エピローグ「誰も知らない庭で」
エピローグ「誰も知らない庭で」
王妃の遺言、『エドワードの解放を』という言葉で頭を悩ませたアルヴィスは、エドワードの専属侍女、シーシャと共に、二人を魔王領とは真逆の辺境の地へ追放することにした。
エドワードを護送する時、妙に静かだったのが気になったが、彼にはシーシャがついている。
きっと、大丈夫だろう。
そしてこれは、エドワード王子だった者と、王妃という母の代わりを務める女性のとある一幕である。
辺境の、名もなき村の外れの、ひっそりとした石造りの家に、二人は暮らしていた。
エドワードは庭のベンチで空を見上げ、もう一人の影が、優しくひざ掛けをそっとかける。
「おぼれてしまいそうな空ですね、エドワード様」
専属侍女……いや、母親代わりのシーシャは、優しい声で語りかける。
「……私は、ここにいていいのか?」
ふいに、エドワードがぽつりと呟いた。
実は、エドワードの記憶は抜け落ちていた。
地下牢で散々喚き散らしたあと、プッツリと何かが切れたように、意識を失っていたという。
目覚めた時、エドワードの中に残っていたのは、自分の名前と、白く輝く『神様』の記憶だけだったという。
「私は、神様に酷いことをしてしまったような気がしているのだ…。こんな私が……」
「いいえ、いいのですよ。神様もお許しになったから、こうしてここにいられるのですよ」
エドワードの言う神様は、きっとアルヴィスのことだろう。
白い魔力にこだわり、兄を執拗に褒め讃え執着していた彼は、それがいつの間にかアルヴィスを神格化していたようだ。
しかし、シーシャはエドワードに合わせて『神様』とだけ言い、その手をそっと握り、隣に腰を下ろす。
「今日のご飯は、エドワード様の好きなスープに致しましょう」
「シーシャは、どうして私を『様』付けで呼ぶんだ…?」
「私には、とても大切な人だからですよ」
“私には”今も大切な王子殿下。
昔も、そして今も…。
風が庭の花を揺らし、空に白い雲が流れていく。
どこか遠くで祭りの歓声が風に運ばれ、微かに響いた。
でも、ここは何も知らず、何も届かない、静かな場所。
「ありがとう……」
エドワードは初めて人の優しさに触れた気がした。
シーシャの手を握り返し、「ありがとう」と何度も呟く。
「いいんですよ。……少しずつ、取り戻しましょうね」
エドワードが昔与えられなかった愛情を。
エドワードが気付かなかった愛情を。
今からでも遅くない。
シーシャは生涯、エドワードと共にいることを空に誓ったのだった。
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