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第36章

第36章

辺境の町へと帰ってきた四人。

ティントルテンは迎えに来てくれたエリオスと馬車で帰って行った。

カイル、アルヴィス、ミナの三人は冒険者ギルドへ。


ミナはギルドのみんなにプリ剣まんじゅうを配り、アルヴィスは「その本はなんですか?」と、タルタルに『カイル様総受け』本を奪われて取り返そうと焦っている。


そんな中、真剣な面持ちで、カイルはレオに魔王領であったことを報告していた。


「ふーん…。で、魔王になるのか?」


「だから、それを相談したいんだよ。なに聞いてたんだよ…」


カイルはレオの軽い態度に苛立ちを覚える。


「聞いた話じゃ、イリューシア陛下も別に引退とかじゃねぇんだろ?」


「まぁ…魔王は複数いたっていうし…」


二人でそんな話をしていると、ミナが興奮気味に割り込んでくる。


「剣士くんが魔王になって、プリンス様が王様になって、結婚するんだよー!」


ミナの言葉に、レオは盛大に吹き出した。

しかし、眼鏡を光らせてタルタルが余計なことを言う。


「それはいいですね。カイルなら、プリ剣が浸透しているので、すぐに魔王になれます。アルヴィスも、エドワード殿下に言えばすぐに王位につけるでしょう。王都に偵察に行ったら、エドワード殿下は王位につかずに毎日アルヴィスの肖像に祈りを捧げているようでしたので」


「は?エドワード殿下がなにに祈りを捧げてるって?」


カイルは思わず聞き返した。


「アルヴィスの肖像に、です」


タルタルは眉ひとつ動かさない。


「まぁ…仮にも…仮にもだぞ?俺が魔王になって、アルが王様になったとしても、結婚はおかしくないか?」


そんなカイルに、しれっとタルタルは答える。


「国を統一するという政略結婚ではないですか。なにかおかしいでしょうか?」


それに、とタルタルは続ける。


「お二人は、すでに薄い本で結婚しているではありませんか」


「いやいやいや、現実と創作は違うだろ!」


カイルが必死に否定するが、ミナは満面の笑みで同意する。


「うんうん♡でも、薄い本が現実になる世界って尊いよね〜♡」


「いや、やめろ、変な方向に現実歪めるな!」


頭を抱えるカイルを他所に、レオはくつくつと笑いながら口を開く。


「まぁ、冗談抜きで言えばな…。魔王になるかどうか、決めるのはお前だ。ただ…王都が今、エドワード王子サマが好き勝手にやってるなら、アルヴィスの方も腹括らねぇとダメだろうな。都民は恐怖で声上げらんねぇだろうしさ」


「それなんだが…」


アルヴィスが真面目な顔で言った。


「エドワードの恐怖政治から、民を解放したい…。それには、私が王位につき、エドワードを裁くしかあるまい」


「アル…」


そうだ、アルヴィスは生粋の王族なのだ。

普段ふざけてばかりいるので、忘れがちになるが…、アルヴィスの本質は白い魔力…。

人間のリーダーなのだ。


次の日、アルヴィスは王都へ旅立った。


「我が剣は残り、魔王になるかゆっくり考えるといい」


そう言い残し、町を出ていく。


「まってぇ!」


そんなアルヴィスのあとをミナが走ってついて行った。


「剣士くんのプリンス様はあたしが守るね!浮気しないように見張っとくからぁ!」


「ミナ!我はそんな不埒な事はしない!」


ぎゃいぎゃい言い合いながら、二人の背中は小さくなる。


「………ゆっくり考えろ…か」


見えなくなる背中を見守りながら、カイルは小さく呟いた。



時は少し遡る。

ティントルテンが帰宅直後、アルゼンの別宅に顔を出した時のこと。


「坊ちゃんはプリ剣堕ちの狭間で苦行中っす」


クロックは半笑いで、手をひょいと差し出す。


「R指定本まで部屋に置いてきたっすよ〜。あれは絶対見てるっす。絶対」


得意げな顔で、両手をぐいぐいと突き出すクロック。

その姿にティントルテンは小さく笑い、ぽんと金貨を乗せた。


「よくやったな、クロック。おこづかいだ」


「うわぁい!あざーす!」


金貨を握りしめて、クロックはスキップしながら業務に戻っていく。

その背中を見送りながら、ティントルテンは小さく呟いた。


「キツネちゃんも可愛いなぁ〜」



ティントルテンはアルゼンの部屋のドアをノックする。


「アルゼン、私だ。入っていいか?」


「うわぁっ!はいっ!」


慌ててドタバタと仕切りに音がしたあと、静かにドアが開いた。


「お帰りなさい。旅行はどうでした?」


いつも通りアルゼンはふわっと優しい笑顔を見せながら、部屋へ招き入れる。


部屋の中はアルゼンらしく綺麗に整頓されていたが、ティントルテンの突然の訪問に急いで隠したのか、机の下にプリ剣本が平積みになっていて椅子がきちんと収まっていない。

そこには、もちろんクロックがわざと置き去ったR指定本もある。


アルゼンは隠すように机の前に立ちはだかり、穏やかに笑っている。


「アルゼン、お土産だよ」


見て見ぬ振りをしながら、ティントルテンは魔王領で買った可愛らしいアルヴィスとカイルを模したぬいぐるみを渡した。


「あ、ありがとうございます…」


アルゼンは子どもにあげるような品物に、顔を引きつらせる。

が、よくできたぬいぐるみで、どちらも愛らしい。


「着せ替えできるんだよ。着せ替え用のお洋服もあるからね」


更にティントルテンから渡され、アルゼンは受け取りながら嫌なはずなのにドキドキしていた。


ティントルテンが去った後、アルゼンは震える手でカイルの服を脱がす。


「こ、これは危険な代物かどうか確かめるためだっ!」


自分に言い聞かせつつ、全部脱がせると子どもが遊ぶぬいぐるみらしい体型にホッと息を吐く。


「よかった…。普通だ…」


(って、なにを想像していたんだ、私はっ!)


アルゼンは日に日に自分の思考が分からなくなっていた。



☆アルゼンのプリ剣感想☆

私は…なにをしているんだ…。

気付いたらおじ上にもらったぬいぐるみのアルヴィス殿下とカイルの服を交換させたり、二人をくっつけたりさせている…。

正気の沙汰ではない…。

プリ剣はやはり危険だ…。

私まで染まるわけにはいかない……!!

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