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第10章

第10章

さんざん泣き腫らしたあとの顔を袖で雑に拭いて、カイルはくるりと背を向けた。

目元の赤みをごまかすように、いつもの無表情を作る。


「……俺は空気。お前らは、何も見てない。聞いてない」


口調は冷めているのに、どこかぎこちない。


「ほーん?ほーん?」


ミナが眉をひょいっと上げ、にやにやしながらカイルの前に回り込む。


カイルは無表情のまま、すっ……と視線を横へ逸らす。

それをミナが追うと、また逸らす。


「やだー。かーわーいーいー♡」


「かわいくない」


カイルは冷たくポツリと言う。


「照れ剣士くんめちゃ可愛いし!正義!これは正義だぁ!」


「………………」


そっぽを向いたまま、カイルの耳がほんのり赤くなった。


「よし、我が剣が可愛いと証明されたこの記念に…!」


「何もしなくていいから!」


顔を真っ赤にして即座にカイルは反応する。

そして、アルヴィスのマントを見てギョッとした。

カイルの涙と鼻水でテカテカ光っているのだ。


「これは聖なる浄化の跡だ…。名誉の勲章だ…」


「普通に汚ぇし!」


ここで洗うこともできないし、替えもないためそのまま奥の部屋へ向かう。



奥の部屋に足を踏み入れると、より一層霧が濃くなった。

しかし、克服済みの三人からは霧が自ら避けて行く。


「まるで意志でもあるようだな」


アルヴィスは慎重に当たりを見回した。

部屋は狭く、古い木箱が置かれており、かつてあったであろう装飾や魔法陣は朽ち果て、そこから紫がかった霧が漏れ出している。


「えー…これで封印とか言ってんの?ヤバイじゃん」


ミナは物珍しそうに木箱を眺める。

そして、木箱に触れようとすると指が弾かれた。


「いったぁ!!なんかビリッと来たよ!?」


すると、ミナは何か思い付いたように言う。


「これ、封印しようとして触ると服がビリリーッって破れちゃうスケベトラップ…」


「じゃねぇだろ。今、お前触っただろ」


確かに、ミナが箱に触れても服は破けていない。


「再封印が必要だな」


アルヴィスは手帳を取り出し、魔法陣の解析を始める。

分厚い手帳を見てカイルは関心した。


「褒め讃えてもいいんだぞ?いや、寧ろ褒め讃えよ。我が剣よ!我の叡智を魂に刻め!」


「うん。すげぇすげぇ」


褒め方が軽いが、アルヴィスは満足そうだ。


「…………なに…?」


手帳と魔法陣を交互に見ていたアルヴィスが止まる。


「刻印に選ばれし者、両角への共鳴、力は次代へ受け継ぎし…」


カイルへと向き直り、言いにくそうにアルヴィスは言葉を絞り出す。


「闇の眷属たる幻を操り精力を糧とする悪魔の血にしか封印はままならない…。しかしそれは…覚醒のリスクが…。いや、怖いならいい。外壁の修繕を続ければ、霧が漏れることはない」


カイルの目を見つめるアルヴィスには、戸惑いの色が浮かんでいる。


「ん?俺になんかして欲しいって事?翻訳してくれる?」


押し黙って俯き、時折頭を振る仕草をするアルヴィスに痺れを効かせたのか、ミナが翻訳する。


「この封印は夢魔の能力をぎゅーってした兵器を封印してるから、同じ夢魔にしか封印できないんだってー。それで、夢魔の血が流れてる剣士くんにぃって。だけど、その時に能力が覚醒しちゃうかも?だから危ない?みたいな?」


「なんだよ…回りくどい言い方しやがって。とりあえず、手をかざしてみればいいか?」


カイルが手をかざすのを、アルヴィスは止めようとする。


「カイル…能力が覚醒したら、今より夢魔に近くなるかもしれないんだぞ」


意外にもカイルはにっと笑った。


「大丈夫だよ。俺は寧ろ、光なんだろ?」


木箱に手をかざすと、中から光が溢れ、辺りを飲み込んだ。


光が止むと、そこにはもう霧はない。


「これ…できたのかな?」


その時、カイルの額が薄紅色に淡く光った気がした。

おもむろに、アルヴィスはカイルの前髪に手を伸ばし、髪を掻き分ける。

カイルの小さい角が美しく、ほんのりと暖かな光を認めていた。


「わっ、いきなりなにすんだよ!」


角が顕になるのを嫌がって、カイルはアルヴィスの手を跳ね除ける。


「あ……すまん」


その光は夢魔の赤子が放つ光。

文献でしか知らないが、カイルはもしかしたら、夢魔の力が少し目覚めたのかもしれないのだった。


☆ミナの推し観察日記☆

霧はまさしくスケベトラップだったぁ…

むふふ…♡

って、あたしだけぇ!?

それは置いといて…

プリンス様の抱擁で泣いちゃう剣士くんマジ萌え♡

プリンス様のマント、記念に欲しいよぉ♡

あ!ダメダメ!あれはプリンス様の宝物になるんだからー!

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