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新月の夜、その木の下で

 いつも、わたくし……いえ、ノエルの方が先に着いていた。


 まだかな?とレディ・カモミールの手記を抱えて姿勢を正す頃に、ようやく彼が走ってくるのが目に入る。


 明かりも入りづらく、人気ひとけのない場所だったのだけど、その日は必ず彼が来てくれると信じていたから不安はなかった。


 そういえば、彼とは何時に待ち合わそうという約束をしたことがなかった。


 それでもノエルは新月の夜になると時計の針が八時の位置をさしたとき、自然とふたりの待ち合わせ場所へ向かっていたし、彼もそのすぐあとにやってきた。


 王宮で毎日顔を合わせるわけでもなく、昔からよく知った友人というわけでもない。


 たまに急用でお互いがお互いを探すことはあったけど、日頃はいつもどこにいるのかもわからないし、何をしているのかも過去の話も含めて深くは話したことがなかった。


 すべての秘密を共有しているわけでもないし、思えばとても不思議な関係だった。


 ただひょんなきっかけから出会い、仲良くなったのだ。


「………っ」


(彼の……)


 彼の瞳に、一体わたくしはどう映っていたのだろうか。考えただけでも怖くなる。


 ノエルはわたくしが作ったキャラクターなのだと殿下は言っていた。


 だけど、そんなわたくしは彼女の姿かたちを知らない。


 どんな姿をして、どんな笑顔で笑って泣いて……どうやって彼に接していたのか。


 光の道の先に扉が見えて、息を整える。


 この先には、わたくしが会いたいと願った人がいる。


 ずっと側にいて、支えてくれた人だ。


(あっ……)


 戸に触れた途端、景色が一変した。


 足を踏み出すと、世界は漆黒の闇に変わった。


 ひんやりした空気にぶるりと震える。


 澄んだ世界は真っ暗で、吐く息が白くなる。


 空には今にも星の雨が降ってきそうなほど一面を覆う無数の星ぼしがそれぞれの色で瞬きを見せている。


 あたりに視線を移すと、徐々に焦点があってきて、この場所を認識することができる。


 ここは、いつもノエルが人知れず足を運んでいた場所である。


 ゆっくり足を進める。


(この先をまっすぐ行ったところだ……)


 見慣れた光景が広がる。


(あっ……)


 視線を向けた先に大きな木があり、そして、その下にはひとりの青年が座っているのが目に入った。


「ろっ……」


 呼びかけて躊躇する。


 もしも、もしも気づいてもらえなかったら……考えれば考えるだけ怖くなった。


 足を止めたと同時に、彼が顔を上げる。


 朱色の長い髪がサラッと頬にかかり、青い瞳と目が合った。


(ああ……)


 泣いてしまいそうだった。

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