応接間2
そう言い終わると三人が顔を驚いたような顔をしてお互いを見つめる。ドルドが疑問を浮かべるより早く女性が言う。
「では君たちが……なるほど、なんとなくわかってきたぞ」
女性が何だか少々困ったような、そして慌てたような表情を浮かべ始めた。
「でもちょっと待ってください。ヴェドルの報告では、夫妻からガルドを指定してきたと伺っています」
「そうですよ。ヴェドル殿はガルドで待つと言っていますがそれでいいかと報告をしてきたのみです。こちらから滞在場所まで護衛を送らなくて大丈夫かと書簡を送って欲しいと伝えられていたではありませんか!」
やはり、話を聞いてから慌て始めたように見える三人に、何が何だか分からないドルドは唖然とするのみであった。しばらく話し合った後に体格のいい男性は席を立ち、慌てた様子で応接室より出て行った。
「すまない。確認事項が出来てしまってな。奴には仕事を頼んだのだ」
男性がそう答えると、紙にまたもいろいろと書き足す。
「君が今いるここはガルドの冒険者ギルドなのだ。つまり君は今目的の場所に諮らずも来ているということになる。申し遅れたが、私は王国騎士団第三師団団長ファリスだ」
「同じく第三師団カルロスだ。先ほどのやつは同じくウィリスだ」
「あ……えっと、ドルド、です」
お互い挨拶をし合うと、しばらく沈黙が流れる。
その後口を開いたのはファリスだった。
「我々はもしかしたら君に、君たちに大変なことをしてしまっているかもしれない。今確認のためにウィリスに書簡を送らせているので、数日以内には結果が出るだろう。申し訳ないが、ガルドにしばらく滞在していただくことは可能だろうか? もちろん宿泊施設や食事、その他必要なものがあればできうる範囲でこちらで用意させていただく」
そういうと、琥珀色の瞳がじっとドルドを見つめた。
どの道行く当てもなくしてしまったし、両親もなくしてしまい目的も分からない状態なので申し出を受けることとした。
そんなことを考えたせいかドルドの瞳にはいつの間にか大量の涙が溢れており、机を濡らし始めた。
カルロスが慌てて持ち合わせていたシンプルなハンカチをドルドに渡した。涙を拭い、嫌な思い出を消さなければと熱いハーブティーを一気に飲み干す。口から喉、そして胃へと熱いものが下りていく。そして深呼吸をすると、気を強く持つべく腹に力を少し込める
「では、申し訳ないですがしばらくお世話になります。今日は寝たいのでお休みさせていただいてよろしいですか?」
先ほどの涙のこともあるし、丸一日は少なくとも食事を口にしていない状態のため食事をするだろうと思っていた二人は、休みたいというドルドの言葉に少し驚いた様子だった。
顔を見合わせ、食事でもとカルロスが口を開きかけるのをファリスが制止する。首を横に振り、椅子から立ち上がると、今日は先ほどの部屋を自由に使ってもらって構わない旨を伝える。
ありがとうございますとだけ言い立ち上がったドルドに、ファリスは何かあったら受付に言えば対応できるようにしておくと言い、扉を開けた。
「部屋の場所は分かるか?」
「はい、大丈夫です」
階段を上り一番奥の左手。それが先ほど自分が出てきた部屋だというのは覚えている。ドルドはありがとうございますと礼を言い、軽く頭を下げると先ほど下ってきた階段を上り部屋へ向かった。どうもしっかりと足に力が入らない、地面に足が上手くついていないような感覚に襲われるも、何とか気合で階段を上がっていく。
いろいろなことを考えてしまう思考を押し殺し、元居た部屋へと戻ると、扉の内側に備え付けられていた錠をかけ、ベッドに倒れ込んだ。そして、息を殺し、泣いた。