第12章
第12章
部屋の灯りは落とされ、障子越しに月明かりがうっすらと差していた。
カイルは布団の上で寝返りを打ち、小さくうめいた。
「ん……あつ……」
額には氷袋が乗っている。
その隣で、アルヴィスはカイルの寝顔を見つめ、静かに息を吐いた。
(体温は高いまま…。魔力の流れもまだ不安定だ…)
布団の端を軽く直してやると、カイルはまたわずかに身を捩る。
寝間着の襟元が少しだけはだけ、胸元がちらりと露わになる。
汗を浮かべた肌は、どこか艶めかしく…
「てか、いつの間に寝巻きにしたの?プリンス様が着替えさせたの?」
「も、もちろん私だ…」
「へぇー?ふーん?ほーん?はぁーん??」
「言いたいことがあるなら言えっ!」
アルヴィスは顔を真っ赤にしながら、カイルの汗を拭ってやる。
「プリンス様、少し寝たら?あたし見とくから」
「お前に任せたら、何をするか分からないだろう」
そんなアルヴィスの顔には疲れが滲んでいる。
「大丈夫だよー。あたしはプリンス様と剣士くんの未来が大切だから、むしろ心強いよ?」
そう言い切るミナに、アルヴィスは告げる。
「では、三十分後に起こしてくれ。交代制だ」
「あいよー」
「三十分だ。必ず起こせ」
「はいはい。おやすみ、プリンス様♡」
ミナは気軽に手を振り、アルヴィスは部屋の隅へ移動して横になる。
しばしの静寂が落ちた部屋。
ミナは灯りを小さくし、カイルの隣にちょこんと座って様子を見ていた。
「……かわいいなぁ。なんでこんな無防備に寝るの?プリンス様に食べて貰いたいのかなぁ?むふふ…」
ミナが妄想を始めると、女将の影が現れて障子の向こうから声がかけられる。
「失礼いたします。様子を見に……」
「大丈夫だよー。ありがとー」
すると、食い下がるように女将は言う。
「新しい氷をお持ちしました」
「それは助かるぅ」
女将はすっと障子を開け、無駄のない美しい所作で入ってきた。
熱にうなされるカイルをじっと見つめる。
「……そんなに剣士くんが気になる?」
ミナは探るように声をかける。
「ええ、気になりますよ。お客様がこんなに苦しそうにして…。それに、こちらの剣士様…、可愛らしくてつい、母性本能をくすぐられるといいますか…」
頬を紅潮させ、カイルへと伸ばされた女将の手が、何かに遮られた。
ミナはその何かを女将に掴ませる。
「……え?」
女将が掴んだのは、一冊の本。
「剣士くんのことが気になるなら、その薄い本を進呈しましょう」
女将が本を捲ると、
「あら、やだ…。うそぉ…」
などと、顔を赤らめながらも興味津々に夢中になっている。
挙句の果てには、
「尊い…」
と涙ぐむ場面も。
「『プリ剣』の薄い本、全年齢から18禁まで、汝このカプを推せるのならば、進呈します」
ミナはどこから出したのか、『プリ剣』…、プリンス様×剣士くん…すなわち、アルヴィスとカイルをカップルに見立てた同人誌をずらりと床に並べる。
「なんと言うことでしょう!」
女将は口元を手で隠しながら、感嘆の声を漏らす。
「推せます!…いえ、推しますとも!」
女将はミナから薄い本を進呈され、ホクホクと立ち去って行った。
「ふふふ…。プリンス様と剣士くんの間に入る女はいないのだ!勝った!」
ミナは小さくガッツポーズをした。




