雨
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突然の豪雨に見舞われたある日、ある夫婦はぬかるむ足元を気にしながら整備もされていない獣道を歩いていた。
宿のある町まで戻る道中、まさかこんな雨に打たれるとは……。しかし、ある意味運がいい。早朝、妻からの提案で馬車ではなく徒歩での散策に切り替えたからだ。
などと考え、ずぶ濡れになりながらも薄暗い森を抜けていると、雨の叩き付けるような音に交じって何やら子供の泣くような声が聞こえた。それを聞き夫が足を止めると、妻もそれに気づいたのか二人で顔を見合わせる。
声のしたと思しき方へゆっくりと草木をかき分けていくと、少々開けた場所に出る。
そこには車輪が砕け、各所の損傷した馬車と、それを引いていたであろう無残な馬の死体……それに加えて屈強そうな二人の男と少し離れた場所に高価そうな衣服で着飾られた二人の男女の姿が見えた。
屈強そうな男たちは見るからに絶命しており、明らかに何者かに襲われたであろうことが伺える。夫婦は慌てて男女の方へ駆け寄ると、声をかける。
「おい、大丈夫かあんたたち! 聞こえるか!」
返事はない。仰向けに倒れた男性の方は完全に息絶えているようだ。見れば腹部と首に切創があり、おそらく刃物にて襲われたであろうことが伺える。うずくまる様に、何かを守る様にしていた女性の方は妻が声をかけていたが、そちらはまだ息がある様子だった。
「大丈夫か!?」
女性背中に大きな傷があり、出血がひどい。右わき腹にも刺し傷のようなものが伺え、真っ赤に染まった衣服からも助かる見込みが薄いと感じてしまう。
「ど、どなたか……存じませんが……こ、この子を……この子だけでも……」
うずくまっていた女性は大事に抱えていた籠をこちらへ渡す。そこには生後間もないであろう赤子がこれまた良質な生地の布にくるまれていた。
「何言ってるの! あなたも助かるのよ!」
妻はその女性を抱きかかえようとするも持ち上がらず、仕方がなく女性を夫に任せると、自分は赤子を籠ごと抱える。
夫婦は抱えた女性と赤子を医者に見せようと走り出すも、ぬかるむ道に足を取られ、うまく走ることができない。その間にもみるみる冷たくなっていく女性に妻は何度も声をかけ、意識を何とか繋ぎ止めようと必死になった。
しかし、町までまだまだというところで女性は雨なのか涙なのか分からないものを目から流すとその生涯を終えるのだった。それに気付く様子もなく、二人は町まで走った。どれほど走っただろうか、医者についた時には女性は冷え切っており、間に合わなかったことに悲しみを覚えた。
だが、赤子の方は籠に入りおくるみをされていたこともあってか少々体が冷えているものの健康そうだという。
それを聞き安堵をするも、あの惨事を目にした今ではあまり喜んでもいられない。夫は妻にその子と女性のことを任せると、自警団の元へと向かい、事情を説明した。
しばらくの後、野党に襲われた資産家だろうという見解を得た。だが、この辺の人ではないらしく、さらには田舎であるこの町では情報も少ないためそれ以上のことが分からないと、この件は王国騎士団への報告を行うこととなったそうだ。
そして、赤子は夫婦が預かることとなった。見れるものがいなかったというのもあるが、最後に託された以上は最後までと妻が申し出た結果、夫婦が預かることとなったようだ。
武器や衣服を主とする旅商である二人は、新たな命を迎え旅を続けることとなったのだった……。