第38章
第38章
カイルが魔王になる決意を固めつつある時、アルヴィスとミナは王都の衝撃的な現状を目にしていた。
民家と言う民家は、喪もとうに明けているというのに、窓や扉に黒い布を掲げ、街行く人々は俯き活気がない。
あんなに賑わっていた市場も店はほとんど閉店状態で、騎士団だけが目を光らせ大股で街を闊歩している。
「なにこれ!こんなの、あたし推せない!」
ミナがぷりぷり怒っていると、アルヴィスが低い声で唸るように言った。
「………同感だ。早くなんとかしなければ」
アルヴィスは早足になり、王城を目指す。
「まってよ〜!」
ミナもちょこちょこと小走りになり、アルヴィスについて行く。
王城では、エドワードは苦しい決断をしていた。
トルティーニ子爵家の断罪だ。
子爵家では、発禁指定のプリ剣本を隠し持っていたからだ。
そして、トルティーニ子爵家はアルゼンの実家。
未だ行方不明のアルゼンには申し訳ないが、法は法だ。
「アルゼン、すまない…。帰る家をなくしてしまった…」
エドワードはアルヴィスの肖像画の前に力なくへたり込む。
そして、こんな時慰めてくれる侍女のシーシャは今はいない。
王妃を療養のため、自然豊かな領地の別宮へ移したのだ。
シーシャと王妃は仲が良かったため、母の世話をシーシャに託した。
王城にはたくさんの使用人や騎士がいたが、心許せる二人がいないだけで、こんなにも胸が痛むとは思ってもいなかった。
「………兄上…」
エドワードは肖像画に伏するように声を殺して涙を流す。
「…兄上ぇ……」
子どもの頃、枕に突っ伏して泣いた時のように嗚咽が止まらない。
「…兄上ぇ……私は、正しい事をしています…」
涙で濡れた顔を上げ、一心にアルヴィスの肖像を見上げた。
嗚咽の合間に、エドワードは震える声で呟く。
「私は…国を護るために…私はっ……!!」
そう何度も繰り返しながら、なお涙が止まらなかった。
その頃、辺境の町でのカイルは、純血である夢魔、ビビに能力制御の仕方を学んでいた。
ビビはレオの昔からの知り合いで、誰にでもフランクに打ち解けるが、すぐに精力を吸おうとする気の抜けない夢魔でもある。
「ほら!カイルくんもこれ着て!」
ビビが着ているような、ほとんど下着のような衣装をカイルは押し付けられる。
ギルド内がざわめいた。
「ちょ…!やめてください…」
カイルは衣装を押し返しながら、赤くなる。
「あれ着るのか!」
「うわ、楽しみ…」
「ミナの資料のために写真撮っとこうぜ」
ギルド内がざわめき、カイルはさらに耳まで真っ赤になる。
「やめてくれよ…!」
そんなカイルをからかうように、ビビは人差し指を立てて言う。
「ほらほら、魅了コントロールできてないから、余計ちゅーもく集めちゃってるんじゃん?」
「いや…注目の原因、魅了じゃなくてミナの本のせいな気が…」
ビビはチッチッチッと人差し指を左右に振る。
「夢魔はね、魅了をちゃんとコントロールできてれば、どんだけえっろーい格好しててもスルーされんの♡ ガチで!」
「…………」
カイルは、ビビの下着のような服をみんながスルーしてる理由は別にある気がするが、相手が純血夢魔なため黙っておくしかなかった。
「でも…これ…その…色々はみ出そうな…」
それでも尚、カイルが渋ると…、
「はみ出ちゃっていいじゃん!」
ビビは軽く言い放つ。
「はみ出るのがイヤなら、女体化でもしたら?」
「は…?」
カイルは固まった。
あの時の女体化は、魔王領の魔力が溶けたお湯で偶然女性の体になっただけだ。
それ以来、勝手に性別が変わることはなかった。
「……って、そもそも女体化ってそんな気軽にできるもんなのかよ…」
「できるよ?夢魔なら普通~♡」
ビビは当然のように、煽るように艶めかしく腰をひねって見せる。
視線を落とせば、下着のような布が肌にピッタリと密着して、体のラインをくっきりと際立たせていた。
「やっぱ無理…」
そもそも性別転換はできないし、女性の体でもあんなにはっきりと体の形が浮き出るならば、性別関係なしに無理なものは無理だ。
「カイルくん、いい?夢魔の魅了がダダ漏れん時は、『恐怖心』と『羞恥心』。わかる?カイルくんが恥ずかしがる度に、あんたは『性欲刺激物発生機』」
ギルド内が再びざわめき出す。
「おい!今の話メモしろ!」
「『性欲刺激物発生機』なんて初めて聞いた。ミナに教えなきゃ」
カイルは顔を真っ赤にしながら俯き、覚悟を決める。
「わかったよ…。これ着て『羞恥心』に慣れろってんだろ!?」
最初こそはビビに丁寧に接していたカイルは、敬語も忘れて叫ぶ。
しかし…、
「な、中に着るのはダメか…?」
やはり恥ずかしさが勝ってしまう。
そして、当分は下着の代わりに着ることになった。
☆ミナの推し観察日記☆
ん〜?
んん〜??
なんだか、ミナちゃんの推しセンサーがビンビンするよぉ?
なんだろうな?
なんだっろなぁ〜♪




