番外編『消えた鳥』
番外編『消えた鳥』
カチャカチャ…
広い部屋に寂しく食器の音が響く。
蝋燭の灯りに少年の金髪が煌めいた。
「…………」
少年はひとりで黙々と料理を口に運ぶ。
少年の名前はエドワード。
国の第二王子だ。
「……味気ないな…」
近くに侍女が控えてはいたが、言葉を発することはない。
誰かと食事をしたのはいつだったか…?
父の国王と母の王妃は、いつも公務やら客人の相手やらで忙しそうで、産まれてこの方、一緒したことがない。
兄のアルヴィスはつい最近までは一緒だったのだが、マナー教育が始まり、食事マナーを学ぶために別々に食事をするようになっていた。
「マナーなんて習わなくても、兄上は完璧なのに…」
エドワードがぐずり出すと、エドワード付きの専属侍女が慌てて近寄って来る。
「殿下、食事が合いませんか?それともお具合が…」
「うるさーいっ!」
エドワードは食べかけの料理ごと、手でテーブルから突き落とす。
オロオロと片付けだす侍女たちを見下ろし、エドワードは寝室へ入っていく。
「今日はもうやすむ!はやく片付けておけ!」
エドワードはそのままベッドに突っ伏し、枕に顔を押し付けて思いっ切り泣いた。
「なんで!?どうして!兄上ぇ…寂しいよ…」
ある日、アルヴィスが帝王学の一環として、孤児院に視察に行くと言った。
エドワードは無理を言ってアルヴィスについて行った。
孤児院では久し振りにたくさん走った。
子供たちとはしゃいで楽しかった。
しかし、大好きなアルヴィスは隅にいる茶髪の少年ばかり見ている。
「兄上!」
声を掛けると同時に、院長がアルヴィスと何か話しながら、孤児院に入って行ってしまった。
(兄上が見てくれない!あいつのせいだ)
エドワードは文句を言ってやろうと、少年の方へ向かうが、少年があまりにも真剣に木の枝を振っているので怖気付いてしまった。
瞳の奥に宿る、得体の知れない憎悪のような塊を見た気がしたのだ。
純粋に怖かった。
「先生、あいつはなんなんだ?」
近くの大人の服の裾を引っ張る。
「あ…あの子は…」
先生は口ごもって、それ以上答えなかった。
「命令だ!答えろ!」
「申し訳ありません、口にするのも恐ろしいのです」
小さいエドワードの前で膝をついて、エドワードよりも姿勢を低くし、先生は懇願した。
その日の夜から、アルヴィスがこっそり城を抜け出すのを何回か目撃するようになる。
「兄上はどこに行っているんだ…?」
毎日勉強や訓練で疲れているハズなのに…。
「シーシャ!シーシャ!」
エドワードは自分の専属侍女を呼びつける。
「兄上がどこへ行ってるのか、調べてこい!」
専属侍女のシーシャは困惑しながらも、アルヴィスの後をついて行く。
「殿下、王太子殿下は孤児院に通っているようです…」
「孤児院だと!?」
エドワードは窓を素手で叩きつけると、ガラスが割れた。
「殿下!お怪我を…!」
シーシャは青ざめて、医師を呼びに急いで部屋をあとにする。
「クソっ!クソっ!クソっ!」
きっとあの恐ろしい孤児に会いに行っているんだ。
ガラスで切れて痛いハズの手で、破片を何度も何度も殴りつけ、更に傷は深くなる。
「兄上…!兄上…!」
弟の自分を差し置いて、自分はこんなに寂しい想いをしているのに、何故兄はあいつに会いに行くのか。
「そうだ!」
アルヴィスがあいつに会いに行くのは、決まって夜だ。
夜に自分と約束を作れば、きっとアルヴィスは会いには行かないだろうと、エドワードはワガママを言ってアルヴィスと寝る約束をした。
「一人じゃ寝れない!兄上、また昔みたいに一緒にねよう。怖い夢をたくさん見るんだ!」
「エドワード、私たちはまだ小さいけれど、王族なんだ。品位を下げるような事はできないよ」
アルヴィスが首を横に振ると、エドワードは腕に絡み付いて食い下がる。
「じゃあ、今日だけっ!今日だけでいいから…」
必死な様子に、アルヴィスは根負けして約束してくれた。
「よしっ!これで兄上はあいつに会いに行かないぞ!」
そう、思っていたのだが…、
いくら待ってもアルヴィスは現れなかった。
「なんで…?どうして?兄上…」
その後、アルヴィスが行方知れずになったとエドワードが聞いたのは数日後だった。
アルヴィスを目撃したと言う貴族が現れたのだ。
「私はその日、孤児院へ寄付をしに…。すると孤児院の闇の子が、王太子殿下を無理矢理つれて…。私は止めようとしましたが、闇の子に殴られて…」
「…あいつか…。あいつが兄上を…!許せない…」
そう唇を噛んだエドワードは、血が滲み滴り落ちるのも気にせずに、静かに誓ったのだ。
兄を闇から必ず救い出す…と。




