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アイリーン・オスバルト

(アイリーン様……)


 心のなかで何度も何度もその名を呼び続けていた。


(アイリーン様……アイリーン様、ごめんなさい……)


 瞳を彩るアイシャドウがわたしを導いてくれる。


 一刻も早く、お側へ行きたい人の元へ。


(ごめんなさい……)


 何度、何度謝っても足りない気がした。



    ◇◇◇






「あら、あのお方がわたしのところへ行ってやれって?」


 その人を見つけたとき、彼女はいつものように微笑んでわたしを出迎えてくれた。


 まるでわたしがここに来るのがわかっていたように。


「大丈夫よ、ノエル。気にしないで」


「アイリーン様……アイリーン様……」


 彼女の顔を見たら、涙が溢れてきた。


「アイリーン様……ごめんなさい……」


 何が、とは言わない。


 でも、わたしは泣いていた。


 泣きたいのは、間違いなくわたしではないのに、わたしはわんわん子どものように泣きじゃくっていた。


 目をこするたび、アイシャドウの粒子がキラキラと宙を舞う。


「アイリーン様……」


「泣かないで、ノエル……」


 わたしまで悲しくなるわ、とアイリーン様は口角を上げる。


 だけど、その微笑みはひどく弱々しい。


「大丈夫よ。わたしもあのときは、魔術師になる前だったのだけど、あの光景は十分に予期していたし、あの街がああなることははじめから知っていたのよ」


 だから、と彼女は笑う。


 その瞳から大粒の涙がほろりと伝う。


「王宮へ来てからはあの日に備えて術を極めたわ。もちろんちゃんと結界だって、あの日の当日までに張ることはできていた。勇者や巫女が現れる前からしっかり準備はできていたのよ。でも……」


 ごめんなさい、と彼女は自身の身に巻き付けた、ショールで顔を覆う。


「ごめんなさい……」


 ショールの下で、アイリーン様は肩を震わせていた。


(なんで……)


 なんで気づけなかったのだろうか。


 その色の瞳の人に、会ったではないか。


 夢か現実かはどうでもいい。


 でも、わたしはその人を知っていたではないか。


「アイリーン様……ごめんなさい……」


 わたしは彼女にしがみつくように抱きつき、泣き続けるしかできなかった。


 大切な人を傷つけてしまった。


 それが、とてもつらかった。


 


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