第39章
第39章
『恐怖心』と『羞恥心』は魅了の力を垂れ流しにする。
確かにそうかもしれない、とカイルは思った。
自分がまだ孤児院にいた頃、アルヴィスに助けられ、王都を出たあの日。
孤児院でカイルを犯そうとしてきたあの男は、カイルが恐怖に体を強ばらせる程に鼻息を荒くし、男の理性が飛んでいた。
「………。嫌なことを思い出した…」
しかし、その思い出は恐怖と同時に、アルヴィスが手を引き助けてくれた嬉しい思い出でもあった。
カイルはアルヴィスが何度も握ってくれた自分の手の平を眺め、ポツリと呟く。
「アル…今どうしてるかな…」
木々のざわめきが、風に吹かれてカイルの茶色い髪を揺らした。
その頃、ミナは王都の神殿を訪れていた。
「大司祭さまー!」
約十年ぶりのミナの登場に、大司祭の頬が緩む。
「おお、ミナ様!」
大司祭は小走りにミナに駆け寄ると、歳のためか短い距離にも関わらず、肩で息をする。
「もうお戻りにはなられないかと思っておりました…」
「うん、戻らないよ!」
「へ?」
あっけらかんとしたミナの返答に、大司祭は顔を上げる。
「えーとね、プリンス様が王様になったあと、剣士くんと結婚するから遷都して魔王領の都がみんなの王都になるのー!」
嬉々として告げるミナに、大司祭は感銘を受ける。
「なるほど…それが神のご意思ですか…。では、白き光の戴冠式を慎んでお受けいたします…」
大司祭がうやうやしく頭を下げると、ミナは両手を広げて、嬉しそうにこう言った。
「王都のみんな、暗い顔してるから派手にパァァァァっとやろーね!」
そしてこれは、ミナが神殿に行く前の話である。
王城に出向いたアルヴィスは、エドワードに大歓迎された。
「兄上っ!やっと戻って来られたのですね!」
隣にカイルがいない事を確認すると、心底嬉しそうにエドワードは笑う。
「よかった…。兄上、私は嬉しゅうございます」
エドワードは玉座の隣に立つと、続けて言った。
「兄上のためのお席です。どうかお掛けください…」
「…………」
アルヴィスは無言で玉座にドカッと座ると、足を組んでエドワードに問う。
「私がここに座るからには、お前には私の命に従って貰う。異存はないな?」
「はいっ!何なりとっ!異存などございませんっ!」
エドワードはアルヴィスの前に膝を着いて座った。
「……汝、己が罪を理解しているか?」
「罪…ですか…?」
エドワードは覚えのない罪を問われ、目を白黒させた。
そんなエドワードを見て、アルヴィスは深くため息をつく。
エドワードは自分がして来た事を理解していないのだ。
いや、理解しようとしていないのだ。
「罪のない人々を罪人と決めつけ、大量殺戮を繰り返した凶悪犯、エドワードを地下牢に投獄せよ」
アルヴィスの呼びかけに、ミナが応じる。
「いえっさー!」
ミナがエドワードを連れて行こうとすると、エドワードは訳が分からないと言った様子で叫んだ。
「何故っ!私がいつ殺戮など!」
「………本当に分かっていないのか…?」
そう言ったアルヴィスの冷たい目に、エドワードは一瞬凍りつく。
が、すぐにくつくつと笑い始めた。
「そうか…、分かったぞ…。私は騙されない!お前は兄上の偽物だ!兄上は、いつも麗しくてお優しくて、輝いている!私の行いを正しいと言ってくれるはずだ!」
気が触れたように笑い出すエドワードの手を、ミナがしっかり抑えると、力づくで連れ出し、地下牢へぶち込んだ。
「偽物め、待ってろ…。必ず出てやる…。本物の兄上をこの手に…取り戻すからな!あーっはっはっは!!!」
地下全体にエドワードの高笑いが木霊する。
「なんでそーなるかなぁ?」
ミナは呆れ顔でそのまま神殿へと向かったのであった。
☆ミナの推し観察日記☆
ヤンデレシスコンがメンヘラシスコンになった!
テッテレー♪
んー……
なんかちがーう!
プリンス様を偽物扱いとか、普通にムカつくし!
べーーーっだっ!




