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第6章

第6章

これは、私が闇のプリンスになる前の話だ。

今の私からは想像がつかないくらい、私は闇から遠い存在だった。

そして、カイルは今の私より闇が深かった。

そんな時の話をしよう。



-あの日は快晴だった。

空は青く澄み渡り、雲ひとつない。

白い太陽がこの地を照らす、まさに平和そのものだった。


私とエドワードはとある孤児院に視察に行った。

なぜ二人で視察に行ったのか、詳細は覚えていないが…、

エドワードはすぐに院の子供たちの輪に入り、楽しそうに遊んでいたな。


しかし、私は隅で木の枝を振る少年が気になった。

歳はエドワードと同じくらいか、もう少し下か…。

なのに、私が知っている大人たちよりもずっと気高くて、凛として、触るとすぐに壊れてしまいそうな…、そんな印象をその少年…、カイルに抱いた。


私がカイルに話しかけようとすると、


「殿下、あの子には近づかれぬほうがよろしいかと」


と、院長は言った。


「どうしてだ?」


「あの子は…『闇の民』なのです」


『闇の民』

それは魔族を嫌悪する言葉だ。

魔族は凶暴にて何をするか分からない、理性を持たない危険な存在。

昔、魔王は白い光の勇者に倒され、人間に恐れを成した魔族たちは人間の領土には入って来ない。

しかし、ここに『闇の民』がいると言うことは、人間との混血なのだろう。

おそらく母親が人間。

魔族は人間領に入っては来ないが、たまに好奇心旺盛な人間が魔王領へ行く事がある。

野蛮な魔族に襲われ、身重になって帰って来て産んだのだろう。

そうして産まれた彼は、母親を亡くしたか、捨てられたか…。


そこまで思考した時、そんな彼は本当に『闇』なのか?

と、疑問に思った。

あんなに美しく、しかし壊れそうな危うさがある彼が、本当に『闇』…?


例え本当に野蛮な『闇の民』だとしても、彼と話がしたい。

心からそう思ったのだ。



その夜、私は城を抜け出した。

初めての行為だった。

私は品行方正で、それまで規則を破ることはなかったのだが…、

だが不思議と、罪悪感はなかった。


孤児院の裏庭に出ると、星の下で木の枝を振り続ける影が見えた。

彼は昼と同じように、ひとりで枝を振っていた。


「……何か用か」


気配に気づいた彼は、手を止めた。

恐ろしく生気のない、冷めた目つきだった。

誰にも期待していない目だ。


「私はアルヴィス。白い光だ。どうしても話がしてみたくて、来てしまった」


「……白い光!?」


王族だと知ると、カイルは慌てて膝をつき、両手を揃えて頭を地面に擦り付けた。


「ご、ごめんなさい…こんな汚らわしい者が…お、王子様にお声を掛けて頂けるなんて…」


カイルの全身から汗が吹き出し、ガタガタと青ざめて震えている。


「どうした、お前は何もしていないじゃないか」


顔を上げさせようと、髪に手が触れた時、カイルの額に固い突起があるのに気付く。


「!!」


カイルは慌ててその突起を髪に隠した。


(見たい)


まだ幼い子供だ。

ただの好奇心で、カイルの前髪を持ち上げてしまったのだ。

彼が必死に隠していたのにな。

今思うと、私はカイルに酷いことをしてしまった。


「……これは、角か?」


カイルの額にある小さい突起に触れる。


「う…んんっ…」


カイルは今にも泣き出しそうな顔をして、目をギュッと瞑った。

それを見て、私はやっとコンプレックスなのだと気付く。


「すまない!無神経だった、許せ」


私は彼の前髪で角を隠すと、彼は小さい声で言った。


「俺に構うな…。俺は夢魔なんだ。きっと酷いことをする…。人を傷付ける…」


カイルは両手で自分の身体を抱きしめるように覆い、震えながら静かに涙を流した。

その姿はあまりにも小さく、孤独で、脆くて…。


私の知っている『闇の民』の姿ではなかった。


むしろ、守りたいとさえ思った。


可哀想だとか、哀れみだとか、そんな感情ではない。

ただ、この子の涙を止めたくて、不安を払いたくて、傍にいたかった。


「……お前が夢魔だとしても、私はお前を恐れない」


カイルはゆっくりと顔を上げた。

涙に濡れたその目が、まっすぐに私を見ていた。


「なぜ……」


「なぜなら、お前は今、泣いているからだ。『闇の民』が、そんなふうに涙を流すのか?」


カイルは言葉に詰まり、唇を噛んだ。


「人を傷つけることを恐れて、自分を閉ざすお前が、本当に『闇』だと言えるのか?お前の心の中にあるのは、闇なんかじゃない。むしろ、光だ」


私がそう言うと、カイルは戸惑いながら、小さく笑うように息を吐いた。


「……王子様は、おかしいな」


「そうかもな」


そして私は思ったのだ。

何故こんなにか弱い者が『闇の民』なのか。

私は白い光として産まれたが、彼の中にしかと光を見た。


こんな存在が『闇』と呼ばれ蔑まれるのならば、私も『闇』になってみよう。


子供の単純な発想だった。

『闇』になれば、カイルと同じ目線に立てる。

一緒に居られる。


何より、助け合える。


私は誓った。


私は『闇のプリンス』となる。


その日から、夜に私は毎日城を抜け出しカイルに会いに行った。

カイルに木剣を与えた。

カイルと稽古もした。


日を追う事に、カイルの表情は明るくなった。

それで満足だった。

だったはずだったが…


ある日、いつもとは違って朝早くカイルに会いに行く。

何故朝に行ったのか…?

確か、夜に何かエドワードと約束したような…?

……覚えていない。

まぁ、それは置いといて、孤児院に行くと裏手から耐えるようなカイルの呻き声がしたのを聞いた。

私は急いで裏手へ向かうと、貴族の男性がカイルを押し倒して服を引っぺがしていたのだ。


私は持参した木剣で思い切り奴の頭をかち割った。

しかし、子供の力だ。

男は倒れはしたものの、すぐに起き上がるだろう。


私は急いで半裸状態のカイルの手を引き、孤児院を出た。

何も考えられなかった。

ただ、夢中で走った。

人の多い朝市を避け、できるだけ人が居ない道をひたすら走る。

そのまま王都を飛び出して…。


………子供二人で今までよくやって来れたな…。

田舎町の冒険者ギルドに世話になって、冒険者になって、

今はとても恵まれている。


私は今も昔も、カイルの傍にありたい。

ただ、それだけなんだ…。

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