え? モブの私が最強ですって?!
結局、男子は次から次へと地面に転がされ、ナタリアちゃんの番になった。
彼女は、両手でしっかりと剣を握って構えると、覚悟を決めて一歩前に出た。
……すごい。このシーン素敵。絵になるわー。なんて凛々しいの!
真後ろで惚けたように見ていると、いきなりカーンという音がして、ナタリアちゃんが片膝をついていた。
「えっ? 終わり?」
ナタリアちゃんが地面に転がらなくてよかった。
それに、みんな剣を弾き飛ばされていたけど、彼女は剣を持ったままだ!
さっすがヒロイン! 強い!
「まあまあだな。入学早々、俺の剣を受け止めた生徒はお前が初めてだ」
でしょう? やっぱり違うでしょう! ナタリアちゃんは特別なのですよ。
何だか私が褒められた気分。
私とナタリアちゃんは、二人で一つみたいなものだから!
「よし。次で最後だな。来い」
……あ。そうでした。
剣を持って歩くのもしんどいので、剣先を地面につけたまま引きずってマヌエル君の前まで行った。
みんなの視線の意味は大体わかりますよ。マナー違反って言いたいんでしょ。
でも、こんな重いもの、どうしろっていうの!
近くで見ると、マヌエル君の体全体から、「コテンパンにしてやるぞ」オーラが出ていた。
これが慣れ親しんだ竹刀なら、私だって一矢報いるチャンスがあるのに。悔しい。
せめてもう少し軽ければ……。はあ。
「参りました」宣言をしようかと思った時、いつもコーチに言われていたことを思い出した。
どんな相手でも、イメージトレーニングで負けるようじゃ勝ち目がないと。
そうだ。イメージ。イメージすなわち想像。私の得意とするところ。
イメージの中では、私は最強。
この剣も軽々と振れるし、マヌエル君の剣もはっきりと見える。
「私は最強。はっきりと見える……」
「何をぶつぶつ言ってるんだ! 早くかかってこい!」
よっし。最強の私がシュシュシュッと剣を振るうんだ。
「行きまーすっ!」
カーン。カーン。
ぐわんと体にのしかかるような大きな力に押されて、私は二、三歩後ずさった。
「うおおっ」
「なんだ? あの音は?」
「打ち合ったのか?」
え? なんですって?
「まさか二人もいたとはな……」
渋い表情のマヌエル君。
本気で私を地面に転がそうとしましたね!
「む!」
……あ。
私、ちゃんと剣を持っている。それに立っている!
あれ? 何だか本当に剣が軽かったし、マヌエル君の剣がはっきりと見えた気がする。
イメージしたことが現実になった?
体内がカーッと熱くなっている。魔法を使った時と一緒だ。
多分、私の中じゃイメージすることが、イコール魔法を使うことなんだ。
森での練習で、自然とそういう癖がついちゃったのかな?
うん? じゃあ、火とか水とか意識しなくても、こうなったらいいなって想像するだけで、それが現実になるっていうこと?
何? そのチートっぽい感じ……。
「はは。まさか――ね」
「すごーい! カッサンドラ。マヌエル団長の剣を受けて立っていられるなんて! 新入生の中でカッサンドラが一番強かったのね」
うわあ。そんなこと大きな声で言わないでー。
黄色髪の男子が鼻の穴を膨らませて私を睨んでいる!
「もう一度さっきの順に並べ。これから四つの班に分ける」
黄色髪から最後尾の私まで同じ順に並ぶと、マヌエル君は、一人ずつ、「一班」とか、「二班」と声をかけていった。
ちょっと待って!
さっきの結果だと、立っていた私と片膝ついたナタリアちゃんがワンツーだよね。
上位四人は、さすがにバラけさせるよね。
嫌だー。それは困る。
ナタリアちゃんと同じ班じゃなきゃ嫌だー。
こうなったらマヌエル君に念を送ろう。
「ナタリアちゃんと同じ班になりますように」
私は、組んだ両手に力を込めて祈った。
祈ったというよりも、呪いをかけたと言う方が正しいかも。
とにかく必死にマヌエル君に念を送り続けた。
「お前は三班。次。お前は一班。……?」
マヌエル君が立ち止まって、「うん?」と首を傾げた。
「マヌエル団長の周りにキラキラと何かが降り注いでいる……」
ナタリアちゃんがそう指摘したけど、私が顔を向けた時には何も見えなかった。
え? キラキラが降り注ぐなんて、そんなエフェクトが?
ハッ! もしや、ここがマヌエル君の見せ場?
じゃあやっぱり攻略対象ってこと?
マヌエル君てば、メインキャラだったの?!
そんなマヌエル君が、ナタリアちゃんと私に運命を告げた。
「お前は一班。お前も――。一班だ」
やったー! 二人とも一班だ!
「だ、団長。マヌエル団長。一班が五人になります」
黄色髪の指摘に、マヌエル君が、「なんだと!」と振り返る。
「一班! こっちに集合しろ!」
そう言われて列から抜け出た五人は、互いの顔を見合わせた。
一班は、私とナタリアちゃんの他に、赤い髪のイケメン、あと入学式で見た黒髪のロレンツォ、それと見るからにモブっぽいマッシュルームカットの五人だった。
ほっほう。
ロレンツォは、ちゃーんとナタリアちゃんと同じ班になるんだなー。
これはひょっとするとひょっとするかも。うっふっふっ。
「よし。足りないのはどこだ」
「はい! 三班が三人です」
「じゃ、お前は三班に変更だ」
そう言ってマヌエル君が指を差したのは、マッシュルームカットだった。
やったわ、私。
ナタリアちゃんと同じ班を死守したわ。
……それに。
ロレンツォがナタリアちゃんのお眼鏡に適ったら、フォローすることもできるわ!




