第31章
第31章
魔王領でも正式な文書に署名するため、ティントルテン伯爵は魔王城に出向くことになった。
その護衛として、カイル、アルヴィス、ミナの三人も同行する。
護衛とは言っても、イリューシアのペガサスの馬車でひとっ飛びだ。
実質、観光旅行のようなものだ。
それを裏付けるように、ティントルテンは別宅に引きこもる甥に「旅行に行ってくる」と軽く告げていた。
甥のアルゼンは、にこやかに頷き返したものの、心の中では「この情勢に呑気なものだ」と、ティントルテンを嘲笑っていた。
四人は馬車に乗り込むと、見た目以上に広い空間に驚かされる。
「空間魔法ですわ。馬車以外にも、バッグなどに施すこともありますのよ」
イリューシアの説明を聞きつつ、ペガサスの空の旅は始まった。
揺れひとつなく、イリューシアが魔王城から連れてきた使用人たちにもてなされ、香りの良いハーブティーが振る舞われる。
窓からの景色も格別だ。カイルは子どものように窓にへばりつき、外の眺めに夢中になっている。
「景色に夢中な剣士くん、きゃわわ♡ さて、プリンス様は…?」
ミナが視線を移すと、アルヴィスはできるだけ外を見ないよう、必死に目の前のケーキに集中していた。
「まさか、プリンス様、高所恐怖症?マジ〜?」
ニヤニヤしながら、ミナはスケッチ帳を取り出し、二人の様子を描き始める。
ティントルテンはと言うと、イリューシアともふもふ話に花を咲かせていた。
「獣人は全身毛に覆われた、動物に見た目が近い種族もおりますのよ」
「おお!それはかなりもふもふでしょうな!」
目を輝かせるティントルテンを優しい微笑みで返すイリューシア。
すると、カイルが声をあげた。
「あっ!」
魔王城が見えたのだ。
魔族の街の中心に、まるで生えているかのようにそびえ立つ大きな水晶。
日の光にあたり、七色に輝いている。
入口にペガサスの馬車は降り立つ。
改めて眺めると、その大きさに息を飲んだ。
すると、カイルとミナが不思議な事を言い出した。
「あれ?空から見た時は水晶みたいだったけど…」
「すっごーい!おっきい樹ー!」
アルヴィスとティントルテンは首を傾げる。
「魔王城…水晶宮が大樹に見えますの?」
嬉しそうにイリューシアはカイルとミナを見た。
「見えるよ!ってか、街の中も森みたいなんだね!空気がおいしーい♡」
ミナはそう言って全身で深呼吸したが、アルヴィスとティントルテンの目には、確かに美しい街並みだが、森には見えなかった。
カイルもミナと同じように見えているようで、自然と全身で息を吸う。
ミナはスケッチブックを取り出し、水晶宮と街並みを描き出した。
「あたし、描きたいから先に行ってて」
ミナは近くのベンチに腰掛けると、真剣にスケッチし始める。
いつもと様子の違うミナに、アルヴィスが戸惑いを隠せずにいると、
「わかった。また後でな」
と、カイルはいつも通りの調子で言った。
「描けたら、見せてくださる?」
イリューシアがミナに微笑むと、ミナは満面の笑みを返した。
「うん!いいよ!」
☆ミナの推し観察?日記☆
プリンス様が高所恐怖症とか、かわいすぎー♡
剣士くんもあんなにはしゃいじゃって…
剣士くんに誘われるまま、プリンス様が外見ちゃって気絶しかけて、そんなプリンス様を剣士くんが支えて…
見つめ合う二人…
で……ぶちゅーーー♡
きゃっ♡
………うーん…
あたしも空から見たら、魔王城は水晶みたいに見えたよ?
街並みもすっごく舗装されててキレイだったー。
でも、降りたら、おっきい樹に見えたんだよ。
街も森みたいに見えた!
みんな木をそのまま家にしたみたいにしてて、めるひぇ〜ん♪に見えたんだけど、あたしだけ?
これは描いてみんなにも伝えなきゃ!
あとあと、魔王城のおっきい樹が、あたしに言ったの。
「ルビー、おかえりなさい」って。
もしかして、あたしの誕生石ってルビーだったり?なーんて




