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第25章

第25章

王城の図書館で調べ物をしていたエドワードは、騎士の一人から報告を受けていた。


「なんだと!?なんて愚かな奴らなんだ」


エドワードは爪をギリギリと噛む。

報告内容は、魔王が協力を反故にしたと言う内容だった。


「……アルゼンはどうした」


エドワードが低い声で訊ねると、騎士はビクリと肩を震わす。


「アルゼン様は…行方不明で…」


騎士はしどろもどろになり、目が泳ぐ。


「魔王に対面したあと…帰りの国境付近でいつの間にか…」


エドワードがワナワナと怒りに震える。


「国境付近でだと…?闇の民が何かしたに違いない…」


闇の民は兄だけではなく、忠臣までも自分から奪った。

エドワードの中で、憎しみが増すばかりであった。


…一方、辺境の町を治めるティントルテン伯爵は、いつものように魔王領を双眼鏡で眺めていた。


この伯爵、領主とは名ばかりで、町のほとんどを冒険者ギルドのマスター、レオに任せっきりの何処にでもいるお飾り領主だ。


「レオは魔族保護をすると言っていたな。いい事だと私も思うが、王室に仕える身としてはどうしようか…」


ため息混じりに呟くと、


「複雑なお立場ですよね…。私たちのことは、いざと言う時は切り離して大丈夫ですので!」


側仕えであるウサギ族のミリアが、長い耳をピーンと立てて言った。


「何を言っているんだ。屋敷の使用人たちは何がなんでも守るさ!」


ティントルテンはミリアの頭をくしゃくしゃなでながら、耳に頬を擦り寄せる。

ふわふわの毛が気持ちいい。


「ご主人様、ミナ様から頂いたプリ剣本は如何いたしましょう?」


執事のエリオスが尋ねてくる。

ちなみに、エリオスは人間だ。


「あー…プリ剣かぁ。ミナ様には悪いが、私の趣味じゃないんだよな。夢魔じゃなくてもふもふの獣人なら…ゲフンゲフン。まぁ、適当に図書室に並べといて」


王都では発禁扱いなのを知らないのだろうか。

ティントルテンは投げやりにエリオスに任せる。


「ご主人様は本当に獣人好きですね」


エリオスが生暖かい目でティントルテンを見ると、わざとらしく咳払いをして主張する。


「これは、獣人どもを監視しているだけだ。それよりティータイムにしよう。ミリアの好きなチモシースティックも用意したからな」


「チモシースティック?いいんですか?」


はしゃぎながらティータイムの準備をするミリアを見て、エリオスは思った。


(おやつを用意してるなんて、獣人をペットみたいに見てるな。ご主人様は元々動物好きだし…)


つい顔がニヤけてしまう。

プリ剣本を抱えてエリオスが図書室へ向かおうとした時、ウサギ族の誰かが床を蹴る鈍い音が屋敷に響き渡る。


ミリアが耳をピーンと立て、その音を聞く。


「アルゼン様がいらっしゃったようです」


ウサギ族は訪問客などを察知して、足で床を蹴って知らせてくれる。

しかしそれは、ウサギ族しか分からない暗号のようなもので、ティントルテンには側仕えであるミリアが教えてくれるのだ。


「アルゼンだと?ミリア、使用人全員、人間に擬態するように伝えるんだ」


「はーい!」


ミリアは床をダンダンと踏みしめる。

これで他のウサギ族に伝わり、ウサギ族は他の使用人…

ウサギ族以外の使用人に伝えて来客に備えるのだ。


「しかし、何故アルゼンが…」


ティントルテンは双眼鏡で姿を確認する。

懸命に丘を登ってくる姿は、まるで敗残兵のようだ。


すると窓を叩く音がする。

窓を開けると、ハヤブサの獣人族がひょっこり顔を出した。


「アルゼン様はボロボロで、青い顔をしていましたよ。魔王領の方角から歩いて来ました」


「キュロス、報告ご苦労。アルゼンはエドワード殿下の側近だ。何か企んでいるのかもしれん。レオにもアルゼンが来たことを伝えてくれ」


ハヤブサの獣人、キュロスはそれを聞くと、直ぐさま町へ飛び去った。



数分後、屋敷の玄関が乱暴に開かれる音が響いた。


ティントルテンは階段の踊り場で、わざとらしく手すりに寄りかかり、下を見下ろす。


ボロボロの外套を羽織った男が、息を切らしながら屋敷に踏み込んでくる。青ざめた顔に、乾いた唇。だが、目だけはしっかりと生きていた。


「アルゼンじゃないか。どうした?エドワード殿下のお傍にいるんじゃなかったのか?」


階段の上から、ティントルテンはにこやかに声を掛けた。


「おじ上、お久しぶりです。休暇を貰ったので、顔を見に来ました」


アルゼンはすぐに平静を装い、いつものようにふわっと優しい表情を作る。


「しばらく、ここに滞在させてもらおうかと…。ご迷惑でしたか?」


アルゼンは謙虚さを強調するかのように、上目遣いでティントルテンの機嫌を窺う。


「ふん。あまり席を外していると、エドワード殿下の政務に支障が出るんじゃないのか?」


階段上から見下ろすティントルテンは、相変わらずふわふわした道楽貴族にしか見えない。

魔族だの辺境の混乱だの、どうせ理解していないのだろう。

アルゼンは内心で冷笑を浮かべた。


(おじ上は、表の事情にはまるで疎い…)


辺境の町が魔族保護を始めた時、本来なら領主であるティントルテン家が真っ先に責任を問われるはずだった。

だが実際に矢面に立たされたのは、冒険者ギルドのマスター、レオだけ。


(その理由は単純だ…)


ティントルテン家は代々、王室に莫大な献金を続け、社交界でも人脈を築き、王族と親族同然の立場を維持してきた。

つまり、領主とは名ばかりの『お飾り』。

実務も統治も全てギルドに丸投げし、ティントルテン本人は、のんきに屋敷で趣味の『監視ごっこ』をしているだけだ。


(こんな腑抜けに、魔族との交渉や、町の実態なんて分かるはずがない)


アルゼンはその無知を逆手に取るつもりだった。


「しばらく、この屋敷に滞在させてもらいます」


アルゼンは柔らかな笑みを浮かべてそう告げる。

だが、ティントルテンはあからさまに渋い顔をし、つぶやいた。


「……困ったなぁ。王室関係者が屋敷を出入りすると、目立つんだが…」


「こんな町外れの丘の上、誰も来ませんよ」


皮肉たっぷりの物言いに、ティントルテンは目を細めた。


(このガキが…。まるでキツネのようだな。獣人ならキツネでもまだ可愛げがあるのに…)


甥を追い出すワケにもいかず、ティントルテンはそのままアルゼンを屋敷に迎い入れたのだった。



その頃、レオに伝言を託されたハヤブサの獣人のキュロスは、冒険者ギルドの執務室の窓を叩いていた。


レオは机に肘をつき、面倒くさそうに書類をめくっている。

そしてその横では、レオがサボらないように監視するタルタルが。


窓を叩く音で、タルタルが窓を開く。

キュロスから報告を受けると、タルタルは眼鏡を光らせて言った。


「エドワード殿下の側近のアルゼンが…。人質にしますか?」


「おい、またそうやって危ねぇこと言うんじゃねぇよ」


そして、アルゼンが伯爵邸にいる事は、ギルド員全員が共有し警戒することとなる。



☆ミナの推し観察日記☆

最近、プリンス様と剣士くんの出番少なくない?

でもそれは…見えないところで愛を育んでいるから!

きゃーーー♡

お子さんはいつですかー?

ぐへへへへ〜♡

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