番外編『変わらぬ空と、変わらぬ少女』
番外編『変わらぬ空と、変わらぬ少女』
「アルとカイはまだ戻んねぇのか?」
ここは辺境の町にある冒険者ギルド。
小さい町だが、商業ギルドや職人ギルドも軒を連ねていて、物流はさかんな町だ。
と言うのも、国境はダンジョンや魔物が多い。
それらを求めて冒険者が集まって来るのだ。
故に、物流の需要も高い。
「飛龍倒したなら、早く帰ってこいってんだ。全く」
その冒険者ギルドのマスターは、机にガンっと無作法にブーツのまま足を置く。
「レオ、書類が汚れます」
「了承印だ。気にすんな」
副ギルドマスターは呆れながら首を振る。
「そう言えば、あの二人にくっ付いてミナも行きましたね」
「ああ、そうだったな。あのロリババァがいれば大丈夫か」
「ろり…?」
ギルドマスター、レオの言葉に、副ギルドマスターは疑問符を並べた。
「小さい少女のように見えて、知識が意外と豊富だからですか?」
「ちげぇよ。あいつ、昔から変わんねぇんだよ」
窓から入る爽やかな風が、二人の頬を撫でた。
その風に促されるように、ギルドマスターは左眼の眼帯を触る。
「あれは…まだ俺が新人の冒険者だった頃だな……」
-国境付近で任務をしていたギルドマスター、いや、新人冒険者のレオは、酷い怪我をして動けなくなっていた。
「へっ、ここまでか。ざまぁねぇや」
心臓狙いだったのか、左側を執拗に攻められ、なんとか魔物を倒したが左眼を失った。
遠く薄れる意識の中、聞き慣れない声を聞きながら、どこかに運ばれて行く感覚を覚え、身を任せていた。
目が覚めるとそこは古い木造の小屋で、外はすっかり暗くなっており、窓から半月が見えた。
「まだ痛みますか?」
現れたのは全身ウロコに覆われた魔族、リザードマンだ。
「っっ!!??」
レオは混血以外の、本物の闇の民を見るのは初めてだった。
急いで逃げ出そうとするが、体全身に激痛が走り逃げ出せない。
「勝手にすみません。ここは国境近くの猟師小屋です」
リザードマンは闇の民らしかぬ程丁寧だった。
爬虫類系のため、表情はよく分からないが、その代わり言葉で素直に教えてくれる。
「ニンゲンは皮膚が弱いんですから、ちゃんと装備をしないといけません。僕はそれで怒っているんです」
そして、なんと言っても世話好きだった。
「ニンゲンって何が食べれます?芋虫は好きですか?」
レオが少しでも嫌そうな顔をすると、
「嫌いなら大丈夫ですよ。他にも食材はありますから」
と、テキパキと、気持ちのいいほどよく動いた。
猟師小屋には、リザードマン以外の魔族もやって来ては、レオの世話を焼いた。
「ほら!肉!肉食って早く元気になれ!」
動物の耳と尻尾が生えた獣人族に、
「こりゃひでーなぁ。左眼もうダメだろ。ほら、これやるよ」
コウモリのような羽根が生え、いつも青い顔の悪魔族。
見た目はバラバラで、性格も何もかも違ったが、みんなレオを人間だと言って卑下はしなかった。
傷が治って、リハビリにまで付き合ってくれて、帰りには土産を手一杯に持たせてくれた。
「短い間でしたが、寂しいです。ニンゲン社会のことを知れて良かった」
「お前らは、人間側に差別されてるが…、俺はお前らも人間と変わんねぇって思ったぜ」
レオはその足で、国境を越える。
魔王領から人間領へと。
その時だった。
「めっちゃいいもん見たー!萌えー!!」
赤い髪の小さい少女、ミナが目をキラキラさせて、レオを見ていたのだ。
「魔族との友情!尊っ!」-
「え?レオが新人冒険者って…何年前ですか…?」
副ギルドマスターは眉間に皺を寄せる。
魔族との話が飛ぶくらい、ミナの唐突な出現に唖然とした。
「んー、そうだなぁ…。ざっと、30年くらいか?」
ケタケタ笑うレオは、窓から見える国境近くの森に目をやりながら呟いた。
「あいつら、どうしてっかな」
きっと彼らも、変わらぬこの空を見上げているに違いない。




