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契約結婚のその後で、領地をもらって自由に生きることにしました  作者: 奏多


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102 街道の攻防戦 1

 私は急いで、より広い街道の壁がよく見える場所へ移動した。

 城と城下町から離れた丘の上。

 そこに物見の塔の跡地がある。

 崩れて壁がわずかに残っているだけだけど、何かしらの攻撃を避けるのに役立つかもしれないし、一時的な物だからテントだけを張って運用することにしていた。


「危険ではありませんか?」


 付き添うニルスに言われたが、私は困った顔をしてみせる。


「状況がわからないとねぇ」


 兵士の指揮は、全てテオドールに任せている。

 綿密な打ち合わせもした。

 ロージーにも万が一の頼み事もしてある。


 だけど予想を大きく外した時、すぐにそれを知りたいのだ。

 大軍を持っていない私のような領主は、どうしたって素早く動くことで、いくらかの欠点を補うしかない。

 で、城にもすぐ逃げ帰れるように、ニルスとその馬、他にも少数の兵士を引き連れていた。


 側にいる兵士のほとんどが、伝令役だ。

 だから全員に馬を与えている。

 そして伝達内容の記録役もかねて、ニルスを側に置いていた。


「それにしてもフレッド、大丈夫かしら?」


「石から離れないんですよね、あいつ」


 成長する石を育てるのがいたく気に入ったフレッドは、せっせと増やしては壁を造る材料提供に貢献してくれていた。

 そのまま石が気に入り、小さく分裂した分を懐に入れているような有様だ。


「ちょっと重たいですけど、生き物を飼ってるみたいでいいんですよね、これ」


 とフレッドが勧めたせいで、何人もの兵士が、小型の石をペットのように連れ歩いているのはどうかと思う。


 それをうらやましがったロージーが、鉄の木の枝を欲しがったり、うっかり鎧の鉄部分にくっついて吸収されそうになったり、ひと騒動あったのはご愛敬だ。


「それで前線志願ていうのも、なかなかないわよね」


 さすが魔物を見に山に登るような子供だっただけはある。

 勇敢と好奇心が悪魔合体したようなものだけど、こういう時は悲壮感からではなく立ち向かおうとする人の姿は、他の人にもいい影響を与える。


 そんな話をしながら、待つ。

 今日ではないかもしれない。

 明日でもない可能性もある。

 でも、待つ。


『……まだ、未来が見えずに済まんの』


 懐の心臓石から、カールさんの声が届く。


「気にしないでください。アダン達の指導の方が優先されるべきですから」


 どうしても、魔術の指導のために出ずっぱりになってしまうせいなのか、三人と会話をするためにも、ということだろうけど、魔力が消費されてしまうようだ。


 カールさんは、予想よりも時間がかかってから、しっかりと姿を浮かび上がらせることができるようになったけれど、まだ未来を見るに至っていない。


 そのアダン達は、ここから望める大きな街道の方にいた。

 ロージー達傭兵から三人ほど、彼らについてくれる人員を割いてもらっている。

 警護してもらいつつでも、三人が調合品を扱うことで、一人で十人分の仕事をしてくれるだろう。


 彼らが前に出るのは、本人達が志願したからだった。

 私は後方にいさせようと思っていた。

 万が一の場合に手を貸してもらい、危険な状況になったら逃がそうと思っていて。

 でも反対したのはメリーだ。


「攻撃は最大の防御だって、師匠が言っていました」


 師匠であるところのカールさんは、とんでもない言葉を教えてしまったことを思い出し、「あちゃー」と言わんばかりの表情をしていたが。

 三人ともその意志は固く、それで逃げる時期の見極めに長けているだろう、傭兵に三人の警護を任せたのだった。


 全てが吉とでるかどうかわからない。

 でも、上手くいくことを祈るしかなかった。


 そして夕暮れが来て……。


 門に強い光が閃いた。


「敵襲!」


 即席で取り付けた警鐘が鳴る。

 それを受けて、町でも警鐘が鳴らされた。

 町で作業をしている人達が、急いで城へ逃げ込めるように。


 全て予定通りに動いている。


「伝達を! 明かりを絶やさないように、魔物は夜目が効く物を使ってるはず。もう一つの壁にも明かりを灯すように指示して!」


 私の言葉を受けて、二人の兵士が馬で駆け出す。


 夜戦のため、私は照明になる調合品をテオドールに配備させていた。

 あれから何度か火竜の洞窟に挑戦し、上手く魔石を取り出せたので作れた品の一つだ。


 炎の色をした石は、望月のように辺りを照らす。

 それとともに、テオドールはかがり火も使わせたようだ。

 動物的な習性が強い魔物は、火を嫌がることがある。

 効果があるかわからなくても、やるべきだと思ったのだろう。明るくなるし。


 まもなく二つの壁の方から、伝令が戻って来た。


「敵は前方に魔物、後方に兵士を固めているようです! 現在投石と弓で攻撃されているので、応戦中」


「裏道にはいまだ人影はなく。偵察を出さずに防備を固めて警戒を続けています」


 裏道の方を指揮しているのは、ロージーとルジェだ。

 ベルナードとの対戦経験がある彼らは、不意打ちを警戒しているのかもしれない。

 裏道を見逃さないなんてことはないだろうから。


 その間にも、街道側からは爆発音が聞こえる。

 魔物が暴れているのかもしれない。

 壁は簡単に壊れないはずだ。鉄の筋まで入れているし、石のスライムが衝撃を緩和してくれるだろうから。

 今はただ、祈るしかない。


 けれど、違和感がある。

 この音の感じだと、あちらはそれほどの大軍では来ていなさそう。


(ハルスタットにはたいして兵がいないと、油断してくれていればいいんだけど)


 でも、城の壁を一瞬で壊すような攻撃ができるはずなのに、生ぬるい感じがする。

 そんな疑念が、私の不安をかきたてる。

 あちらの方針が変わってくれたのかもしれない。

 そうであってほしいけど……。


 戦いは、数時間続いた。

 そして途切れたけれど、テオドールはもちろん警戒し、照明を使い続けていた。

 また伝令が来て、ベルナード軍が少し後退したところで野営を始めたらしいと報告してくれる。


「けが人は?」


「ほとんどおりません。時折矢や、小さな石が壁を越えて来ますが、それで怪我をしても、領主様の薬ですぐ治りますので!」


 薬は役立っているようだ。

 少ない兵力で一番困るのが、怪我をしただけでも兵士は戦えなくなることだ。

 痛みをこらえて戦える人ばかりではないし、動きも力も普段の十分の一になると思った方がいい。

 薬を優先して作っておいて良かったと、内心ほっとする。


 それからしばらく、遠くから街道を観察していたけれど、その後はニルスに勧められて一度眠ることにする。


「領主様が倒れられては、元も子もありませんよ」


「うん、何かあったら起こして」


 そう言って眠った私は……夢の中で、飛び起きていた。

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