ざまぁの神は可愛い末っ子 その2 ~聖女のお仕事は大変なんでしゅよ~
シリーズの2目となります。
このおはなしだけでも分かるようにしてありますが、前作も読んでくれると嬉しいです。
どうぞよろしくお願いします。
僕は天界に500年ぶりに生まれた末っ子の神で『ざまぁの神』っていうんだ。
最近は、お兄ちゃんとお姉ちゃんの神様達からザマちゃんって呼ばれてるの。
まだ生まれたばっかりだから人間の3歳児くらいの見た目だし、言葉も上手に喋れないけど、いつか信仰心をいっぱい集めて大人のかっこいい神様になるのが目標だよ。
この前ね初めてお仕事したら、上手に「ざまぁ」できたねってみんなが褒めてくれたの。お父さまの創造神様もたかいたかいしてくれてとーっても楽しかったんだ。
次のお仕事もがんばって、今度はたかいたかいぶんぶんバージョンをしてもらうぞ。
決意を胸にぷくぷくの両手をにぎって‘やるぞー’のポーズをきめてたら、お姉ちゃんののんびりした声が聞こえた。
「あらあら、お手てをぎゅってしてどうしたのぉ?」
「‘やるじょー’のポーズでしゅ。」
「ふふふ、ザマちゃんはほんとに可愛いわぁ。」
僕を見て優しく微笑む、ちょっとタレ目のこのお姉ちゃんは『豊穣の神』お姉ちゃん。
エメラルドグリーンのお髪が太陽にキラキラしてすごくきれい。
下界のくだものを食べてみたいって僕のお願いを聞いて、すぐにお庭に畑を作りに来てくれたとっても優しいお姉ちゃんなんだよ。
さて、くだものをいっぱい収穫したからお庭にあるガゼボでお姉ちゃんと一緒にちょっと休憩。
味見もしなくちゃね。
「あまあまー。おいちいがいっぱいでしゅ。」
苺も桃も葡萄もすっっごく甘くて美味しいから、僕は夢中でお口に入れてもきゅもきゅしていたらお姉ちゃんが「あらあら」って笑いながら僕のお口のまわりを拭いてくれたよ。
お口のまわりがベトベトだったみたい。えへへ、ちょっと失敗しちゃった。
くだものを食べながらいろんなお話をしていたらね、お姉ちゃんからお願いをされたの。
「ザマちゃんにねお願いがあるの。下界の聖女の様子を時々見て欲しいのよぉ。」
「せーじょ、れしゅか?」
「そうなの。聖女は政治に利用されたり、力を強要されて酷使されてたりすることがあるのだけど、私たちでは下界に過度な干渉はできないから助けてあげられないことも多いのよぉ。だけど『ざまぁの神』のザマちゃんだったら助けられるものぉ。」
下界の国や地域と神々による古の契約に従って、人間に特殊な力を授けることがある、それが聖人や聖女と呼ばれる人達。
お姉ちゃんは『豊穣の神』だから担当するのは豊穣の聖女だけど、他にも色んな神が力を授けた聖人や聖女がいるんだよね。
聖女達は神が与えた力を使って、たくさんの人達のためにお仕事しているのに酷いことされてたらダメダメだよ。それに大好きなお姉ちゃんからのお願いだからね僕がんばるよ。
「わかりましゅた。せーじょさんたちをみまもるでしゅ。」
胸の前でお手てを握りしめて‘やるぞー’のポーズでそう答えると、お姉ちゃんはよろしくねって僕に微笑んでくれた。
〈下界:ティランジア王国〉
「おい、聖女は今日も来ないのか?もう3日も姿を見せないではないか。」
「聖女なんて何の役にも立たないのですから、私たちへの癒しの務めくらいはきちんとして欲しいわ。」
ここティランジア王国は埋蔵量豊富な鉱山囲まれた豊かな国である。
現在、その王城内でも贅の限りを尽くした金ピカな王の私室では、家臣を前に国王と王妃が聖女に対する怒りを露わにしていた。
この国の聖女は豊穣の聖女と呼ばれ、日々の祈りにより国内の畑に実りをもたらし、王室はその感謝のしるしとして王族と婚姻を結ばせて代々聖女を大切にしてきた。
しかし、畑の豊作は当たり前のことと認識されるにつれ、時代を重ねるごとに聖女の扱いは粗略なものに変わってきた。
特に現国王は自分たちが贅沢することしか頭にない無能者であり、聖女はお飾りであると言って憚らないことから家臣や国民もそれに倣い聖女への敬意は今では皆無となっている。
それでいて王族達は、聖女の施す癒しの魔法が体の健康だけでなく肌の張りや髪のうるおいなど外見への効果もあることから毎日魔法を強要していた。
聖女を保護すべき教会も現聖女ナスタがスラム出身だからと蔑み、養ってやっているんだと豪語して沢山の仕事を押し付け冷遇している。
そんな環境にありながらも清い心を持つナスタは、人々の幸せのために惜しまぬ努力を続けていた。しかし、日々の激務による短い睡眠時間と、嫌がらせによる少ない食事のために体調を崩して倒れてしまう。
ナスタが痩せ衰えた体で粗末な硬いベットに横たわっていると、ノックもなく乱暴に部屋のドアが開けられて王家の使者の男2人入ってきて大きな声で告げる。
「国王様がお呼びだ。すぐに登城しろ。」
ナスタは鉛のように重いからだをなんとか起こして、か細い声で体調が悪くて行けないと説明するが使者は聞く耳を持たない。ついには無理矢理にナスタをベットから引き摺りおろした。
「仮病なんて無駄だ。聖女が病気になる訳ないだろう!」
「何もしない役立たずが手間をかけさせるな!」
王家の使者は口々に罵声を投げつけながらナスタを引きずって迎えの馬車に投げ込む。乱暴に扱われた身体の痛みを治す魔法を使う体力さえもないナスタは馬車の中で意識を失った。
「過労と栄養失調だと⁈この豊かな国でそんな者がいるはずないだろう!とことん役に立たない女だ。」
馬車の中で意識を失い目を覚さないナスタを診察した医官の報告を受けた国王は、ドカドカと足を踏み鳴らしながら怒鳴りちらしている。
「やっぱりスラム出身の聖女なんて使い物にならないんですよ。聖女には代替わりしてもらいましょう。」
「そうですわね。癒しの魔法がなくなるのは残念だけれど、しばらくは治癒士の回復魔法で我慢しますわ。今の聖女が亡くなればすぐに次の聖女があらわれますものね。」
第一王子と王妃が現聖女は不要だと口々に言う。
この国では、聖女が亡くなると同時に光魔法を持つ10歳から13歳の女の子の中から神託により聖女が指名される。つまり、ナスタが死んでしまっても一向にかまわないと思っているのだ。
「ちょうどよかった。恋人から早く聖女との婚約を破棄をしろってせっつかれてたんだよね。手間が省けてラッキー。」
軽薄さを滲ませながら言うのは、聖女の婚約者である第二王子のトラストムだ。婚約者とは言ってもこれまでの慣習により仕方なく結ばれたもので、王族の誰も婚約者として扱ったことはないし、適当な時期に死んでもらえばいいと皆が思っていた。
この国の王族は全員が救いようの無いほどに腐っているのだ。
「皆の気持ちは同じようだな。せっかくだから、役立たずの聖女にも最期に役に立つ機会を与えてやろうではないか。」
国王は何か良い考えが浮かんだのか、目を細めて悪い顔でニヤリと笑いながらそう言った。
一方、ナスタは王城の医務室で医官の治療を受けて寝かされていた。死なない程度に治療せよと国王から命令がくだっていたからだ。
深夜の誰も居ない医務室で、ナスタは突然に身体がふわっと軽くなった感覚がして目を覚ました。
静かに目を開けると、ベットの上にフワフワ浮かぶ小さな男の子が自分を見つめているではないか。驚いてハッと息を吸い込んだが、その子から神気を感じ目を見開き見つめると、男の子は少しだけ首を傾げてニコニコ顔でこう言った。
「『ざまぁ』しゅる?」
「は?」
取り繕う間も無く、思わず口からこぼれた言葉はこれだ。
突然目の前にあらわれた幼児にこう問われて、この一文字以外の言葉を言える人間がいたら連れて来てもらいたい!
しかし、ナスタも聖女として神に近しい者だ。すぐに落ち着きを取り戻して男の子と言葉を交わすと、この子が『ざまぁの神』であること、『豊穣の神』の願いにより自分を助けに来てくれたことが分かった。
神が自分のことを心配してくれる事には深く感謝を捧げるが、ナスタは他人を蹴落とすような事は望まないし、誰もが生まれた時には善い人であるとの性善説を信じている根っからの聖女だ。他人を傷つける『ざまぁ』は望んでいないのだと、その心の内を正直に説明した。
「わかりましゅた。せーじょのおねえしゃんのいしをそんちょーした『ざまぁ』をかんがえてきましゅ。」
ナスタにそう告げると『ざまぁの神』は天界に帰って行った。
天界に戻った『ざまぁの神』ことザマちゃんは『夢境の神』の神殿を訪ねていた。『夢境の神』とは夢の世界を司っている、見た目16歳くらいの少年姿のちょっとイタズラ好きな神様だ。
「にいに、おてちゅだいおねがいしましゅでしゅ。」
「おう、末っ子じゃねーか。よく来たな。」
ザマちゃんは『夢境の神』に今回したいざまぁを身振り手振りを交えて一生懸命に説明する。それを聞いた『夢境の神』は片眉を上げた悪巧み顔で、こんなのもどうだとノリノリで提案を重ねて行き、2人が納得するざまぁ(案)が完成したようだ。
最後の方はザマちゃんも片眉を上げた悪巧み顔をマネしていたが、単にかわいいだけである。
再度下界におり、兄弟で考えた『ざまぁ』を得意げにプレゼンして聖女ナスタから了承を得た。
ナスタはベットの上ではあるが、両手を胸にあて頭を下げて『ざまぁの神』に祈りをささげる。
「私、聖女ナスタは『ざまぁ』を心より望みます。」
「しょのいのりをききいれ『ざまぁ』をしっこうしましゅ。」
祈りを受けた『ざまぁの神』ザマちゃんの身体はほんのりと発光し、ドヤ顔で執行を宣言した。
今回の聖女の希望は、誰も傷付けずに、皆が日々の生活に感謝する心を思い出してくれるような『ざまぁ』をして欲しいとの難題。とは言っても、元から感謝の心を持った事の無い人間に思い出せとは無理な話だ。
なので、ザマちゃんと『夢境の神』お兄ちゃんが考えたのは、そんな者達にも強制的に感謝させる作戦だ。
方法は簡単。夢の中で聖女の一日を体験して貰うのだ。
聖女の一日は、朝日がのぼる前の暗い時間から始まる。まずは神に祈りを捧げる準備として冷たい水で禊を行い、祈りの間にて石畳に膝をつき3時間祈る。足は痛み感覚もなくなるが、豊穣の神に祈りを届けるために手抜きは許されない。
祈りが終わると朝食。スラム出身の役立たず聖女と蔑まれているため、硬いパン一つと具がほとんど入っていない冷めたスープのみ。時々、傷んだものも出される。
朝食を食べたらすぐに洗濯。教会で働く全員分だ、ひとりで行う量ではない。洗濯物を干したら、教会の宿舎の清掃。少しでも汚れが残っていたら棒で叩かれる。教会の人間は、傷を自己治癒できる聖女はどんなに傷つけてもいいと思っているので、ストレス発散に理由なく殴られたり蹴られたりするのも日常だ。
夕方、洗濯物を畳み終えると急いで禊をして2時間祈りを捧げる。
祈りが終わったら迎えの馬車に乗り王城へ。国王から順番に王族12人へ癒しの魔法をかけて周る。ここでも、機嫌の悪い者から暴力を振るわれる。特に婚約者である第二王子のトラストムからは毎回立てなくなるほどの暴力と罵詈雑言を浴びせられる。すべて終わると教会に戻るが、帰りの馬車は出して貰えないのでフラフラな身体を引き摺りながら歩いて帰る。
教会に着くと朝と同じパンとスープの夕飯。そして、最後は教会で配るお札の作成。日によって量は違い、徹夜となることもしばしば。終わらせないと、死んでしまうのではないかという程の折檻を受けることになるため必死で作業する。これが終わるとやっと就寝できるが、毎日の睡眠時間は3時間程だ。
この過酷すぎる聖女の日常を、王族を始めとする高位貴族と教会関係者に夢の中で体験してもらった。夢の中で聖女となって祈り、働き、暴力を受けるのだ。
『夢境の神』の夢は、泣こうが喚こうが途中で目覚めることは出来ない。聖女の過ごす一日を己の身をもって終わらせるしかなかった。
この夢から目覚めた者達は、夢の生々しさとその内容に激しく取り乱した。特に聖女に暴力を振るっていた者は、愉悦に顔を歪めて嬉々として暴力をふるう自分の醜い姿に酷いショックを受ける。自分自身に絶望することは己の存在を否定することと同義だ。
王族を始めとする国政に関わる者達がパニックに陥っている中、『豊穣の神』から神託もたらされた。
『聖女を不当に扱い聖女が寿命以外で儚くなった場合には、この国の加護を取り消す』
実は『夢境の神』による夢の最後には、豊穣の加護を失ったこの国の未来の姿が映されていた。植物は枯れ果てて、飢えに苦しむ人々の姿だ。元々、この地域は神の加護がなければ植物の育たない痩せた土地であり、古の先祖達が神に願って聖女を授かることにより発展できた国であることも夢の中で説明されていた。
加護のなくなる夢は、国民にも見せられ、これが神からの警告であることはこの国の住人すべてが否が応でも理解することとなる。
のちに「神からの警告」と呼ばれるこの大事件で、王家と教会の権威は失墜した。
その後、クーデターにより現王政は崩壊して共和国となったが、反発する者のいない無血クーデターであった。
後の調査により、事件の少し前に国王がおこなった大増税に対する国民の不満をそらす為に、増税の原因は聖女の浪費によるものだと偽の罪を聖女に被せて処刑しようとしていたことも判明したとか。
聖女ナスタは王族や教会関係者たちに厳罰を求めなかった。
自分のために血が流されることを嫌う聖女の温情により彼らは労働刑に処される。刑を受けた多くの者は、不満を口にすることなく日々懸命に労働に従事した。彼らは「聖女の日常に比べればこの程度の苦労はたいしたことない。」と口々に言っていたとか……。
例外として、元国王と元婚約者である第二王子のトラストムは反省が伺えないため『夢境の神』により何度も夢を見せられて精神を病んで幽閉された。
新しく生まれ変わったティランジア共和国は、聖女を大切にして感謝の心を忘れない人々の住む良い国になっていくだろう。
所変わって天界では、今日も神々が集まってザマちゃんを囲んで談笑していた。
「私の聖女を助けてくれてありがとうねぇ。」
「あいでしゅ。ゆめのにいにとがんばったでしゅよ。」
いつもののんびり口調で『豊穣の神』がお礼を言うと、ザマちゃんが元気よくお返事した。でも、それを聞いた『夢境の神』は何故か口をとがらせている。
「オレとしては不完全燃焼だぜ。あんな奴ら国ごと滅ぼしてもいいのに、聖女が反省をさせたいとか言いやがるから、すげー面倒だったよ。」
「あれで良かったんだよ。ザマちゃんが復讐の神では無く『ざまぁの神』なのは何故だかわかるかい?ざまぁは‘様を見ろ’を略してるんだよね。‘様’っていうのは様子って言えばわかりやすいかな。自分の様子を見ろってことは自分自身を振り返って見なさいってことだね。
理不尽なことをされた被害者は、その相手が自分自身を振り返り反省するのを見ることで溜飲を下げて、新たな人生に歩み出すことが出来るんだよ。今回の件はまさにそれだね。」
「むじゅかしいでしゅ…。」
『大地の神』の説明を聞いて、ぷにぷに唇を尖らせて斜め上をみながら考え込むザマちゃんを兄弟神達が微笑みながら見守っていると、バタンと大きく音を立てて談話室の扉が開いて誰かが駆け込んできた。
「ザマちゃゃゃゃん、やっと会いに来られたわぁぁぁぁ。」
そう叫びながら、涙目でザマちゃんに抱き着いてきたのは、ピンクブロンドの髪を振り乱した『美の神』だ。
前回のざまぁで、ある国の美の定義を変えてしまった『美の神』は、創造神の父にやりすぎだと怒られてその国の各種調整が終わるまで出禁を言い渡されていたのだ。
ちなみに、そのことはザマちゃんには内緒だ。勝手にやりすぎた『美の神』のせいでザマちゃんが泣いちゃったら大変だとの創造神様からのお達しがあったからね。
弟の髪に顔を埋めてスーハーしていた『美の神』は、ふと顔を上げてお姉ちゃんぶってザマちゃんに問いかける。
「今回のお仕事はどうでしたか?」
「せーじょしゃんのおちごとはとぉーってもたいへんなんでしゅよ。みんなにもおちごとたいけんさせたでしゅ。」
「???」
なんのことか良く分からないけど、ドヤ顔の弟が可愛すぎるからすべて良し!と素早く完結させた『美の神』は、えらかったわねぇと言いながら、ザマちゃんの髪に顔を埋めて恍惚のあぶない表情で「尊い…」とつぶやきながらスーハーを再開した。その姿を見た他の神達の思うことはひとつだった。
『『『父上(親父)この危険物もっと閉じ込めておけよ……。』』』
末っ子の神を迎えた天界は今日も賑やかです。
前作を読んでくれたみなさんから疑問があるだと?前作のざまぁ当事者令嬢がザマちゃんとの初対面で発した「えっ?」は二文字じゃないかって……深いことは考えるな、感じろ。
書いちゃったんだから仕方ない(開き直り)
心の広い広い皆様からの⭐︎評価お待ちしております(ペコリ)