第17章
第17章
執務室に通され、重い扉が閉まる。
開けっ放しだった窓を、ギルドマスター、レオは大きい音を立てて閉める。
わざとではない。
大雑把な性格を、幼い頃から一緒に暮らしているカイルとアルヴィスは知っている。
知らない人がその音を聞いたら、その強面な眼帯で大柄な男を恐ろしく感じるかもしれない。
「で、改めて聞くが…何があった?」
レオは、ソファにどっかりと座って腕を組んで三人を見つめる。
三人も向かいのソファに座りながら、各々声を発した。
「お湯で女になった」
「魔王領が源泉の神秘の湯に我が剣が触れしその時、その身は女神たる神々しさに…」
「女体化!女体化!貧乳なのが萌えポイント!原型を崩さない女体化ってキセキじゃない?だいたい巨乳にしたがるし、髪もなんでか伸びるよね?それがなかった!短い髪に貧乳なの!」
「一気にしゃべんじゃねぇ!」
レオの一喝に一同は静まる。
「はぁ…。アルヴィス、話せ。変な闇の言葉はなしでな」
「変ではない!闇のプリンスたる礼節を重んじた…」
「そう言うのだよ。要らねぇから」
ミナはやりとりに感心し、スケッチブックに書き記す。
「さっすがレオたん!ツッコミが剣士くんとソックリ!」
レオは額を押さえ、ため息をつく。
「ミナ、頼むからその『レオたん』呼びやめろってんだ」
「はーい♡」
絶対やめる気はなさそうだ。
そんな中、アルヴィスが真面目な顔で続きを語る。
「簡潔に言おう。カイルは、魔王領に源泉があるという温泉の湯に触れ、その湯に混ざっていた闇の魔力の影響を受けて女体化した」
「なるほどな」
顎を擦りながら、レオはゆっくりとカイルを見た。
「夢魔の血が共鳴したんだろ」
「……っ」
カイルの顔に緊張が走る。
「父様…やはりカイルが混血だと知っていたのだな」
アルヴィスの『やはり』と言う言葉に、カイルはパッとアルヴィスの顔を見る。
「古代遺跡の封印を再封印した後、カイルが熱を出した。その時、昔父様がカイルにしたように指を吸わせたんだ」
(そんなことがあったのか!?)
カイルは動揺する。
「カイルに指を吸われると、魔力が流れる感覚がした」
「それは魔力じゃねぇ。精力だ」
アルヴィスにレオは答える。
「つーか、てめぇらがガキの頃から一緒に住んでんだぞ?アルのことも、カイのこともちゃんと見てるっつーの」
ため息混じりにレオは『これでもてめぇらの親だぜ』と付け足した。
「それにな、俺は魔族なんか怖かねぇ。むしろ、心強いダチだ」
そう言い切るレオに、ミナはうんうんと誇らしげに頷いていた。
それを見てアルヴィスはミナに問う。
「ミナは父様…マスターが闇の民の友を持っていたことを知っていたのか?」
「もっち〜☆だって、レオたんはあたしの推し五代目だしー!」
「……は?」
カイルは何が何だか分からずにキョロキョロとミナとレオを交互に見ている。
「レオたんはカプとかじゃなくて、純粋にエモいね!魔族を『闇の民』じゃなくて、『魔族』って呼ぶのも好感度高い!」
ミナは無視して、レオは続ける。
「…と、話がズレちまったな。古代遺跡の封印を再封印したって?古代遺跡は魔族の能力を凝縮して作った兵器が封印してある場所だ。封印は、その兵器の元となる魔族の血が必要になる」
魔族とは、色々な種族が居ること。
夢魔は、その種族の中の一種族だと言うこと。
混血のカイルは、力のコントロールが苦手だと言うこと。
元々苦手なのに、古代遺跡の封印で力が強まってしまったこと。
「で、魔王領から引かれた温泉な。あれは別に珍しくもなんともない。人間にとっちゃ、肩こり腰痛、色々恩恵があるそうだ。わざわざ貴族の奴らが温泉巡りする程だ。闇の民とかバカにしといて、笑っちまうだろ?」
そう言うレオの目は全く笑っていなかった。
「カイが温泉で女になったのは、強まった力でより反応しやすくなったからだ」
考え込むようにレオは言う。
「夢魔は、性別が曖昧な種族だ。男になったり、女になったり。その時々に合わせて自ら変化する」
「レオたん、しつもーん!夢魔の能力って、女体化だけ?てか、なんで女体化すんの?」
「女体化女体化うるせぇんだよ。普段は女の姿の夢魔もいるんだよ。そこら辺は、自分の好みってヤツだ」
カイルが不安そうに言う。
「他の能力って…?」
「性別転換の他には、幻覚を見させたり、魅了で相手の心を惑わせたりだな」
なんでもない事のようにサラリと言うレオを見て、カイルは少し動悸がした。
自分は知らなかったが、父はそこまで知っている。
それで、本当に闇の民が怖くないのか?
ふと、孤児院で男に襲われたことが頭に過ぎる。
俺は…あの時魅了を使っていたのか…?
「カイ、考え過ぎんじゃねぇ。混血でも、訓練すればコントロールできるようになる。なんなら、俺のダチに会うか?」
-本物の闇の民-
カイルは混血も、自分以外知らない。
本物は得体がしれない。
恐怖で血の気が引いていく。
「だはははは!そう怖がんなって。カイは昔から泣きべそだな」
カイルの髪をぐしゃぐしゃ撫でながらレオは笑った。
「やめろよ!」
その微笑ましい光景に、アルヴィスがまさかの提案をする。
「ミナ、今この瞬間をその封印式に刻むのだ」
「あたしに描けだなんて、プリンス様が珍しい〜」
ミナはスケッチブックに親子の仲睦まじい姿を描いていく。
「悔しいが、父様には敵わん…。私にはまだまだ器が足りないな…」
「…………」
ミナはこっそり、そんな風に嬉しそうでもあり、寂しそうでもあり…複雑な表情をするアルヴィスもスケッチしたのだった。
☆ミナの推し観察日記☆
いやー、今日も供給過多でヤバたん♡
レオたんと剣士くんの親子シーン…破壊力ヤバい!尊い…。砂になりそう…。
プリンス様の嫉妬も尊い〜!
複雑だよね?
剣士くんが幸せだと幸せだけど、自分が幸せにしてあげたいよね?
いじらしいよ〜♡
夢魔とか混血とか…色々あるけど…
全部まとめてプリ剣サイコー♡
推しは正義!ありがとう、世界!!




