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レディ・カモミールの手記

 彼女は笑う


 屈託もない笑顔で。


 明るくて優しくて


 いつもわたくしのことを


 大切に思ってくれる。


 だけど


 だけど彼女を見ていると


 自分の愚かさが浮き彫りになるようで


 現実から目をそらしたくなる。


 わたくしの居場所は


 どこにあるのかしら。


 どこへ行けば


 わたくしを受け入れてくれる


 そんな世界があるのというの?


 屈託もない笑顔で笑う彼女を見て


 わたくしにはもう


 居場所がないのだと知っている。


 わかっている。


 わかっているのに。


 どうして……


 どうしてわたくしを捉えるの?


 どうして……


 どうして君はいらないのだと


 そう言ってはくれないの?


 どうして……


 わたくしを自由にしてくれないの?


 あなたのことを、


 わたくしが知らないとでも思っているの?


 あの子には


 子どものような笑顔で笑うくせに


 あの子には


 本音だって漏らしてしまうのに


 あの子には……。


 怪盗がこの世にいるのなら


 わたくしを盗んでほしい


 遠く遠く


 誰もわたくしを知る人がいない世界まで。


 笑顔を失ったわたくしは


 あの子のようにはなれないのだから。



 あの方の隣には


 もう二度と並べないのだから。



        ◇◇◇



 原稿がぼんやりと揺れる。


 ポタポタとこぼれ落ちるしずくが紙に乗ったインクを滲ませる。


「あ、あれ……やだ、どうして……」


 今日が終わる。


 レディ・カモミールが、ノエル・ヴィンヤードに戻る時間がやって来たようだ。


 外で鳴り響く鐘の音が少しずつ彼女の意識を現実世界へと連れ戻していく。


「ど、どうして……」


 書き上げたばかりの紙を勢いよく丸めて、顔を覆う。


 深い夜の闇が心を支配していく。


「ご、ごめんなさい……」


 とめどなく溢れる涙は、ノエルの意志とは別に幾度も幾度も流れ続けた。

 

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