ユナイトストーリー 外伝3 銃と影
今回のお話は2章の続きのお話で、クウジが消えた後の物語を描いています。コーテックドラゴンことクロノスから様々な能力を与えられたことでチート、ハーレムなどを手に入れることになる彼ですが、彼の運命やいかに。
この物語の主人公クウジはコーテックドラゴンという時間と空間を操ることができるドラゴンに謎の提案をされ、望みが叶う、という理由から突如として自分の荷物まで準備された状態で別の世界へと転移させられることになった。「準備がいいのはありがたいんですが、一体どこに私は冒険に行くんですか?」「その銃が求めているような世界だよ」目の前の空間が歪み、別の空間への入り口ができた。「嫌なら転移で戻るがいい。今ならまだ転移で元に戻れるからな。だがこの先は世界からして違う。転移で元の世界に戻ることはできない。それでもいいか?」コーテックドラゴンの選択を迫る発言。この言い方からして、もう二度と師匠であるマタカだったり、フェアルさんに会うことはできなくなるだろう。クウジに託された銃はスピリットガンと呼ばれる物である。この銃は普通の銃と仕組みからしてまるで違うものだ。普通の銃は火薬で発射するものに対してこの銃は魔力を主動力とし、実体化させることで殺傷能力を持たせるものである。しかもこの銃が厄介なのはその魔力が負の感情を原動力としており、これは意思を持つ銃であるため使わなければ勝手に魔力が充填されていく。意思を持つ銃であるため持ち主の敵と銃が勝手に判断すれば味方であっても容赦なく発射してしまう。使わなければ弾が一杯出せるのは強みでは?と思われるかもしれないが、溜まり過ぎると魔力の暴発のリスクがあることが判明している。
感情という数値できないような銃の気分次第で暴発するなど武器失格レベルであり、普通の人間なら使いこなすのはまず不可能である。そんな武器をエキドナのもとで使いこなせるようになったのがクウジである。彼が目指しているのは銃の消滅。この武器を使うリスクは先ほど説明した通りだが、この武器は高温でも溶けないどころかエネルギーにしてしまう上、ほとんどの物理攻撃が効かない。オリハルコンという硬すぎる素材と、元々の出自が関係している。どこかに捨てるにしろ、影響の出ないところに捨てるということ自体は可能ではあるが厄介なのが意思を持つと言うこと。エキドナが試しに海に捨ててみたのだが、「勝手に戻ってくる、リターン機能まであるとなったら捨てるなんて無理だね」エキドナはあらかじめ鑑定で確認しておりその機能の確認のために捨ててみたのだが、海に捨ててもあっさり戻ってくるとは思っていなかった。というわけで破壊も廃棄もできない以上消滅させるしか方法はない。「消滅ってどうすればいいんだ?」「負のエネルギーを元にしているから満足させること、つまり敵を沢山倒す位しか方法はないね」クウジはここまで聞いていた。しかし、平和な世界で銃を満足させるほどの敵はなかなかいない。雑魚狩りでは感情が満たされないことはエキドナの実験で分かっているのでちょっとダンジョンに行った位では消滅とはほど遠い。コーテックドラゴンが言う「銃が求める世界」とはつまり、平和とはほど遠い別世界というわけである。つまり彼は銃の消滅のために別世界に行くか、平和な世界に留まったまま銃の消滅を諦めるかの二択を迫られているというわけだ。「俺は使命を持ってここまで来たんだ。行くしかないだろ」「その世界に行く前に力を与えよう。そのままではおそらくお前だけでなくその世界の人間も困るだろうからな」「なるほどな」ちょっと考えただけでも平和ではない世界なら食糧などが全体的に足りないということは想像に難くない。「私はコーテックドラゴンという名前で呼ばれているが、真の名前ではない。私の本当の名前はクロノス。時間の神と農耕の神、二人の同名の神が合わさった姿」「つまりどういうことだ?」「魔力と引き換えに食糧を生み出す力を授けることができる。更に私の力を込めた鍬を授ける。魔力で生み出した食糧の種を植えて土を耕せば凄いスピードで成長する」クロノスは魔法をクウジにかけ、一見なんの変哲もない鍬をクウジに渡す。「これで終わりか?」「そうだ」「試していいか」「いいぞ」魔法を使ってみる。食糧を出すイメージをしてみると、魚以外の大体の食事が出てきた。具体的には米や小麦、トウモロコシ、牛肉、大豆など様々。「肉が出てきたが農耕の神が出せる範囲内なのか?」「農耕は畜産の範囲もカバーするからな、牛や豚、鶏の肉も出せる。人間には肉は必要だろうかな、あえてそうしている」「助かるな」見てはいないが食糧が期待できない世界なので種類を確保できるというのは大きい。次に鍬をダンジョンで試してみる。ダンジョンの床は基本的に武器でも傷付かないほど硬い。そんな床に鍬を振り下ろしてみると、「?」あっさりと鍬が入った。剣を取り出して斬ろうとするが、あっさりと弾かれた。「凄い物であることはわかった。ここまでする必要があるのか?」「その世界には私にも目的があるから人を派遣したい理由がある。だが私自身は邪神の封印がある故、この世界に留まるしかない。そこで世界を観察していた中でお前に目をつけた。その銃の誕生理由とも深く関わる物だ、いずれその謎と向き合うことになるだろう」「よく分からないが、そろそろ俺は行ってくる。俺が死んだら師匠や誰かに伝言してくれないか?」「それは必ず約束する」「そうか」こうしてクウジは見知らぬ世界に旅立った。
その世界はクロノスの言った通り本当に荒廃した世界だった。しばらく進んでも建物もなければ人のいる気配もない。それだけなら普通の世界でもあるだろう。問題は地面にところどころある黒い焦げのような跡。それがどんな物だったかはもう分からない。ただ、その跡からは物凄い異臭が漂っていた。「なんだ、これは……」すると彼の身体は魔法によってどこか別の場所に飛ばされた。そこでは必死の抵抗が行われていた。「来るな!来るな!」人間の男達が戦っている相手は黒い化物だった。しかし、剣で彼らが攻撃しようともその化物は傷を再生して再度襲いかかってきている。触れられないように後ろに下がりつつ戦っているようだが、彼らの後ろには町がある。このままでは彼らはもちろん、町もこの化物にやられてしまうだろう。今こそこの銃の出番だろう。「くたばれ、化物」エキドナのところで魔物を殺したように次々と化物にヒットさせる。この銃の弾は魔力でできており、実体化させて攻撃するといったのは説明した通りだが、魔力を弾丸として使用するだけがこの銃の強みではない。「!?」化物の身体に穴が空いたかと思えば、突然爆発四散して再生もしない。「すごいや、助かったぜ。あんた一体何者だ?」「俺はクウジという。とある目的があってここにやってきた」「そうか、その目的とやらは今は聞かないでおこう。それよりも俺達についてきてくれないか?」男達に町に案内される。「人がいないようだが?」「こっちだ」案内されたのは小さい穴。「凄い人数がいるな」「奴らが何回も来るからな。住人達はこっちにほぼ避難している」そこにいたのは老人や女子供と言った非戦闘員達が大半だった。入り口も小さいが中もかなり狭く、ぎゅうぎゅう詰めである。そんな中なので子供の泣き声が響いていた。「ところであの化物は一体何者なんだ?」「俺達が知りたいぐらいだ。近くの集落はあの化物にみんなやられたらしくてな。見てもらった通り剣での攻撃なんかが効かないからなす術もなかったんだろうな」「ところでここの食糧って足りているのか?」「別の穴に食糧を確保しているが、持って数日ぐらいしかない。奴らが襲撃するから食糧を他から確保することができないんだ」「そうか」「そんなことを聞いてどうするんだ?」クウジは誰もいない町に出た。クウジは早速、クロノスから貰った魔法で次々と食糧を出していく。「本当にお前、一体何者なんだ!?」ちなみに地面について食べられなくならないように浮遊させている。しかも、彼は持ってきたマジックバッグに次々と食糧を詰め込んでいく。「魔法でもこんなでたらめな力なんて使えないぞ!」と見ている男がそう言う。「お前の力は分かった。しかしだな、この状態ではお前頼みで作っても長期的に見たら食糧が足りなくなるだろ?」「そう言うと思ったよ」「え?」想定外の返事に驚く男。「一体何をするんだ?」「空いている土地はないか?畑を作りたいんだが」「畑!?この土地は地盤が硬いし簡単にはできないぞ?そうだな、ちょっとついて来い」戸惑いつつもさっきの魔法を見ている以上、クウジが何か策を持っているのは明らかだったので、男は今は避難して誰もいない空き地に案内した。「ここなら勝手に作っても問題ないが、どうする気だ?」するとクウジは鍬を取り出して地面を堀始めた。ダンジョンの床でもあっさりと入った鍬なのでサクサクと鍬が入る。そしてあらかじめ用意しておいた作物の種を植える。「今俺が見ている光景は現実なんだろうか……」「現実だ。さらにグロウアップ」クウジはヒエノ島に商人として出入りしフェアルとも交流があった。そのときにクウジに複製したエレメント、木、水、土のエレメントを渡していたのである。
これは主人公達が不要になったエレメントを渡したのだが、それをフェアルがヒエノ島の開拓に使い、さらにそれを複製してクウジに渡したのだ。「なんでそんな早く芽が出るんだ!?」植物魔法グロウアップで異常なスピードで成長する作物。芽が出たと思ったら、みるみるうちに成長し実をつけた。その間わずか20分ほど。男が慌てて避難していた人達を連れて空き地に戻った時にはそこには麦畑ができていた。「これは一体どんな魔法なんですか?」「すみません、そこって何もないただの空き地でしたよね?」女性陣が興味津々で次々と質問をする。そんな感じでワイワイやっていると、「まずいな、奴らが音を聞き付けてやってきたみたいだ」「俺が行く。皆さんは隠れててください」クウジは一人で行こうとしたが、倒しかたを見ていない人は畑を突如出現させたこともあり興味津々で彼の戦いぶりを見るためについてきてしまった。銃で次々と化物を一人で倒していく姿は女性達を虜にするには十分だった。「かっこいいね、あんた」「凄いです!」「おやおや、だいぶ懐かれたようだな」「しかしこんな音でいちいち化物がやってくるようだと寝ることも怪しい感じみたいだな」「そうなんだ。なんとかしたいんだが」「なら結界を張ればいいと思うけどな」「そんな簡単に言ってもな、そういうのは専門の人間が……ってえ?」話している間にあっさりとクウジは結界を張ってしまった。結界のあるヒエノ島に入るにあたり結界に関する勉強と結界を作ったり壊したりすることは一通りできるようになっていたのだ。「お前さんは本当に常識をはるかに超えてくる男のようだな」今までの行動を見てきた男、バースはそんな感想しか出なかった。「ひとまず安全が確保できたので畑の小麦を収穫して加工したいんだが、そういう場所はあるか?」「この町にはパン屋があるからそこにあるかもな」「じゃあ、その人がいればお願いしたい。小麦の加工はさすがに素人だからな」「今までのを見ているとそういうこともできるのかと思っていたが」「何でもできるわけじゃない。俺だって人間だ」避難している人の中でパン屋が見つかったので早速加工をしていく。クウジは魔力で食糧を追加で出して住人達が調理をし、町の人間皆に分け与えていく。「すごいねぇ、あんたのする行動には驚きしかないよ」一人の女性が調理をしながら彼に声をかけた。「そろそろ教えてくれないか?ここまでの力を持つお前さんは一体何者で、何のためにここに来たのか」バースはそう問いかけた。「そうだな、力を見せている以上説明する必要はあるな」クウジは説明を始める。別の世界からやってきて、危険な銃を処分するためにやってきた。この世界は平和ではないため、食糧を確保できない可能性が高いためこの力を授かったこと。そして目的である銃がどれほど危険な物であるかも説明した。「大変な使命を負ってきたんだな、お前は」「あの化物がこの銃と関係している、と送り出した神は言っていたな」「まさか神の御使い様だったなんて」若い女性達が次々とクウジの周りに集まる。「あの……これは一体?」「あれだけ色々やっておいて今更だな。皆お前に惚れたのさ」「え!?」普通の物語ならもう少し過程があってハーレムに突入するものだが、ここでは色々な状況が重なっていた。食糧もいつ尽きるか分からない状況で、さらにいつ化物が町に気付くかも分からない。そんな状況に訳の分からない力で次々と問題を解決していったのだ。しかも後で出てくるがこの町の若い男達は皆を守るため化物に勇んで突撃して死んでいたのである。だから未婚の男の存在が貴重だった、という状況も加わっていた。そして夜。彼は女性達に連行される形で避難して誰もいない建物に連れて来られていた。これから始めることを考えると子供達がいるところでやるわけにもいかないからだ。「では始めましょうか」女性達は次々と服を脱ぎ始めた。当然連れて来られている時点でやることは理解している。(もう少し手順を踏んで、自分が好きになった女性としたかったな)と心の中でつぶやくクウジ。極限の状態なら性欲が高まるのも当然だし、子供を作るのは未来のためにも必要なことである。諦めたように彼も服を脱いで、やることをやっていく。どんどん搾り取られるので、魔力で無理やり精力を回復して次の女性を抱いていく。全員とやった後は体力も気力も魔力も尽きて彼はすぐさま寝落ちしてしまった。「仕方ないですね……」女性達は服を着て裸で寝てしまった彼に服を着せてベッドに寝かせた。「ありがとうございます、御使い様」それからの数日は昼間は化物との戦いや食糧の増産、夜は女性達とのふれあいという日々を繰り返していた。数日も繰り返すと、体力や魔力も余裕ができて彼女達とやった後、とあることを試みていた。「おい、聞こえるなら返事をしろ」乱暴な独り言をつぶやくと「聞こえるぞ。我は時間も空間も越える力があるのだからな」クロノスがそう返事をした。魔力を飛ばして世界を超えて会話をしているのだ。「そろそろあれの正体を教えてくれ」「あれはシャドーコープスだ。名前位は聞いたことがあるだろう」「ああ、ユナちゃん達が立ち向かった敵の名前だな」「奴らは影から生まれ、人や動物、魔物を支配して乗っ取る。特徴として本体が影なので通常の物理攻撃をしても再生してしまうことだ」「それはさすがに見たことがあるぞ」「対策としては身体全てを吹っ飛ばすか、魔力の供給を絶てば倒すことができる」「そうやって倒してきたし、余裕だな」「そんなこと言うのならば」言葉の途中に転移が始まった。「おい、ちょっとま……」しかし転移は止まらず、彼は見知らぬ場所に飛ばされてしまった。ちなみにこの数日の間にあの男、バースに銃の一丁を託しており、彼も使えるようになっていた。大半の食糧は穴ではなく結界のおかげで食糧庫に保存しており、数ヶ月は持つ量はあった。「安心しろ、転移の魔法が使えるからいつでも戻れるぞ」転移した後に言われた一言にクウジはちょっとほっとしたのだった。
転移で飛ばされたのは森だった。気がつくと周りには影の化物に囲まれていた。「いきなり厄介だな……」転移で戻ることができるとはいえ、奴らに触れてはいけないので転移中の隙を与えてはいけないのだ。「若い連中は皆を守るためになんとか戦っていたさ。斬っても斬っても倒せず、連中の一人がうっかり奴らに触れちまった。すると反対にこっちに攻撃をしてきた。苦渋の決断でそいつを倒さざるを得なくなった。そいつと軍団を触れないように相手にするのは難しく、若い連中は全滅した」バースが語った事実から、奴らに触れてしまっただけで奴らの仲間になるか、前も見た黒い跡のような状態になってしまうらしい。「さて、やるしかないな」銃を二丁構えると乱れ撃ちをしていく。接近する敵にも銃からの攻撃がヒットする。銃に意思があり、魔力を実体化して攻撃するためある程度ホーミング状態になるのだ。付近の化物が大体いなくなったのを確認する。「ふぅ、とりあえず町を探してみるか」森はかなり広く、行けども行けどもなかなか出口が見えて来ない。その間にも敵がわらわら沸くのでその度に倒す。
「魔物も出てきているが、影の影響が出ているみたいだな」しかしクウジはシャドーコープスの真の恐ろしさをすぐに知ることになる。森をなかなか抜けられず、食事休憩を取ることにしたクウジ。「ちっ、なんだこれは」パンを食べようとした彼に影から魔物が襲ってきた。「影の中に入れるのか……厄介極まりないな」バッグから銃を取り出してさっさと倒したものの、そのパンは地面に落ちて無駄になってしまった。「仕方ないな、銃は取り出せる位置に携帯しておこう」クウジはズボンに銃を引っかけると、食べながら移動することにした。パンを襲われないようにさっさと食べてしまうと、敵を警戒しつつ森の出口を目指した。「ようやく出られたか、ってあれ?」クウジは見たことがある町に到着した。「ここ、ミガク王国だな。この特徴的な建物は間違いない」しかし、彼が見たミガク王国と今見ているこの町では違うことがあった。「町が強力な結界に覆われているな。人の出入りもない」とりあえず町に接近すると、警告音のような物が中から聞こえた。「魔物が出たぞ」結界の中から兵士が集結し、外の魔物らしき物に対抗しようとする。「ちょっと待て。俺は魔物でも化物でもないぞ」「人の形をしている化物かもしれない。警戒は怠るな」兵士達は武装は解くつもりはないようだ。とりあえずクウジは門に接近した。すると結界の外に人が出てきた。「ふむ、お前さんは化物の仲間って感じではなさそうだな」「だからそう言っているだろうが」「商人を入れようとした瞬間に化物になったこともあったからここでは必ず門の前で確認するのさ」「なるほどな」門の兵士の確認によってようやく入る許可が許された。「あんまり前の世界と変わっていないな」ミガク王国に入って初めに出た言葉がそれだった。とは言え食糧に苦労している様子もなく、結界があり、兵士達もいて侵入を許していないことからもここは力を使う必要がない、と考えたクウジは「あの町が心配だな。ひとまず人気のない場所から転移で戻ろう」と転移で戻る決心をした。人気のない路地に入ってから転移をして町に戻ってきた。「心配しておりました、御使い様」夜の女性の内の一人に発見され、皆が集まってくる。「外の状況は変わっていないか?」「ええ、結界のおかげで侵入は防げています。ありがとうございます」「畑はどうなっている?」「順調に育ってますよ」心配で戻ってきたが、あまり状況が変わっていないのでクウジは安堵した。しかし、彼の中に疑問が浮かんでいた。ミガク王国があった以上、この町もニアアースにある町の可能性が高い。「ちなみに思っていたんだが、この町の名前ってなんだ?」「リチ町ですよ」「そうか、ありがとう」やはり東大陸にあるリチ町だった。彼はヒエノ島の隣町なのでかなり見慣れているので、明らかに前見たリチ町の様子とは異なる様子に戸惑っている。「別の世界なのか?本当に」とつぶやくと、「どうしたんですか?大丈夫ですか?」女性が心配そうに言う。「ああ、少し気になっただけだ」
夜になると女性達とイチャイチャする。数日も抱いていればクウジとて情が沸く、というものである。そして終わった後、変わらず彼はクロノスと交信をする。「もしかして、この世界は100年前の世界なのか?」「どうしてそう思ったんだ?」「シャドーコープスが百年前の戦争で暴れていた、というのはマタカ師匠が言っていた。そして町の様子こそ変わっているものの、名前は変わっていない。これが俺がその説を推す理由だ」「その通りだ。現代の暗黒卿がこの世界にどういうわけか渡ってきてな、歴史改変をしようとしているのだ」「なんだって!あの黒い化物の親玉が、か?」勇者達が戦い、ウィマの放送によって人々の絶望は希望に変わった。弱体化した暗黒卿は本体からラーヴァナが抜き取られ、残った部分は全てピレンクの影キングに吸収された。その後がこのお話に関わる部分になる。捕らえられたラーヴァナは竜の隠れ里にいた閻魔大王によって裁かれた。そしてラーヴァナは地獄に送られることになった。しかし抜き取られたラーヴァナにも暗黒卿の影が残っていた。邪神ハデスの手下だった暗黒卿にとって地獄は時空を自由に移動することができる空間だったのだ。そしてラーヴァナにいた影は時空を移動、シャドーコープスの勢いを増して人類を滅亡させる歴史に変更できるように画策したのだ。そしてそれに気がついたコーテックドラゴンはそれを打ち倒せる戦力を持つクウジをこの世界に派遣した、というわけである。「奴はどこにいるんだ?奴を倒せばこの銃も消せるんだろ?」「そうだ。だがそんな簡単じゃないぞ。影の世界の親玉だから簡単に場所を移動できるんだからな」「じゃあどうすれば」「シャドーコープスをどんどん倒せ。今から別の場所に飛ばす」「いきなりかよ」もう抵抗はしなかったが、大変な道のりになることは想像がついた。「奴らを倒す冒険か……勇者に俺もなれるかもしれない」独り言をつぶやいた彼は転移で別の場所に移動した。その場所はいきなりの街中、しかも戦闘中だった。
「まずいな」その場所での戦闘は圧倒的な化物有利で進んでいた。人々は逃げ惑い街の大半が化物によって占拠されていた。当然追い付かれた人達は奴らの仲間にされている。「影への魔力の供給を絶てば影だけを倒して操られた人達を解放できるかもしれない」前にクロノスが言っていた対処方法。銃で吹き飛ばすのは再生せず倒せるが洗脳されている状態の場合は使えない。しかし簡単に言うが魔力の供給を絶つのは難しい。「まずは化物を排除してからじゃないと無理だな」どんどん化物だけを撃って爆発させる。銃も意思を持っているので思いが伝わったのか化物だけを狙い撃ちしている。近くにいた化物を大体排除できたので、まずは近くにいる人々を洗脳から解放することにした。やり方はクウジは散々悩んだのだが、影の本体は人々の影にいるのでそこを攻撃して分離してから倒す作戦に出た。背後に回り込んで銃で影を撃って、飛び出た影を銃で倒す。「見てないで回収してくれないか」クウジがそう言ったので後ろで見ていた人々は慌てて解放された人達を回収して後ろに下げていく。洗脳された人達を粗方解放したあと、化物が占拠する町を少しずつ解放していく。建物の中に逃げたりしている敵も逃さず倒し、夜が明けて昼間になる頃には化物どもの占拠している領域はかなり狭くなった。基本的に影は夜が一番強くなり昼が一番弱くなるようで、朝になった時は動きが鈍くなっているのが確認できた。そして建物も含め影を完全排除する頃には夕方になっていた。飲まず食わずで敵を倒し続けていたのでその場にへたり込んでしまう。「本当に助かった。この場の人間を代表して感謝する」「そうか……とりあえず何か食べて寝るわ」バッグから食糧を取り出すと、人々が欲しそうな顔をしていたので、魔力を使って食糧を生み出す。「これは神の思し召しか?」「いや、俺の力だ。また来るからとりあえず寝かせてくれ」クウジはこのままいるとまずいと感じ、一旦リチ町に転移した。食べ物を食べて力を使い果たした彼は転移した状態で寝てしまったので女性達が建物で寝かせることにした。「いつも気がついたらいなくなっているんですから、目が離せませんね」翌日。目を覚ますと女性達が待っていた。「どこに行っていたんですか、御使い様。そろそろ説明してもらいますからね」何回も彼女達に無断で消えている以上、何をしているのかは説明しないとまずいと判断し、昨日やっていたことを包み隠さず説明する。「さすが御使い様ですね。しかしここもだいぶ化物を見かける数が増えてるようです」「そうか、ならこっちも倒しておこう」クウジは結界の外に出ると、人の気配に釣られて出てきた影達を倒していく。「終わったぞ、ちょっと前日のこともあるし昨日行った場所に行ってくる」「私も行きます」「ちょっと待て、なぜ行くんだ」「あなたを放っておいたら勝手に寝てしまって凍死しかねません。昨日だってちょっと発見が遅れていたらそうなってたかもしれません」その女性、エーリアはついてくると言ってきた。昨日の件もあったためついてくることに結局同意せざるを得なかった。転移で一緒に移動して昨日の町にたどり着く。そこでは化物に破壊された建物を直そうとしていたりする光景が見られたのだが、町の人々の姿はほとんどいない。「変ですね。町がここまで壊れているのに数人しか復旧作業をしてないなんて」「ああ、何かが起ころうとしている」そしてクウジは思い当たる場所に行ってみた。そこには怒り狂う住民達が結界に入ろうとしていた。「やっぱりか」「どういうことですか?」「結界が張られている場所は王城だ。町の住民達が化物の犠牲になっている間、王様は結界によって安全な場所にいたわけだ」「それのどこが悪いんですか?王様を守るのは当たり前な気がしますが」「まぁ見てればわかるさ」すると声をあげる住民達。「食糧も分けないでよくも自分達は安全な所でぬくぬくといられるな」「軍隊の一つさえ寄越さなかった王様なんていらない」押し入ろうとしているので徐々に結界が壊れそうになっている。おそらくそこまで強固な結界ではないのだろう。「そういうことですか。食糧も兵士も来なかったらそりゃ怒りますね」「ああ、おそらく俺がいなければ……」「おや、あんた!」ここで俺と言う言葉に反応したのだろうか、群衆が一斉にこっちを見た。「ここにいる男の人が頑張ってくれたから私達は助かったんだ。あんた達は棒立ちで嵐が過ぎ去るのを待っていただけだった」群衆達に引き寄せられ、先頭に担ぎ出されるクウジとエーリア。「確かに食糧は分けるべきだな。ただここで人間同士の争いを起こされても困る」クウジは短い転移魔法を使うと、食糧を魔法で次々と生み出す。空腹だったからか我先にと次々と群衆が群がり、すっかり門の周りには人が消えてしまった。「本当凄いですね」人々は空腹が満たされると一旦散っていった。「まぁ、これを持続しないと同じ事の繰り返しですよね」「ああ、わかっている。とりあえずは怒りの原因をなくしたんだ」人々がある程度いなくなったのを見て、彼は再び結界が張られた門の前に立った。結界の向こうでは兵士達が警戒している。「これだとあっさり壊されるから変えたほうがいいと思うぞ」「貴様、結界を壊すとは何者だ?先ほどの魔法といい只者ではなさそうだが」「少なくともこれくらいは必要だな、それで認証制にすれば強度を確保しつつ王様達は出入り自由になるぞ」「!!」「やっぱり御使い様はさすがです」強力な結界をあっさりとクウジは兵士達の目の前で張ってみせた。「やはり貴様は怪しい。王の元に通すわけにはいかん」兵士達が物理的に道を塞ぐが、浮遊魔法を使って浮かせてあっさり包囲網を突破してしまう。続々と兵士達が集まってくるが、ここでついてきたエーリアの能力が明らかになる。「な!?身体が勝手に?」集まろうとした兵士達が明後日の方向に向かってしまい、弓矢で攻撃しようとしても変な方向に撃ってしまう。「これがお前の力なのか?」「はい。意識的に使うのは初めてですね」彼女の能力は魔力を使って物や人を特定の方向に行かないようにさせる力であり、一種の結界のようなものである。「とりあえずお前のおかげでなんとかなりそうだ。突破させてもらって王のところに行こう」兵士達は彼女の力で彼らを攻撃できず、あっさり王がいるであろう部屋にたどり着いた。クウジが王のところに行ったのはきちんとした理由があった。王様に何かあったら大変だから結界で守る、ということは当然理解していたが、軍隊を派遣しなかったり食糧の備蓄を食糧に困った人々のために解放しなかったりするのは王として違うと考えていた。人々から聞いた話だと数ヶ月ぶんの食糧がこの城の貯蔵庫にはあるらしく、多少分けたところですぐになくなることはないようだ。「どんな奴か見せてもらおう」彼が扉を開けた先では王が王妃とやっている最中だった。少なくとも国の危機であるにも関わらず、公務などお構い無しでそんなことをしている様子に彼らは激怒した。「一国の王が昼間から何をしているんだ」「一体お前達は何者だ!おい!誰か来ないか!こいつをつまみ出せ!」王も裸のまま怒っているが彼らの元には誰も来ない。「失望したよ。少なくともお前が王のままでは復興もままならないだろう」「おい、よせ!やめ……」王の言葉はそこで途切れた。クウジが銃で射殺したからだ。「お許しください!どうか、どうか命だけは!」隣にいた裸の王妃も命乞いをする。「なら、俺の女になれ。庶民として暮らすのなら許してもいい」「そんな!辱しめを受けろと?」「そうだ。国民は今影の化物のせいで食べ物さえ得るのが難しい状態だ。だから同じ水準に落ちてもらう」「本当に命は助かるんですよね?」「ああ、それは保証しよう。エーリア、服を出してやれ」「でもドレスが」「そんな物普通に暮らすのには目立つだろ。これでも着てろ」渡したのは至って普通の服だった。「待ってください。ここには王の愛人達もいるんです。その方々もどうにかできませんか?」「そうだな……王を殺した俺が言うのもなんだがそいつらはそのままだと殺されるか慰み物になるかだな。慰み物にされて生き残るならまだしも飽きたら捨てられて殺されるのがオチだろうし」王の官僚や兵士達はよっぽど逆心を持っていない限りは生かしてそのまま使うつもりでいるクウジは彼女達も連れていくことにした。もっともクウジは銃の件もあるし次の王になるつもりは毛頭ない。有能な奴に引き継がせてしまうのだ。愛人達も含めてリチ町に一旦転移し、町に戻るとまた門の前には人が集まっていた。「待て、王は倒した」王の首を取り出す。「おぉぉ!」王妃が命乞いをしている間、剣を使って王の首を切っていたのだ。「だが、俺が王になるつもりはない。この集団をまとめている奴はいるか?」「はい、ここに」「では、お前が王になってくれ。基本的に王の官僚達はそのまま使えると思う。食糧の問題は俺がなんとかしよう」「あの力で、か?」群衆の一人がそう尋ねる。「未開拓の土地はないか?」「あの王が公共事業をなかなかやらなかったから沢山あるが……どうしてそんなことを?」「分からないから案内してくれ、わかる奴一人でいいぞ」「こっちです」クウジ達は広大な空き地に移動する。そこは泥でぬかるんでおり住居も畑も作れないような土地だった。灌漑を行えば十分人が住めたり畑としての利用価値がある場所だったが、公共事業をしなかったとはこういうことなのだろう。「なら、俺の出番だな。土のエレメント」土魔法を使い、土壌を改善し、水魔法で脱水を行う。水魔法は攻撃以外の用途でも使用でき、土の水分を操ることで飲み水を作ることもできる。ただそのままでは汚いので、浄化魔法を使ったりする必要はあるのだが。一瞬にして住むことも畑にすることもできる広大な土地を作り出したクウジを見て人々は驚愕した。「驚くのはまだ早いですよ」エーリアがそう言うと、クウジは鍬を取り出す。土を耕し、種を植えていく。「グロウアップ」植物魔法を使うと芽が出た。「!!」リチ町でもあったこのやり取りだが、こことリチ町では土地の規模が違いすぎる。この広大な土地を全てを高速で育つ畑にできるメリットはリチ町の比ではない。とは言え、土地が広すぎるため、数日をかけて少しずつ進めることにした。
次期王はクウジが作った結界を越え、兵士に取り囲まれていたが王として城内の混乱を抑える、と説明すると「貴様の手腕がどれほどか見せてもらおう。前の王は仕事をほとんどしていなかったから大変だったのだ」となぜかあっさりと兵士達は中に通してくれた。「これは全くと言って仕事をしていないようだな」各地での予算要求の書類などが王の部屋には山積みになっていた。影の化物の事件の影響なしでこれなのだ。ここに影響の物が加われば部屋が書類で埋め尽くされるほどになるだろう。次期王、グンダは早速王の承認をしていく。この男は地方の役人をしている男だった。影の化物に追い立てられて家族共々ここまで逃げてきたのだ。クウジに化物の仲間にされた子供を救われたことで彼には恩があったためグンダは無茶苦茶な要求も飲んだのである。グンダは王の官僚を呼んで仕事を指示した。彼らは王の承認待ちの書類が来ないことで仕事を持て余していたのだが、グンダがしっかり山積みの書類を片付け始めたことで次々と仕事を始めていく。「あのお方は救える命は全て救ってきた。そんな人が王の首を取るなんて前の王はよほど彼を怒らせたのだろうな」シャドーコープスにされた人々は時間が経っていた場合は一体化してしまって救えないのだが、クウジは一体化していない人は全て救ってきたのである。彼の仕事を見ると王がしっかりしていると判断し兵士達は彼を害そうとすることを辞めた。影の化物がいるのに人間達同士で殺し合っている場合ではないから、という理由もある。さて、クウジは連れ帰った女性達も含めてやっていた。ちなみに彼女の子供達(前王の子供でもある)はリチ町の子供達と元気に遊んでいた。彼女達はひどい扱いを受けると覚悟しながら彼の相手をしていたが、クウジは他の女性と扱いは同じにしていた。「わざわざ連れてきたのにそんなことする理由がない」かららしい。ちなみにクウジが相手にしている女性はすでに20人以上のため、1日で全員を相手するのは難しく、今相手にしているのは連れてきた女性達だけである。さて、夜はともかく昼は畑の開拓や食糧を魔法で出したりする仕事をしていた彼だが、向こうでもだいぶ女性に気に入られたようだ。特に彼に命を救われた女性達は積極的に彼を誘惑している。エーリアも事情は理解しているのでホテルでお持ち帰りをすることになった。「随分楽しんでおるようだな」「そっちから連絡をよこすとは、何か起こっているようだな」女性達の相手をした後、クロノスから連絡が来た。「とある土地で竜人や魔族達が影と戦っているが、そろそろ厳しくなってきた。救援を頼めるか」「その感じだとマーリセ国ってことだな。影と数日戦ってなかったし、行こう」バース同様、兵士長に銃の一丁を預けておいたので仮に襲撃が起きても大丈夫なようにしてある。強力な結界による避難所も作っておいたため、二段構えである。クウジはまたしても戦いに身を投じることとなった。
エーリアはクウジとともにいつの間にかついてきていた。竜人達は肉弾戦を挑んでいたが、あまり洗脳を受けている様子はない。人間とは違うのだろうことは分かる。いつも通り銃を化物に向けてぶっぱなすと「何するんだ!お前」なんと竜人の一人に当たってしまった。この銃はなまじ意思を持っているため敵だと思った相手には勝手に当ててしまうのだ。「竜人だから治るけどよ、人間相手なら死んでるぞ、ってうわ!」身体を再生して治すことに必死過ぎたのか周りを見ていなかったその竜人は影の化物に取り込まれてしまった。「さすがにあれは俺の責任だ。他の奴も含めて助けるぞ」「この銃め、化物と人の区別くらいつけろ」人は彼の努力もあって撃たなくなっていたが、竜人は初めて見たせいもあってか化物側と判定したらしい。エーリアが領域を展開したこともあり他の化物と引き離すことに成功したクウジは影を正確に撃ち抜き、影を倒す。「すまなかったな」「倒せればなんでもいいさ。あんたのほうが強そうだし、これ以上巻き込まれるのもごめんだ。後ろで様子を見させてもらう」「ああ、そうしてくれ」他に戦っていた竜人達もこの様子を見ていたためか、あっさり後方に下がった。ちなみにエーリアもこのときに後方に下がっている。「よし、じゃあさっさと終わらせるか」影の化物達は本気を出した結果数十分もしないうちに全滅した。「あんた、やっぱり滅茶苦茶強いみたいだな。銃の扱いもそうだが、敵の攻撃を避けたりするも素人とは思えない」「まぁ、銃もだけどその辺は師匠にみっちり仕込まれたからなぁ……」マタカは弟子として彼を取る上で銃の扱いをマスターさせていた。基本的に試合とかそういう場面では剣を使用するマタカだが、魔物などの雑魚戦だったりは銃を使うほうが多い。だからこそ弟子にも銃の技術を教えた上で回避、防御や受け身の技術も教えていたのである。まぁ、この銃は特殊なので残弾不足やリロードを気にしたりする必要がないのは強い部分だ。「安心しているところ悪いが、ここ以外にも影が攻撃している地域がある。すぐに次の場所に飛ばすぞ」「悪い、すぐ別の場所に行く必要があるみたいだ」「すぐ行きます」彼女をここに残すわけにはいかないので二人で転移する。「ひどいな……前もこんな感じだったが土地の規模からして違うな」建物が密集するエリアには影の化物だらけで、人らしき人は誰もいない。おそらくどこかに身を潜めているのだろう。「とりあえず接近できないようにして、銃でどんどん撃って遠隔で倒しましょう」「ああ、馬鹿正直にやってたらすぐに取り囲まれるのがオチだ」二人は連携して次々と倒していく。接近できなければ化物達はただのかかしでしかない。少しずつエリアを解放していく。影に潜ろうとする賢い個体も何体かいたが、エーリアの能力で明後日の方向に行ってしまうため無意味だった。建物内部もしっかり調べる必要があったため気がついたら夜になっていた。しかし全滅とまではいかない。土地が広い上に建物の上の階層にも潜伏しているのが確認できたため、油断ができないのだ。しかもここは人がいないためか完全に真っ暗になってしまい、化物を視認することができない。「仕方ない。一旦退こう」「ええ、引き寄せないようにしていますね」仕方なく初めての撤退をすることになった。戻ったのは女性達がいる建物。ずっとその建物を使用していたので正式に彼の所有する建物となり、諸々のお金に関しては化物のおかげで誰も持っていないし、現状では使えないので免除になっている。「おかえりなさい」「ああ、今日は疲れたから勘弁してくれ」「そうですね。ご飯は食べましたか?」「まだだ。食べたのか?」「いいえ、待ってましたよ。もう少ししたら食べるところでしたが」保存庫から食材を取り出し、女性達が料理をしてテーブルに並べる。「みんなで食べるのは初めてだな」「そうですね。私達が来てからは初めてです」ちなみにこの会話している女性は王の愛人だった女性の一人である。「で、今日はどうされたんですか?」勝手に転移でクウジがいなくなるのが彼女達にとっては日常なので、クウジが転移した日には必ずこれを聞くのがお約束になっている。エーリアは彼についてきている女性なのですっかり第一夫人のような扱いを受けている。「ああ、とある国で化物と戦っていたんだ。でも数が多いし潜伏もだいぶしている上に夜になったから一度撤退して帰ってきたんだ」「人が多そうな都会的な町なのに人はいなくて影の化物しかいなかったんですよ」エーリアが補足の説明をする。「そうですか。とりあえず寝てください」勝手にいなくならないで、は言うだけ無駄なので彼女達はもう諦めている。もっとも新しく来た女性達はクウジに対して多少の恩義は感じているものの、恋愛感情は持っておらず、子供が欲しいからと理由での肉体関係のみである。少しだけ脱線して補足の説明をすると、この世界は本編の100年前の世界であることは説明したのだが、どういう状態なのかというと化物達によってミガク王国以外の主要な軍隊がやられた世界であり、(ルブラ王国は滅亡している)あの城の兵士達は結界で生き残った近衛兵士達なのである。そんな世界だから人間達は生存に危機感を抱いているため女性達が積極的に子供を欲しがるのだ。話を戻すと強い男性であるクウジにはただでさえ女性が集まりやすい状況なのである。家はすでに沢山の女性(20人以上)いるため泊まる時は複数の家を使っている。化物のせいで持ち主が亡くなった家を暗黙の了解で使わせてもらっているのだ。「おやすみなさい」「ああ、おやすみ」別々の家に移動して寝る女性達。今日は本当に疲れていたのでクウジは一瞬で眠りについた。翌日、前回と同じ場所に移動する。警戒しているのか化物達は外にはいない。「昨日調べた場所も調べるしかなさそうだな」「そうですね。化物も知能があるみたいですし」クウジ達は建物をしらみ潰しに捜索する。化物達は家具に隠れたりして強襲を試みるが、彼らが一番警戒している場所なので失敗して返り討ちに遭う。「これで大体終わったか?」「わかりません。ですが避難している人達を探さないと」ほとんどの建物は潰して回ったのだが、いかんせん総数がわからないため安心できない。それよりも2日避難していると考えると食糧などの関係もあって心配になる。そのとき静寂が包んでいたこの町に子供の泣き声が聞こえてきた。「!」「とりあえず行ってみよう」声の方向に向かってみるとシェルターの頑丈な扉があった。「ここだな」「何者だ!」シェルターから大きな声が聞こえた。化物ではない人間の声に反応したようだ。「ああ、俺達は怪しい者じゃないぞ。影の化物達はあらかた倒したしな」「あの化物を倒した……だと?通常の武器が効かない相手にどうやって?」「特殊な武器を持っているのさ。それよりも食糧は大丈夫か?」その質問を聞いた相手は恐る恐る外に出てきた。「怪しいが確かに化物は周りにはいないみたいだな。あいにくここには食糧はないからお前達に分ける物はないぞ」「やはりそうか。ならどんどん作ろう」「お前は何を……は!?」魔法で食糧が生み出される光景に呆然とする男。シェルターから様子をっていた他の人達も驚きを隠せない。「すごい力だな」「さーて、料理を作って皆さんに分けますよ」エーリアがそう言うと皆とても喜んだ。料理する器具はバッグに入れてあり、作業用の机などもバッグから取り出せる。「あんた達一体何者なんだ……」「まぁ、救世主と言ったところかな」「確かにやっていることは救世主そのものだが」皆で食べる食事。久しぶりにお腹一杯に食べたのか子供達はシェルターの中ですやすや寝てしまう。「とりあえず今のうちにあんた達に確認して欲しい」「そうだな、化物がいなければこんな生活しなくていいからな」大人達と一緒に改めて建物内部を捜索した。案の定数体は残っていたものの、完全に化物を駆逐することに成功した。「助かったよ。これで日常が送れる。なんとお礼をするばいいか……」「別にお礼なんて」「なら私との子供が欲しいです」「うっ、やっぱり来たか」「応えてやってくれ。せめてもののお礼だ」エーリアはジト目で見たものの、この流れは彼と旅をする上で何回も見ているのであえて追及はしない。それどころか、彼女の役割は女性達の心のケアをしつつ、彼としたい人とさせる役割なのだ。人の目があったりするとなかなか彼の子供が欲しくても名乗り辛い、という女性も多い。それはエーリア自身も感じていたことなので、経験者としてサポートしているのだ。ちなみに閉鎖的なシェルターなどにいるのだから、主人公以外の男性とやっているのが普通だろうと思うだろうが、実際人の目があるのでやっているのは少数であり、女性達は襲われないようにしている。子供が欲しい、と言ってもさすがに人は選びたいと思っている女性が大多数なので誰とでもやるわけではないのだ。「そうだ。エーリアに転移デバイスが欲しいんだが」「どういうことです?」「俺がいないと転移できないのは厄介だろ。転移デバイスを持っているのは見たからな」「じゃあ、先ほどのお礼としてこちらを」男性はデバイスを差し出した。「本当にいいのか?お願いしといてあれだが」「ええ、予備はありますから。建物に行ったついでに回収しておきました」「なるほど、とりあえず報告に戻りますね」エーリアは彼が転移デバイスを欲しがった理由を理解した。夜別の場所で泊まる(主に女性達と子作りをすることが目的)ときに報告できないと家の女性達がクウジが外で何をしているかわからないからだ。クウジはそのまま女性達と一夜を共にする。エーリアも合流したので最後にすることに。なんだかんだクウジはエーリアのことは経緯こそあれだが大切にしている。「お楽しみのところすまないな」「お前が連絡をよこすってことは……」「ああ、そういうことだ」「仕方ない。行くぞ、エーリア」「仕方ありませんね」服を着て速やかに準備する。真夜中に彼らは転移することになった。ちなみに銃をデバイスをくれた男性に渡しており、隣で一緒になって化物を倒していたのでそのまま一丁渡した。銃を渡しているのは化物に対抗する手段のないまま突然の転移となれば敵の格好の標的になるからだ。これで3丁渡しており、残りはクウジが持つ5丁となった。「こりゃまたひどいな」「そうですね」やはりと言うか、化物達が荒廃した町を闊歩していた。真夜中なのでなんとなく動いていることしか分からない。「ライト」エーリアが光魔法を放つ。調理などに火魔法を使うので生活に使える魔法は彼女に限らず習得しているのだ。ちなみにクウジも一通り魔法は使えるが、威力は弱い。光に反応した化物達を片っ端から倒していく。町が狭いこともあり、あっさり化物を全滅させた。「とりあえず生存者がいないかを探そう。クロノスのことだから生存者はどこかにいるはずだ」「待ってください……見つけました」地下のシェルターへの入り口を建物から発見した。「すごいな、どうやってわかったんだ?」「風魔法の応用です。空気の流れが普通の建物と違いましたから」「よくわからんがすごいな」それで入っていくと、怯えているような女性や子供達を発見した。「あなた達は何者ですか?化物がいるのにどうやってここまで来れたんです?」「化物は倒したから安心していいぞ」「本当ですか?実際に見てみるまで信じませんよ」その女性は頑なに事実を信じなかった。「エーリア、頼むぞ」クウジはシェルターの外で待機してエーリアがその女性を連れて町の様子を見せる。「すごい、本当にいなくなっている」「そう言っているじゃないですか」「ここまで凄いあなた達の目的は何でしょう?恩義を見せて欲しいのですか?」「神様が私達を派遣したんですよ」「神様の使徒様でしたか。神は私達を見捨ててはいなかったんですね」「ええ、影の化物が現れたら私達はどこにでも行きます」「ということはまた別の土地に行ってしまわれるのですか!?」「……」女性の悲痛な表情に答えることができないエーリア。気まずい雰囲気のままシェルターに戻る。「なるほどな。確かに男たちがここは守るためにやられちまっているようだし、結界を張っても厳しいだろうな」「じゃあどうするのです?」「朝になったら考えがある。一旦リチ町に戻って話す必要がある。それまでエーリア、ここを頼むぞ」予備の銃を彼女に渡す。近くで戦いを見ていて、なおかつ万が一のために彼からある程度は銃の技術は教わっている。しかし実戦は皆無なのだ。「すぐ帰ってきてくださいね。私だけでは不安です」「ああ、なるべくすぐ帰ってくる」こうしてクウジはエーリアをこの町に残して転移した。
クウジがリチ町に深夜家に転移してきた。女性達はまだ寝ている。「とりあえず事態は急を要する。協力をお願いするしかない」そんなわけでやってきたのは町長の家。「まだ早朝だぞ……誰だ?ああ、クウジか」「すまんが男達をこの家かどこでもいいから集めてくれないか」「その顔だと何かあったようだな。話を聞こう」状況を説明する。「確かに女子供だけだと復興だったりは色々難しいだろうな。だが、この町にいる連中はここが好きでいるんだ。なかなか移住は難しいんじゃないか?」「だが俺一人で向こうを復活させたり、化物から守ったりするのは無理だ」「だな、万能なお前さんでもできないことがあるのは当たり前だ。町長としてこういう時こそ協力してやろう」「ありがとう」こうして朝になり町長の号令で男達が集められた。「というわけだ。向こうに行って戦力になれる者はいるか?」「クウジにはでっかい恩があるからな、これくらい聞いてやるさ」男達数名が手を挙げた。「俺も行く。父ちゃんみたいに守れるようになりたい」手を挙げた中にはバースの息子、エミルがいた。バースはこの町をクウジがいない間もしっかりと化物達から守っていた。当然ではあるがバースや畑を守っている男達には今回の件では声をかけていない。「簡単に言うが、化物は簡単に倒せる敵じゃない。それがわかっているか?」「うん、兄さんを亡くしているから分かっているさ。でも守られてばかりではダメなんだ」「よく言った。これだけでは足りないかもしれないが、とりあえずよろしく頼むぞ」「任せておけ」男達は転移して例のシェルターの前に来た。「戻って来ましたか。化物達は来ませんでした」「よかった。一応連れて来たから話し合いをしよう」クウジは彼らがここの住民になってくれると説明した。「私達と共に暮らしてくれるのですか……確かに男性の助けは必要です」代表者の女性と話していく。「しかし多くの女性は夫を亡くした未亡人です。そう簡単に心を開くとは思いません」「それは時間をかけてやっていけばいい。それより戦力として男性がいないのはまずいと考えたから派遣したんだ」「そうですか。その通りですね。よろしくお願いします、皆さん」「ああ、女のために頑張るのは本望だ」こうしてリチ町から数名の男達が移住し防衛や力仕事をこなすことになった。「さすがにここでもいるよな」「当然だな、この町は港があるからある程度は漁業で食糧は確保できるだろうが、流通が止まっているから穀物なんかは必要だ」クウジはこの町がコーストタウンであることに気がついていた。だから船はある程度は残っていたが、化物達に壊されたりしているので修理が必要な物も多い。「すまん、ここの空いてる土地はないか?」「ありますが……畑を作ってもここは海に面しているので塩害はどうするんですか?」「それはちゃんと考えがあるから問題ない」とりあえず空き地に案内してもらう。海岸沿いで普通は作物を育てようとは考えることはない土地だった。「よし、まずは……」「え!?」植物魔法のエレメントを使用して畑の周辺に防風林を作った。「とりあえずこれで塩害は気にならなくなる」そして鍬を取り出し耕し始めた。そして種を植えてグロウアップと唱えると畑の植物が芽を出した。「信じられません」「こうやってこいつは俺達の町も救ったんだ、感謝しかねぇよ」「しかも凄い速度で育ってくれるからあとはかなり楽になるんだ」こうしてあっさりと畑を作ったクウジは次のステップに取りかかった。「保存庫はどこだ?」「こちらにありますが、荒らされててあまり食糧はありませんね……」化物達によって食べられていたらしい。「じゃあ、作るだけだ」魔法で次々と食糧を作り出していく。あまりにも非常識な光景に唖然とする女性。「神様の使徒様でもこれは凄すぎます」「まだ終わってない。とりあえずで結界を張ろう」クウジは町全体に結界を張る。「いやいや、とりあえずで張れるレベルの物じゃないですよ、結界って」「あいつの側にいるとあっさり常識を超えてくるからな、ちょっとのことでは驚かなくなる」「最後に化物が攻めてきた時用に……」「俺が持つよ。父ちゃんが守っているところを見て実物はないけど色々練習していたんだ」エミルが立候補する。「頼むぞ、危なくなったら逃げるんだ」「それは最後の手段にするよ、逃げて全員負けたら意味ないからね」「とりあえず備えは終わったな。でも男手がまだ足りない。声をかけてこよう」クウジはそう言うと転移してとある場所に向かった。「あの方は本当に常識を超えていらっしゃいますね」「ああ、だがそのおかげで俺達は助かっているんだ。感謝すべきだな」向かった場所はラフス王国。前回クウジが王を殺害してグンダが王様になった国である。近衛兵士達は突然の王様の交代に驚いたのだが、彼が有能でこれから国を建て直していけるだけの技量を実際に見たので受け入れている。そんな国に男手を探しにやってきたのだ。「すまんな、通してもらうぞ」「あんたには敵わんから無駄だ、通っていいぞ」前回強行突破したこともあり、近衛達は止めようとすらしなかった。「久しぶりですね」「ああ、頼みがある」彼に状況を説明する。「確かにそれは沢山の男が必要ですね。とはいえこちらとしてもそう移動できる国民は多くないと思いますが」「分かっているさ。復興は順調か?」「ええ、あれだけ大規模の、成長が早い畑があれば食糧の心配はありません。建物の復興も人手不足ではありますが進んでいます」「なら良かった。とりあえず協力してくれる奴を探そう」クウジは町に移動すると、広場に集まるように声をかけた。家がボロボロで外で作業している人が多かったのでわりとすぐに集まった。「作業を止めてすまないな」内容を説明すると、「あんたは命の恩人だから、その頼みは受けてやる」という男性が数名現れた。「ありがとう、すぐに向かうぞ」そして転移をする。「もう少し連れて来た。まだ足りないかもしれないが、とりあえずこれで頑張ってくれ」「本当にありがとうございます……」代表者の女性は感謝していた。「使徒様……その……」数人の女性がクウジに向かってきて声をかけてきた。「わかった。場所が悪いから別の所にしよう」子供達がいる前でやるやり取りではないので、エーリアと一緒にシェルターから建物に移動する。「で、わかるんだがなんだ?」「あなたとの子供が欲しいです」「やっぱりか……」何回もこの手のやりとりをしているので言わんとしていることはすぐにわかる。「断るのですか?」「いいや、普通に受けるぞ」女性達と交わるクウジ。「しかし、驚きましたよ。まさか一回で妊娠できる能力まで持っていたなんて」エーリアとやった後にやりとりをする。「クロノスはゼウスの父親なんだ。そのゼウスが一発必中なのは父親譲りなのさ。で色々魔法を授かるときについでにこの能力ももらったんだ」「どうしてですか?」「少なからずモテて、こういうことがあるだろうとあいつが予想してたからだ」「じゃあ、私のお腹の中にもすでに赤ちゃんがいるんですね」「そうなるな」「楽しみですね」「毎度邪魔して悪いな」「またか、じゃあ」「そうなるが……今回は敵が本気を出してきている。影の軍勢の侵攻で広大な国がまるごとなくなる可能性がある」「まじかよ」「今回はボスを倒すしかない。準備をしてすぐに向かってくれ」「しょうがないな、行くぞ」「ええ」台詞の間に服を着て準備をしていた二人は次の戦いに進んでいくのだった。
「ええい、早く再生せぬか、この身体」暗黒卿は失った身体をどうにかして取り戻すために各地で暗躍していた。しかしクロノスの先回りとクウジの活躍によって十分に復活できないままだった。暗黒卿はラーヴァナの身体に入り込んで過去に移動して改変を狙っていたのだが、当然一部分しかない身体では影の軍団を操ること位しかできない。絶望などの負の感情を集めることと、人が死ぬことで得られるエネルギーを使ってなんとか復活を目論んで、ゆくゆくは主の復活も狙っていたが先ほど書いた通りなかなかうまく行っていない。「ならば封印された分身を復活させよう」獣人の国ナーチではかつて暗黒卿の分身影の狐が国全土を巻き込んで大暴れをした。しかし、獣人達が移住する前の人間達、特に封印に特化した職業である陰陽師達に追い詰められ、数百年間封印の山に封印されていたのだ。これが本編でSIKによって解かれることになり戦うことになるのだが、暗黒卿はこれをこの時代から活かそうと考えたのだ。なぜ分身をこの国に派遣したのかと言うと、西を竜の里に守られていることもありこの国は無防備だと考えたためであり、ドラゴン達がこの事件の後ルートに結界を張ったため回収ができなかったのである。しかし、コーストタウンからのルートをマタカ達が通ったおかげでドラゴン達に気付かれることなく封印を解除することが可能になったのだ。そして今、封印を解除し獣人の国を影の軍団で攻め込み始めた所だった。「どうせ奴らはクロノスのせいでここに来る。なら他も同時に攻め込めば問題ないはずだ」これまでの国を同時に攻めることになった。しかしこちらに戦力をかなり割いたため各国に数体しか用意できなかった。「これで奴らの裏をかけるはずだ」そう暗黒卿は信じていた。
ナーチに転移した二人は信じられない光景を目にする。「なんで女が前線で戦って、男共が後ろで退屈そうにしているんだ?」「そうですね、普通は考えられません」獣人の女性兵士達が影の軍団になす術なく倒され、操られた兵士同士の同士討ちと、軍勢の両方の危険が迫っているにも関わらず、男達はのんきに構えている。「あいつらはむかつくが、このまま放置するわけにもいかない。銃を二丁持って一気に攻めるぞ」クウジとエーリアは二丁ずつ持って次々と化物達を倒し、女兵士達を後ろに逃がした後で洗脳を解いていく。「しかし本気と言ってただけに数が減る気配がないな」洗脳は大体解けたので化物達を攻撃するが、減ったぶんだけ次々に補充されているが如く数が減らない。「数が減らないなら足止めしてボスの所にいく」簡易的な結界を作って影の化物達の足止めをし、元凶のもとに向かう。それは向かった先の山の頂上にいた。「お前達が我々を止める者か」「しゃべれるんだな、化物なのに」「我を馬鹿にするか、いい度胸だ」エーリアの力で化物達は接近しようとしてもできない。影の魔法を二人に向かって放つが、エーリアの能力で当たらない。「なるほど、その女が不可思議な力を使って攻撃を逸らしたりしているのだな」すると雨が突然降り始めた。エーリアのこの能力、実は横や斜め上はカバーできるが、真上は無防備なのだ。「シャドウレインだ。洗脳されて我が手下となるがいい」敵の能力で洗脳をしようとしたのだ。「じゃあ、魔力も回収するとするか」エーリアが洗脳により能力が解けたので影を伸ばし、魔力の回収をして本体の復活を行おうとした、その時だった。「その瞬間、待ってたぞ」クウジは影を伸ばした敵に何かをした。「ふん、魔力をまとめてくれるなど自殺行為……何!?」クウジは魔力の塊をあえて相手に与えた。その魔力は高密度に詰められた物だった。それを得ようとした敵は塊を破壊した。すると……「ぐわぁぁ!!」魔力が一気に爆発と同時に実体化。まるで爆弾の如く敵の身体を吹き飛ばした。「今だ!」爆発によって洗脳が解けたエーリアと共に二丁拳銃で残った影を乱れ射ちして分身を撃破。これにより周りにいた化物達は全て消滅した。「今までで一番きつい戦いだった」「それにしてもよく洗脳が効きませんでしたね、あなたには」「クロノスはこういう状況も当然計算に入れていたみたいだな。まぁ同士討ちになるのが怖かったがな」洗脳が効いているのだから同士討ちで倒してから魔力を回収すれば良かったにも関わらず敵が横着したから勝てたのである。「決め手になったあれは何だったんですか?」「あれは食糧を実体化して出す魔法の応用だ。魔力の塊を高密度にして結界に閉じ込めた状態で敵の内部に送るんだ。そしてさっきみたいに爆発させる、これが魔力爆弾だ」「なるほど、いつの間にそんな応用が使えるようになっていたんですね」「まぁ銃での倒し方を知ったときから密かに練習していたんだ」「へぇ……ってそれよりもあの女性達が心配です!」「と言ってもな、さっきのやつで魔力も体力も使ったから動けないぞ」するとエーリアはクウジにキスをした。「!?」「とりあえず魔力を補給しましたから、立ってください」「ああ、ちょっとは動けるな」クウジはよろよろとしながらも立ち上がる。「急ぎましょう」「無茶言うな。そう簡単に動けたら苦労しないぞ」「しょうがないですね」エーリアはクウジに背中に乗るように指示する。「おい、大丈夫なのか?」「はい。ふらふらで歩くよりは速いですから」おんぶで背中に乗ると彼女は走り出した。「軽いですね、魔力が消費されているからでしょうか」「足場が岩場で急斜面なのによく走れるな……」山を猛スピードで降りて、さっきの場所までたどり着く。すると、男達が先ほどの女性兵士達を引き立ててどこかに連れて行こうとしていた。「そこで何してる」「お前こそ女の背中に乗って恥ずかしくないのか?」「お前達の行いこそ恥ずかしいと思うがな」「何だと!?」「後ろから見守ってただ全滅するかどうかを見てるだけ。化物がいなくなったら連れて帰って乱暴をするつもりなんだろ?」女兵士達は先ほどの戦いで疲労困憊で抵抗する力も残っていないようだ。「女は男に付き従うもんなんだよ!黙って従って死ぬのも本望だろ?」「ふざけないでください!」エーリアがキレた。さすがにやりとりの間にクウジは背中から降りている。「立ち向かう度胸もない癖によくそんなことが言えますね!」キレた彼女は男達に銃を向け、容赦なく撃った。「ひぃ!」男達が叫ぶが、彼女は意識してわざと魔力のコースを逸らし、当てないように威嚇した。「次は当てます」「こいつやばいぞ!に、逃げろ!」女兵士達を残し、男達はあっさり逃げてしまった。「やっぱりお前の予想通りだったな」「実にひどい人達でしたね」「大丈夫か?」「はい、なんとか」「とりあえず家に連れ帰るか。ここに置きっぱなしってわけにもいかないしな」「それがいいと思います。国に戻っても何されるか分かったものじゃありません」「あの……一体どうやって帰るつもりなのでしょうか?ここ移動手段なんてありませんし……」女兵士の一人がそう返答した。「見ててください」魔力のないクウジの代わりに転移デバイスでエーリアが周囲にいた女兵士達ごと転移させる。「い、一瞬で別の場所に!?」「大丈夫ですか?ご主人様がとても疲れていらっしゃるようですが」「主人もそうですが、この方達を別の建物で休ませてあげてください」「わかりました。準備します」女性達はあわただしく準備をして、彼らを使っている別の建物に案内する。「それで、色々事情が聞きたいですわ」「そうですね……」事情を説明するエーリア。「なるほど、それは上が腐敗している可能性が高いですわね」こう切り返したのはかつての王妃、サミラ。「どういうことですか?」「末端とは言え兵士達が極端な考えや行動を実行しているのでしょう?その言い草からして上が指示を出しているから彼女達が前線で戦わざるを得なかったわけです」「だから上がそういう考えを容認し実行する、腐敗した政治をしていると?」「かつての主人もそうでしたからね。クウジさんに無理やり連れて来られて存在価値とか色々考えていたんですけど、この町の人達と会話をして分かったことがあるんです」「それは一体何ですか?」「私結婚してほとんど外に出たことがなかったんですよ。王様も外に出て仕事をしている様子も見たことがない。結果として国民のための政治をしていなかったと話を色々聞いているうちに気付いたんです。その国も同じです。子供を産める女性にそのような扱いをしている時点で私達以上にひどい国家だと言えるでしょう」「じゃあ、行きますか?」「ええ、乗り込んで改革するしかないでしょう。私から見たらせめてもの罪滅ぼしですが、政治のせいで苦しむ人々を放ってはおけません」「でもそんな簡単にうまくいくでしょうか?」「とりあえず連れて来た彼女達から国の本当の様子を聞いてみましょう。話はそれからです」「そうですね」別の家で休んでいた女性兵士の一人が眠らずにいたので話を聞くことにした。するとサミラのほぼ推測どおり、いやそれ以上だった。「今の王は女性を自身に従うかどうかで処遇を決めてしまいます。庶民に美しい女性がいれば旦那がいようと引き立てて自分のものとしたり、反発するような女達は兵士として無理やり訓練させられ、先ほどの戦いのように駒として扱われるのです」「想像していた何倍もひどいですね」「当然妻を取られた旦那達は取り返そうと努力しましたが多くが処刑されました。さらにガチガチに監視をして国民達から反乱が出ないかを見張っているのです」「でも男性と女性では身体能力の関係で兵士としての性能が違い過ぎるのでは?」「獣人である私達は男女でそこまで差が出ず、運動能力が高いのです。だからこそ私達が戦ってもある程度は戦えるのです」「でも女性を守らない、自分勝手な王様のもとでは化物がいなくても滅びる運命にあるでしょう」サミラはそう言いきった上でこう言った。「王様を倒すか捕まえるしか国を変える方法はないでしょう。エーリアさんのお力は伺っています。力を貸してくれませんか?知ってしまった以上、放っておくわけにはいきません」知らなければ、どんな悪事がどこか遠くで行われていようが人間は無視をする。だが、知ってしまえば間違っていることは介入してでも直さなければならない。それが人のあるべき道なのだ。「いいでしょう。ご主人様がいないのは不安ですが、身勝手な王様に苦しむ人々は見ていられません」クウジ達はしっかりと睡眠中だ。他の女性達が世話をしてくれるので、サミラとかつての愛人達、エーリアはデバイスを使って転移した。
一方その頃。「なぜだ!なぜ上手くいかないのだ!」暗黒卿が声を荒げていた。ナーチ国での作戦は失敗する可能性はそれなりではあったが、それまでの国に対しての同時侵攻まで失敗してしまったのだ。理由は簡単でクウジが対策として結界を張ったり、銃の使い手を置いていったからだ。「しかし、奴らがどうやって防いでいたかは分かった。しばらくは力を蓄えることにしよう」暗黒卿はとある狙いを持って手下の改良を進めることにした。
クウジが寝ている間、サミラ達は転移して作戦を進めていた。当然兵士達が不審人物達を止めようとするが、エーリアの能力のせいで全く接近できない上、弓矢も見当違いな方向に飛んでいく。「あなたの能力は本当に素晴らしいですね」「それよりも急ぎましょう」兵士達は必死になって取り囲むものの、進む方向には邪魔できない。彼女達が進む度に聖書の海割れが如く人が引いていく。「ええい、なぜ捕まえないのだ!」「謎の力で接近ができない上、武器を使っても方向が逸れてしまうのです」「何者なんだ?お前達は」「とりあえず王様に会いたいですね」「門を閉じろ!不思議な力も我々にしか効かないなら対処はできる!」王城に繋がる門は全て封鎖された。しかしこの集団には獣人族の女性兵士も参加していたのだ。その身体能力の高さで壁を上り、裏側にいた兵士達はエーリアの能力で退散させてかんぬきを開けて門を開いた。この間も兵士達は作戦を妨害しようとしていたが失敗した。門の上に隠れていた兵士が上から落石で攻撃を加える。サミラの魔法で落下位置をずらしたものの、真上からの攻撃に弱いことが露呈してしまった。「各自奴らが通る位置に武器を用意しろ!真下に通ったらすぐに攻撃を仕掛けるんだ!」各所に号令が飛んだ。敵の侵攻を想定していたのかかなり入り組んだ道になっており、順当に歩いたら敵の真下を通ってしまうことになる。「ここは私達に任せてください」獣人の女性達が兵士達を撹乱してその隙に通過してしまう作戦を提案した。「でもあなた達が犠牲になってしまうのはいけません。もっといい作戦があるんです」エーリアは自信満々にこう話した。そして……「嘘だろ!?」「撃ち落とせ!」なんとエーリア達は低空で空を飛んでいた。しかも立ったままの状態であり、まるで透明なエレベーターにでも入っているような形である。「これは一体……」「私の能力の一つ、浮遊魔法ですよ。真上が弱点な能力を補うために頑張って習得したんです」説明している間にも王城の入り口にたどり着いた。能力のせいもあり兵士達は相変わらず一切手出しができない状態だった。扉を開けると大柄の虎の獣人が立っていた。「あなたが王様ですか?」「そうだ。我が城や兵士達をおもちゃのようにあしらうお前達は何者だ?」「あなたに話があって来ただけです。今すぐ女性達への不当な扱いをやめなさい」「ふざけるな!そんなことを言うためだけにここに来たのか!?引っ捕らえろ!」王様は奥に逃げ、兵士達がまたもや取り囲んだが、結局エーリアを対処できないので意味がなかった。「我はお前達に屈したりはしない」「口だけですぐ逃げる王様がよくそんなことが言えますね」玉座に座る王様にサミラが冷静にこう切り返した。「不思議な能力で戦闘を避けているのはそっちではないか」「罪もない兵士達が犠牲になる必要がないからです」「この女……!」少しずつ距離を詰める女性達に王様が「今だ」と声をあげると上から剣や槍が降ってきた。「本当に真上が弱点だとまだ思っていたんですか?」武器が彼女達を避けるように突き刺さっている。「なぜだ!落石は当たらなかったにしても能力で防げなかったはず……」「それは予想ができていないときの話です。真上か床に罠を仕掛ける可能性は高いですから、常に上からの攻撃を警戒していましたよ」話している間に王様が彼女達の床を落とした。どうやらここは上下罠が設置されているらしい。しかし、浮遊魔法が使える相手に落とし穴は効果がない。武器の真上を乗り越え、さらに接近する。そんな様子を見て玉座から逃亡を図った王様だが、奥に逃げる途中で兵士の一人に刺された。「なぜだ……」「お前はその大柄の身体で威圧し、国民を好き勝手にしてきた。だが高々人間の女達を目の前にして逃げ回っているだけ。そんなもの、もう王とは呼べない」その兵士はすぐさま拘束されたが、その顔は満足そうな表情をしていた。その王様はすぐに治療が行われたが、出血多量で亡くなった。兵士達が混乱している間にサミラ達は城の構造を知っている女兵士達に案内され、反逆者として囚われていた人々を助け出した。王様の妻として強引に連れていかれた女性達も救出した。「王様はいなくなりました。あなた達兵士は国民を監視するのではなく守るべきです。違いますか?」「うぐ……」「その通りだ」「その上で、女性達への不当な扱いをやめましょう。それが担保されるまで、代理で私が女王となります」サミラの発言に多くの兵士達は反発した。しかしエーリアがいる以上、攻撃が通用しないので仕方なく受け入れた。勝者の言葉が一番力があるのだ。そんな中、ようやく事態を聞き入れたクウジがやってきた。「何やっているんだよ。いきなり国のトップを殺すなんて聞いてないぞ」「あら、私の目の前であなたがやったことじゃないですか。それに直接手は下してません」「どっちでも状況は同じだろ。それで、食糧事情はどうだ?」「そうですね、この国も兵士や王族優先で食糧が配分され、国民は貧困でご飯が食べれない状況ですね。つまりは」「俺の出番というわけだな、了解」クウジはすっかり回復したのか、次々と食糧を出していく。その光景は初見だとどこも同じ反応するようだ。「一体我々は何を見ているんだ……」「そこ、見てないで国民に調理して配給してください」クウジはいつもの如く食糧を生み出し、畑を作る。獣人達はあまり農業が得意ではないらしく、魔物や動物を狩って食糧を確保していた。クウジの開拓作業はラフス王国よりも時間がかかった。ただ、大規模に畑を確保したぶんラフス王国よりも食糧を確保できる見込みが立った。そして同時進行で獣人の女兵士達と子作りをすることになる。というのも、彼の活躍を見ていたこともあるが、「あの方は神の使徒として現世に降臨された救世主です」と家の女性達に言われたら興味を持たないはずがない。そのまま流れるように関係を持つことになった。「女性にモテるなんて言う次元じゃないですね……」「ええ、あの方と子作りしたい女性は多いですから」クウジの女性遍歴をエーリアから聞いた女性兵士達はドン引きしていた。元愛人達を連れたサミラはクウジの食糧をもとに政治を回していった。クウジが土を耕してくれたので家を作りづらい土地にも作れるようになった上、必要なインフラも作る準備を整えていた。特に水道が整備されていなかったので早急な整備が必要だった。それは糞尿処理がされていないということでもあったので、仕事がない国民に公務員として清掃の仕事を割り振った。「まさか貨幣になるような物までないなんて思ってませんでした」狩猟を主とし、農業も不得意なため、貨幣という概念すら知らなかったようだ。貨幣とはそれ自体が価値になり、価値となった物は価値が変わらなければその物といつでも交換することができるのが最大のメリットである。貨幣を発行するために鉱山を探し、ときにはダンジョンを攻略したりすることで多くの国民は仕事を得ることができた。「長い目で見ていかないといけませんね」「そうだな、家族をここに連れてきたほうがいいと思うぞ」「仕方ないでしょうが、そうするしかありませんね」サミラや愛人達は政治を回していくために必死になって頑張っていた。身の回りの世話は見知った人がいいという理由もあり、転移で子供達を連れてきた。そして大規模なナーチの改造計画が行われている間、敵も少しずつ動いていた。
フーダス帝国。そこは影が支配する帝国だった。大量のシャドーコープス達が産み出され、敵国へと侵攻していく。元々は本編で登場した影キングを継承する皇帝がその地を治めており、侵略戦争によって今の数倍の土地を持っていた。しかし、シャドーコープスの戦争利用に反対した皇帝は結界によって城に幽閉されてしまった。これにより暗黒卿が独自に戦力を動かして他国に攻めることができ、なおかつ改良もできる。「よし、これで人間を絶望に追いやることができるだろう」暗黒卿は自信満々で兵力の増強と改良をしていった。そしてクウジ達がナーチで忙しく動き回っている間についに侵攻の準備が整った。「奴らに先回りされるのはもうごめんだ。あとこれをすれば全ては手に入る……」謎の言葉を残し、ミガク王国に侵攻を始めるのだった。
強制的に転移させられたクウジが見た光景は悲惨そのものだった。結界が破られ、兵士達が必死になって魔法で攻撃している。しかし今までのシャドーコープスとは明らかに強くなっているため、一体倒すだけでも大苦戦する上、それが百体以上もいる。逃げ惑う人々を守るべく、クウジ達も戦うが、明らかに数が多すぎる。「一回撃っただけじゃ倒せなくなってるのもかなり不味い」敵の改良により二回は撃たないと倒せなくなっていた上、再生能力も高い。「厄介極まりないですね。私が遅くなければ避けるのも楽なんですが……」エーリアのお腹は経過2ヶ月前後ながらかなり大きくなっていた。どうやら赤ちゃんが複数人いるようだ。能力で接近させないようにできるが、それでは人々のほうに向かってしまうので逆効果になる。なのでエーリアはあえて引き付けて倒す作戦に出ていた。完全な接近は能力で拒否しつつ、複数回撃って倒す立ち回りである。「敵は複数箇所を同時に攻撃しているらしい。すまん、もう少し持ちこたえてくれ」「やるしかないでしょう。言ったからにはそっちも頑張ってください」「当然だ」クウジは人々を城に避難させた。とりあえず一ヶ所に固めて避難させたほうが楽だからだ。「こっちはエーリアに頑張ってもらう。あっちのほうがまずい……」そう言って彼は急いである場所に向かった。「しつこいですね……」そう言いながら戦うのはアフロディーテ率いる絆の一族。魔法を連発すれば一体ずつ位は倒せるが、こっちに来ている数も半端ではない。洞窟には非戦闘員の女子供達が集まっているため通すわけにはいかない。「やっぱりこっちに集中していたか」「あなたは……クウジさんですか」「なぜ分かるんだ?確かに現代では接点はあったが」「神の記憶は時空を越えるんです。手伝いに来てくれたんですか?」「ああ、残してきた嫁が心配だからな、すぐに戻らなきゃいけない」「それは大変ですね。その銃に魔力を込めましょう」アフロディーテは魔力を銃に注いだ。「これで威力が上がりました」「本当か?」ためしに撃ってみると、これまで通りの一撃で倒せるようになった。「一体どんな力を使ったんだ?」「説明は後です。排除しましょう」「了解」魔法で倒す彼女達が正面の敵を、クウジが後ろに控える敵を倒すことにした。接近されないようにどんどんと敵を倒すクウジ。「敵があっさり引いてる……エーリアがまずいな」倒す数が途中から明らかに減っていたため影に紛れて向こうに行ってしまったようだ。「すぐに向こうに行く」「私も行きます。ここは任せました」「了解です」アフロディーテとクウジはすぐにミガク王国の街中に戻った。逃げ遅れた人々が洗脳されてどこかを取り囲んでいる。「大丈夫か?」「ええ、しかし一歩も動けません」「もう大丈夫ですよ」アフロディーテは影や洗脳された人々に向かって魔法をかけた。「!?」「あれ、俺達は一体?」「一発で洗脳を解いただけじゃなく、影を後退させただと?」「愛の女神ですから洗脳返しは得意技なんです。それよりも溢れた影達が城に向かっているでしょう、そちらに向かいましょう」アフロディーテがクウジと共に転移すると兵士達が必死の抵抗を見せて門を死守していた。城の周りには大量の化物がいた。ひたすらクウジが退治し、ようやく化物が周りにいなくなったと思ったその時だった。「!?」銃が光の粒となって空気中に拡散していった。「目的は達成できたようですね」アフロディーテはそう言う。「だが、この世界においては影を倒す唯一無二の武器だ。簡単に無くなったら困る」「私に渡してくれたこの銃をお返しします」遅れてやってきたエーリアが銃をクウジに渡す。「その身体じゃしんどいだろ。ゆっくり休んでくれ」「絆の一族に医者がいますので呼んじゃいますね」アフロディーテがそう言うと、転移して誰かがやってきた。「はじめまして、医者のタミスです」「ああ、俺はクウジだ。そっちはエーリア。彼女を頼む」「お任せください」タミスはエーリアの転移デバイスで一緒に家に戻っていった。「さて、元凶を叩きましょう。これ以上敵が来たらあなたもそうですが私でも対処できません」「ああ、どこにいるのか分かるのか?」「ついてきてください」アフロディーテは再び転移をする。「ここです」「確かにうじゃうじゃいるな。ここが本拠地っていうのは間違いなさそうだ」こちらに気付いた影達がすぐに襲いかかってくる。アフロディーテは再び銃に先ほどと同じ細工を施すと、クウジは次々と撃ち抜いていく。「城には影の皇帝が幽閉されています。彼が復活すれば影達への支配がある程度解けるでしょうから、本拠地を特定することも容易になると思います」「なるほどな、とりあえず突破に専念しよう」二人で影を次々倒していくと城が見えたと同時に、巨大な影が4つほど見えた。「やっぱり大事な場所みたいだな」「そりゃそうでしょうね。とりあえず雑魚は私が引き付けるので、突破はお願いします」「わかった。しっかり倒してやろう」ガーディアンを思わせる巨人の影や、巨大な羽つきの虫の影もいた。影なのに炎や氷魔法を飛ばしてくるが、身体能力の高いクウジはしっかり避けていく。複数いる敵に複数発を同時に撃ち込み、爆発させた。「さすがですね」「邪魔がいなくなったから、あとは結界を壊すだけだ」クウジは魔法で結界を壊そうとするが、簡単にはいかない。「銃を撃ち込んで壊し易くしてはどうですか?」雑魚に囲まれながらアフロディーテはそう言う。「やっているんだが、上手くいかない」すると上から輝く剣が落ちてきた。「これを使え、ってことだな」クロノスの仕業だと見抜いたクウジは早速剣を振ってみた。「あっさり結界を壊せたな」そして中に入ると、影が集まってきた。「そちら様はどうやって結界を突破されたのですか?」執事の格好をした男性が尋ねてきた。「この剣を使ったんだ。それよりも皇帝さんはどこにいるんだ?」「ここだ」王様らしき格好の人物が現れた。どうやらこの人物が皇帝らしい。「幽閉されていたのを助けに来ました」「急に畏まらなくていい。私を助けたのは影達をなんとかして欲しいからだろう?」「はい、これ以上使われたらこちらも限界なので力を貸して欲しいのです」「じゃあ期待に応えないとな」外に出た皇帝は玉璽を取り出した。「影達よ、今すぐに侵攻を止めろ」玉璽のもとに発動された命令によって影達は活動を停止した。「ふう、やっとこれで出られます」アフロディーテは停止した影の隙間を縫って脱出した。「停止していない影の魔力を探知しました。ついてきてください」「ああ、行く」そして到着したのはダンジョンだった。ちなみにここは本編でピレンクとノレドが攻略したダンジョンである。「ここなのか?」「ええ、完全に中は真っ暗ですがうようよいます」アフロディーテが光魔法で明るくする。「気をつけてください!」「うぉっ!」矢が二人目掛けて飛んできた。二人はさっと避けたことで事なきを得た。「どうやらこのダンジョン、罠だらけみたいです」「暗闇に影に罠って殺意が高すぎるだろ」淡々と進むが罠が多いぶん足止めを食らってしまう。そんなダンジョンの最奥に待ち構えていたのはブラックヴァンパイア。「何の用でここに来た?」「俺達はここで影達が作られていると聞いてやってきた」「私はそんな物は知らない。ここまで来た以上、帰してはおけぬ」闇の中での戦いが始まる、と思いきや。「ちょっと待ってください。ここで作られていることは間違いありませんが、無関係なんですよね?」「ああ、そんな物は知らない」「じゃあ……」罠だらけの道を慎重に戻る二人。さっきの矢を発射する罠の近くまでやってきた。「この裏、怪しいです」「確かに影と一切戦闘していなかったな」コウモリの魔物は道中に出たが、影とは一切戦っていなかった。罠を銃で破壊した瞬間、影が溢れ出てきた。「おそらくバレたくなかったのでしょうが、魔力の探知はごまかせません」次々と倒した最奥に、丸い宝玉を発見した。「これはダンジョンコアですね。しかしこれは純粋に影の魔物を作るだけの物で、このダンジョンとは無関係の物ですね」「ん?関係のあるダンジョンコアを壊したらどうなるんだ?」「その場合はダンジョンが崩壊します。つまりボス達も消滅するのでさっきのボスが是が非でも守ってくるはずなんですよ」「確かにそうだな。じゃあ、破壊するぞ」クウジが銃で破壊すると周りにいた影の魔物達は消滅した。しかしダンジョンが崩壊する気配はない。「とりあえずもう1つ、クウジさんが本拠地としている東大陸にも敵の拠点があるはずです」「行ってない場所がある。多分そこにあるな」クウジはリチ町に転移した。
「大丈夫か?」「ええ、問題ありませんでした」「驚きましたよ。ここにいる女性全員が妊娠なんて普通はあり得ません」「クウジさんは普通じゃないので」「おい」「それでどうだったんですか?」「とりあえず敵の拠点は潰した。この大陸にも影の化物の拠点があるみたいだから行ってみる」「気をつけて行ってきてください」「ああ」クウジは集落の外に出た。ある程度は草の生えた普通の土地だが途中から砂漠に変わる。「厄介だな」防塵のゴーグルは用意していないので風から来る砂埃は防げない。砂漠の砂と格闘すること一時間前後でようやく町らしき物にたどり着いた。「やっぱりここか。お出迎えご苦労なことだ」影の化物が一斉に飛び出してくる。クウジが睨んでいたのは滅びたとされたルブラ王国だった。人がいなくなった町ほどコアを置くのにふさわしい場所はない。化物を倒すクウジだが、なぜか様子がおかしい。「なんだこの感覚は……」魔力や体力が徐々に何かに奪われているらしく、動けば動くほど疲れが明らかに溜まっていく。「こいつが原因か?」滅びた町にあったのは一見するとただのサボテンだった。砂漠にも普通にあったのであまり気に止めていなかったが、少し前に人が住んでいた町だったことを考えると元々なかったはずだしこんなスピードで成長するはずがない。ためしに撃ってみると明らかに動けるようになった。「やっぱりこれか」サボテンを次々に狙うと化物達がそれを阻止しようとしてきた。「防衛システムみたいな物なんだな」二丁の銃で化物とサボテンを粗方処理したので町の中央部に向かった。「こいつが町の砂漠化を進めていたのか」いたのは黒くなった砂ころがし。こいつはミニガーディアンを除いてトーイ達が最初に仲間にした魔物である。名前の通り砂を放出して攻撃をしてきた。砂漠化しているということもあり、地面が柔らかい砂で覆われており動きにくい。砂の山を築いて守ってくるので銃だけではかなり厄介な敵である。「こういうときは……」クウジはエレメントを取り出す。今まで畑を作る位しか使っていなかったが、これで打開する方法を思い付いたようだ。「ウォーターカッター」砂の山を切り裂き、本体にもダメージを与えるエレメント固有魔法である。「ウッドガーディアン」ダメージを負った相手に固有魔法で召喚し、口を塞いだ。魔法で動きを止めて接近すると、銃でとどめを刺した。すると中からダンジョンコアが出てきた。「まさか魔物の中に隠すとはな。効率的ではあるが」破壊すると周囲の化物達は消滅した。「このままにしてまた置かれたら意味がないな。ただ完全な砂漠だと住むのが難しいだろう」そこでクウジは中央に水のエレメントを配置し、岩を配置して隙間に土を埋めて入れ物を作った。「常時発動の水」そう唱えると、水がエレメントから溢れ出した。入れ物が水圧や液漏れで壊れたので何回か改良し、噴水を作った。「水は作ったがあとはどうするか」時間がないので結界を応急措置で張っておき、リチ町の住民と協議することにした。その結果、何名かここに移住して少しずつ復旧を進めることとなった。時間がないと言った理由だが、「本拠地に親玉らしき存在はいませんでした。ということは更に何か上の段階に入っているのでしょう」「つまりどういうことなんだ?」「あの破壊兵器を起動しに行った可能性が高いでしょう。百年前で対抗できそうなのってあなたしかいませんし、ミガクの結界を破壊したのもおそらくテストに過ぎないのです」「まずいな、急がないと」というやり取りが女神とあり、計画を阻止することを優先したいのである。「どうなんだ?敵の進捗は」クロノス頼みしかできないクウジはこう聞いた。「奴らはすでに到着して準備に入っている。もう数日したら破壊兵器を起動して再び滅ぼす計画なのだろう」「ならすぐに」「待て。今行ってもただやられるだけだ。お前にこの世界を託す以上、あることを特訓してもらう」「それは一体?」クロノスは内容を説明する。「それはなかなか厄介だな」「だがそれしか奴らを倒す方法はない。やるしかない」「わかった」クウジはクロノスに呼び出され再び前の世界に戻った。
クウジは戻ってきた世界で家族や師匠であるマタカに連絡を取っていた。「そうか、お前の選択をとやかく言うことはないが、無事で帰って来るのを待っているぞ」「ありがとうございます」そんな連絡も程々に、早速修行を始めるクウジ。特に肝となるのが魔力の放出である。「まだまだ甘いな、それでは敵は倒せない」「どうやるんだ?」「ここまでは必要だ」そう見せたのは細かい砂だった。「もしかして」「そうだ、数値化はしていないがお前と同じぐらいの放出量でここまで圧縮できるんだ」クウジが圧縮したのは石ころの大きさと考えるとまだまだなのは間違いない。ひたすらに魔力の特訓を続けるクウジ。クロノスのおかげで消費した魔力はすぐに元に戻るので無限に練習した。「よし、これで第一関門は突破だ」砂の大きさまで小さくすることができたので次の試練に移った。「次は属性の付与だ。例を出そう」そういうと先ほどの砂を取り出し、中の魔力を放出する。すると雷の光が一瞬見えた。「今のは雷か?」「そうだ。これを付与するのが第二の試練だ」クウジは早速試してみるのだが、「あっち!」「全く、すぐ次だ」炎の魔力を圧縮する過程で火傷してしまい、クロノスに治してもらった。「属性魔力をつけたままにするとそうなる。属性魔法は最後に入れるんだ」しかし試すと今度は無属性になってしまう。「説明が難しいな……今度は徐々に入れてみてくれ」「さっきと説明が違うぞ!?」「すまんな、こっちは最初から魔力を入れっぱなしでできるから教え方が難しいのだ」「分かった」やってみると今度は大きさがある程度の所でストップして砂粒の大きさまで縮小できなかった。「まぁ、最大で使うなら大きさはもっと大きくても問題ないからな」「しかし本当に俺にあれが付与できるのか?」「それはこれからの訓練次第だ」そして訓練は一日中続いたのであった。
「さて、いよいよだ」「そうはさせないぞ」「は!?なぜだ!」突如として敵が現れたことに驚く暗黒卿。クロノスの力を使ったのであっさり距離0で転移に成功したのだ。「まぁいい、いずれ貴様は始末しようと思っていたのだ。散々計画を邪魔された恨み晴らさせてもらう」「その姿でよくそんな強気でいられるな」暗黒卿のその姿は分身と似てはいたが、唯一異なる点があった。影の身体が明らかに薄い。それは即ち、力を失っていることの証明でもあった。クウジによって妨害されたことで十分に負の魔力を吸収できなかったためだ。敵は影魔法を連射するが、あっさりと避けるクウジ。そして反撃で敵にダメージを与えることに成功する。「仕方ない」近くにいた終焉破壊兵器と一体化し、魔力を充填し始めた。この状態になったら銃の攻撃は一切効かず、逆に相手の魔力として吸収されてしまう。この状況を時間を司る神であるクロノスは未来を見ているので知っていたからこそ、クウジに特訓をさせたのだ。「お前が合体した時点でお前の負けは確定した」「負け惜しみか?」「それはこれを見てからにしろ」クウジもまた魔力を溜め始める。そしてそれを収縮させて、敵目掛けて投げつける。ちなみに銃も魔力変換して投げつけている。それは彼がこのあとの展開まで読んでいたからである。「こんな玉のどこが切り札なんだ?我々が吸収して……何!?」結界が敵を覆うように発動。その玉が割れた瞬間、ものすごい引力が発生した。「なんだこれは!?」「時空魔法を閉じ込めた、時空爆弾だ。恐ろしい引力で中にある物体はバラバラになる」「そんなことさせるか!」玉に向かって攻撃するが、全く効果がない。その内にダンジョンの地面が砕け、少しずつ吸い寄せられていく。「じゃあ、巻き込まれるのはごめんだから失礼する」「破壊されても知らないぞ」「そもそも普通の攻撃が効かない相手にどう対処する気なんだ?」そう言いながらクウジはクロノスの元に戻った。奴の様子を見るためと、その後の影響を確認するためだ。「こうなったら仕方あるまい」最大の一撃を再び溜めに入る終焉。その間にも地面は砕け、もうまもなく地面と接する場所がなくなりつつある。「これで、終わりだ!」最大チャージが終わり、世界を終わらせる一撃を放った。しかし引力でその攻撃は当然その中心の時空に吸い寄せられる。放出された魔力が凄まじいのでしばらく引力が止まった。この間に再攻撃の準備に入った。「一度無効にされても何度も撃つだけだ」とその時だった。「なんだ!?」中心の時空が更に大きくなった。「魔力の塊が凄まじい引力を形成しているんだ。そこに魔力の攻撃を撃ち込んだら更にやばくなるだろ」「とはいえどうする気だ?あんな物残したら世界が逆に滅ぶぞ」クロノスが聞いた。この作戦を考えた当の本人が言うべき台詞ではないのだが。「それは大丈夫。適度に拡散すればただの魔力だから無害そのものだ」バラバラになり断末魔をあげながら吸収されていく暗黒卿。「そもそもだが、バラバラにさせたのは理由があってだろ?この剣も元が俺が使っていた銃っていうのは分かっているし」「よく分かったな。この力は私にしか使えない物だ。持ってくるぞ」しっぽを使って空間の入り口を開け、かつて終焉破壊兵器だった物とダンジョンの土の欠片が混ざった物が出てきた。「普通にバラバラにするのは骨が折れる素材だからな」「で、それで何か作るつもりなのか?」「ああ、孫へのプレゼントさ」「ふーん、よくわからんけど、これで銃は消えたのか?」「歴史が変わり、終焉破壊兵器は消えた。だから現代の銃はなくなるし、過去の銃もなくなる」「確かめついでに色々寄ってみるか」クウジは過去の世界に転移した。
「よく戻って来てくれましたね」「当たり前だろ」色々寄って銃がなくなったことを確認したクウジはリチ町に戻って来た。すっかり影の化物がいなかった時代になっていた。数日彼女達と平穏な日々を過ごしていたのだが、ある日。「クウジ、外に人が何人もいるんだが」「確認するぞ」バースが呼んだので行ってみるとそこには軍服を来た兵士が何人もいた。「,?!*@」「なんだ?なんて言っているのかわからないぞ?」「そうか、とりあえず村に案内しよう」「どういうことだよ?クウジ」「よくわからないけどここに突然来たらしいんだ。食糧を分けてやってくれ」「お前のおかげで分けるぶん位はあるけど、こいつら一体何者?」「兵士だ。とある戦争で亡くなった後、ここに送り込まれたようだな」「どうして死んでるのにここに来るんだ?」「さぁな……そこら辺はわからん」クウジは生きたままこの世界にやってきたが、死んだ人間が別世界で生き返る異世界転生は知らなかったようだ。「待てよ……これって」クロノスが言っていたこの後の歴史。百年前の戦争が起きた原因は邪神ハデスとその配下である暗黒卿の仕業だ。しかし、これを指示したのは実は地球にいるハデス本人である。第一次世界大戦によって冥界に魂が溢れてしまい、別世界に避難できないか考えたハデスは、この世界のハデスの分身に魂を受け入れるように命令した。しかし単に命を増やすことはハデスの弱体化に繋がる、と考えた邪神は配下である暗黒卿に命令しシャドーコープスを使った戦争を各国に仕掛けた、というのが真相である。ちなみに第二次世界大戦の場合は別世界を戦争前に1から作って対応した。そして今回やってきたのが地球からの魂、つまり主にヨーロッパで戦死した兵士達である。「どうした?」「いや、なんでもない。とりあえず彼らを案内するか」建物に兵士達を誘導し、今後の方針について確認する。「武器とかは特に隠し持っていないみたいだ。言葉がわからないと思うが、俺一人だけで面倒を見切るのは無理だ。協力してほしい」「分かった。何を言っているかは分からないが同じ人間同士協力して過ごしていこう」クウジは後は住人達に任せ、とある場所に転移する。「なんだこれは……」結界を隔てて町の中にはラフス王国の住人達、向こう側には主に軍服を着た兵士達が睨み合っている。「一体どうなっているんだ?」「ああ、突然光と共にそいつらが現れたんだ。向こうは目の前に町があるから入りたいんだろうが、勝手に知らない奴を入れるわけにはいかないからな、こうして睨み合いになっているわけだ」しかも向こうには銃持ちの兵士が何人かいる。この状態で普通に入れたらろくに兵士のいないラフス王国は乗っ取られてしまう。クウジも今は武器は剣だけであり、銃持ちの相手に勝てるほどではない。「とりあえず俺は相手の言葉がわかる。向こうに行かせてくれないか?」「そうなのか?だが危険だぞ?」「それは重々承知だ。結界は解かなくていい。俺がやられたら固く防御に入るんだ」「そこまでの覚悟があるのか。なら頼むぞ」クウジは剣を捨てるパフォーマンスをして敵の陣営に乗り込む。「何者だ!」「待て、こっちは武器を捨てているんだ、話を聞いてくれ」「怪しすぎる。本当に武器を持っていないんだな?」「ああ、この通り何も持っていない」マジックバッグを異空間に収納できる能力を今は持っているので実際には持っているのだが、そこは相手に従う。服を脱がされて全裸になったが、兵士達は武器を発見することはできなかった。「確かに何も持っていないようだな。疑ってすまなかった」「分かってくれたならよかったよ」「で、お前は我々の言葉を理解でき、なおかつ向こうの言葉も理解できる、そう考えていいな?」「ああ、その考えで間違っていない」服を着ながらそう返答するクウジ。「で、お前達の要求はなんだ?お前は使者としてここに来たんだろ?」「その通りだ。こちらの要求としては食糧を準備するから武器をしばらく預かるという形でどうか?というところだ」「我々は武器を取られたら命を失う可能性があるのだぞ?そんな要求は飲めないぞ!」「とりあえず話を聞いてくれ。今あの国では正規の兵士達がお前達と同じ戦争でほとんど亡くなったんだ。だからそのままお前達を入れたら簡単に国を乗っ取ることだってできてしまう」「なるほど、そちらの事情は分かった。確かにその状況なら乗っ取ることも考えるかもしれない」「うっ……」「だかな、右も左も分からない今の状況で国を取ったとして我々には食糧を維持する能力はない。国民と会話も取れない状態で維持しても仕方ないと思われる」「それってつまり」「条件付きでその提案を飲もう」「その条件ってなんだ?」「我々に彼らの言葉を教えてもらうことだ。どういう因果か知らないが、ここに来てしまった以上彼らの言葉を話すしかない」「それなら俺がなんとかできそうだな。ちょっと伝えてくるから待ってて欲しい」「ああ、早めの返答を期待しているぞ」そして一旦ラフス王国の結界を抜けて兵士達と話す。「で、どうだったんだ?」「向こうは条件付きでこっちの要求を飲む、ということでまとまった」「条件はなんだ?」「こっちの言葉を教えて欲しいということだ」「教えてもらったらそのまま乗っ取る気なんじゃないか?」「どうだろうな。わざわざ教えてもらって普通乗っ取ろうと思うか?」「まぁ普通は乗っ取るなんて考えないと思うが……向こうにこっちの常識があるかは分からないぞ」「とりあえず武器は預かれてしばらくは市民として過ごすわけだから気にしすぎも良くないと思うがな」「それもそうだな」グンダに情報が伝わり承認が取れたので再び結界を超えて異世界の兵士達と話す。「そうか。では中に入る前に我々の武器を置いて、中に入れば良いのだな」「そうだ。ちゃんと武器は保管はしておくから心配いらないぞ」「お前のような者がいて助かった。争いにならずに食糧にありつけるのは我々としても大変助かるのでな」「そうだな」こうして彼らは武器を預けてラフス王国に入国した。クウジの手助けもあり彼らスムーズに食事にありつくことができた。しかし一度に大量の人間がやってきたため、国としてやることが滅茶苦茶増えてしまった。「とりあえず、増えた人数分の食糧を倉庫に入れておく。また何かあったらこれで連絡してくれ」クウジがグンダに渡したのは連絡用の魔道具。クウジは同じ魔道具を持っているため連絡を取ることができる。「分かりました。この様子だと他の国にも行かれると行うことですね?」「ああ、この世界がどうなっているか確かめなきゃいけないからな」クウジは他の国に寄ってみることにした。コーストタウンに寄ってみると、武器を持った兵士達が町中を闊歩していた。武器を持っていない女子供が多いので簡単にこちらは占領されていた。そんな彼らがクウジを発見すると即座に武器を持って取り囲んだ。「何者だ」「ここの関係者だ」「武器は持っているか?」「ないぞ」「我々の言葉が分かるようだな。そこで聞きたいことがあるのだが」「何を聞きたい?」「ここは一体どこなんだ。我々の知っている国と大きく異なっているようだが」「ここはコーストタウンという場所だ。あなた達がいた地球とは異なる世界なんだ」「!!」衝撃の言葉に近くで取り囲んでいた兵士がクウジの胸ぐらを掴む。「その話、本当なのか!」「事実だ。現に……」「!?」「この世界では魔法が使える。これで世界が違う、ということが分かっただろうか」掴まれながら空いていた右手で火の魔法を発動させるとこの言葉が真実だと分かったのだろう、掴んでいた腕を離した。「もう我々は元の世界に戻ることはできないのか!?」「一度死んでしまった命だからなぁ。まず不可能だと思うな」「そんな……」やり取りをしている間にクウジがこの町に集めた男達がやってきた。「お前達は何者だ」「俺が集めた男達だ。女子供しかいなくて復旧が大変だと思ったから無理を言って連れてきたんだ」そう話しているとエミルが会話に割り込んできた。「いつの間にやってきたあんた達は何者だ?」「この人達は兵士だ。ただちょっと特殊な事情があってな、彼らはここの言葉が話せない」「なるほど、それでどうして占領という形を取ったんだ?」「混乱していたみたいでな、食糧が欲しかったみたいだ」異世界からやってきた、という部分をぼかし適当な理由を言うクウジ。「お前達は何を話していたんだ」兵士の一人がそう尋ねる。「あなた達がどうしてここに来たかを話したんだ。尤も別の世界から来たことはぼかしてな」「我々は一体どうすればいいんだ?戦うべき相手もいないし、言葉が分からない状態でどうすればいいのか全く分からないのだ」「そうだな……まずこういうときは食べるといいと思う。食べ物と着る物に困らなくなれば自ずとどうしたいのかがわかるようになると思う」「言われてみるとそうか。その食べ物はどこにあるんだ」「こっちだ」兵士達を広い建物に案内する。女性達がそこにはいた。「じゃあ、調理をよろしく頼む」「お任せください」そしてクウジが魔法で食糧を取り出し、女性達がそれを調理するという地球ではあり得ない光景が兵士達の前に広がることになった。「この男、何者なんだ……」「この男がいたら軍の兵站は全部一人で完結するじゃないか」調理された料理を突っつきながらそんな感想を言う兵士達。「すまない、また別の場所を見に行く必要がある」「本当クウジっていつも忙しいな。奥さん達が心配していると思うけど」エミルがそう言うと、「みんなある程度は分かってくれているさ。じゃああとは任せた」こう言うとあっさり転移してしまう。「本当にあの男、何者なんだ?」兵士達の疑問をよそに次の町に転移したクウジであった。
次に転移したのはマーリセ国の首都、ヨーヤーク。しかしそこに人の姿はない。まるでかつて訪れた時と同じような雰囲気だった。「変だな……」そう呟いたそのとき。彼の胸を銃弾が貫き、一言も出ないまま彼は地面に伏すことになった。同時刻。「クウジが死んだ」その連絡がエーリアに届くことになった。「それは本当なんですか……」「間違いのない事実だ。奴の元に行くか?」「行きます!」「どうしたのですか?大きな独り言をつぶやいて」女性達にはクロノスの声は聞こえない。「神から、今クウジさんが亡くなったと連絡を受けました」「!!」あまりの衝撃に無言になる女性達。「それで私は彼の遺体を見に行きます。あとはよろしくお願いします」「わかりました」エーリアは急いでクウジに会いに行った。「そんな……」そこには確かに血を流して倒れるクウジの変わり果てた姿があった。「誰がこんなことを!」するとそれに応えるように銃弾が放たれた。勿論彼女は能力を使ってそれを回避する。「なるほど、あなた達ですね。おそらく昨日現れた兵隊さんと同じ所から来たのでしょう。ですが私は恋人を殺されて黙ってはいませんよ」隠れている兵士に向けて魔法を放つと、表に飛び出してきた。そこを拘束する魔法で無力化していく。外が騒がしいことに気が付いた他の兵士達も彼女目掛けて突進してくるが、銃弾は当たらない上、一定距離以上接近できないため彼女の拘束魔法の餌食となった。「この感じ、おそらくですが」エーリアは身重の身体でシェルターに向かう。「あなたですか。いつもの男性はどうされたんですか?」「ここで先ほど兵士達に撃たれて亡くなりました。何があったのか聞かせてもらっていいですか?」「それは気の毒でしたね……突然彼らが現れたと思ったら言葉が一切通じず、町は武器を持った彼らに占領されてしまったのです。仕方なく囚われた住人以外でシェルターに逃げ込んだというのが事の顛末です」「やはりそうですか。彼らは捕まえたのでちょっと話を聞いてみます」「そのお身体で無理をされるのは良くないのでは!?」「それでもやらなければならないことがあるのです」「貴女一人だけで行かせるわけにはいきません。我々もご一緒します」エーリアは拘束した兵士達を一ヶ所に集め、話を聞くことになった。「なぜ私の大事な人を撃ち殺したのですか?」「そ、それはだな、あの男はシェルターの人間達に味方しようとしていたからだ」「そんな理不尽で殺されていい存在じゃないんですよ、あの方は」「エーリアさん、この人達どうしますか?」「そうですね、食糧はありますか?」「クウジさんのおかげで沢山あります」「とりあえずこの方達は一旦は奴隷として扱いましょう。会話を覚え、社会に貢献できるようになったら解放という形で」「いいですね、そうしましょう」こうして兵士達は奴隷としてこの国で生きていくことになるが、必死に言葉を覚えたこともあり、数年で奴隷身分から解放されることになる。そしてエーリアの活躍でマーリセ国の住民が守られたことを評価され、彼女は勝利の女神という名前の銅像になり、ヨーヤーク近海の孤島に設置されることになった。さて、クウジの遺体を回収した彼女は転移して次の場所に向かうことにした。彼が死んだことを伝えるためだ。「大変残念でしたが、クウジさんのおかげで我々が無事に生活できているということを我々は一生忘れないでしょう」「それではまた」一旦リチ町に戻り女性達の家に遺体を運ぶ。その姿を見て女性達は大いに泣いた。「本当に死んでしまうなんて……」「どうしてクウジさんが死ななければいけないのですか!?」一部はまだ現実を受け止めきれず泣くこともできない女性もいた。彼が死んだということを聞きつけ、町長達も集まり、後日盛大な葬儀が行われることが決まった。「本当あんたは破天荒で俺達を振り回してきたけど、本当にあんたは凄い人だった」バースが彼を見てそう言った。エーリアは町が混乱と悲しみに暮れる中、彼と交わった女性達に伝えるべく転移した。ラフス王国でも彼の死が伝わると感謝と哀悼の意を表明した。「本当に感謝してもし切れないほどの施しを我が国は受けました。ご冥福をお祈りします」グンダはエーリアにそう伝えた。勿論彼と関係を持った女性達にもきちんと話をした。コーストタウンでは「クウジ様が亡くなられたことは大変残念に思います。沢山の支援、本当に感謝しています」代表の女性が彼女にそう伝えた。そして、彼女は最後の場所、ナーチへと転移した。「その身体でよくここまで来られましたね。どうかされましたか?」代理で女王をしているサミラは公務を止めて応対する。「実は彼が殺されました……」「え!?今なんて」「クウジさんが殺されたんです」「絶対に許せません。その殺した相手は?」「私が捕まえて現在奴隷になっています」「うーん……まぁいいでしょう。彼のおかげで今この国は本当に発展を始めていますからね」畑や土地の開拓、水道整備に衛生面の改善、通貨の使用による利便性の増加という前の時代に比べての革命がこの国では巻き起こっていた。「まぁ、私はいずれ引退することになったらすぐにこの国から家族ごと去ることになるでしょう。人間に対する憎悪が凄いですし、実際かなり狙われているみたいです」エーリアがかけた簡易的な能力のおかげで彼女は暗殺を防いでいた。転移手段はかつての王が所持していたため、サミラは国外への逃亡も可能ではある。だが彼女に代わって政治的手腕を発揮できそうな人材が現在はいないため、女王として逃げずに問題と向き合っているのだ。勿論代理を名乗っているためスムーズに交代できるような後任を公務の傍らではあるもののきちんと育成もしている。「私はクウジさんを諦めたくありません。あの方にお願いしたいと思います」「そうですね……でも死んだ彼をどうやって生き返らせるつもりなのですか?」「私だけの方法があるんです」そう言うとエーリアはどこかに転移していった。ちなみに数年後、サミラは後任に交代した後すぐに国外に脱出し、獣人達が人間の上に立つ国家が成立した。この流れのまま誕生したのが現在のナーチ国王リオである。
「よく来たな、エーリア」「この身体で動くのは大変でしたよ」エーリアがやってきたのはクロノスがいるダンジョン。「要件は分かっている。あいつを復活させたいのだろう?」「そうです。彼は我々の星にとって希望と呼べる存在なのです」「今も続くであろう争乱だったな。私が仲裁に入らなかったらお前達は滅びていただろうな」エーリアはクウジ達のいた世界の人間ではなく、異世界の住民だったのだ。どうして彼女が世界を超えてこのニアアースという世界にやってきたのか。異世界人が故郷の人口増加による食糧不足、戦争を受けて数千人規模でとある星にたどり着いた。その星は青々と緑のある惑星だった。植物の育つ土壌だったため、開拓をしていくのはかなり簡単でなおかつ彼らが現代並みの建設技術を持っていたため、発展は急速に行われたのである。ただ急速に発展していった文化は廃れるのも早かった。人口は十万人程度まで増えていったが、次第に個々人が権利を主張し対立していくようになった。いよいよ戦争に発展するかと思われたが、戦争に発展する前にクロノスが介入した。そしてクロノスが使ったのが、時間停止である。そんな惑星に生まれたエーリアはある日外に出てみると、自分以外の全てが停止していたのである。彼女は当時から結界のような能力を持っていて、周辺の人達からは不気味がられていた。そこで起きる戦争を受け、彼女は家に引きこもっていた。食糧が無くなり、仕方なく飛び出た世界が時間停止した世界だった。そもそもクロノスがこの世界に感心を持ったのは1から文明を作るということに興味を持ったからである。それが滅びてしまうのは惜しいと判断した彼は時間を停止させたのだ。しかしエーリアの能力で彼女には時間停止さえも効かなかったため、クロノスは仕方なく彼女を別世界に転移させた所、過去のニアアースに到着した。そこに時代を溯行した暗黒卿もやってきた結果、クウジとエーリアは出会うことになった。これがエーリアが異世界人の能力者であるにも関わらずこの世界にいた理由だった。そしてクウジを送り込めば、おそらく戦争の原因である食糧不足を解決できると考えられるからだ。勿論愛する人と一緒に生きたいという当然の理由もあるのだが。ちなみにクロノスは始めにも書いたが人に対して能力を行使するのは難しい。「それでは始めるぞ」クロノスは時間を巻き戻し、ここにやってきた瞬間のクウジを呼び出した。「あれ?どうしてエーリアがここにいるんだ?」「あなた!」身重な身体にも関わらず、彼女は彼に抱きついて押し倒した。「お、重い……」「女性に対して重いっていうのはマナー違反ですよ」「もっとお腹の赤ちゃんを大切にしてくれよ……」「あなたがいてこそですよ」「あー、感動の再会をしている所悪いが、お前に色々説明しなきゃいけないことがあるから聞いてくれ」「ああ、分かったよ、エーリア、退いてくれ」「わかりました」身体を起こし、二人とも立ち上がる。
「まずお前はもう向こうの世界でも死んだ。過去の世界で子を成したお前はすでに現在の世界にも戻れなくなっていたが、これで向こうでは死者になって埋葬されていることになるから、二度と戻れない」過去で子供を作るということは現在にも大きな影響を及ぼすため、現在に戻ることはできなくなる。ただ、魔道具のおかげで例外的に両親達やマタカに連絡を取ることができたのだ。ちなみに現在の世界には「クウジの子孫の」クウジが歴史修正によって代わりに存在している。この歴史修正は暗黒卿を倒したタイミングで実行されたため、実の両親には今のクウジの記憶はない。「そういうことか。で俺はどうしてここにいるんだ?」「過去のお前を現在に呼んだだけだ。お前にはお前を大切に想ってくれる人がいるからな」「確かにな」「はい」「それでだ、お前にはとある世界に向かってもらう。隣にいるエーリアとも関係があることだ」そこで上記の状況をエーリアとクロノスから説明を受けた。「そうか、故郷はそんな風になっているのか。でも時間が止まっているのはまずいんじゃないか?」「それはうまく利用すればいい。戦争中だろうがいくらでも止め放題だし、状況が変わらないわけだから食糧はなんとでもなる。時間停止を解除する権限はエーリアに与えたからそれでなんとかしてくれ」「おう、それなら何とかなるかもな」こうしてクウジとエーリアは異世界に転移することになるのだった。
その頃、死んだクウジを弔うべく葬儀が大々的に行われようとしていた。この世界では死が確定しているため多くの人が彼が別世界に移動したとは知らずに悲しみに暮れていた。弔辞はクウジの妻の内の一人が読み上げた。「故人は私達に恵みを、平和を、そして新しい命を授けた偉大な方でした。彼の死は悲しいですが、新しく生まれる命のためにも彼が遺した物は必ず後世に残し、伝えていきたいと思います」会場からは大きな声が上がった。そして彼が入れられた棺に火がつけられるとその周りで人々は故人である彼のこと、そしてこれからのことを祈った。葬儀はリチ町以外の町でも行われ、彼を知る者は涙を流すのであった。彼がこの世界に遺した物は何も作物や技術だけではない。彼と一度でも交わった女性は妊娠しており、リチ町で20人前後、ラフス王国で10人ほど、コーストタウンで10人、マーリセ国で15人前後とあとナーチの女王と元愛人含めて60人以上いる。ここから百年も経つと人間とあまり交わらなかったナーチ以外では人々の移動などで彼の血を引き継ぐ者が爆発的に増えていき、ルブラ王国とリチ町のほとんどの町民は彼の子孫である。つまり本編主人公であるトーイとユナも例外ではなく、彼の子孫に当たるのだ。ちなみにあまり登場していない場所としてエグジム村とシーソータジアがあるが、なぜ登場しなかったかと言うとエグジム村は妖精の森に守られていたため、シーソータジアはクロノスのお膝元なので影達があえて攻めなかったのである。そのせいもあってか人口が減らなかった分転移者もほとんど来なかったようだ。さて話を戻すと彼の遺骨は町の中央に埋められることになった。後にワープストーンの石碑が設置されたがその隣に彼の墓とその功績を示す像が設置されており、当然修正前には存在しない物である。これでエーリアも含めて彼らは像として飾られ、歴史に名を残すことになるのであった。
転移した世界は全てが止まっていた。空気も水も全て止まり、音は一切ない空間だった。「こんな世界居続けたら気が狂いそうになるぞ」「そうですね」「音が小さく感じるな。呼吸も結構辛い。空気が止まっているのと関係あるのか……」「ありそうですね、どうするんです、あなた」「ここはとりあえず、武器をさっさと取り上げよう」「そうですね」「お前はその身体だ。休んでいてくれ」「でも……」「でもじゃない。俺とお前の大切な子供なんだ」「わかりました。でもできることがあれば言って下さい」
クウジは戦争している双方の武器を取り上げた。「とりあえずあとはこれをしておこう」時間が停止する中、いつも通り畑を耕すクウジ。もちろん成長はできないので、作物が収穫できるのは時間を進めてからにはなるが。「最後にこれをしておけばいいかな」「いいと思います」そしてエーリアは時間停止を解除した。
戦争を始めようとしていた住民達は武器がないことにまずは驚いた。「一体どうなっているんだ!?」そして彼らの真横には沢山の食糧、穀物や肉などが置かれていた。「いつの間に食糧がこんな沢山!?」「驚くのはまだ早いぞ」声にびっくりした住民達が見た物は耕された地面、魔法をかけられてあっという間に成長した植物だった。「なんということだ……あなたは何者なんだ」「私が説明しましょう」「エーリア!?引きこもりのエーリアがなぜここに?しかも男を連れてくるだけでなく子供まで作っているとは一体!?」「この方はクウジというお方で神様が遣わした使徒です。私が神様に転移させられた先で出会い、見ての通り子供もお腹にいます。クウジさんが食糧問題に関しては解決させることができます」しかし、彼らが争っているのは「いかに自分達が多く取るか」の競争なのでこの程度では戦争は収まらない。食糧は戦争の影響で作れなくなったりしているため確かに減ってはいる。だが問題の本質はそこではない。「我々の取り分を増やして欲しい」「いいや、我々だ」我先にクウジに詰めより、取り分に関して醜い争いをする人々。「話を聞いていた時から思っていたけどだいぶ自分勝手だな、お前達」「下手に出たと思ったらなんだその態度は!」「お前らが争う一方で食えなくて困っている人々もいるんだろ?」「ああ、だから我々が」「でもお前達の態度からして配る気なんて更々ないようだな」「なんだと!?」「貧富の格差なんて正直俺の世界でも起きていたさ。元は商人だしお金がなくて食べる物が無くて困っている人は見てきた。だけど俺が一番嫌いなのはな、自分のことしかまるで頭に入ってないような連中、お前達のような奴らが大嫌いなんだよ!」「てめぇ!」武器はないが住民達は激昂して襲いかかってきた。エーリアが能力を使うまでもなく、クウジは拳で敵を地面に伏せていく。「ふぅ、戦争を起こすような連中や戦う連中は頭がそんなに良くないんだ。少しは反省してもらいたいな」「そうですね、そう思います」そう言いつつ、エーリアは拘束魔法で彼らを拘束する。町に連行して警察に引き渡した。この世界は現代レベルの文明らしく警察や病院はあるようだ。大規模な戦争で機能していない状況まで陥っていたようだが、彼らを除けば平和に生きることを選ぶ住民が大多数なので問題はない。クウジは戦争の発端を作った集落の長達も無理やり捕まえると、エーリアの助言もあり王様としてこの星全体を収めることになった。地球やニアアースとは比べ物にならないぐらい小さな星なので統治自体は難しくない。「本当に俺が王様になっていいのか?」「ええ、不平というか自分だけ得をしたりするのが許せないのでしょう?だったら一番上に立つ存在としてピッタリじゃないですか。その上でサミラさんみたいにちゃんと後継者を育て、国民が選ぶような仕組みを作ればこういうことは起きにくくなります」「そうだな。俺だけの能力も買ってくれてるみたいだが」「それはもちろんですよ。恵みをくれる神様とあなたは同じですから、害そうなどと考える人もほぼいないでしょう。口は悪いですが誰よりも正義感は強いですし」「口が悪いは余計だ。まぁ後継者もとい官僚達はちゃんと育てたりする必要があるな」「それでいいと思います」そして彼は王様として初めて人々の前に立った。「クウジだ。俺は王様という立場だけど、元はお前達と同じ所にいた。だからあまり壁を作らず、気軽に話をしてくれ。お前達の意見がこの国を、この星を良くしていくんだ」この話を聞いた国民達は当初こそあまり彼にわざわざ会いに行こうとしなかった。しかしクウジは畑を育てたり、管理やその他の公務のために各地を忙しく回っていたため、会いに来た彼に徐々に親しみを持つようになった。その結果として圧倒的な国民の指示を得ることになり、彼が打ち出す政策も次第に国民に受け入れられるようになるのだった。そんな折、王妃となったエーリアが四つ子を出産した。これに多くの国民が歓喜することになった。「今までの長達では考えられない幸せな生活が送れるようになった」と多くの国民が実感するようになると、彼は王様を引退し一人の男として家族を守るために働くようになった。「いいんですか?本当ならもっと王様として長く君臨できたのに」「俺にはああいう仕事は似合わないんだ。それより、この世界にもダンジョンがあったり魔物がいたりするんだよな?」「ええ、いますよ。争いも魔物に対して対抗するに備蓄をどう確保するかを焦っていたようですから」クウジが王様として動いている間、実は魔物達の大行進、スタンピートが発生しそうになっていたため、冒険者や軍隊で先回りして潰していた。しかしそれなりの被害を負い、死者もそれなりに出たため他に色々仕事がある以上冒険者は稼げない危険な仕事として敬遠されていたのだ。「俺は冒険者として町やこの国を守りたい。そもそもあそこに向かったのも俺が冒険したいと願ったからだ。お前と子供達も含めて守る、それが俺の決意だ」「そうですか。仕方ありませんね。たまには休暇を取って子供達の世話もお願いしますね?四人もいて大変なんですから」「あ、ああ。父親としての責務もちゃんと果たすさ。色々稼ぐ必要もあるからな、頑張るぞ」「行ってらっしゃい」キスをして彼は今日もダンジョンに向かう。それが彼の仕事であり、彼の生き甲斐なのだから。「終」
最後はこれ以上考えても確実に間延びしかしないと考えて完全に打ち切りのような形になりましたが、彼に関して書きたいことに関しては全て書けたかな、と思っています。真面目にチートハーレム主人公を書いてみましたが、これはこれでかなり面白く、そして書くのが難しい物語だなというのが正直な感想です。最後に読んでくれた皆さんに感謝の言葉を送らせて頂きます。