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恋心



「フェリーツェお姉ちゃん、いらっしゃーい!」


「いらっしゃーい!」


孤児院前で子供達が元気いっぱいに出迎えをしてくれる。

「みんな、こんにちは!」と応えたフェリーツェのもとへ嬉しそうに駆け寄ってきた。


因みにフェリーツェとユーリの間には変わらず衝立てがあり、前後でキナードとカティアが持って移動するというシュールな光景となっている。


「フェリーツェお姉ちゃん、この板なぁに?」


「これはねぇ、人形劇をしようかなって思って持ってきたんだよ」


「にんぎょうげき?なんか楽しそう!」


今日使う道具の1つという事にして、2人の仕切りを誤魔化す。

すんなり納得した子供達は直ぐにユーリ達へと興味を移した。


「こっちのお兄ちゃん達はだぁれ?」


「このお兄ちゃん達もみんなと遊びたくて来たんだよ」


「わぁやった!今日はオオジョタイだ!」


「ふふ、また難しい言葉を覚えたのね」


ちょっとませた男の子を褒めて撫でるフェリーツェは本当に慣れていて、初めて訪問したユーリとキナードは感心するばかり。

そこに、唯一の大人が近付いてきた。


「フェリーツェさん、また訪問してくださってありがとうございます」


「タリアさん!今日もよろしくお願いしますね」


親し気にフェリーツェが手を握った相手は、黒い髪を後ろで1つに束ねた優しい面立ちをしている若い女性。

フェリーツェと挨拶をしてからユーリ達の方に視線を向けて首を傾げる。


「えと、それで、そちらの方々は…?」


急に増えた訪問者に戸惑うのは当然で、フェリーツェもすぐさま紹介した。


「公爵令息のユーリ・シュナイゼル様です。ユーリ様は私の婚約者で、今日は一緒に訪問しようと来てくれたんです!」


練習の甲斐あってすんなりユーリの名を口に出来たフェリーツェ。

「まあ、婚約者様!?それも公爵令息様だなんて…!」と驚くタリアにユーリも挨拶しようと口を開いた。


「ユーリ・シュナイゼルだ。こちらは私の従者であるキナード。共に不慣れだが、今日はよろしく頼む」


「こっ、こちらこそよろしくお願いします。私はこの孤児院の院長をしておりますタリアです。もし何かございましたら私にお申し付けください」


ユーリのあまりの美形具合に頬を染めつつも、緊張を抑えて丁寧に挨拶を返すタリア。

相手が女性であるので若干警戒しながら、ユーリは1つ頷いて質問する。


「年若い女性が孤児院の経営をするのは大変だろう。それに街からも少し離れているし、不便はないか?」


「いえ。確かに大変なこともありますが、子ども達が好きなのでとても充実しております。時折商人が立ち寄ってくださるので買い物もできますし、このように辺鄙な場所だからこそ子ども達が騒いでも苦情もありません。それに…フェリーツェさんのように寄付をしてくださる方もいらっしゃいますから」


話の流れのまま感謝を伝えられ、フェリーツェは嬉しそうに笑った。

衝立てで隠されているのでフェリーツェの姿は見えないが、2人の親しそうな雰囲気が伝わってきてユーリも警戒を緩める。


と、我慢の限界がきた子供達が再び群がってきた。


「ねえねえ、お話終わったー?」


「院長先生!はやくお姉ちゃん達と遊びたい!」


タリアのスカートを引っ張って主張する子供達。

勝手をせず話が終わるのを待っていたしタリアの許しを得ようとする辺り、しっかりと躾けられているのだろう。


「あらあら、この子達ったら。ごめんなさいねフェリーツェさん。子ども達みんな朝から楽しみでソワソワしてたんですよ」


「ふふ、嬉しいです!じゃあみんな、早速遊ぼっか!」


「やったー!」


許可を得た途端に子供達はフェリーツェ達をグイグイと孤児院内へ引っ張っていく。

子供達の元気さに面食らうユーリとキナードも含め、4人は孤児院の広めな一室へ案内された。

どうやら子供達の遊び場となっている部屋のようで、ぬいぐるみや玩具があちこちに置かれている。


「フェリーツェお姉ちゃん!今回はどんなのを持ってきてくれたの!?」


「ライオンさんは!?約束してたライオンさんいる!?」


「もちろん!ちゃんと持ってきたよ〜」


フェリーツェの言葉に合わせるようにカティアがマジックバッグから次々とぬいぐるみを取り出して並べた。

新作の数々に目を輝かせて「うわぁ〜!!」と喜びの声をあげる子供達。

互いに楽しそうにワイワイと盛り上がる。


一方、ユーリも別の子供達に囲まれていた。


「ねえねえ、かっこいいお兄ちゃんは何を持ってきてくれたの?」


「もしかして、次々と敵をナギタオス剣とか!?」


「い、いや…期待に応えられなくてすまないが、私は絵本を持ってきたんだ」


「ちえー、剣じゃないのかぁ」


「なによあんた!文句でもあるの!?嫌ならあっち行きなさいよ!」


「い、嫌じゃないって!」


息もつかせぬ子供達の勢いに圧倒されてしまうユーリ。

僅かに動きが止まった途端に服を軽く引っ張られる。


「ねえ絵本はー?」


「あ、ああ、すまない。コレだ」


促されて持ってきた数冊の絵本を床に並べた。

話の内容を想像させる表紙のイラストを見ただけで子供達の歓声があがる。


「わぁーおもしろそう!」


「ねえお兄ちゃん!読んで読んで!」


「よ、読む?私がか?」


「うん!はやくはやく!」


絵本の読み聞かせなどした事がないユーリは戸惑ってキナードに視線を向けた。

が、助けに入ろうとしたキナードの手を別の子供達が引っ張る。


「お兄ちゃんはこっち!」


「え、あの…」


「このオモチャねー、すごいんだよ!」


断る暇もなく別の遊びに巻き込まれたキナードの助けは得られそうになく、ユーリは自身で対応せざるを得なくなった。

困惑しながらも子供達に質問する。


「ど、どの絵本を読んだら良いんだ?」


「んーとねぇ、どれがいいかなぁ」


「オレこれが良い!かっこいいもん!」


1人の子が選んだのは、剣を持つ主人公が敵と対峙する図を表紙とした『ゆうしゃのぼうけん』だ。

他のを選ばれないようにバッと手に取り即座にユーリに手渡す。

「あ、ずるい!」「早いもん勝ちだろ〜」と軽く言い合いを始めたので、喧嘩をする前にとページを開いた。

ユーリが読もうとする仕草を見せると、すぐにこっちに集中してワクワクとした目を向けてくる。

もう引き返すわけにはいかない。


「あ、『ある村に、金色の髪で青い目をした青年が住んでいました。青年はその村で平和に』…」

「ちょっと待って!」

「ストップストップ!」


が、読み始めてすぐに子供達に中断された。


「それじゃ全然ダメだよ!!ちゃんと読んで!」


「ちゃ、ちゃんと?読んでいるつもりだが…」


「ダメダメ!もっとリンジョーカンを出さないと!」


「臨場感…?」


要は棒読みだからもっと感情を込めて読めという事だろう。

しかし、いきなりやれと言われて出来るものでもない。

もう一度試みてみたが、また早々にダメ出しを受けてしまった。

どうしたら良いんだと困り果てる。


と、子供達に呆れられかけて焦った時に声が響いた。


「そうだ!今日の人形劇の演目は、ユーリお兄ちゃんが持ってきてくれた絵本から『ゆうしゃのぼうけん』をやります!」


声を上げたのはフェリーツェだ。

室内にいた子供達が一斉にそちらに興味を向ける。

フェリーツェは自分の傍にいた子供に「ユーリお兄ちゃんから絵本を借りてきて」と指示を出し、返事をした子供が駆けてきた。


「ユーリお兄ちゃん、『ゆうしゃのぼうけん』貸してください!」


「あ、ああ。どうぞ」


子供に手渡したことで読み聞かせから解放されるユーリ。

ピンポイントにその絵本を選んだ辺り、困っている事に気付いたフェリーツェが助け舟を出してくれたんだろうと伺えた。


(子供達の相手をしながら、こちらにまで気を回してくれたのか…)


姿が見えないように衝立てを置いているので、声だけで察知してくれたようだ。

気付いてくれた事にも自然に救い出してくれた事にも嬉しさが滲み、感謝しながらフェリーツェの方へと目を向けた。


「はい、ちゅうもーく!人形劇『ゆうしゃのぼうけん』を始めるよ!みんな拍手!」


衝立てを壁際の方に移動し、その上から飛び出したフェリーツェ人形が子供達に呼び掛ける。

パフパフと手を叩く人形と一緒に、子供達もはしゃぎながらパチパチと拍手をした。

掴みもバッチリだ。


フェリーツェ人形が衝立ての裏に引っ込むと、入れ替わるように黄色の髪と青い目の男の子の手人形が現れた。


「ある村に、金色の髪で青い目をした青年が住んでいました。『いやぁ、良い天気だなぁ〜。今日はピクニックに行こうかな?』そんな風に青年はのどかな村で平和に暮らしていました」


アドリブを挿みながら人形で動きをつけるフェリーツェ。

カティアも手伝っているようで、少し離れた所にオオカミの形をした手人形が現れた。


「ところがある日のこと、魔物であるウェアウルフが突然村を襲ってきたのです!」


「『ハッハッハ!人間どもよ覚悟しろ!』」


「『うわぁー!』『きゃあー!』『誰か助けてー!』村人達はみんな必死で逃げまどいました」


普段無表情であるカティアも声ではしっかりと悪者を演じている。

フェリーツェも声を変えながら村人人形を右往左往させた。

子供達もハラハラとしながら観る。


「戦う人々もいましたが強い魔物相手では勝てず、村はウェアウルフによってメチャクチャにされてしまいました」


バタバタと倒れる村人人形。

その間で笑いながらオオカミ人形が女の子の人形へ目を向けた。


「『おっ、人間にしてはいい女がいるじゃないか。よし、お前は我輩の花嫁にしてやろう!』」


「『いっ、嫌!誰かぁー!』」


嫌がる女の子をオオカミ人形が無理やり抱える。

そこに青年人形が走ってきた。


「『やめろ!その子を離せ!』」


「『フン!人間の分際で我輩に逆らうな!そりゃ!』」


「『うわあ!』」


助けようとしたが簡単に殴り飛ばされる青年人形。

倒れた姿を馬鹿にするように笑いながら、女の子を抱えたオオカミ人形は遠ざかっていった。


「『うぅ…助けられなかった…。強く…強くならなきゃ。強くなって、絶対にあの子を助けるんだ!』これまで武器など持ったこともなかった青年は、連れ去られた女の子を救うために冒険に出ることにしました」


オーバーリアクションに読まれる内容に、子供達は引き込まれて口を半開きにしながら熱心に観ている。


(なるほど…ダメ出しされる訳だ)


フェリーツェとユーリの話し方では天地ほどの差があり納得せざるを得なかった。

いきなりこのレベルの劇を出来るとは思えないし、恐らく他の孤児院でも何度か人形劇をやっているんだろう。

どうりで人形の扱いにも慣れているはずだ。


感心しきりのユーリも含め、皆が観劇するなか物語はどんどんと進んでいった。

そしていよいよクライマックスを迎える。


「『見つけたぞウェアウルフ!女の子を返せ!』」


「『ハハハ!あの時のガキじゃないか!バカめ、返り討ちにしてやる!』」


村を襲ったウェアウルフと対峙する青年人形。

フェリーツェが魔法で起こした風によって青年のマントがはためき、まさしく臨場感が出ている。


「『いくぞ!』」


剣で斬りかかる青年に対し、ウェアウルフは爪で応戦した。

最初に村を襲われた時は手も足も出なかった青年。

けれど冒険を経て強くなり、今はウェアウルフと互角に戦っている。

そんな状況を前に、子供達は手に汗を握って勝つことを祈っていた。

しかし徐々に青年が押され始める。


「『少しは強くなったようだが、それで我輩に勝てると思うなよ!』」


「『ぐっ…!』」


ウェアウルフの攻撃を受けて飛ばされ蹲る青年。

ピンチを迎え、子供達も悲壮な顔つきになる。

すると、青年人形の後ろの方にひょっこりとフェリーツェ人形が現れた。


「みんな!このままじゃわるい魔物に負けちゃうかも!応援してみんなの力を分けてあげて!」


フェリーツェ人形に訴えられ、子供達は次々と声援を贈りだす。


「がんばれぇ!負けるなー!」


「立って!アイツをやっつけて!」


「天流剣をおみまいしてやれー!」


懸命に青年人形を応援する子供達。

それに応えるように、青年はなんとか立ち上がった。


「『そうだ…オレにはこんなにも応援してくれるみんながついてる。こんなところで、負けてなんていられない!!』」


再びウェアウルフに向かって走り出した青年を見てワッと子供達も歓喜する。

蹴りをつけるべく、青年は高く跳び上がった。


「『くらえ!天流剣奥義!』」


剣を振り下ろす動きに合わせ、これまでの冒険を見てきた子供達も一緒に技名を叫んだ。


「「「『カリニフタ!!』」」」


一直線に降ろされた剣によりウェアウルフは避けることもできずに斬られる。

『グァァァアっ』という断末魔をあげてついに倒された。

「やったー!!」と喜色満面になる子供達。

歓喜の渦の中、ウェアウルフに連れ去られていた女の子が青年に抱きついた。


「『ありがとう!助けてくれて、本当にありがとう!わるい魔物をやっつけてくれたあなたは、まさに勇者様だわ!ねえみんな!みんなもそう思うでしょう?』」


女の子に質問され、子供達は明るく答える。


「思うー!かっこよかった!」


「勇者だ勇者だ!」


「勇者さまー!」


子供達の声に応え、青年人形は両手を振った。

そしてフェリーツェが物語を締め括る。


「こうして、ただの村人だった青年はみんなから認められて勇者様となったのでした!めでたしめでたし」


物語が終わると共に促されずとも子供達は拍手喝采した。

フェリーツェとカティアは使った手人形でペコリと礼をする。


「みんな、楽しかった?」


「楽しかったー!」


「すごいおもしろかったよ!」


「また見たい!」


フェリーツェ人形に問われて絶賛する子供達。

ユーリは大したものだな…と微笑ましい気持ちでやり取りを聞いていた。

碌に読み聞かせも出来なかった自分とは大違いだと。

が、そんな風に他人事のように評価していた時だ。


「それじゃあみんな!このお話の絵本を持ってきてくれたユーリお兄ちゃんにもお礼を言ってね!」


「!」


フェリーツェ人形に言われて、子供達は一同にユーリへ顔を向けた。

満面の笑顔で口々にお礼を言う。


「ユーリお兄ちゃんありがとう!」


「ありがとー!」


「また絵本持ってきてね!」


突然指名されて戸惑ったが、嬉しそうにお礼を言われてくすぐったい気持ちになる。

僅かに照れながらユーリは頷いた。


「…わかった。また持ってこよう」


すると、ユーリの顔を見た女の子達が「きゃー!」と顔を赤くして騒ぎ出す。

美形の柔らかい表情というのは破壊力抜群で、子供といえども女子達はハートを撃ち抜かれた。


「ユーリお兄ちゃん、わたしと将来結婚して!」


「ずるい!ユーリお兄ちゃん、あたし料理が得意だよ!お嫁さんにオススメ!」


「ワタシだってそれくらいできるよ!」


押しかけた女子達のプロポーズ攻撃に、ユーリはたじろいだ。

ふと頭に貴族の令嬢達からの求婚姿が思い出され、嫌な気持ちまで湧いてくる。

子供相手だと分かっているのに嫌悪感で拒絶しそうになった。


だが、ユーリが口を開こうとした瞬間にフェリーツェ人形が叫んだ。


「ユーリお兄ちゃんはフェリーツェお姉ちゃんと結婚する約束してるの!取っちゃダメ!」


はっきりと断言したフェリーツェに少し驚いてしまうユーリ。

注意された女子達はあっさりとユーリに迫るのをやめて残念そうに口を尖らせる。


「えー、そうなの?」


「ユーリお兄ちゃん、ほんとう?」


実はウソだったりしないかなと期待する女の子の質問に、ユーリも曖昧にせず答えた。


「ああ、すまないな。私はすでにフェリーツェのものだから、他の人とは結婚できないんだ」


「ひぅえ!?」


衝立ての向こうから奇声が聞こえ、子供達までも振り向いてキョトンとする。

どうやら驚いたフェリーツェが変な声を出してしまったようだ。

かなり恥ずかしかったらしく、フェリーツェ人形がススス…と静かに下がっていく。


「…ふっ」


自分から言い出したクセにとんでもなく動揺するフェリーツェに、思わずユーリも笑ってしまった。

つられて子供達も笑い出し「フェリーツェお姉ちゃん今の声なにー?」とからかいながら集まっていく。

笑い声に溢れた部屋はその後も静かになることなく、子供達に惜しまれながら4人は孤児院を後にする事となった。




「あの…子供達を止める為とはいえ、先程はあんな事を言ってしまってすみません」


帰りの馬車の中、孤児院にいた時とは打って変わってしおらしくなったフェリーツェが恥ずかしそうに謝罪する。

気を悪くなどしていないユーリは人形でフルフルと否定の動きをした。


「いや、おかげで助かった。それにしても、フェリーツェは凄いな。あんなに子供達の心を鷲掴みにするなんて驚いたぞ」


「いっ、いえそんな!あの子達がみんな素直で良い子だからですよ!」


「だとしても、ああ上手くは出来ないだろう。実際私もどう対応するのが正解か分からず困ったしな。情けないものだ」


自分が不甲斐ないと反省するユーリ。

けれどフェリーツェ人形が身を乗り出して力説した。


「情けなくなんかないです!ユーリ様は子供達からあれこれ言われても怒ったり嫌がったりせず、頑張って応えようとしてたじゃないですか!そういうの素敵だと思います!」


どうしてか、フェリーツェの言葉は裏があるのではという疑いを一片も持たせずに真っ直ぐ心に届く。

自然とユーリは微笑を浮かべた。


「そうか…ありがとう」


素直にお礼を言われてから、フェリーツェは自分の言った内容にハッとして赤くなる。

そんな2人のやり取りを、カティアとキナードは空気を読んで口出しせず温かく見守った。


やがて、馬車がフェリーツェの住む屋敷へと到着する。

フェリーツェ達が馬車から降りる前に、ユーリは思い切って1つの行動に出た。


「…フェリーツェ。今日は充実した時間を過ごすことができた。ありがとう」


言いながら、スッとユーリ人形の手を差し出す。

握手を求める動きだとフェリーツェもすぐに勘付いた。

でもなんだか、今なら応えられる気もすると思う。


「こ…こちらこそ、ありがとうございました」


ーードキン ドキン


心臓を高鳴らせ、ゆっくりと前に出るフェリーツェ人形。

その場の全員が固唾を飲んで見守った。

触れかけたところで一度ビクッと跳ねたが、それでも諦めずに手を伸ばす。

そして、その手がちょんとユーリ人形の手に触れた。


「っ、できた…!握手できました!」


興奮して声を張るフェリーツェ。

実際は握手なんてものではなく、人形越しに指先が僅かに触れただけ。

だが2人にとってそれはとてつもなく大きな前進だった。


「やったな、フェリーツェ」


「はい!はい!ありがとうございます…!」


感涙せんばかりに喜ぶフェリーツェ人形を通して、ユーリは晴れがましさを感じる。

もっとこんな風に喜ばせたいとさえ思ってしまった。


(参ったな…。女性を好きになることなんて無いと思っていたのに)


自身の心の変化をユーリは拒絶もせず自覚する。

浮かれてなかなか馬車から降りないフェリーツェの行動にさえ心惹かれた。


(まだ顔も合わせたことがない君を…こんなに可愛いと感じるなんてな)


カティアに怒られてしょんぼりしながら馬車を降りるフェリーツェにもまた笑ってしまう。


その日は、ユーリの中に恋心が生まれた特別な日となった。






うぐぅ…ストックが切れた…。

でもできるだけ早く更新できるように頑張ります。

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