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レディ・カモミールの手記

 わたくしは、もう自由よ。


 あの方の手なんて、もう借りない。


 わたくしは……


『これが』


 わたくしの声に、誰かの声が重なる。


『これが、君の見たかった世界なのかい?』


 マントを翻し


 その人はわたくしを抱え直す。


 その指先に


 とてもとても強い力を込めて。


 引き寄せられて


 陽の光のようにキラキラとした髪の毛が


 わたくしの頬をくすぐる。


 隠された仮面の下で


 切なげに揺れる薄紫の双方は


 わたくしがずっと見たかった色だ。


『あなたの瞳には、


 わたくしが映っていないじゃない』


 そんなに


 美しい輝きを放っているのに。


『だから


 わたくしは自由になるのよ。


 悲しみのない世界へ行きたいの』


 そう告げると


 あなたはやっぱり悲しそうな顔をして


 ごめんね、と言う。


 いつもいつも、いつもそうなのだ。


 謝るくらいなら


 開放してほしいのよ。


 誰もわたくしのことを知らない世界まで。


 言い切ったら


 こらえていた涙があふれた。


 握りしめた白詰草が


 パラパラと地面へ落ちる。


 ごめんね、とまた彼はつぶやき


 わたくしの唇に


 そっと自分のそれを寄せ


 そしてゆっくりと重ねた。


『何よりも、君を想う』


 嘘つき……


 声にならないかわりにわたしは


 涙を流し続ける。


『愛してるよ、シルヴィ……』 






 ああ、そして今日もまた


 あなたはわたくしに嘘をつく。


 かけてくれた優しい言葉も、


 大切そうに添えてくれるその腕も


 重ねらた熱も、何もかも。

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