110 籠城戦 3
「領主様、どなたかとお話してましたか?」
そこにやってきたのは、セレナだ。
カールさんに、つい普通に答えていたせいで、そう聞こえてしまったんだろう。
「あ、違うのひとりごと。セレナはここにいて大丈夫なの?」
心細くて、いてくれることに喜んでしまったけれど、今度は急にセレナの身が心配になる。
……想像したよりも、敵の数を削れなかったからかもしれない。
三千ちょっと……、あと、魔物にされた人を十数人ぐらいだろうか。
何もできなかった時よりはずっといいけど。
このままでは逃げるのにも支障が出る。
そんな数だ。
そして今も、まもなく魔物との攻防が始まろうとしている。
おそらく、未来を見る前よりも爆弾なんかを用意できてると思うけど、それもどれくらいもつだろう。
「私は大丈夫です。朝食の用意ができておりますよ、顔色も良くないので、食べて少しお休みください」
そう勧められたので、ひとまず食事をとることにした。
いつでも外郭に駆け付けられるようにしたいので、下りればすぐに到着できる階段の近くで、さっと立ち食いすることを選ぶ。
「せめてこちらに」
と勧められて、セレナが階段横の部屋を開けてくれた。
小さな部屋には予備の椅子と机がいくつかあって、ちょっと物置に使っているようだ。
食べ終わった頃から、外から爆発音が聞こえるようになった。
その度に、建物もびりびりと振動する。
「このお城、ちょっと揺れすぎ?」
おそらく魔物への攻撃を開始したんだろうけど、様子が見たい。
セレナと一緒に部屋を出て、内郭の壁上に出ようとしたのだけど。
そこで、見覚えのある女性とばったり会った。
「領主様! あの、うちの子達を見かけませんでしたか?」
「あら、マティアスのお母様」
不安がるマティアスを引き取った家の人だ。
城へ帰した後、家族と一緒にいると思ったのだけど……。
そこでセレナが言う。
「昨晩、一緒に避難したお部屋に戻りませんでしたか?」
一応、城へ帰った後は両親と一緒にいたようだ。
「それが……、朝から領主様達が帰って来たと聞いて、お兄ちゃん達と見に行くと言った後、ずっと戻らないんです」
「一体どこへ……」
話している間にもまた爆発音がする。
私はハッとひらめいた。
「たぶん、懐いていた兵士のところにいると思うんです。私も用事があるので、声をかけてきましょう」
そう言うと、マティアスの母はほっとしたようにうなずいた。
「よろしくお願いいたします、領主様」
そう言って立ち去るマティアスの母を見送り……。
「外郭へ行きましょう」
私はセレナと一緒に外郭へと向かった。
あの爆発音、確実にただの爆弾の音ではない。
それをどうにか大きくできるとしたら、あの子達しかいないのだ。
「領主様、もしや……」
セレナも察したようだ。階段を駆け下り、外郭が見えたところで私は言う。
「たぶん、爆発物を扱ってるのはあの三人だと思うの。外郭の上にいると思う」
急ぎ足で外郭へ到着すると、兵士達と領民の男性達が矢狭間のある内部で、時折弓を射ている。
それを横目に上へ。
壁の上は天井もなく、壁も矢狭間なので風が素通しだ。
その風に乗って、爆発音が耳を体を震わす。
思わず耳を塞ぎながら、爆発の煙が見えた方を向いた。
壁際から煙が上がっている。
そこから少し離れた場所に、沢山の兵がいる。
ベルナード軍を見た瞬間、私は未来を垣間見た夢と現実が重なるようで、ぞっとした。
次の瞬間には、石が飛んでくるかもしれない。
そんな幻覚に襲われてしゃがみそうになった時、また近くで爆発が起こる。
「わっ」
「大丈夫ですか、領主様!」
セレナに庇うように抱えられた。
「ごめん、大丈夫。ちょっと不意打ちでびっくりしただけだから」
「なら良かったです。私もちょっと驚きましたし……」
セレナも少し焦った表情をしていた。
彼女も、巻き込まれた籠城戦で精神的に圧迫されているのかもしれない。
考えてみれば、予告したとはいえセレナも初めてづくしだろう。
私みたいな半分野生児とは違って、普通の育ち方をしたんだろうし。
「あ、領主様!?」
そうこうしていると、探し人の方が私を見つけたようだ。
駆け寄ってくる三人を、私は呼んでしまう。
「アダン、メリー、マティアス!」
「見てください! 魔物が一撃で木っ端みじん!」
「メリーは爆発がとても得意みたい!」
三人は満面の笑みだ。
一時的な興奮状態かもしれないけど、戦場に出てきて怯えていたりしていないようで良かった。
私はほっとする。
「さっきからの爆発は、三人でやってるの?」
アダンがうなずく。
「普通に爆弾を使うと、どうしても十個ぐらい倒すの必要だっていうのを聞いちゃって。それだと数が足りなくなったら怖いから、僕達が参加するって騎士様にお願いしたんです」
なるほどテオドール許可の元か。
「遠距離なら安全」
そこへルジェもやってくる。
「ルジェもいてくれたの? 休憩は大丈夫?」
気遣うと、ルジェは素直にうなずいてくれた。
「僕、五徹ぐらいはイケる」
寝ずに戦う必要があったとしても、五徹はすごい。
私だったら頭回らなくなる自信がある。
そもそも気づいたら寝てるだろう。
なんにせよ、子供三人にきちんと誰かがついてくれてて安心だ。
「それにしても、今までより爆発音も規模も大きい気がするんだけど……」
聞いてみると、三人が嬉々として教えてくれた。
「マティが魔力を多めに込めたところに、もう一人が魔力を追加して投げるんです」
「アダンと混ぜると、爆弾が当たったところが消えうせるぐらいその地点だけ威力が強くなって、私が混ぜると、隣の魔物まで吹き飛ばすぐらいの爆発になるの」
「重ねた魔力で、そんなことが……」
(え、そういうのって起こるんですかね?)
思わずカールさんに尋ねてみる。
『ないとはいわなんな。やったことはないがのぉ。これも魔術師が一か所に沢山いるからこそ、実験できることじゃろう』
なるほど。あんまり魔術師達も、魔力を混ぜるようなことはしたことないのね。
「これは自分達で考えたの?」
聞くと、メリーがうなずく。
「マティが魔力を込めて、投げようとして落としたのを私がつかんで。ちょうどいいから投げようとした時に、いつものつもりで魔力を込めてから投げたら、そうなったの」
流れ作業的な事故から発見されたようだ。
「あ、続きがくる!」
外をちらちら見ていたマティアスが言う。
外壁にとりついていた十数体の魔物がいなくなったので、離れたベルナード軍の陣地から新しい魔物達がこちらへ移動してきていた。
「いたちごっこ……。今はいいけど、そのうち力尽きそう」
ルジェがつぶやく。
確かに、このままだとこちらが疲弊するか爆弾が尽きるまで、同じことをしてきそうだ。
なにせ魔物にする人間の材料は沢山いるのだから。
(足りなくなったら、西の辺境伯領から誰か連れて来てしまうかもしれない……)
殺される人を増やすのは嫌だし、こちらの物資が尽きたあげく、外壁を壊されるのも嫌だ。
あと、そろそろ投石する魔物が出て来てもおかしくはない。
私はアダン達を見て、しばらく考える。
どうしても、後始末のことを考えてしまって、手を出せない物というのがある。
だけど生き残った後で、苦労すればなんとかなるなら……。
「ルジェ、傭兵のみんなは後始末も手伝ってくれるかしら? 契約範囲外?」
ルジェは首をかしげる。
「とりあえず、お金もらった分の仕事に関わることなら。ロージーは石積みも手伝ってたぐらいだし、やりそう」
「うん、わかった」




