第26章
第26章
夜、家族で夕食を終えた後、アルヴィスは厳かな箱を両手に抱えて、カイルの前に現れた。
黒地に金の箔押しが施され、やたらと高級感のある箱。見るからにアルヴィスの趣味が全開だ。
「…なんだこれ?」
カイルは箱を受け取りつつ、その作りの良さに感心して、裏を見たり軽く叩いたりしている。
「魔物のドロップアイテムか?てめぇ、いつソロで行ってきたんだ?」
隣でレオも興味津々に箱を覗き込んだ。
すると、アルヴィスは髪を指にくるくる巻き付け、頬をほんのり赤く染めて言った。
「…それは、我が、我が剣へ贈る……運命の盟約衣だ…」
「盟約衣…?」
いまいち理解できないまま、カイルは箱を開く。
そこに入っていたのは、黒いレースがゴテゴテにあしらわれた、ミニスカートだった。
「わ、我とお揃いなのだっ!」
アルヴィスは自分のマントをめくり、同じスカートを履いているのを誇らしげに見せつけた。
「これで我が剣と永遠に盟約を…!」
「防御力皆無。いらね」
カイルは真顔のまま、箱ごと床に投げ捨てた。
「ノォォォォォッ!!!」
アルヴィスは頭を抱えて、その場に崩れ落ちたのだった。
この出来事は瞬く間に町全体へ広がっていた。
素知らぬ顔でツーンとしているが、プリ剣萌え談義が所々から聞こえてきて、カイルは今すぐ穴にでも入りたい気分だった。
「アルヴィスは公にしたいけど、カイルは恥ずかしいんだね…」
「箱ごと捨てちゃうなんて、最大の照れ隠し…」
知れ渡っている今の状況の方が恥ずかしいのだが…。
影からミナが親指を立てサインを送ってくるのを見て、
「ああ…ミナかぁ…」
と、カイルは噂の出処を悟った。
そうしていると、冒険者ギルドの扉が開く。
張りのある上質な衣服に高帽子を被った、いかにも上流階級といった風貌の男が、小柄なオレンジ色の髪をしたメイド服の少女を連れて入ってきた。
「おお?珍しいじゃねぇか。てめぇから出向くなんて」
その姿を見つけたレオが、からかうように駆け寄り、椅子をすすめた。
男は品良く腰掛けると、メイド服の少女がちょこんと男の膝に座る。 向かいにレオが座り、その隣にはタルタルも当然のように同席する。
「ミリア、もういいぞ」
男が声をかけると、少女、ミリアの頭から、ぴょこんとウサギの長い耳が生えた。
「ふあぁー!やっぱり擬態は疲れますー」
「そうだな、誰かさんのせいで余計に疲れたな」
男は愛おしそうにミリアの耳を撫でると、レオがニヤニヤと茶化した。
「可愛がってんじゃねぇか、領主様よ」
すると、男は顔を真っ赤にして、慌てて否定する。
「ち、違う!これは躾だ!獣人族が人間に忠実であるよう、きちんと、な、躾けているだけだ!」
咳払いをしながら、男は懐から一通の封筒を取り出し、テーブルに置く。
「……今、屋敷には甥がいるのでな。わざわざ来てやったのだ」
その言葉に、レオの顔から笑みが消える。
「あの王子サマの側近の…アルゼンっつったか…」
「そうだ。未だに何が目的なのか分からん。追い出そうと嫌がらせはしているのだが…」
男はそう言いながら、封筒をトントンと指で叩いた。
「それと、魔王からのお手紙だ」
「魔王だって?」
レオは驚き、タルタルは封筒を手に取って眺める。
「確かに、魔王陛下の封蝋ですね。中を拝見しても?」
男は静かに頷く。
手紙の内容はこうだった。
『親愛なるティントルテン伯爵様。
先日、人間の王が魔族狩りに協力を求めてやって参りました。
魔族側と致しましては、そのように同胞を狩るなど、到底できない事にございます。
平にお断りして帰って頂きましたが、不安が募るばかり…。
ティントルテン伯爵様を信頼して、今後のご相談に参られたく存じます』
「すげぇ丁寧な手紙だな…」
レオは関心していると、タルタルは誇らしげに眼鏡を直した。
「陛下は平和主義な方です。陛下がいらしたら、本当の国の成り立ちなどお話頂けたら面白いでしょうね。なんせ、人間の言う『魔族と人間の戦争』前から生きていらっしゃいますから」
「はぁ!?戦争前からぁ!??」
レオの驚きの声に、ミリアがピクピク耳を動かす。
「陛下の種族は長寿なのです」
「だからかなのか、ちゃんと私を立ててくれているようだ。なんの連絡もせずにいきなり来る甥やエドワード殿下と違ってね」
男…ティントルテン伯爵は皮肉交じりにため息をついた。
レオは苦笑しながら肘をつく。
「平和主義な魔王、か…。王都の連中が聞いたら発狂しそうだな」
「聞かせてしまえばいいさ。使節団が行ったようだから、すでに聞いているかもしれないがね」
ティントルテンは封筒を丁寧に仕舞い、続けた。
「問題は…アルゼンだ」
ミリアが心配そうに耳を垂らす。
「今のままだと、魔王陛下と鉢合わせするかもしれませんよ?」
「それだけは絶対に避けねぇとな」
レオが渋い顔になる。
タルタルは腕を組み、考え込む。
「いっそ、アルゼン様を暗殺…」
「まぁた危ねぇこと言ってやがんな…」
するとそこにキュロスがやってくる。
「エリオスさんから伝言です。アルゼン様はどうやら、王室に見切りをつけて逃げてきたようですよ。少しつついたら、よく喋ったようです」
すると、ティントルテンは少し考え込むと、ふっと口元を緩めた。
「まぁ、あの甥のことだ。見え透いた甘言でも囁いてやれば、勝手に自滅するだろうさ」
その言葉に、レオとタルタルは思わず顔を見合わせた。
「甘い言葉と言えばプリ剣っ!」
ミナがひょこっと顔を出した。
「プリ剣布教すればいいんじゃないかなっ!?」
「待て待て、王都でプリ剣を発禁にした張本人だぞ」
ミナの提案に、レオはため息をつく。
「いや、やってみる価値はあるかもしれないぞ」
ティントルテンは神妙な面持ちで顎を撫でた。
「奴のことだ。発禁にした行為はエドワード殿下に媚びる手立てだとしたら…」
ティントルテンはキュロスに、エリオス宛に図書室のプリ剣本を目立つ場所に移すように伝言を頼む。
「あのキツネが尻尾を出すかどうかだな」
発禁本を見せてその反応を窺う。
「なぁに、簡単な嘘発見器だよ」
ティントルテンは楽しそうに笑った。
☆ミナの推し観察日記☆
盟約衣…それはっ!結婚指輪ーーー!!!
プロポーズ♡
プリンス様ってば何回プロポーズすんの?
もっとしてぇ♡♡
てか、ティンちゃん…
イケおじー!?
まさかの策士系イケおじだったー!
キター!
剣士くんが略奪されちゃうかも編突入〜☆




