111 隠しネタの調合
私は、みんなに「もうちょっとだけここを持たせてて」と告げる。
それから向かったのは工房だ。
「少しお休みになりませんか?」
ついてきてくれたセレナに心配されるけど、ここがふんばりどころだと思う。
「休んでるうちに状況が悪くなったら、死んでも死にきれないから」
そう言って、私はセレナに手伝ってもらってあるものを作成した。
まず、庭に増やす元としておいていた、石スライムを持ってきてもらう。
「重いから、誰かに手伝ってもらって」
そう言ったところ、食事とちょっとの休憩後、活動を始めたフレッドとニルスが捕まった。
二人は私が「あるだけ」と言ったので、両腕で抱えるほどの石を六つほど移動してくれる。
「一個だけ残して、そっちをフレッドは増やしててくれる?」
「わかりました領主様!」
増やしていいと言われ、フレッドはニコニコで工房を出ていく。
「ふぅ。ここから先はフレッドに見せられないわ……」
「何をなさるおつもりで?」
ニルスが興味津々で聞いてくる。
セレナの方は何かを察したのか、苦笑いをしていた。
私はにっこりと微笑んで言った。
「砂粒にするの」
製造方法は簡単。
まずは溶岩石をニルスに砕いてもらい、竈の火にかける。
その際、火の魔力を持つペリドット等の粉を入れて、ちょっと起爆になる魔力を注ぐと、溶岩石の粒がそれぞれふくらむ。
ぱっと見、軽い黒のビーズのような見た目だ。
これが石スライムにとって逃げ道になるけれど、増えることはない素材になる。
冷ますついでに、石スライムにこれをふりかける。
混ぜるうちに、熱さから逃れて石スライムが勝手にぱらぱらと粒になっていく。
その際『キュィィィィ』という音が鳴るのだけど。
「……断末魔?」
ニルスがつぶやく。
「それ聞くと、フレッドが涙を流しそうだったから、外に行かせたのよね」
愛する石スライムが、可哀想になって見ていられないだろうと思って。
ニルスは理解した表情になった。
やがて冷めたところに、少し水を足してかき混ぜる。
冷めて水を吸った溶岩石の粒に、石スライムがくっついている。
そこへさらに他の媒介と一緒に鉄を混ぜて、粒状にする。
それを沢山沢山作った。
ニルスだけでは大変だろうと、セレナが外に溶岩石を運び、フレッドが外で溶岩石を砕いて中へ運んだ。
運悪く石スライムの音を聞いてしまい、ちょっと乱心しかけたフレッドに、セレナがコップの水をかけて正気に戻したりもしていた。
さすがセレナだ。
出来上がった粉を、袋に詰めてもらう。
それを、フレッドとニルスと一緒に外郭へ運ぶ。
「領主様!」
「爆弾はまだあります!」
アダンとメリーが口々に報告してくれる。
今度はその側に、テオドールもいた。ちょうどいい。
「戦況はどうですか? テオドール」
「今の所は、魔物だけをこちらに向かわせて壁を破壊させようとしています。何匹か、攻城兵器のように岩を投げ飛ばす魔物もいましたが、領主様がお作りになった爆弾を、矢で射ることで、遠くにいても倒せています。何度か岩が当たっていますが、石スライムの柱のおかげで、崩れるほど破壊されてはいないようです」
良かった。
投石をする魔物は、まだ城を破壊できていないらしい。
「ただ、それも時間の問題かと……」
「あと一回ぐらいなら耐えられそう?」
テオドールはうなずく。
「二度目は厳しいですね。石スライムを避けた場所に穴ができ始めています。魔物もそちらを狙うようになってきていますし、何度かベルナードの兵士が突入を試みていますので」
壁が壊されそうになっているのは間違いない。
侵入を許せば終わりだ。
(やっぱり、思ったよりもベルナード軍に対して長くは籠城できないみたい……)
『未来で、あっさりと城を落とされたのも、これはやむをえない状況だのぉ』
一緒に話を聞いていたらしいカールさんが、ぼそりとつぶやく。
(このままでは、援軍を待つのは無理ですね)
『そうさな。いつ来るかわからぬ物を頼るのは、いささか不安すぎるであろう。しかして、いくらか損傷を与えないことには、民を脱出させる時に耳目をこちらに集められないからな』
(それで、後始末が大変な兵器を用意したんですけど……)
「テオドール、ベルナード軍の兵士が近づいてきた時に備えて、休憩中の兵を集めておいて。もし侵入された場合に、押し返せるように。石スライムをフレッドに増やしてもらっているので、穴ができた場所には花崗岩を運んでおいて、増えた石スライムを置きましょう」
それで、穴は早く塞げるだろう。
しかもただの岩ではないので、再び壊して侵入するのも難しくなるはずだ。
欠点は、火を近付けると終わりだということ。
「承知しました」
まずテオドールは、休憩をしていた兵を集合させるよう指示を出した。
近くにいた兵士が走り出す。
それから私は、肝心なことを話した。
「ベルナード軍が近づいてから、使いたい調合品があります。これで、少しは敵兵へ攻撃できるし、あちらは防御しにくくなると思います」
「どのような作用をする品で?」
尋ねたテオドールに、私は話す。
聞いていたフレッドとニルスは、「あ、それは嫌かも」と言う。
「アダン達には、それまで爆弾で城を守ってほしい。お願いできる?」
「もちろん!」
アダン達はすぐに応じてくれた。
彼らもまだ子供なのに、戦い続けてくれている。
感謝しつつ、私はずっとアダン達の側にいてくれたルジェに言った。
「あ、マティアスの保護者に、外郭で兵士に保護されているので、あとで帰らせますって知らせてもらっていいかしら?」
ハルスタットで保護された時、マティアスは何もかもに怯えていた。
その姿を覚えているから、保護者の夫婦は側にいないと探してしまうのだろう。
泣いてないか、怖がっていないかと心配して。
だけどマティアスは、こんなにもたくましくなった。
たぶん、魔術を使えるのだとわかって、戦える力を手に入れたことで自信がついたから、不安感が収まったんだろう。
そして今、頼ってもらえているということが、さらにマティアスを奮起させているのだと思う。
ここで無理に帰してしまうと、また無力感から怯えるようになってしまうのが怖いなと思うのだ。
だから、ひと段落つくまで手伝ってもらおうと思う。
ルジェはうなずいた。
「わかった。その後はロージーと一緒に下の兵士に混ざってるから」
「お願いします」
もう城の中なのと、他の兵士が戻ってくるのならアダン達を見守る兵士の手は足りる。
それよりは、魔剣を持つ彼らには侵入してきたベルナード兵に対応してほしいと思っていた。
立ち去るルジェを見送って、私はマティアスに言う。
「マティアス。ひと段落したら、アダン達と一緒にご両親のところへ帰ってあげてね」
「うん!」
マティアスはしっかりとうなずいてくれた。




