第14章
第14章
朝目を覚ましたカイルは、見知らぬ古風な天井を見上げていた。
………王都からの記憶がない…。
あるのは、ただ暑くてたまらなかった感覚と、心地よい水が体の中を流れる感じ。
アルヴィスの優しい光魔法に触れた時のような…。
すると、部屋にミナとアルヴィスが入ってくる。
「カイル、気分はどうだ?」
「……あっ……。大丈夫だ。迷惑かけたみたいで…ごめん」
「何を言う?貴様の迷惑なんぞ、蚊ほども痒くない。むしろご褒美…ゲフンゲフン」
「?」
咳で誤魔化すアルヴィスに、カイルはキョトンとしている。
「あれー?夜になにかあったのぉ?」
真っ赤になっているアルヴィスをミナが茶化す。
そんな二人を見て、カイルはミナが浴衣を着ていることに気付いた。
「えへへー、可愛いでしょ?朝風呂行ってきたんだぁ!二人も行ってきなよ!今の時間なら誰もいないから、湯けむりイチャイチャしかも濃密♡できちゃうよ♡」
「ま、またなにを言うのだっ!変態娘!」
「うひひ♡」
アルヴィスの怒り…いや、照れ?に全く怯まないミナ。
その時、障子の向こうから声がした。
「おはようございます」
女将は静かな所作で障子を開くと、大きい桶に湯を入れて入ってきた。
「なんだ?それは」
「はい、温泉の湯にございます。昨晩は汗をたくさんかきましたからね、拭くだけでもと…」
どうやら、病み上がりで温泉に浸かれないカイルを気遣ってくれているようだが…
「昨晩は汗たくさんかいたのー?もしかして、二人であんな事やこんな事してぇ?」
「していないだろう!お前もいただろう!」
ミナの言葉に、何もしていないのにアルヴィスは動揺しまくる。
「あんな事やこんな事?俺、もしかしてめちゃくちゃ迷惑かけた…?」
当の本人は意味がわかっていない。
「それでは、ごゆっくりどうぞ」
そう言って、女将は意味深にカイルとアルヴィスに目配せすると、静かに障子を閉めていく。
「…………」
残されたのは、妙な空気と、まだ赤い顔をしたアルヴィス、にやにやが止まらないミナ。
「じゃ、あたしは朝ごはん食べに行こーっと♡二人とも、しっかり汗拭いて、濃密♡な時間楽しんでね〜♡」
ひらひらと手を振って、ミナもさっさと出ていく。
「……濃密って、なんだ?」
首をかしげるカイルの前で、アルヴィスはしばらく天井を見つめた後、覚悟を決めたように桶を手に取った。
「我が漆黒の宿る腕によりをかけて磨いてやろう」
アルヴィスは腕をまくり、タオルを湯に浸す。
「え、いや、自分でできる…」
「病み上がりで何を言う!脱げっ!」
「うわっ、ちょっ…!」
カイルは服をひん剥かれながら、降参したようにため息をついた。
タオルを絞るアルヴィスの手が止まる。
「この湯は…」
微かに闇の民の魔力を感じる。
この宿は魔王領から近いため、湯に溶け込んでいるのかもしれない。
「………」
「アル、どうした?」
不思議そうに尋ねるカイル。
「いや、なんでもない」
ミナが先に風呂に入っていたハズだ。
人間には問題ないようだが、夢魔の血を引くカイルにはどのように作用するか計り知れない。
アルヴィスは慎重にカイルの背中を拭き始める。
「……んっ」
温かい感触に、カイルは目を細めた。
「なんだ、その声は!反則だぞ!」
色っぽい声に反応し、自制するようにアルヴィスは思いっきり力を入れてゴシゴシ拭いた。
「いだだだだだっ」
カイルが振り向き背中をさする。
「なんだよ…もう少し優しくしろよ」
体があたたまってきたのか、カイルの頬は桜色に染まっている。
そして艶のある肌は健康的にほどよく日焼けし、肩や腰は丸みを帯びて…
「……えっ??」
アルヴィスは固まる。
「どうした?おーい?」
カイルはアルヴィスの前で手を振ってみると、顔を逸らされた。
そしてタオルを押し付けられる。
「ま、前は我の出る幕はない。己の力で拭うがよい」
「なんだよ、メンドーになっただけだろ」
カイルはタオルを受け取る。
「ち、違っ!そうではなく…!」
アルヴィスが言いかけると同時に、カイルも声を上げる。
「あれ…!?」
胸が小さいが膨らんでいる。
布団の中で下も確認すると…あるハズのものがない。
「アル!変な魔法つかっただろ!?」
「そんな魔法あるか!?そうだ、ミナだ!ミナなら女体化魔法とか使えそうじゃないか!?」
「ありえるかも!」
体を拭くのを中断して、慌てて服を着る。
「シャラーップ!」
盗み聞きしていたのか、ミナは唐突に部屋に入ってきた。
「女体化魔法なんて使えるハズないじゃん!バーカバーカ!それより剣士くん、体ちゃんと見せて♡」
「ひぃぃっ!寄るなぁ!」
二人の間にアルヴィスが割って入る。
「剣士くんを守るプリンス様…痺れるぅ♡女の子剣士くんでも、ちゃんと守りたいんだね?性別関係なく愛してるんだね?萌え〜♡」
「はぁ…。もう惑わされないぞ、叡智を知る者よ」
アルヴィスはミナを見下すように、わざと威圧感を醸し出す。
「貴様は幾度となく、我らの知識及ばぬ物事をその魔眼で見抜いてきた…。この状況も承知の上ではないのか?」
すると、ミナもアルヴィスに合わせてかわざとらしく片手で自分の顔を覆い、指の隙間から二人を見つめる。
「よく分かったな、若造よ!あたしは神の使者…」
そしてミナは、大きな斧を掲げ宣言する。
「『推し狂いの戦士』、狂戦士ミナちゃんである!!」
「なに!?狂戦士とは、そう言う意味だったのか!」
驚くアルヴィスに、カイルはポツリと呟いた。
「なに、この茶番…」
☆ミナの推し観察日記☆
ふっふっふ…。このミナちゃんの無色オーラを見抜くとは…!
さすがプリンス様〜
その魔眼は伊達じゃないね☆
それより、剣士くん!
二人の間に女子の介入は許さない…けど…
本人が女子ならどーなるのー!?
あたし、どーしよー!?
ツッコミがいつもの剣士くんで萌え…




