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モブとして覚醒したからには 〜ヒロインはサポートキャラのようで何故か私が全ての出来事の中心にいる〜  作者: もーりんもも


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ナタリアちゃんと相部屋

 人生初の寮生活に、少しの不安と山盛りの期待を抱いていた私は、女子寮の敷地に入っただけで、またしても血流が大幅に増加してしまった。

 ヤバっと思い、つい鼻の穴を手で隠してしまったほどだ。



「あら? どうかして? 大丈夫かしら?」



 私たち新入生を案内してくれているのは、ニコレッタ先輩。

 さすが上級生代表として、入学式の壇上に上がるだけのことはある。

 私の不審な仕草を見逃さずに声をかけてくれた。


 紫色の髪を低い位置でポニーテールにしている。瞳の色は、髪の色をもう一段深くしたような紫色。

 神秘的で大人の女性といった雰囲気は、とても二つ上の十七歳には見えない。

 もう色気というか、魅力がダダ漏れだ。



「あなたたちが入学してくれて本当に嬉しいわ。この二年間は、女性は私一人だけだったから」


 それはさぞかし大変だったでしょう。男性にはわからないアレやコレやがたくさんありますもんね。


「三年生になれば個室になるのだけれど、一、二年生は相部屋よ。いくら女性は人数が少ないといっても、規則だから我慢してね」


「そんな。むしろ望むところです」

「え?」


 おっと。いかん。いかん。


「ええと。一人暮らしは初めてなので、友達と一緒の方が心強いです」

「そうかもしれないわね」


「わ、私もカッサンドラさんと一緒で心強く思います。よろしくお願いします」


 私とナタリアちゃんが初々しく挨拶しているのを見て、ニコレッタ先輩が、「ふふふ」と安心したように声を出して笑った。



 やったね! ナタリアちゃんとルームメイト!

 もう親友一直線じゃない?






 ちなみに、ニコレッタ先輩がこっそり教えてくれたのだけど、ナタリアちゃんの部屋を貴族用にするかどうかで、上層部が揉めていたらしい。

 結局は貴族用の部屋になったらしいけど。


 平民用の部屋は別にあるのだが、「相部屋」という規則の方を重視した結果、貴族である私に平民の部屋を使わせる訳にはいかないと結論づけたとのこと。



 案内された三十畳くらいの部屋は、両側にクローゼットや棚が置かれ、セミダブルサイズのベッドが二つあっても広く感じられた。

 勉強するためのデスクや、ティータイムのためのソファーセットもある。



「こんな豪華な部屋を貸していただけるなんて、夢みたいです。……はあ」


 真っ白な壁紙を撫でながらナタリアちゃんがため息をついた。


 ナタリアちゃんの過去編とかあったのかな。見ていないんだけど。

 これまでどんな生活をしていたんだろう。ご両親とか、そういう設定ってどうなっているんだろ……。


 まあでも。ナタリアちゃんは、これから先どんどん幸せになっていくはずだから問題ないか。

 私も精一杯フォローするしね。






 初日は入学式だけで授業はなかった。

 私は残りの時間を、ナタリアちゃんとのおしゃべりに費やした。


「ねえねえ。ナタリアはどんな人がタイプ?」

「タイプ――ですか?」

「うんうん!」

「さあ。そういうことは考えたことがなくて……」


 ええっ? 困る。そんなんじゃ困るよ、ナタリアちゃん。


「じゃあ、これから周りの男子たちをよーく見て、ちょっとでもいいなって思ったら教えてくれる?」

「いいな? あー。はい」


 何? その煮え切らない返事は。

 ヒロインが恋愛モードじゃないなんてこと、ある?

 断じてあってはならない。



「ねえ、私たちの後ろに並んでいた黒髪の背の高い人がいたでしょ? 確か、ロレンツォ」

「え? いつの間に自己紹介したんですか?」


 ――してなかった。私が一方的に知っていただけ。



「ああいや。友達にそう呼ばれているのを聞いたの。あは。あははは」

「あの人……。相当訓練を積んでいると思います。式典の最中も気を緩めることなく周囲を警戒していたみたいだし」


 ロレンツォ! お前もか! こら! 攻略対象者のくせに、本気で騎士を目指してどうする!



「へえ。すごいね。そういえば、青味がかかった銀髪の小柄な団長さんがいたでしょ?」

「マヌエル団長ですね。面接でお世話になりました」

「そうそう。天才児って聞いたけど。格好いいよね?」


 ナタリアちゃんがハッと何かに気づいた顔をして、私に問い返した。



「もしかして。カッサンドラさんは二人が気になるんですか? その、()()()って思われたんですか?」


 違――うっ!

 私の恋バナが下手なことはよくわかりました。


 あーなんか。エンディングまで時間がかかりそうなんだけど。

 攻略ってどうやるの?


 ナタリアちゃんの狙いが定まるまでは、普通に日常回が続くと思っていた方がよさそうだな。




「それにしても、掃除までしていただけるなんて。なんだか申し訳ないです」


 そうなのだ。

 部屋の清掃とか洗濯とかは、学園専属の使用人がしてくれるのだ。

 そこも貴族仕様なんだよね。

 


「生活のことは忘れて、それだけ勉学に励めって言われているのよ。きっと!」

「はい。そう思うことにします。私、頑張ります。カッサンドラさんはお優しいですね」

「あの、ね。同じ学年で、しかも二人っきりの女性じゃない? おまけに寮でも同室なんだし。敬語はなしにしてくれないかな」

「え?」

「お願い。この通り。その方が話しやすいもの。ね!」


 ナタリアちゃん。そんなに葛藤すること?



「わかりました。じゃあ。この学園にいる間はそうさせていただきます」

「だ、か、ら。『させていただきます』じゃなくって!」

「あ。はい。そうします。うん。そうする!」

「そう! そうそう」

「ふふふふ」

「うっふっふっ」


 なんか感激。もう、ここからは未知の世界。本編には無いアナザーストーリーだからね。


 ……それに。

 ヒロインが攻略対象とイチャイチャするところを間近で見られる訳だし。

 ふっふっふっ。

 普通にプレイするより断然面白いはず!



 まあ、カッサンドラはモブだから、うっかり退学になって聖女学園に編入なんていうことだけは避けないとね。

 ほんと、そんなの、ぜんっぜん、シャレにならないから。

 分割払いも一年近く続くことだし。



 ……でも。

 どこまで行けば安泰なんだろう。


 ……やっぱり、ナタリアちゃんが誰かと結ばれるまでよね。


 よっし! エンディングまで、精一杯、応援しなくっちゃ。

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「つぎラノ」への投票ありがとうございました!

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