第24章
第24章
国王陛下が崩御した。
哀しみに包まれた王都は、ただでさえ魔族狩りで沈んでいた空気が、更に重く、暗く沈んでいく。
民家という民家は黒布を掲げ、王城も黒幕で覆われ、都から色彩が消えた。
喪に服す中、普段は気丈な王妃さえ、声を上げて泣き崩れ、病に伏したという。
そうして、ごく当たり前のように、王冠はエドワードの手に渡る。
「なんて事だ…王冠の本当の主は、辺境の地にいるというのに…」
エドワードは王冠に指一本触れようとせず、玉座にも座らなかった。
「兄上のためのものに、私が手を出すわけにはいかない!」
王太子であろうと、王位を継ごうと、エドワードは頑なに『第二王子』の立場を崩さなかった。
それがいかに国民を不安にさせ、国を混乱させているかも知らずに。
「今、魔王領に使者が向かっている…。兄上を取り戻す…。待っててくれ」
エドワードは無人の玉座の前に膝まつき、アルヴィス奪還を誓った。
その訃報は辺境の町にも届く。
「父上…」
アルヴィスは顔も忘れてしまった父を想い、王都の方角を眺めた。
王都を出た罪悪感が、時を超えて襲ってくる感覚に囚われながら、チクチク痛む胸の前でギュッと拳を握り締めた。
「……アル…」
カイルは励ますようにアルヴィスの背中を軽く叩く。
自分の親は最初から居なかったが、アルヴィスは違う。
知らないところで、ずっと葛藤していたのかもしれない。
カイルは知っている。
アルヴィスは自分から、カイルを連れ出して、今まで隣にいてくれている事を。
しかし、今更エドワードの言葉が胸に刺さる。
『兄上は魅了されて正気を失っているだけだ!』
否定はできない。
もし、自分のせいで、アルヴィスが本当の家族と離れ離れになっているなら…
「カイル、胸を張れ。私は自ら捨てたのだ。本当の家族は、お前と父様だけだ」
心の中を見透かされたようで、カイルは恥ずかしさで俯いた。
励ますつもりで背中を叩いたが、逆にアルヴィスに肩を優しく叩かれてしまった。
「はぁ…はぁ…♡このまま剣士くんにチューって♡うきゃー♡」
ミナは物陰に隠れて、二人を見ながら妄想をスケッチブックに書き記していた。
「王都を奪還するならば、今が好機と存じますが」
その頃、ギルドではタルタルが眼鏡をクイッと直し言った。
「おいおい、物騒なこと言うんじゃねぇよ。俺らは戦争したいワケじゃねぇんだぞ」
昼間っから酒をかっくらい、レオは言った。
「俺らはあくまで魔族保護だ。目的忘れんじゃねぇぞ」
「クーデターを興して王族を処刑してしまえば、魔族保護もすんなり叶いますが?」
「それじゃあ、あの殿下と一緒じゃねぇか。そうやって白黒ハッキリつけたいのは分かるが、そればっかじゃねぇんだよ」
タルタルはレオの言葉に聞き入る。
「グレーゾーンを敢えて歩く…。興味深いですね。同じ人間なのに、あなたは王族とは全く違う考え方をする」
「アルにも聞いてみろよ。同じ王族なのに、俺と同じことを言うだろうよ」
「妙ですね。考え方は環境で何かしらのセーブは生まれますが、本質は遺伝子に組み込まれた家系図のようなもの…。そう考えると、アルヴィスは光そのものの遺伝子か、はたまた母親…王妃の遺伝子をより多く受け継いだか…」
タルタルはわざとらしく眼鏡を押し上げ、声のトーンを落とす。
「……もしくは、私生児という可能性も、捨てきれませんね」
「ミナ並にすげぇ妄想力だな」
「ええ。なんたって、『推し』ですから」
冷笑を孕むその瞳は、『推し』と言うよりも『研究対象』を見る目であるようにレオは感じたが、それはこの男の愛で方なのであろう。
「まぁ、なんでもいいけどよ…」
魔族はどちらかと言うと、物事にメリハリをつけたがる傾向にある。
善悪をハッキリさせ、ルールを徹底し、多種族社会であるためか、分かりやすいように物事を単純化する。
それだけを見ると、今の王室と変わらない気がする。
が、彼ら魔族は、一度懐に受け入れてしまえば、王室のように民を迫害したりはしない。
「改めて考えると、てめぇらは単細胞だな」
レオの素直な言葉に、タルタルは声を上げて笑った。
「ハハハハハ!単細胞ですか、それはいい!分かりやすいのはいいことです。だからこそ、複雑な人間は私にとって、とても面白いのですよ」
平和と哀しみが混ざり合うこの国の外で起こる、これからの出来事が大きく事態を揺るがすとは、この時にはまだ誰にも分からなかった。




