第15章
第15章
「この宿の湯は、魔王領に源泉がありますので、それで闇の民の魔力が混ざったのかもしれませんが…」
女将は静かに語る。
「それにしても、ミナ様のご本にありましたが、剣士様が本当に夢魔の混血とは…」
適当に浴衣を羽織った、女体化したカイルを上から下まで眺めて、女将はため息をついた。
「夢魔って女の子になっちゃうんですねぇ。女の子も可愛らしいわぁ…」
うっとりと見つめる女将の目は、まるでミナのようだ。
「と言うことは…やはり温泉に混ざった魔力が原因でカイルは女になったのか…」
アルヴィスはそう分析したが、不安は拭えない。
女になったカイルは筋肉量も減り、装備一式、剣さえも持ち上げるのが困難だったからだ。
「アルの強化魔法があれば大丈夫さ」
カイルは気楽に言うが、道中常にかけ続けるアルヴィスの負担が大きすぎる。
「それでしたら、軽い素材の女性用装備がありますよ」
女将は奥の間から、大きい木箱を持ってくる。
中には、シンプルながらも意匠を凝らした銀色の胸当てや膝当て、更には動きやすくそれでいて女性らしいミニスカートまであった。
「な、なんと我が剣に相応しき防具!」
「うわー…ギンギラギンだな…。スカートは勘弁してほしい」
カイルの要望は興奮したアルヴィスに無視され、装備させられる。
「股がスースーする…」
不満を漏らすカイルに、
「それは私の娘の形見にございます。冒険者になると意気込んでおりましたが…病に倒れて夢半ばで亡くなりました。剣士様が身に付けてくだされば、あの子も浮かばれます」
女将のそんな話を聞いてしまったら、不満を飲み込むしか無かった。
「剣士くん可愛いけど…男女カプって普通で萌えない…」
珍しくミナはしょんぼりしている。
しかし、そこはミナ。
推しは何がなんでも推すのだ。
「剣士くんがスカート…。これって、もしや女装かな?剣士くんは本来男の子だから、男の娘かな?女の子剣士くんは実質男の娘剣士くん?それって…エモくない?」
ミナは即座にスケッチブックを取り出す。
「剣士くんの太ももサイコー♡絶対領域!萌え〜♡」
ミナが女カイルを拒否しなかったことに、アルヴィスは頷いた。
「そうだ、我が剣の太ももは極上…って、なにを言わせるのだっ!」
「自分で言ってんだろ」
自分の性別なんてどうでもよくなるくらい、仲間の反応が馬鹿げていて反対に笑えた。
呆れつつ、ふにゃっと笑うカイルを見て、ミナは呟く。
「かっわ…。プリンス様も鼻血ブーだわぁ…」
三人は宿をあとにし、やっと帰路に着く。
町の門が見えてきたころ、カイルは心底嫌そうにため息をついた。
ギンギラギンの胸当てにミニスカート姿。
性別まで変わってしまった自分の姿を、これ以上人目に晒したくない。
だが隣のアルヴィスはご満悦だった。
「なんて美しいんだ…。まるで堕天使が連れ去る女神のよう…」
「意味不明だし」
そんなやり取りのまま、町の門番に近づくと、
「止まれ。身分を…」
門番の男は、カイルを見て目を丸くした。
「……なんだ、この既視感…?」
冒険者ギルドの身分証と照らし合わせながら、カイルを見る。
「……ん?……あれ?」
確かに、カイルと顔はソックリだ。
「ワケあって女装してるの〜。萌えるでしょ?」
ミナがおちゃらけて言うが、門番は顔を赤くし目を背ける。
「なんだ、カイルかよ!本当に女の子かと思ったじゃんか、バカヤロウ!」
「お前ぇぇぇ!我が剣をそのような目で…!即刻闇夜に爆ぜる我が眷属の贄にしてくれようぞ!」
アルヴィスの手に光の玉がバチバチと音を立てて現れる。
「きゃー!嫉妬するプリンス様尊いっ!」
「おい、やめろよ!俺だって分かってくれたからいいだろ!」
カイルはアルヴィスとミナをなだめるのに苦労したと言う。
☆ミナの推し観察日記☆
剣士くんは男の娘!
ついに女装に目覚めたか…♡
色々かわいいの着てほしい!
メイド服とかメイド服とかメイド服とか…
もちろんミニスカでプリンス様にご奉仕するのだ。
ぐへへへ…
ミニスカメイド服でご奉仕なんて…
プリンス様の理性ぶっ壊れちゃうなぁ〜♡




