第37章
第37章
「ウジウジひとりで考えてねぇで、魔王についてよく知ってる奴に相談した方がよくねぇか?」
レオは塞ぎ込むカイルに言った。
「タルタルは…相談役には向いてねぇから、伯爵んとこの使用人にでも相談してこい」
と言うレオのタルタルへの批判付きアドバイスで、カイルは現在ティントルテン邸に来ている。
庭師であるオオカミの獣人のダンは、可愛らしい耳をくるくる回し、嬉しそうに尻尾をブンブン振りながら剪定作業をしていた。
「魔王陛下のご公務は、世界樹の言葉を聞いて、叶えてあげられるように務めることだそうです。もちろん、魔王陛下ご自身が考えて下さった魔道具などもありますが」
「魔道具…?」
カイルは不安になる。
イリューシアには優れた高位魔法があるが、自分には魔法なんて全くと言っていいほど使えなかったからだ。
剣術一筋だった自分が、役に立てるかどうか…。
次に、廊下を掃除していたオオカミの獣人のロハウに話を聞いた。
「魔王陛下はおひとりになってから、ずいぶんと苦労されているご様子でした。カイル様が魔王になられるなら、心強いかと思います!」
別宅からおやつを漁りに来ていたキツネの獣人、クロックにも話を聞いた。
「あ!これは坊ちゃんのティータイムの茶菓子を探しに…」
慌てて口元を拭うクロックのポケットは、パンパンに膨れている。
それをカイルが怪訝そうに見詰めると、
「嫌だなぁ…。やましい事しかしてないっすよ」
と、開き直り、ポケットの中の焼き菓子をカイルにも分けてくれた。
「え?魔道具っすか?魔道具は魔王陛下の命で、職人街の獣人が試行錯誤するっす。別に魔法使えるとかは関係ないっすよ?」
ティントルテンの側仕え、ウサギ族のミリアにも話を聞いた。
「確かに、最初は大変かもですー。魔族ってたくさん種族がいますから」
カイルは少し拍子抜けした。
大変の理由が『多種族であるから』とは…。
それなら人間も多種多様であるし、あまり変わらない気もする。
「それに、ひとりじゃないから大丈夫です。魔王陛下…イリューシア様はもちろん、他にも配下の方々や、領民も助けてくれます。世界樹様は、お互い身分隔てなく助け合うのを昔から願っていますから!」
イリューシアのカリスマ性ばかりに目が向いていたが、どうやら違うらしい。
「……俺にもできるかな…」
カイルが呟くと、ミリアは長い耳をピーンと立てて、短い尻尾をぷるぷる震わせた。
その頃、アルゼンは新たにクロックが持ってきたR指定のプリ剣本、『結婚初夜は特別な味』をチラチラと目を逸らしながら同じページをずっと開いていた。
カイルが涙目で身を捩っているシーンだ。
「うっ…!なんて過激なんだっ!その顔は反則だぁぁぁ!!」
そこに、ひょこっとクロックが顔を出す。
「坊ちゃん!」
「わぁぁっ!」
アルゼンは急いで本を背中に隠すと、クロックに悪態をついた。
「ノックしろ!………ったく、おじ上は使用人の教育がなってないな」
「すんませんっす。サプライズ登場はご主人様が喜ぶんで」
クロックは悪びれなくそう言うと、アルゼンが隠した本をチラッと確認してにまにまする。
「な、なんだその顔は…」
「生まれつきこんな顔っす〜」
クロックはニヤニヤしながら、わざとらしく窓の外を指差した。
「そういや、今日カイル様がご主人様に会いに来てるっすよ。生カイル様、拝みたくないっすか?ほら…生の………剣士くん…」
「なっ、なにを…っ!」
アルゼンの耳が一瞬ピクリと赤く染まった。
「わかってるんすよ〜?坊ちゃんはカイル様推しっすよね?こんなチャンス滅多にないっすよ〜?薄い本でしか見られない顔、生で見られるかもしんないっすよ〜?」
クロックがぐいぐい煽るたびに、アルゼンの理性はギシギシと音を立てる。
「………っ…だ、だから!私はそんな、不埒な…!!」
しかし、アルゼンの目線は知らず知らずのうちに窓の方へ…。
「へへっ♪あ、坊ちゃん!カイル様に服着せてあげないと、風邪引いちゃうっすよ〜?」
「は?何をいって…」
言いかけて、アルゼンはベッドを見た。
そこには、アルヴィスとカイルのぬいぐるみが…。
カイルのぬいぐるみは何故か上半身裸だった。
「み、みるなーーー!!」
アルゼンはぬいぐるみを枕の下に隠す。
「あははははっ!」
クロックは楽しそうに笑いながら、部屋を後にした。




