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白い国と誓約

 白の床、白の壁、白の建物、白の織物、白の明かり。

 全てが白に埋め尽くされたこの場所は、心の奥底までもを白く塗り潰してしまいそうだ。

 キリシェと呼ばれるこの国は、白い大地に白い建物、織物や身につける衣服に至るまで白に統一された国であり、中央にある巨大な神殿は、支える幾つもの柱に細やかな紋様が描かれ、この世界の歴史が事細やかに刻まれている。

 この国の人間は、魔力の塊である魔石を身体に宿して産まれる。

 その形や色は様々で、魔力の強さや力の種類も様々だ。

 ある者は癒しの力、ある者は炎を操る力、ある者は未来を知る力、というように。

 眩い光が降り注ぐ彼等の国は、その魔力に依って豊かな自然を生み出し、栄えていったが、ある日、それは隣国であるナァヴの侵略によって崩されていく。

 ナァヴの魔物達は自らの力を更に高める為、キリシェを侵略し、国民達を捕らえ、彼等の中から魔石を取り出して喰らったのである。

 高い魔力を保持した国民から選ばれた、優れた戦士達が守護するこの国・キリシェは、ナァヴからの強力な魔物達の侵攻に対し、懸命に抗い続けた結果、長く戦争を強いられてきた。

 とりわけこの国を統べる女王は聡明で美しく、その身体から採れた魔石を得る事が出来た者は、この世界を手にする事が出来る、という噂までまことしやかに囁かれているそうで、白の国は大層丈夫な壁を高く作り、光を嫌う魔物に対し、国中は昼夜問わず、影さえ嫌がる程に眩い光を灯している。

 女王が鎮座する神殿は一際明るく、長い回廊を抜け辿り着いた神殿の最新部は、より一層白さを際立たせていて、まるで全てを白い世界へと塗り潰さんとしているかのようだ。

 入り口で待ち受けていた二人の神官は、肌や髪を白い布と金銀の装飾で覆い、唯一晒されている目元だけで来訪者を確認すると、両手を重ね、それを厳かに額の前へと上げて礼をしている。

 そして、静々と通路の端に二手に分かれると、更なる奥の間へと促していた。

 足を踏み出して進んだ神殿の奥は、見上げると首が痛くなる程に広く高い空間で、無駄な装飾は一切見られないのに、息苦しい程の白さで埋め尽くされ、歩みひとつさえ酷く重く感じられる。

 あまりの眩さに眩暈が引き起こされてしまいそう、で。

 そうして神殿の最奥、開けた広間のような空間には、幾重もの薄く透けた白い布で覆われていて、そこに置かれた豪奢な白い玉座に腰掛けているのは一人の女性だ。

 足首にまで届く程の白銀の髪は眩い程の艶があり、小さな白い花々で彩られ、長い睫毛に覆われた青い瞳は、遠くまで見通せる程の透明さを保っている。

 頭上に輝く金の冠や銀の刺繍が施された白い衣は、彼女がどれだけの位の者なのかを、はっきりと理解出来る程の意匠を凝らしたものだ。

 大きく切り取られた窓から、燦々と入り込む陽光を浴びて尚、白さを保つ胸元や手足は、数え切れない程の宝石を使った装飾品で彩られている。

 この国では宝石は、とても重要な意味を持つ。

 魔力を封じ込めたその宝石を身につけられる数が多ければ多い程、高い魔力を保持出来る、と知らしめる事が出来るのだ。

 つまり、彼女はそれだけ高い魔力をその身に内包していて、だからこそ、ナァヴの魔物達は彼女を狙っているのだろう。

 あまりにも整ったその容姿は、まるで生気を感じられず、美しい彫刻のようで、思わず目を逸らしてしまいそうだ。

 その眼で見つめられるだけで、指先から少しずつ、けれど確実に、身体から体温が抜け落ち、震えが止まらくなってしまう。

 そうして、その場に崩れ落ちる様に跪くと、まるで祈るように両手を重ねた。

 触れたら壊れそうな程の繊細さで、触れれば壊されてしまいそうな程の気高さで、彼女は此方を静かに見つめてくる。


「どうか、この国を救う為に」


 白い腕を差し出し、そう告げる彼女の前で、震える両手をただ強く、強く強く、握り締める。

 爪が皮膚に食い込み、痛みを齎していても構わずに、強く。


「……、女王陛下の、御心のままに」


 乾いた声でそう告げると、女王は感情を削ぎ落としたかのような表情のまま、静かに頷いた。

 当然だ。

 この国を守り、救う為。

 その為にこの身はあり、生かされてきたのだ。

 そうすれば、あの人を助ける事が出来る。

 その為に、生きているのだから。

 だから、この国を、守らなければ。

 きつく握り締めた両手は、いつの間にか皮膚を突き破り、肉に深く爪が食い込み、血が滲んでいた。

 気が狂いそうな程に白い床に、真っ赤な血液がぽつり、落ちている。

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