第35章
第35章
イリューシアにかけてもらった魔法のお陰で、カイルとミナにも街の様子がよく分かった。
街は綺麗に舗装され、緑が豊かながらも店や広場など、魔族たちが住み良いように美しく活気が溢れている。
「色んな種族がいるー!わー!巨大ミミズだー!えー!?食べるのー!??」
ミナははしゃいであちこち見て回っていた。
すると、ターリィがとある店を指差す。
「あそこのトンカツ、おいしいんですよ!」
見ると、大きな豚がエプロンを着けて二本足で立ち上がり、トンカツを熱々の油で揚げていた。
「え…豚がトンカツ…」
「まさか、共食い…?」
カイルとアルヴィスは一歩後ろに下がったが、ティントルテンは人数分トンカツを買っていた。
「親戚が育てた、国産豚のトンカツだそうだ!」
そう言ってトンカツを配る。
「親戚って…」
「我が剣よ…罪深き豚に哀悼の儀を…」
丁寧に祈りを捧げてから食べるカイルとアルヴィスとは裏腹に、ミナとティントルテンは美味しそうにかぶりついている。
「おいしいですよねー!あ、獣人と動物は別物なので、気にしなくていいですよ」
ターリィはそう言うが、気になるものは気になる。
「あそこの本屋、魔王領一の蔵書量なんですよ」
ターリィが指差す先は、小さい本屋だった。
「もしかして…空間魔法で中は広いとかか…?」
アルヴィスが言うと、「ですです!」とターリィは頷く。
四人はターリィについて、本屋に入ってみることにした。
本屋に入ると、広々とした店内に本がずらりと並び、魔導書や歴史書、生活雑貨本のコーナーの奥……そこには、なんと「創作・同人コーナー」が設けられていた。
「創作はわかるけど…同人って?」
カイルが首を捻ると
「ミナの欲望蠢く有象無象たる終焉の業火の集合体…」
「よく分かんないけど、なんとなく分かった」
カイルが頷くと、アルヴィスは頬を紅潮させ、瞳をこれでもかと輝かす。
「我が剣も、ついに我の言葉が…!」
「いや、基本的に分かってないぞ」
「それでもいいっ!」
じゃれ合う二人をミナは緩みきった顔でスケッチしている。
「やだ〜♡かわいい〜♡」
すると、ティントルテンとターリィが何か見付ける。
そこには綺麗に平積みされた『プリ剣本』の山。
カイルとアルヴィスの顔がデフォルメされ、仲良く手を繋いでいる可愛らしい表紙が目を引く。
「うわぁ…なんで俺たちのイラスト…」
「ふふ…運命が民の心にも刻まれている証…!」
「毒されてる証…」
カイルとアルヴィスの温度差が激しいが、ティントルテンは純粋に感心していた。
「使用人たちにも聞いていたが、こんなにも人気があるとは…」
「今じゃ、知らない人はいません!お二人は最高の国民的バカップルです!」
カイルはそれに嫌そうな顔をしたが、バカップルという言葉はどうやら褒め言葉らしい。
「魔王陛下と王配殿下もバカップルです」
ターリィは自慢げに胸を逸らした。
すると、ミナが声をあげる。
「これ、プリ剣じゃないやつだー♡」
見ると、『ギルマス×剣士』『カイル様総受け』など、二次創作のバリエーションは豊富。
「いや待て待て待て!?なんでそんな設定増えてんだよ!!」
カイルが動揺する横で、アルヴィスはカイル総受け本を手にし、目を輝かせる。
「…これを教材に、夢魔として必要な時、すぐに我が剣へ精力を供給できるよう…」
「やめろおぉぉ!!」
ミナはミナで、『裏設定考察本』『婚約後妄想本』『甘々ラブラブ結婚生活本』と、大量に本を抱えながら、
「観光って最高♡」
とご満悦だった。
会計をしていると、店員に話しかけられる。
「もしかして、アルヴィス様とカイル様ですか!?サインお願いします!」
そうして差し出されたのは、可愛らしいプリ剣の絵本。
「え…絵本…?」
カイルが動揺しながら、とりあえず名前を書く。
「人間に差別されながらも、懸命に生きる混血夢魔と、人間ながらも混血夢魔一筋の愛の物語です」
ターリィの説明に、ミナの妄想はすでに魔王領全体の妄想になっていることを改めて感じる。
本屋を出てからも、土産屋にはプリ剣グッズがてんこ盛りだった。
「は、早く帰りたい…」
そう言うカイルを他所に、他の四人は大盛り上がりだ。
「ボク、幻からアルヴィス様がカイル様を救い出すシーンがすごく好きです!」
「あぁ、あの時か…。もう随分昔に感じる…」
「わぁー!そこめちゃくちゃ尊いやつー♡」
「ミナ様、獣人をもう少し出していただければ…」
ティントルテンなんかは、リクエストまでしている。
そんなこんなで夜まで遊び、一行はターリィに案内された魔王城の部屋で眠りにつくのだった。
☆ミナの推し観察日記☆
プリンス様は剣士くん総受け本をどんな風に使うのかなぁ?
教材にするって言ってたけど…
いやーーーん♡
きゃーーー♡
うきゃーーーー♡
はやく……はやく、はやく!精力の供給してぇーーー♡




