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平穏と日常


 木輪が固い地面をゆっくりと転がる音が響くとともに、蹄がリズミカルに地面を蹴る音が響く。


 整備されているとは言っても土を均しただけの粗末な者ではあるが、町を繋ぐ街道などこれでもよく整っている方だろう。


「トト。次の町はどんなところなのですか?」


 荷馬車に乗る一人の少年が馬を操る男性に声をかける。父である男性は荷馬車を一度振り返ると進行方向を指差し、


「次の町は中央国から東の港町への動線になる町だ。港町から仕入れた魚介を中心とした足の早いものを取引する際に使われる町だな」


「新鮮なお魚、野菜、他国から仕入れたものからこの辺で採れるものまで色々とあるのよ」


 少年の隣に一緒に座っていた母である女性が補足する。


「港町とは違った活気がありそうですね」


 少年が明るく答える。


 少年の名はドルド。父のトト、母のカカと共に武器主体の旅商を行っている。只今東の国の最も大きな港町から西へ移動している最中で、この辺りが……というより、東の国が初めてであるドルドは見るものすべてに感動をしている様子だった。


「港町で食料は確保したが、仕入れという仕入れはなかった。中央に行く前に一度仕入れもしたいし、カカが移動中に作れる衣装用の皮や毛皮もいくつか欲しい。二日ほど滞在する予定だから、欲しいものがあるならそこで揃えておけよ」


 トトが馬車を操りながら話す。


「ようやく魔石剣三十本が揃ったからね。納期までもうひと月ばかりあるけど、早めに納品できるなら早めがいいって言われていたし、書簡を送ったらこの町に部下を用意したって返事が来たのよ」


 カカが続けて話し始めた。どうやら数か月前に王国騎士団より依頼された武具がようやく揃い、中央にある王国騎士団本部へと送り届けるのが直近で最大の目的なのだ。そのために次の目的地で王国騎士団から依頼を受けているという護衛隊と合流し、そこから中央へと向かう手筈になっているのだという。


 なるほど。とドルドが納得する。であれば、中央へ行った際に取引できるような薬草やらなんやらを獲得しておく方が有益かとドルドは考えた。


 若いながらにドルドは薬草の知識があり、それに付随する国家資格を所持していた。それは全国での薬草の採取と販売を正当に行える権利を与えるというものだ。


 ドルドが八歳のころ、鍛冶師であり旅商の父と服飾師である母と共に世界を回っていた時、偶然同じ町に居たとある旅商が販売していた薬草学の知識書に目を留めた。鍛冶の手伝いと勉強だけをしてきたドルドにとって偶然見つけたその本が何故だかとても魅力的に見え、何か欲しいものがあったときに買いなさいと言われ渡されていた小遣いのすべてと、足りない分を両親に頼み込んで出して貰いその本を買ってもらったのだ。


 その日から手伝いと勉強以外の時間をほぼすべてその本を読むことに充てた。分からない文字を両親に聞き、隅から隅まで読み続けた結果、二年後には国家資格に合格するまでの知識を得ていたのだ。


 今となってはドルドの貴重な収入源の一つであり、さすがに薬学の知識まではないので薬を作ることはできないものの、そのまま飲めば効果のある薬草や乾燥させることで効果の出るもの、混ぜ合わせると効果の出るものなど様々な薬草の知識を手に入れたのだ。


 その知識を生かして中央へ向かう前に薬草をある程度ある程度集めておこう。両親はいらないというが、家計の足しにして欲しいと販売額の何割かを半ば強引に渡しているので使用用途は知らないがとりあえずは受け取らせているので、いざというときには使っているだろう。


 ちなみに、無加工の薬草というのはそこまで単価の高いものではない。一ポンド単位での買取が非常に多く、雑多なものは子供の小遣いくらいのものになってしまう。モノを選べば一把いくらというのもあるので狙い目はそこだろうが、そういったものは大抵特殊な環境に生えるものや見つけるのが困難なものが多い。とは言え、モノを選べば煎じるだけで飲めるものや、乾燥させるだけで効果のあるもの、果ては貼るだけでいいものまで種類も効能も様々なのでしっかりとした選別が大事なのだ。


 特にそのまま効果の現れる類のものは需要が高く、単価も一ポンド単位でなく一把単位で買って貰えることが多い。


 そんな薬草の採取へ出かけられるのを楽しみにしながらドルドは荷馬車で揺られていく。日もまだ高く、季節柄少々肌を焼く感覚があり多少の発汗はあるものの、時折吹く風は肌を撫で僅かばかりの清涼感を与えてくれる。あとどれくらいの時間が経てば町へ着くだろうかなどと考えていると、街道が少々森の方へ伸びており、木々の生い茂る道を多少進みだすこととなった。


 こういった場所には薬品の材料となる薬草や近しい類のキノコ類が生えているものだ。


 ドルドがそう考えると同時くらいだろうか。トトが馬車を街道わきに止めた。


「そろそろ休憩にしよう。港を出てからもう四時間は経っている。町までは急いでもまだ2時間ほどかかるしな」


「で、ではトト! 周りを軽く散策してきてもいいですか!?」


 休憩。という言葉を聞いて目を輝かせるドルドを見てトトとカカは顔を見合わせ、やれやれといった顔を見せる。


「あまり遠くに行かないように。あと、迷子にならないように。初めての土地なんですからね。磁針だけは持っていきなさい」


 と、カカがドルドに小さなカプセル状のモノを持たせる。


 ドルドはそれを受け取ると一度方角を確認し、元気に森へと駆けて行った。

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