最後にまた読み返したくなる全員訳あり。王宮を綴るモブキャラの手記♡.*
物語の中には主役と脇役がいて、
完全にわたしは脇役《モブ中のモブ》なのだろうと悟った
そんなある春の日から
それならわたしはわたしなりに
脇役生活を満喫してやろうと心に誓った。
脇役には脇役の
描かれていない世界があるのだから。
⚘⚘⚘
ご令嬢や貴婦人たちの間で密かに話題沸騰中の『王宮ロマンス革命』の謎多き筆者である『レディ・カモミール』が誕生した瞬間でもあった。
時刻は午後8時。
ここから、わたしの時間が始まる。
タイムリミットは4時間。
明日も5時には起きなくてはならないため、最低でも日付が変わる頃までには眠りたいものだ。
今宵も『ノエル・ヴィンヤード』から『レディ・カモミール』に変わる時間がやってきた。
慌てて自室に向かう通路を駆ける。
いや、実際に走ってしまっては侍女長であるメリルさんに怒られてしまうだろう。
走っているようには見えないよう心がけて、一生懸命足を進めた。
ポケットに忍ばせた手記《ネタ帳》には今日も変わらず驚くべきほど大量の大発見や新事実のネタがぎっしり書き込まれている。
迷っている時間はない。
感情は生物だ。
新鮮なうちに形《料理》にする必要がある。
早く自室のテーブルの前に座り、ノートを広げて思いの丈を書き綴りたい。
脳内に書き留めた今日の出来事を物語の世界に変換して収めるのだ。
運動神経が悪すぎるためか、足早とはいえなかなか前には進んでいないのだけど、心の中はかなり浮足立っていた。
早く。
早く、自室に戻りたい。
突き当りを右に曲がり、中庭にさえ出られればこちらのものよ。
わたしの自室である使用人たちが使っている住居はもうすぐそこだ。
毎日のことであるが、このわくわくした気持ちは抑えきることができない。
「ノエル、そんなに慌てて何かあったのかい?」
(え……)
この時間だけは、何人たりとも邪魔をさせてなるものか。
そう思いながらも悲しきかなそんなわけにはいかず、足を止めたわたしはまた『ノエル・ヴィンヤード』として、声の主の方に顔を向け、静かに頭を下げた。