第41章
第41章
「エドワード殿下が投獄!?」
ティントルテン伯爵本邸に呼ばれたアルゼンが、王都の実状を報されて愕然としていた。
「トルティーニ子爵のことは聞いたか?」
ティントルテンの問いに、アルゼンは首を振る。
「トルティーニ子爵は発禁本を隠し持っていたらしい…。お前を除いた子爵家…使用人までも………処刑された…」
ティントルテンは怒りで震える拳を抑えて、深く息を吸いアルゼンの様子を窺う。
アルゼンは青い顔をして、「どうして発禁本なんか…」と、しきりに呟いている。
「どうして発禁本にしてしまったんだ…。私は…どうして……。エドワード殿下…私の家族をどうして…。私があの本を発禁にしてしまったばかりに……!!」
アルゼンは唇を噛み締め、溢れる涙を堪えている。
そんなアルゼンを気遣ってか、涙を見ぬよう目を逸らし、ティントルテンは窓の外を見つめる。
「エドワード殿下の気性はお前がよく分かっていただろう。休暇を頂いてここにいるんだろ?殿下から報せはなかったのか?」
その言葉に、アルゼンは罰が悪そうに視線を外し俯く。
「………すみません…。休暇を頂いたなんてのは、嘘でした…」
それから、アルゼンはぽつりぽつりと、自白を始める。
魔族狩りを推挙したのは自分だ。エドワードへの機嫌取りだった。
プリ剣本を発禁本に指定したのは自分だ。これもエドワードへの機嫌取りだった。
王室が魔王との同盟に失敗したことで、王室に未来はないと思い、ティントルテン邸へ逃げ込んだ。
「元はと言えば、私が愚かでした…。こんなに事が大きくなるだなんて…」
珍しく素直なアルゼンに、ティントルテンは驚きを隠せず、ちょっとしたイタズラを思い付く。
「クロック、おいで」
「はいっす〜」
クロックは呼ばれると、軽やかに部屋に滑り込む。
そして、キツネの耳と尻尾をぽんっと出した。
クロックに生えた耳と尻尾を見て、アルゼンは後退る。
「……魔族!?」
「ひどいっす、坊ちゃん。ボクと坊ちゃんの仲じゃないっすか〜」
クロックは尻尾をゆらゆら揺らしながら、怖がるアルゼンにわざと近付く。
「ミリアも見せてごらん」
人間に擬態していたミリアにも、ティントルテンは言う。
「はーい!」
可愛らしい長い耳がぴょこんと現れる。
「その子も魔族!?」
驚くアルゼンに追い打ちをかけるように、ティントルテンは笑いながら言った。
「使用人の大半は獣人族だ。分からなかっただろう?」
アルゼンは青ざめている。
「待ってください…王室に見付かったら即断罪………あっ…」
エドワードが投獄された事を思い出し、急に肩の力が抜けた。
「ああ…そりゃそうか…」
アルゼンはティントルテンを真っ直ぐと見詰める。
「おじ上は辺境の町を治めている領主ですもんね…。辺境の町は魔族と人間の壁が薄い…」
「そういう事だな」
ティントルテンは頷く。
「さて、レオの息子のアルヴィスが王位に就いたそうな。そして、その弟のカイルは魔王になるべく魔王領へ向かった。……これの意味が分かるか?」
アルゼンはハッとする。
「まさか…プリ剣本は予言の書…?」
その答えに、ティントルテンは大きな声を出して笑った。
「ははははっ!そうかもな。うん、それはいい!」
アルゼンが窓から庭を覗くと、オオカミの獣人と人間が楽しうに協力しながら作業をしている。
部屋を見回すと、ウサギ族のミリアと人間のエリオスが仲良くティーカップをさげている。
そして、自分の隣にはキツネの獣人のクロックが控えている。
「?坊ちゃん、どうしたっすか?」
「いや、なんでもない」
知らなかった。
この屋敷では、魔族と人間が同等に共存している。
出世のために魔族が悪だと決めつけていた自分が恥ずかしく思った。
「これからは、共存の時代だぞ。もしかすると、私たち貴族なんて身分もなくなるかもしれないな」
ティントルテンは楽しそうに笑った。
アルゼンは……
そんなおじ上を、初めてカッコイイ人だと感じていた。




