退いていた待機の兵士達が整列をした。

 槍と盾を構えるのが見える。

 魔物が侵入したら戦うつもりだ。


 私は内郭側を見て、壊されゆく外郭を越えて上がる炎を見つめながら、祈る。


(あともう少し……)


 振り返ると、内郭の庭に、人の姿はほとんどなくなっていた。

 急いで避難してくれている。

 でもまだ、避難の列が残っていた。

 彼らが避難したら、もう目を引き付ける必要はなくなるから。それまではなんとか持ってほしい。


 私が祈りながら、唇を噛みしめた時だった。


 ――どこからか、ざわめきが聞こえた。


 ベルナード軍の方からだ。

 魔物でも暴れ出したのかと思ったが、そうではない。

 じりじりと進軍方向を変えている。

 前にも進めず、侵入してきた裏道へ戻るような動き。


 どうして……。


 私はベルナード軍の動く方向とは反対を見た。


「あ……」


 遠くに、きらめく物がある。

 ハルスタットまで至る山の斜面。

 その方向には、南からの道がある。


 じわじわと沢山の人馬の姿が冷えてきた。

 青に、金の色で光できらめくよう紋章が刺繍された、三角の旗。

 風にはためくその紋章は間違いない。


「ジークリード辺境伯の、軍」

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― 新着の感想 ―
緊張感あふれる数セクションが続いた後の 辺境伯軍登場にニヤり。こうでなくては!
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