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入学準備だ。武器屋へGO!

 翌日、諸々の手続きを行うために、父親が士官学園に赴いた。


 帰宅した父親を出迎えた私は不安になった。

 わかりやすく肩を落として暗い顔になっていたから。




 応接室でお茶を飲んで心を落ち着かせた父親がようやく口を開いた。

 早く! 早く! どうだったの?


「ふう。入学は認められた」


 やったー!


「学園の制服も支給され、寮費も不要とのことだ」


 いいじゃん。いいじゃん。

 ん? うげっ。寮費……。寮で生活するのか。それはちょっと想定外だった。

 あれ? でも初期費用ただじゃない? どうしてそんなに落ち込んでいるの?


「だが、剣だけは持参するようにとのことだ」


 ほえ?


「剣――ですか?」


 多分、私が相当間抜けヅラだったんだろう。

 父親は席を立って、鞘に収めた剣を持ってきた。


「これは私が学園で使っていたものだが」


 そっか。男爵家の嫡男だものね。士官学園に通っていたんだ。

 へえ。これがねー。ごっついねー。


 手に取ろうと持ち上げた途端に、ズシッと重みが両手にかかり、私は剣を放り出すようにテーブルに落としてしまった。


 え? これが?


 生まれて初めて「剣」というモノを持ったけど、重いったらありゃしない。

 嘘でしょう? 中世の人たちって、こんな重いものを振り回していたの?


 私は、振り下ろすどころか、持ち上げることさえできない。

 縦横無尽に振り回せる筋肉が必要だ。

 ガーン。求む「サーベル」


 うわあ。言いづらい。言いづらいよ。「細くて軽い剣を買ってください」なんて。

 いや、そんな剣売ってないかも。なら、特注? ひえっ。


 それでかー。それでなのね。

 ああ、この父親も優しい人だ。特注する必要があるって、最初に考えてくれていたんだ。


 うーん。バイトできたなら、夜勤をガンガン入れて稼ぐのに!



「お、お父様。そ、その――」

「そうだな。お前用の剣を準備する必要があるな」


 娘に皆まで言わせない優しさ。泣ける。





 おそらく父親は、特注での製作期間を考えてくれたんだと思う。

 その日の午後、私は父親と一緒に王都の中心部にある店を訪ねた。



 武器屋(というのかな?)の店内は、貴族たちを迎えるためなのか、床にはふかふかの絨毯が敷かれ、そこかしこにソファーが設置されていた。

 ただ、壁一面には、ナイフやら弓やら、お勧め商品がこれみよがしに掛けられている。



 私たちを応対してくれた店員は、中堅社員といった感じの男性だった。

 店側が、一目で爵位や経済状態を見抜いたのかもしれない。



「オホン。娘でも持てるような軽い剣を探しているのだが」

「はあ」


 なんとも間の抜けた返事をして、店員は私をジロリと眺めた。


「軽くて細い剣をお願いします。王立士官学園に入学するので」


 本気ですよ、と、私も要望を伝える。


「え? あなた様が王立士官学園に?」


 驚愕の表情を浮かべた店員は、接客の基礎がなっていないけれど、まあ、この世界でも驚かれるくらいのことなのね。

 運命を変えるには、それくらいのことをしなきゃね。



「あ。失礼いたしました。それではこちらへ。中等部に入学する記念にお買い求めいただく剣を取り揃えておりますので」


 なるほど。十二歳くらいの子どもが持てる剣ね。うん。いいんじゃない?


 一番細くて軽そうなものを持ってみる。

 持ってみたけど。持つのが精一杯だった。十秒持っただけで腕が痺れる。


 何この体?

 十二歳の男の子にも負けるくらいの貧弱さ。モブって悲しい。

 これがヒロインなら、ヒョイっと持ち上げて、その場でシュッシュッと振って、「お見事!」とか、言ってもらえるんだろうな。



「あのう。もう少し軽いモノはありませんか? その。子ども用でもいいので」

「あいにくですが、これより軽いとなると、長さも半分ほどになりまして、士官学園に持参されるにはどうかと……」


 ああ。父親には全部わかっていたのね。すでに腹を決めていたようだ。


「では入学までに、先ほどの剣の形状で、重さだけ減らしていただくことは可能かな?」

「はい。それでしたら、材質を変えればよいだけですから可能です。ただし、料金はこちらの三倍程になりますが、よろしいでしょうか」


 あ。この世界の貨幣価値ってどれくらいなんだろう。


「ふむ。三倍ということは、金貨九枚か。なるほど」


 お、お父様。声が少しだけ震えていませんか?

 店員は気づかないふりをしてくれている。こういう場面には慣れているのかな。


「お嬢様が士官学園に入学されるのでしたら、月々のお手当が出るでしょうから、後払いの分割も可能です。そちらを選択されるお客様もいらっしゃいますが」


 なるほど。親が剣を持っていない平民の子どもは、そうやって剣を買って入学するのね。


「カッサンドラ。それでよいな?」


 「頼む。ここは『うん』と言ってくれ」と、父親の顔に書いてある。


「もちろんです。お父様」


 私は貴族令嬢らしく、にっこりと微笑みを返した。

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