【応用編】サキュバスに魅了の魔法をもらったから困ってる幼馴染のために使うことにした
(△)プロローグ:サキュバスがやってきた
そこは一軒家の一人部屋。
すでに深夜を回っていて、ベッドの中ではスヤスヤといった寝息が聞こえていた。
そんな折だった。
――ギシ、ギシ。
ベッドのきしむ音が聞こえる、まるで、電気の消えた暗い部屋で徘徊する誰かが存在するかのように。
――ふふふ。
それは悦びに満ちた笑い声。
侵入者は、そっと寝ている人間の上に跨ると、タオルケットの上からお腹に手を当てて、魔法の言葉をつぶやいた。
「ふふふ、さあ、今日からあなたはワタクシの餌になるのよ」
眩い光が部屋の中に満ちる――
「…ぇ、ま、まぶしいっ!?」
そして目を覚ました。
「え、だれ!?」
疑問の言葉が思わず飛び出す。
「おほほほっ! 目が覚めましたの?
今日からあなたはワタクシの下僕として生きる運命が決まりましたの!」
露出が多く、その大きな胸の肌色を大きく曝け出して強調するセクシーな衣装を身にまとい、小指の爪を噛んで、ハアハアと息を荒げた様子で興奮した瞳をこちらに向けていた。
「ワタクシは由緒正しき淫魔の名門、リリス=レヴィ家のエリザベス=リリス=レヴィ。
記念すべき今宵は、ワタクシの成人の儀を取りなす聖夜。
だから、こうしてあなた様のココに溜まった穢れた精気を頂きに参りましたのよ!」
淫魔が、羽織っていたタオルケットをはぎ取ると、人間のお腹を可愛いへその穴が見えるくらいまで勢いよく曝け出し、そこに魔法で刻み付けた淫魔の下僕の印――淫紋を愛おしそうに長い爪先でなぞるのだった。
「あっ、あっ、え、エッチなことはいけないと思います!」
「おほほほっ! あなた様が天井のシミを数えている間にすべてが終わっていますわ!」
いよいよ淫魔は人間の股間に手を伸ばし、その秘部に刺激を与えようと――
「あら? これは…」
ぺたぺたぺた、淫魔は求めていたモノを探すように、その股間をまさぐった。
「あの…くすぐったいです」
「おかしいですわ。あ、あなた――女の子だったんですの?」
頬を紅潮させ、少女は涙目になりながらも、淫魔の質問に一生懸命に何度もうなずいた。
(□)第1話:幼馴染
「――それじゃあ、僕は女の子だったから、淫魔さんの餌にはなれなくて、その…僕も、淫魔になっちゃったってこと?」
「おほほほっ、そうですわ! でも、ワタクシの下僕であることには変わりませんので、これからあなた様には、ワタクシの下僕探しのために働いてもらうことになりますわ!」
その日から、僕は淫魔に生まれ変わった。
だけど、人間として生を受けた僕は、完全な淫魔とは違うらしい。
「あなた様は、穢れた精気のかぐわしい香りに敏感になって、そして、獲物を大人しくさせるために、少しだけ魔法を使えるようになりますの」
それは、人を魅了して、どんな言うことでも聞かせることができるらしい。
「たぁっぷりと溜まった穢れた精気の香りは、淫魔のメスを発情へと誘い、そうやって体を侵す抗いがたい感覚は、そのニオイをずっと嗅いでいるだけで、天にも昇る心地へと導いてしまいますわ」
お気を付けください、と彼女は言った。
それから、どうして女の子の僕のところに来たのかを聞くと、
「ワタクシの好みの見た目だったので、日の明るい内に目を付けていたのですが、遠目に観察しただけだったのが良くありませんでしたの。まったく、男装をしていたのはずるいですわ。それに…すっごく良いニオイを発していましてよ?
たっぷりと穢れの溜まった、ご馳走の香りが…あなた、相当ムッツリさんなのですわね」
お気を付けください、と二度も言われた。
それから、学校の放課後。
僕は、淫魔に命令されて、下僕候補となる極上の餌を探すことをお手伝いすることになった。どうやら、彼女の成人の儀式は、まだ終わっていないらしい。
「へえすごいじゃん、結局、先輩と一緒に海に行くことになったんだ」
「でもでも、水着とかちょっと恥ずいし、ねえ、どうしたらいいと思う?」
これから淫魔のお手伝いをしなければならないが、今は幼馴染に捕まって、夏の予定の相談を受けていた。
「とりあえず、水着でも見に行く?」
そうやってなんだかんだ話して、幼馴染と一緒に水着売り場まで遊びに行くことになった。
彼女は僕の腕に抱き着いて、初々しいカップルに向けられるような視線を良く感じる。
そして、それはいい感じに僕たちの男除けにもなっていた。ちょっと助かる。
「ねえ、どうどう?」
試着まではしないけど、体に当てて鏡でお互いに確認する。
「わあわあ、ちょっとエッチかも」
「うんうん、じゃあ、これに決定!」
二人でよく話し合った結果、勢いで一緒に同じようなパレオを買うことになった。久しぶりにナンパされそうな気がする。
「それで…なんか、向こうから告白されそうな雰囲気というか、そういう時に海って怖いじゃん?
それで、ちょっと付いてきて欲しいとか思うんだけど?」
「いいよいいよ、何日に行くか後で教えてね」
こうして、僕は新しいカップルが生まれそうな二人の間にお邪魔することになった。
…大丈夫かな?
(□)第2話:魅了魔法
夏って…すごい。暑いからかな? 歩いているだけなのに、穢れた精気の香りが漂ってくる。
僕たち4人は今、海に遊びに来ていた。
幼馴染を一緒に僕が遊びに来るということで、先輩の方もお友達を呼んだみたいだった。
「うっす、今日はよろしくっす」
「はい、よろしくお願いします」
海って、何をして過ごすのかなと思ったら、先輩たちがボールと浮き輪を持ってきてくれていたので、皆ではしゃぎまわった。
「疲れた、日陰が欲しい気分」
「ねえ、大丈夫? ずっと顔が赤い気がするけど?」
そんな幼馴染の発言を聞いて、血相を変えた先輩が慌てて休めるところを探し始める。
その場所は、人の出入りが激しい海水浴場で、周囲を見渡すと、ライフセーバーによって運営されている簡易テントを見つけることができた。
「すいません、運んでいいただいて」
「大丈夫っすか?」
変な丁寧語の彼は、僕の肩を抱いてここまで運んできてくれた親切な人だった。
…はあ、全然大丈夫じゃない。
「ちょっと、座ってくれますか?」
そうやって僕は、先輩を誘導した。
「僕の目を見て――」
「―――」
魅了の魔法に掛けられた先輩は、僕の言うとおりに何でも言うことを聞く下僕に成り下がった。
「先輩、そんなに良いニオイをさせてたら、ダメじゃないですか?」
僕は、淫魔に忠告された通り、先輩の放つ穢れた精気のニオイに魅了されて、何度も何度も、言葉には出せない気分に至って、疲れて意識が集中できなくなっていた。
だから僕は、必死に先輩の手を握る。
すると、その指先にキスをして、先輩から精気をチューチューと吸い取った。
「はあ、はあ…ごめんなさい」
この先輩はとてもいい人だった。
だから、もう一人の先輩と二人きりにさせてしまった幼馴染の下へ、僕は立ち上がって走り出した。
(☆)最終話:エッチなことはいけないと思います
幼馴染は、3年前に大学に進学した年上の先輩と交流があった。
だから先輩はちょっと大人で、そして、ジムに通い始めてからは体も大きくなって、最近は刺青も掘ったらしい。
どんどん素行が悪くなっているように見えたが、しかし、幼馴染はそんな彼のことが気になっているらしくて。それでも、とんとん拍子に関係が進むことには抵抗感を持っていたらしかった。
だから、建物の陰で幼馴染と二人きりになった先輩の目を見つめて、僕は彼を魔法で魅了したのだった。
「大丈夫?」
「よかったー! もうここまでかと思ったし!」
こうしてちょっと涙目の幼馴染には、僕が淫魔であることがバレていた。
事情を説明すると分かってくれて、僕はとてもいい友達を持ったと思った。
「セイギ君は?」
「ごめん、置いてきた、でも、すごくいい人だったよ」
すると幼馴染は、僕の腕を掴んで耳元でささやく。
「カレぴ?」
「うん、まあ…貢物かな」
僕はうっかり、良い下僕を見つけてしまっていた。
(△)エピローグ:犠牲者
「おほほほっ! ワタクシの下僕がよくやりましてよ!」
ベッドの上に横たわる先輩の体に淫魔の指先が触れて、言葉を紡ぐと、割れた腹筋の下あたりに、私と同じようなハート形の淫紋が浮かび上がっていた。
「さあ目覚めなさい、新しい下僕!
今宵ワタクシは、あなた様の穢れた精気を吸い付くし、淫魔に伝わる成人の儀を成し遂げるのです!」
へえ、吸い尽くすんだ…死なないかな?
ちょっと心配になった。
「――ちゅっ」
淫魔は、意識が朦朧としている先輩の唇にキスをして、そしてそのまま、彼の精気を吸い取った。
「ふう…あなた様もいかが?」
僕にも勧めてくるが、キスは遠慮しておいた。
「さて、もうワタクシのことが分かるでしょう?
あなた様はワタクシの下僕になりました。今日という日から死ぬまで、ワタクシたちに精気を捧げ続けるのです!」
「えっ」
なんだか、先輩とはこれから、長い付き合いになりそうだった。
<答え合わせ>
今回は、読者から物語に共感する気持ちを引き出す方法を説明することがテーマである。
言い換えると、どうやって読者を物語の世界に引き込んで楽しんでもらえるかの原理の説明である。
今回の物語の場合、主人公の「僕」は、タイトルに沿っている通り、幼馴染が困っている状況から魅了の魔法を使うことで救い出すことができた。
しかし、物語の序盤だけを見ると、そんな物語にはあまりみえないだろう。だから、2話までの主人公がエッチなことのために魔法を使っていたから、このタイトルの付け方はおかしいという人もいるだろう。
しかし、最終話になって、初めて幼馴染の抱えている問題が説明されて、そこでやっと、魅了の魔法は全部、幼馴染を助けるために使われていたことが分かる。
このように、読者の勘違いを誘う書きかたをしたのは、偶然なので了承していただきたい。
ここで、読者は最終話を見て、幼馴染がピンチであることを理解したはずである。それと同時に、主人公が幼馴染を危ない状況から救い出したことを理解したはずである。
今回の物語の場合、読者を物語に共感させるためには、
「ピンチの幼馴染」と「救われた幼馴染」
この二つが必要であった。
読者は、物語のタイトルを読んで「ピンチの幼馴染」の存在を知り、ああ、ここから何か救いがあるんだろうなと予想して、本当に予想通りのことが起きるのかを、文章を読み進めて確認していく。
しかし、今回の場合、第2話まで読んだときに、魔法は幼馴染のことにしか使わないはずなのに、タイトル詐欺じゃないかと誤認し、しかし、最終話で初めて事情が説明されることで、良かった、期待通りの成果が得られたと納得するのである。
まとめると、読者の共感を得るには、仮に、
「ピンチの幼馴染」を状態A、「救われた幼馴染」を状態Bとすると、
・状態Aから状態Bに変化することを読者が予想できること
が必要であり、その上で、大きな共感を得たいとすると、
・状態Aと状態Bのギャップを大きくすること
が必要なのである。
(補足:
「道端のゴミ」=状態A、「すごい美少女」=状態Bと当てはめてもいいし、
逆に、物語の内容によっては
「金持ち美少女」を状態A、「貧乏美少女」を状態Bと当てはめたように、
悪い状態になった方が良いとする復讐の物語や笑いの物語もありうる。
作者が想定する「どうでもいい存在」と「重要である存在」の大小関係を、
読者も同じ大小関係を感じていなければ、それは、読者にとって違和感のある物語となる。
その違和感とは、解釈違いであり、
「どうでもいい存在」から「重要である存在」へと変化していないから怒り狂うのである。)
だから、大きな共感を得られる例を言うと、
「すごくピンチの幼馴染」と「救われてすごく幸せになった幼馴染」
この二つがつながらないとおかしいと、読者自身に予想してもらう必要がある。
読者がそのように予想することで「最初から持っている使い道の無い資産」をちゃんと使える形にしてハッピーエンドに繋げないともったいないと感じるのである。
そのために、より追い詰められて悲惨な状況になるヒロインと、それを救い出す最高の活躍をするヒーローを描きたいと、多くの作者が考えるのである。
この物語は、
面白い物語の始め方と続け方と終わり方とタイトルの付け方
https://ncode.syosetu.com/n7330ie/
の応用編です。なので実際に活用したことが分かりやすいように書いてみました。
また、
【応用編】犬系ヤンキーは溶けない氷に憧れる
https://ncode.syosetu.com/n7981ie/
の物語よりも、この状態のギャップが明確なので、今回のサキュバスの話の方が面白いと思います。その点を、実際に読み比べてみてください。
捕捉:
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タイトル:立場逆転の原因(=最初から持っている使い道のない資産)
今回の場合は、魅了の魔法を手に入れた主人公が、幼馴染の立場を逆転させることになった原因である。