第44章
第44章
空の光が眩しかった。
陽の光を遮る雲は存在せず、ただただ青かった。
陽の光と共に、観衆の視線も痛いほど刺さる。
カイルは水晶宮のバルコニーで、イリューシアに連れられて手を振っていた。
陽の光も観衆も痛いが、水晶宮の壁に太陽光があたり、照り返しで背中まで痛い。
観衆からは、カイルとイリューシアに後光が差しているように見えるだろう。
カイルは緊張のあまり、じっとりと汗が体を伝うのを感じる。
顔が強ばり、戦闘とはひと味違う緊張感だ。
今日はカイルが魔王に名乗りをあげる日。
もちろん、透ける服ではなく、人間に優しい上質な服を着ている。
まるで貴族のような服に、自分が着ているのか服に着られているのか分からなくなる。
「皆様、お集まり頂いて感謝申し上げますわ」
イリューシアが観衆に呼びかける。
イリューシアの呼びかけと同時に、黒い魔力を持つ全世界の魔族や混血の前に、小さいスクリーンが現れ、イリューシアとカイルの姿を映し出す。
「わわっ、なんすか、これ??」
辺境の町の店で資料を読んでいたヒューイの前にもスクリーンは現れていた。
おっかなびっくりスクリーンに触れ、通り抜けるそれは蜃気楼のようだ。
「魔法っすかね?」
「おや、始まりましたね」
ギルドの執務室でレオと作業中のタルタルの前にもスクリーンは現れる。
「どうした?」
レオが判を押す手を止める。
どうやら、スクリーンは見えていないらしい。
ならば、と、タルタルはスクリーンに手をかざしてレオにも見えるように視覚共有の魔法をかける。
「始まったんですよ、カイルが魔王に相応しいかどうかを試す儀式が」
すると、受付嬢が急いでやって来た。
「ギルドマスター!副ギルドマスター!伯爵様がお見えです!」
ティントルテン伯爵から、町の広場にギルド員全員を連れてきてくれとの知らせを聞いて、ギルドの皆で広場に向かうと、伯爵邸の使用人全員と町中の一般人たちも集結していた。
もちろん、他のギルド員や司祭たちもいる。
キツネの獣人、クロックが意気揚々と、芝居がかった口調で言った。
「さぁ!皆様お立ち会い!果たしてカイル魔王は誕生するのか?」
クロックは指をくるくる回すと、魔族たちのスクリーンを魔法でひとつに集め、巨大なスクリーンにすると、人間にも見えるように可視化魔法をかける。
「すごい魔法だ…。やはり魔族の技術は進んでいるな…」
アルゼンは改めて感心する。
クロックは得意げに尻尾を振った。
「ふふーん♪獣人の中で魔法が使えるのは、キツネだけっす〜♪」
タヌキ族も魔法が使えるが、あえて言わないのはクロックのプライドだろうか。
これで舞台が整った。
魔王領と辺境の町で、カイル魔王が誕生するか否かの生中継が始まった。
ふわりと手を掲げて、イリューシアはカイルを前へ出るように誘導する。
「皆さま、ご紹介いたしますわ。こちらが魔王候補のカイル様です」
カイルはガチガチに固まりながら、前へ出る。
それを水晶宮の中から静かに見守っていたミナは、心配そうに…だがスケッチブックは離さずに言った。
「剣士くん、手と足が一緒に出てる!ガチガチじゃん!かわよ♡」
カイルはイリューシアに促され、挨拶をしようと口を開く。
「み、みなさん初めまして…魔王候補になったかいりゅ………」
自分の名前で噛んだ…。
(うわぁぁぁぁぁ!!恥ずかしい!)
カイルの顔が見る見る赤くなり、目眩がして倒れ込みそうになるのを必死に耐える。
「きゃわわ〜♡ねぇ!今のって保存してある?」
近くで待機する、イリューシアの夫の獅子の獣人の毛を引っ張る。
「スクリーンで伝えられるほとんどのものは保存している」
「マジ!?あとで見せて〜」
ミナがニコニコ笑った。
獅子にとっては、ミナはイリューシアの姉の娘。
つまり、可愛い姪っ子だ。
つい顔が綻ぶ。
バルコニーでは、引き続きイリューシアが司会を務めていた。
「カイル様が魔王に相応しいと思った方は、スクリーンの前で拍手なさって!」
その瞬間、カイルの頭上にキラキラと光るゲージが現れる。
「な、なんだ?これ…」
カイルがきょとんとした顔で見上げると、世界中のあちこちから響く拍手の音と共に、ゲージの数字がぐんぐんと上がっていく。
「拍手した人数がパーセントで表示されますのよ。簡単で分かりやすいでしょ?」
イリューシアがにっこりと笑う。
「わ、わかりやすい…けど、これでいいの?」
カイルは戸惑いながらも、あたたかな声援に背を押されるような気持ちになっていた。
「五十パーセントになったら、魔王確定ですわ!」
イリューシアは軽やかに言い切った。
「……え、なにそのギャンブルみたいなやつ……」
カイルが思わずつぶやくと、周囲の魔族たちは拍手でゲージを押し上げ続けている。
「これがカイル様?やさしそう!」
魔族の一般家庭では、親子でスクリーンに向かって拍手していた。
「そうね。プリ剣のイメージのままね」
また、魔族の酒場でもスクリーンに拍手する客たちと店主が。
「よーし!パーセント上げてくぞー!」
「前祝いだ!酒くれー!」
プリ剣グッズ売り場でも、客や店員がスクリーンに拍手する。
「カイル様萌えー!可愛い!」
「絶対に魔王にする!」
そして、辺境の町でももちろん白熱し、みんな熱心に拍手を送る。
「頑張れ、カイル!お前ならできる!」
ゲージの数字が一気に爆上がりし、カイルは呆然と眺めていた。
「きゃー♡百パーセント超えましたわぁ!」
「剣士くん!さすがあたしの推し!」
ミナまでバルコニーに出てきて、お手製のうちわを振ってお祭り騒ぎになっていた。
「新しい魔王の爆誕ですわーーー♡」
晴れて、カイルは魔王になった。
しかし、本人はぽかんとして呟いた。
「めちゃくちゃゆるい感じで魔王になったんだけど…ホントにいいの?」
☆ミナの推し観察日記☆
婚約!
婚約!
次はプリンス様と婚約!
いや、けっこーーーん♡
剣士くんって恥ずかしがり屋だから、外堀から埋めないと♡
あ、でも…、ちゃんと婚約してラブラブ恋人になったら、自然と結婚したくなっちゃうかも??
よーし、大司祭に正式な婚約書作ってもらおっと♪
この場合、プリンス様が魔王城にお引っ越しかなぁ?
わくわく♡




