第20章
第20章
王城に戻ってきたエドワードは、ベッドに伏している父を見舞っていた。
「おお…アルヴィス…」
年老いた父は、いつもエドワードとアルヴィスを間違える。
(兄上は父にとっても宝なのだ。そう、兄上は国の宝…。闇の民風情がそれを持ち出した…)
エドワードは笑顔を貼り付けた。
「はい、父上。私が万全を期しますので、ご心配には及びません」
エドワードは焦っていた。
早く兄上を取り戻さなくては…
国の未来が掛かっている。
執務室へ行くと、側近が書類を整理していた。
勢いよく扉を開け放ち、エドワードは頬を紅潮させ、目を輝かせ興奮したように叫んだ。
「アルゼン!兄上が見付かった!」
エドワードとは真逆に、ふわっとした優しそうな笑顔を側近のアルゼンは向ける。
「おめでとうございます。王太子殿下はいつお戻りで?」
エドワードの顔が怒りに震えるのを見て、アルゼンは何かを察したように一枚の書類を見せる。
「今しがた、闇の民への苦情が入ったところですよ。……これを機に、駆除なされては?」
「ほう、それは妙案だな!」
エドワードは書類を受け取り、闇の民はやはり害虫でしかない、と、王都を中心に魔族狩りを始めた。
「これでやっと兄上が救える!」
嬉しそうに書類を作成するエドワードを見て、幼い頃からエドワードに仕えている侍女がお茶を淹れながら不安そうに言った。
「闇の民が暴動を起こしたりしたらどうしましょう…」
「心配するな、シーシャ。闇は光に勝てん!」
エドワードは自信満々に胸を張る。
アルゼンを連れて訓練に行く途中、王妃殿下…エドワードとアルヴィスの母とすれ違った。
「母上、ご機嫌麗しゅう」
エドワードはうやうやしく頭を下げる。
「エドワード」
上から冷たい声が降ってきた。
「政務はしっかりやれているかしら?」
「はい、もちろんでございます」
「そう、あなたは王太子なのよ。しっかりやりなさい」
母はいつも凛としていて、どこか冷たい。
(兄上はあんなに柔らかい光なのに)
母の魔力は赤だ。
嫁いできたから当たり前なのだが、王族は王族でも、眩いばかりに光り輝く魔力を持つ兄のような本物の王族には敵わない。
「やはり、玉座は兄上が相応しい」
なのにあの夢魔は、兄を狂わせた。
「闇の民がいけない…。闇の民がいるから人は正気を失う…」
エドワードは呪文のように繰り返し呟いた。
そんなエドワードを、アルゼンは冷ややかに見つめる。
何故、王太子である自分が相応しいと考えないのか…?
十年以上は城を離れている兄を何故、そこまで慕うのか?
「まぁ、それくらい愚かな方が居座りやすい」
アルヴィスを手に入れて、エドワードをに擦り寄るか、はたまた今回の魔族狩りでアルヴィスを亡き者にし、闇の民のせいにすれば、エドワードの執着は自分に向けられるだろう。
エドワードに必要とされれば、地位も容易く確保できる。
アルゼンは手で顔を隠すように、冷たい笑みを浮かべた。
唇の端をわずかに上げ、まるでチェスの駒を並べ直すかのように思考を巡らせた。
…数日後。
辺境の町では、本当に男性の間にスカートが流行していた。
「おいおい、変質者だらけじゃねぇか」
冒険者ギルドではレオがぼやいていた。
「……俺のせいで…」
「カイじゃねぇだろ。アルのせいだろ」
申し訳なさそうにするカイルに、レオはぶっきらぼうに答える。
が、その瞬間、掲示板の前でレオは険しい顔に変わる。
「魔族狩りだって?」
新たに貼り出された新聞には、王都の命令で闇の民や混血の摘発が強化されたことが書かれている。
「王族直轄の騎士団が王都の闇の民を断罪しているそうです。罪もないのに断罪とは、不思議なものです」
タルタルが静かに報告する。
眼鏡越しの視線が冷たく光った。
「しかも理由が、『夢魔に魅了されて正気を失う者が増えている』だとか…。『夢魔に魅了されて』との理由なのに、夢魔以外の混血も断罪されているようですね。矛盾が気になる所です。どのような思考をお持ちなのか…」
「………」
レオの大きな手が、紙を引きちぎりグシャッと握りつぶした。
「新聞を破るのはやめてください。まだ見ていない冒険者がいるのですから」
タルタルは淡々と言う。
レオの隣でカイルは青ざめる。
「俺の…」
「カイのせいじゃねぇ」
カイルの言葉をレオは遮った。
ミナが明るい声で横から口を挟む。
手には相変わらずスケッチブック、その表紙には『プリ剣最新号♡』と書かれている。
「夢魔と王族の禁断の恋ネタが公式認定!やったね☆エモい〜♡尊死するかも…ぐへへへ…」
ミナはスケッチブックにヨダレを垂らしそうになり、慌てて袖で拭った。
「なるほど、これが『推しに狂った戦士』ですか。プリ剣最新号も興味深い…」
タルタルは魔族狩りなんてどうでもいいと言うように、ミナのスケッチブックを興味深く眺める。
「中を拝見しても…?」
「だーめ♡」
「少しだけ…」
「だめだってばー♡」
スケッチブックを抱えながら逃げるミナ。
ミナを捕まえようと走り回るタルタル。
「走らないでくださーいっ!」
受付嬢が必死に注意する。
そんなのは日常茶飯事なのか、レオは素知らぬ顔で言った。
「アルはどうした?」
いつも一緒にいるハズのアルヴィスがいない事に気付き、レオはギルド内を見回す。
「ああ…アルなら…」
カイルがため息混じりに答えようとすると、ミナは嬉しそうな声で叫んだ。
「スカート買いに行ったよ!」
「マジかよ…」
育て方を間違えたかもしれないと、レオは自分の頭をガシガシ掻いた。
その頃、アルヴィスは王都から引っ越してきたと言う錬金術士を訪ねていた。
「貴様が凄腕の錬金術士だな!?我と我が剣の絆を強固たらしめんとする、双影の運命を象徴する!漆黒の盟約衣を創り出すのだ!」
「ひっひっひ…、面白い御仁がきなすった。…おや?そのマントは…」
分厚い眼鏡をかけた錬金術士は、アルヴィスを上から下まで舐めるように見つめる。
「そのマント、あっしが作ったものでせぇ。と言うことは、あんたさんが第一王子様でごぜぇますかい」
「な、なんだと!?我が剣から贈られたこのマントの製作者だと!?」
そう、この錬金術士は、王都にいたあの錬金術士、ヒューイである。
「ワケありでさぁ。そのワケは次の章で話しましょうや」
「次の章!?それは禁忌…!」
アルヴィスが大げさに目を見開くが、ヒューイはおかまいなしにニヤリと笑った。
「まぁまぁ、そこんとこは次の章…いや、次の仕事が終わったら話しましょうや」
「む…貴様、禁忌を破るつもりか!?」
「禁忌かどうかは置いといて、まず注文の確認を…っと」
ヒューイはボロボロの帳面を取り出し、アルヴィスの言葉を復唱する。
「えーっと、『我と我が剣の絆を強固たらしめんとする、双影の運命を象徴する、漆黒の盟約衣』ってヤツで?」
「うむ!まさしくそれだ!」
「………で?どう言う意味で?」
「なんだと?我の言葉が理解できないのか!?」
アルヴィスは芝居がかった大きな動きで、頭をかかえる。
「カ、カイルとお揃いのチョーカッコイイ闇っぽいスカートが欲しいのだー!」
照れ隠しで叫ぶアルヴィスの声が、部屋に響き渡った。
☆ミナの推し観察日記☆
うわぁい。ハレンチな連中が町にウヨウヨしてるよぉ。
鼻血でそ〜♡
スカートブーム巻き起こしたのがプリンス様ってのもポイント高し!
二人もスカート履いて欲しいぃ〜♡
禁断の恋の次は、禁断の行為だぁ♡
妄想がたぎりますなぁ、うひひ♡




