第18章
第18章
夢魔のこと、夢魔の力のこと、混血は力のコントロールが苦手だから、またいつ性別転換するか分からないこと、そして、レオから見た魔族の話…。
そんな話を一通り終えた時、部屋の隅から声がした。
「なるほど、事情は理解しました。大変でしたね」
副ギルドマスターだ。
レオとは対照的な、スラリと品のいい男だ。
「てめぇ、盗み聞きしてやがったな?」
「最初から居ましたし。アルとカイが遅くて心配だ〜と、あなたがサボるので代わりに書類に目を通していただけですよ」
眼鏡をクイッと上げ、神経質そうに答える。
「ああ、カイルくん、心配しないでください。この町はどこかの誰かさんのお陰で、人間と夢魔の恋愛話がブームになっていますから」
どこかの誰かさん…
アルヴィスとカイルは即座にミナを見た。
「てへっ☆」
やっぱりこいつか…。
その時ドアをノックする音が。
「ギルドマスター、お客様が…」
受付嬢の声だ。
困惑したような、少し震える声で彼女は言った。
「エドワード殿下が調査だといらっしゃっています…」
エドワードの情報も、ミナの影響でギルド内に伝わっている。
ミナの影響…つまり、情報源は薄い本。
カイルを貶めて、アルヴィスと引き離そうとする悪役ポジションだ。
震える声で受付嬢は続ける。
「きっと、二人の恋路を邪魔する為に違いありません…」
カイルを貶めてアルヴィスと引き離そうとする…のはあながち間違いではないが、恋路を邪魔しようと…と言うのには、いささか語弊がある。
「ったく、しゃーねぇ王子サマだ」
レオは重そうに立ち上がるとカイルとアルヴィスに言った。
「てめぇらはここで待ってろ。行くぞ、タルタル」
すると、副ギルドマスターは軽く会釈すると、レオと一緒に漆黒の髪を揺らして出て行った。
「副ギルドマスターはタルタルと言うのか!?」
几帳面そうな外見に似合わず可愛らしい名前に、アルヴィスは衝撃を受けていた。
「レオたんとタルたん…実はできてたりして?」
二人が出て行った扉を見つめてミナは呟く。
その頃、騎士を連れたエドワードは世界に三つしかないと言う、魔力を可視化する神器を持参し、冒険者の魔力を見ていた。
魔力は色分けされていて、人間が赤、王族は白、魔族や魔族の血が少しでも入っていると黒く光る。
冒険者たちはもちろん赤だが、皆不安そうに神器に手をかざしていた。
そう、エドワードが訪れたのは、『どの程度闇の民がいるかの調査』だったのだ。
「あのギルドも空振りだった…。あの卑しい奴は、どこに兄上を隠しているんだ…」
エドワードは苛立たしげに指で椅子の肘置きを小突いた。
その時、レオがカウンターの奥から現れた。
「よぉ!待たせたな、王子サマ。ようこそいらっしゃいました」
強面の大柄な男の登場に、エドワードは片眉をピクリと上げる。
冒険者ギルドのマスターだ。
ゴツイ大男なのはどこの町でも同じだったが…
「ここのマスターは礼儀も知らんのか」
エドワードは跪けと言わんばかりに床を指差した。
どんな小さなギルドでも、エドワードの前では皆頭を垂れていたのだから、それが当たり前だった。
が、この町に当たり前は通用しない。
「ははっ、悪ぃな。辺境なもんで、魔物ばっか相手にしてるもんでね」
レオは跪くどころか、腰に手を当てて豪快に笑った。
「貴様っ!」
エドワードの後ろに控えていた騎士団員が剣の柄に手を添える。
と、エドワードはそれを静かに手を上げ制止した。
「見ての通り、混ざり物が混入していないか調べているところだ」
冒険者が不安そうに神器に手をかざしているのを見るように、そちらに手を広げ視線を誘導する。
「冒険者はまだいるだろう?全て収集しろ。混ざり物がいるかもしれん」
エドワードのその言葉と同時に、騎士たちがギルドの奥へと踏み込もうとする。
その瞬間…。
ガシッと、レオの大きな手が、騎士の腕を掴んだ。
「……おっと、王子サマよぉ」
レオは笑みを浮かべながら、騎士の腕を捻ってみせた。
騎士は痛がり、身動きが取れない。
「てめぇ、うちのギルドをナメてねぇか?俺の町で、俺の許可なしに好き勝手すんのはよぉ、どうにも気に入らねぇんだわ」
腕を捻った騎士を、他の騎士たちに投げつける。
騎士たちは仲間を受け止められず、一斉に尻もちをつく。
「……ギルドマスター。私の目的はこの国の安全と、アルヴィス第一王子の捜索だ。それを邪魔するというのか?」
「安全を守るのがギルドの役目だ。いくら王族と言えど、余所者に土足で踏み荒らされる筋合いはねぇ」
レオは堂々とした態度でエドワードを見下ろす。
「……貴様」
エドワードの眉が僅かに吊り上がる。
ピリついた空気の中、ガタンッと奥の物陰から音がした。
「…………」
全員の視線が一斉に音の方へ向く。
そして、そこには隠れて見ていたカイル、アルヴィス、ミナの姿が。
「やばっ!バレたっ!」
場違いなほど陽気なミナの声がギルドに響いた。




