第53章
第53章
魔王に名乗りを挙げた時のように、就任式は水晶宮のバルコニーで行われた。
あの時と違うところと言えば、ミナたちもバルコニーに出て、お手製うちわを振っている。
観衆たちもどこで手に入れたのか、ミナたちが作っていたうちわと似たような物を持って、しきりに振っている。
イリューシアがカイルを伴って登場すると、歓声があがった。
イリューシアは世界樹の葉でできた首飾りを掲げ、観衆、スクリーン越しによく見えるように振ると、カイルに向き直りそっと首にかけた。
「カイル様、魔王就任おめでとうございます」
イリューシアの微笑みに応じるように、首飾りが光だし熱を帯びた。
『カイル』
『ラルルとマリーの子、カイル』
その声は風に乗ってやってきた。
「……マリー…?」
カイルが呟くと、さらに小鳥がさえずる。
『国境の神域で出会った、夢魔と人間』
木々がざわめき、風がカイルの頬を優しく撫でる。
『神域で芽吹いた、新しい生命』
「まぁ、そうでしたの」
イリューシアは吹く風に話し掛けた。
そうして、観衆に向かって叫んだ。
「カイル様は神域の山で授かった生命ですわ!世界樹に選ばれるのは必然でしてよ!」
そうして、カイルに笑いかける。
そうか…。
カイルは思った。
イリューシアがいつも『木々のざわめきや小鳥のさえずり』などと言っていたのは、本当にそうなのだ。
それこそが、世界樹の言葉であり、それを民に伝え、役立てる。
(それが魔王……いや、賢者の役割なんだ…)
カイルの首にかけられた世界樹の首飾りは、そのまま光と共にカイルに吸い込まれるように消えた。
新しい世界樹の代弁者がここに誕生する。
胸が高鳴り、不安よりこれからの期待が大きく膨らむ。
カイルは一歩、前へ出ると、真っ直ぐに顔を上げてキラキラ眩しい陽の光を受けた。
「未熟者ですが、イリューシア様と共に、二人三脚で使命を全うすることを誓います」
するとイリューシアがわざとらしく頬を染めて言った。
「まぁ、なんて熱いプロポーズなのかしら!」
二人三脚で…誓う…。
カイルは自分の失言に顔から火が出そうなほど真っ赤になった。
しかし、イリューシアのジョークを分かっている観衆たちはドッと大笑いする。
「んなぁぁぁ!??我が剣よ、浮気は許さんぞっ!」
ジョークを分かっていない人物…アルヴィスがうちわを放り出して飛んでくる。
そして、恥ずかしげもなくこう宣言した。
「我が剣よ、我はお前を愛している!ここに永遠の誓いを立てようぞ!結婚してくれ!」
アルヴィスはカイルの前で膝まつき、片手をそっと握って手の甲にキスした。
「はぁ!?いきなり何いってんだよ!」
歯の浮くようなセリフと行動に、耳まで赤くなる。
その時、ミナがキラキラした瞳で見つめているのに反応してか、水晶宮のツタが二人の指に延び、お互いのペアリングに絡まった。
「これは…」
カイルは自分の指に嵌った指輪を眺める。
金色の指輪に、くっきりとツタの紋様が浮かび上がった。
「世界樹が二人を祝福してる!」
観衆の一人が声をあげる。
「ちゅーしてぇー!!」
ミナが『ちゅーして!』と書いたうちわを両手に持ってブンブン振り回すと、観衆からもキスコールが湧き出した。
「キース!キース!キース!キース!」
「う…えぇ〜…?」
カイルは目を泳がせて戸惑っていると、アルヴィスがいきなりカイルを抱きかかえ、お姫様抱っこした。
「簡単に見せられるか、馬鹿ども!」
アルヴィスはそう一蹴し、カイルを抱いたまま水晶宮の中へ逃げ込む。
「きゃーーーーー♡」
観衆とミナの声が木霊した。
☆ミナの推し観察日記(最終章!)☆
世界樹が…
あたしのお父さんが二人を認めてくれたよー!
ありがとー!
推しが幸せになる喜び!
ありがとーーー!!!
-この後、二人きりで誓いのキスをしたかどうかは、ご想像におまかせを…-




