109 籠城戦 2
テオドールがそう言うと、ロージーが「でもさぁ」と中に入る。
「もし残り八千人いたとして、どうやって減らすんだ?」
「まぁ、城の内側から爆弾を投げるとか、そういう感じになるかしら?」
そこでロージーがわくわくしながら言う。
「火竜は?」
「お前、火竜を見たいだけじゃないのか?」
テオドールの呆れたような顔に、ロージーはニコニコ顔をしてみせる。
「火竜が空飛んでるとこ、大将と領主ちゃんは見てるんだろー? 俺も見たいなって」
子供のような好奇心で、見たがっているだけのようだ。
「気持ちはわからないではないんだけど、火竜がこっちに来た時に、町と城を壊さない保証ないし、引っ込んでくれるかもわからないの。おびき寄せた後、間違いなくベルナード軍だけ攻撃してくれる保証もないし」
「あー……」
ロージーも理解したようだ。
火竜をこちらで操れるわけじゃない。
街道を塞ぐ方法は、御飯を邪魔する状況を作って、その罪をベルナード軍に押し付けた結果だ。
城におびき寄せた時には、私達にも牙をむくだろう。
「仕方ねぇ。敵将をどうにかして討つしかないか?」
自分の剣をちらりと見て言うロージーと、表情を引き締めるテオドール。
私は首を横に振る。
***
「たぶん、それだけじゃ魔物が止まらないわ。ベルナードの将を倒した時に、ロージー達を怖がってむやみに魔物化する人を増やしたら、対応できないと思う」
私の言葉に、テオドールも追従した。
「魔物の運用を見ていても、確実に意に従わせてるわけではないと感じました。魔物に変わってしまったがために発生した、食欲のために暴れているだけのような印象ですね」
理性のない相手を従わせるには、痛みか別の釣り餌を使うしかないのだけど、効果的な物は私たちの手にはないのだ。
「ベルナード軍の兵士が食われないようにしている方法は、後でじっくり研究させてもらうとして、兵士達が撤退しても魔物達はそのまま暴れ続けると思うの。敵将を倒して、統率がとれなくなっても、結局はやっかいな攻撃は続くと思うのよね」
「厄介です。結局魔物を倒すか、相手が退くぐらいに敵兵を減らすしかないのですから」
渋面のテオドールに、私はうなずくしかない。
「これっていう打開策はなし……か」
ロージーもさすがに険しい表情になった。
※※※
やがて、ベルナード軍と魔物達が城へとやってきた。
私はテオドールと一緒に城の外郭の上に立った。
状況を把握したかったのだ。
「あれから……どれくらい変わったのかしら」
私はつぶやく。
最初の夢の時は、万の軍勢がいるのを見た。
未来のこともよくわからないまま対応して、火竜の一件でてまどったりしていたら、ほとんど街道から素通しでやってきただろう軍勢は多かったけれど。
「見た限りだと、敵兵は七千弱くらいかと思います。元は、やはり一万ぐらいだったのでしょう。火竜が完全に街道側の二千人を倒して、先ほどの戦闘で魔物になった者や、遠距離攻撃でそれなりの数を削れた結果だと思います」
沢山の兵を見慣れているテオドールの推測に、私は少しだけほっとした。
多少は敵を減らすことができたみたいだ。
そして、こちらの兵はそのまま、あまり損傷はない。
「魔物が一番、動向が読みにくいですね。他の兵士との戦は経験がありますが……」
テオドールとしても、そこが最も予測しにくいのだろう。
今回の戦いは、終始そこで頭を悩ませているみたいだ。
「基本は、人間の兵士の補助として運用すると思うのよ。ただ魔物を出してくるなら、こちらが皆殺しにされてもいいと思っているし、私が投降しようと言っても聞き入れないでしょう」
人質など必要ないからだ。
貴族は全員殺して、資産も全て取り上げるだけ。
ルース王国を素早く占領できたのも、おそらくルース王国側の貴族や王族の扱いを、平民と同じにしたからだろう。
「たぶん、魔物は相手が人質に使えそうな人間かどうかわからないし、そこまで細かく行動を左右できないんだと思うわ。だから……」
「皆殺しをするつもりの軍と、戦うという感じでしょうか」
私が言いかけた言葉を、テオドールが察したように引き継ぐ。
その通りだと私はうなずいた。
「そうであれば、城を破壊することを優先するかもしれませんね。中の人間を気にしないのなら、なおさら」
「同意するわ。ベルナード軍はこの国も一気に手中に収めるつもりでしょうから、後のことを考えて城を温存しようなんて思わないでしょうし。破壊する能力なら、魔物にあるから」
そう言っている間に、魔物が先行して外郭の壁にとりつき始めた。
早速壁を壊そうとしているのか、振動が伝わってきた。
「領主様、内郭までお戻りください」
「テオドール、ここからはどうするの?」
「ベルナードの軍そのものは遠くから魔物の様子を見ていますので、まずは魔物への対応を行うことになるでしょう。いたちごっこになるかもしれませんが……」
「わかりました。異変があれば知らせてください」
ひとまず私は役に立てないので、一度内郭へと戻る。
そちらには、町の人達が避難しているので中庭にも人が沢山いた。
怯えた表情ながらも、誰もが動いていた。
男性達は、急遽こしらえた投石機の調子を見たり、岩を運んだりしている。
外から戻って来た兵士達は、一度休むために宿泊場所へ引っ込んでいるようだ。
そして女性達は、朝食を作っている。
「あ……テオドールにも休むように言えば良かったわ」
思った以上に、私も頭がいっぱいいっぱいだったみたいだ。
そんなことも思いつかないだなんて。
『あの男の方が、お前よりも戦慣れしておるのだから、どうにかするであろ』
カールさんがそう声を届けてくれる。
「うん、そうですね」
息をつくと、どっと疲れた気がした。
夜明け前から駆け回っていたし、そもそもこんな風に戦争に接するのも初めてで緊張し通しだったからかもしれない。




