番外編『奇跡の子』
番外編『奇跡の子』
「ミナ様、『白き光』が檻から逃げました。彼を捕獲し、元の鳥籠へ帰してください」
蝋燭の灯りが煌めく荘厳な象の前で、白いローブに身を包んだ老人は立っていた。
「……王太子殿下が?なんで?」
「それは分かりません。しかし、『透明』な魔力を持つあなたなら、真相を解明できるでしょう。奇跡の子よ」
暗く重い空気があたりを揺らす。
「いいけど、籠に帰すかどうかは保証しないよ」
「それもいいでしょう…。帰すように言っているのはあくまで王族側…。帰らないならば、神のご意志と判断します」
ある霧雨が振る、月の出ない夜だった。
神殿の前に赤ん坊が捨てられていた。
本来ならば孤児院へ送られるハズのその子は、神殿の司祭によって育てられた。
名はミナと名付けられ、神聖な子として。
「全く、バッカじゃないの?」
ミナは小柄な体には似合わない大きな斧を引きずるように歩いた。
今、神殿は神官たちが神に祈りを捧げる朝の集会をしている最中だ。
爽やかな木漏れ日が落ちる廊下を渡ると、魔力の色が可視化できると言う、この世に三つしかない神器が置いてある儀式の間に出る。
「勇者の末裔は『白』、人間は『赤』、魔族は『黒』。……んじゃ、『透明』のあたしは?」
生き物には、何かしら魔力が通っていると言う。
しかし、一般市民が使うような魔力量を測る魔力測定器では、ミナの魔力はゼロなのだ。
「透明って、ただ魔力ないだけじゃん。何が奇跡の子なんだか」
ブツブツと文句を言いながら、ミナは神殿を出た。
「さて、王太子殿下さがすかぁ〜」
伸びをして人通りの多い朝市まで出ると、ミナはあたりを見回す。
「赤、赤、赤…そりゃ一般市民ばっかか」
ミナにはある特技があった。
それは神器がなくても魔力の色が見えると言うもの。
朝市を抜けて時計塔に登って城下町を見下ろす。
「あ、いた!」
人混みから外れた路地に白い魔力の光を見付けた。
基本、白い光の周りには赤い光が取り巻いているが、この光は赤と離れてポツンと見える。
不自然な白のあり方にミナは直感した。
アルヴィス王太子殿下だ。
……と、その隣には黒い魔力の光が…。
アルヴィス王太子殿下に手を取られながら、急ぐように王都を出ようとしていた。
「魔族…?いや、魔族は人間領に入ってこないから混血か。なんで白が黒を連れてくんだろう?」
ミナの好奇心センサーが反応する。
「王太子殿下を城に引き渡す前に、観察しよーっと♪」
こうしてミナの尾行は始まった。
のちに二人に夢中になろうとは、この時はまだ分からなかったのであった。




