第八話『 団員!』
……シーンとしている。
なんだろうか?もしかして何かミスったか……?
この世界特有の自己紹介の仕方があったり、まずいことでも口にした……?
俺は、間違えてしまったのだろうか……?
嫌な汗が吹き出て、喉が乾いてくる。
心臓がバクバクと鼓動を早める。
どうしよう……今からでも、何か他のことを話した方が……
(……ぱちぱちぱち)
しかし、そうやってハラハラしていると次第にパチパチと拍手が聞こえてきた。
それはどんどん広がっていき、今では団員の過半数が手を叩いている。
その光景を見て、体全体を覆っていた"熱"が引いていくのを感じ、すっと力が抜けるのが分かった。
……はぁー!
良かった……俺はちゃんと認められたんだ!
拍手が聞こえてすごく安堵した〜……!
フゥ……まじでびびった……!とっても緊張したぞ……!
今、顔真っ赤になってないだろうか!?ほんとそれぐらい緊張したんだが?!
「フッ……はい。
という訳で、きっぺいくんだ。よろしく頼むぞみんな」
なんか今、この団長笑わなかった?
もしかしなくても馬鹿にしたよね?明らかに鼻で笑うタイプの音だったもんね今!?
……まぁいい。
誰になんと言われようと、俺はやりきったんだ!
自己紹介が終わり一息ついた所で周囲が騒いでいる中、心の中でガッツポーズをとりながら勝利の余韻に浸る。
しかし、異世界のテンプレがなくてよかったな!
このクランに入りたいなら力を見せろ!とかいって、団員の誰かが突っかかって来たらどうしようかと思った。
だってそうなったら、絶対ボコボコにされてボロ雑巾になって終わりだもんなぁ。
あの奥の方にいる、大斧持った強面の戦士とか滅茶苦茶強そうだもん……
俺、右目に傷がある人とかアニメでしか見た事ないよ……?
「ハイハイお前ら。ガヤガヤ騒ぐのはいいけど、次はお前らが自己紹介してやってくれ……そうだな、じゃあミツルお前からな!」
団長が軽く手を叩きミツルくんの肩を叩く。
それを聞いて、ミツルくんは手に持っている木のジョッキを置くと困惑した顔で団長を見つめた。
「えぇ?拙者でござるか?」
「あぁ。お前が1番手だ!よかったな?」
上からの圧力だ!あぁ、可哀想なミツルくん……
俺の自己紹介中、木のジョッキに入ったあたたかそうな飲み物に微笑みながら息をふきかけていたというのに……
ようやく湯気がひいてきて、ついに飲もうとしていたというのに……!
だが、ミツルくんも(おそらく)武人である。
団長の様子から決定事項であることがわかったのか潔く腹を括ったようだ。
「ハイハイ。わかったでござるよ……では、不肖ながら拙者から。と言ってもきっぺい……くんはもう知ってるでござるね」
ミツルくんは苦笑しながらも立ち上がり、すぐさま俺の目を見て自己紹介を始めた。
「拙者はクサナギ ミツル、戦闘班でござる。
得意なことは剣術、特に刀を使った剣術が得意でござる。因みに魔法は身体強化しか使えないでござるね。……こんなもんでいいでござるか?」
俺はその完璧な自己紹介にすかさず拍手を送った!
ふむふむ、ミツルくんは刀術が得意なのか……
刀とか使えるとかっこいいし、いつか教えてもらいに行こうかな?
ていうか異世界でも刀とかあるんだな。
やっぱり優れた物を求めていくと形状が似てくるんだろうか?
それとも、よくある異世界語翻訳機能がそれっぽい言葉を選んでるとか……
まぁどちらにしろ不思議なものである。
研究職としては、とっても気になるところだな!
「よし、オッケーだ。次もこんな感じて頼むぞー」
「はーい。わかりましたよ団長」
団長の言葉を聞いて次に前へ出てきたのは、俺より少し低いくらいの身長をした女性だ。
だいたい150cm位だろうか?
外見としては少しクマのあるツリ目で、艶のある赤い肌が特徴的だ。髪は癖のある金よりの茶髪ショートで、またもや美少女だな!
あとは、なんと言ってもふとももがやばい!
水縞のランニングに白衣と短パン、ニーソックスにガーターベルトという服装から見えるふとももがやばい!
しかし肌が赤色ということは、RPGとかでいうところの鬼とかオーガとかその辺の種族なのかな?
……だが、それにしても、衣装がとても現代風である!
何故だろうか……?
刀の件もあるし、もしかしたらこの世界には"異世界人"が居るとか……?!
俺、とても気になります……!
そんなことを考えていると、不思議の塊のような彼女は赤い肌に映える美しい黒目で俺を見つめ、にへらと笑い口を開く。
「はーい新人君、うちはヒイラギだよ。星の知恵では研究班やってるよー?
得意なことは研究で、あとは魔法が少し出来る位かな。
じゃ、うちは研究に戻るから次の人どうぞ〜」
ヒイラギさんはそれだけを言うと、俺が拍手する間も無く何処かに行ってしまった。
研究キャラだ……!研究以外はどうでもいい感じのキャラだ!
物語でしか見た事のないような人々を、生きてるうちにこんなにも見ることができるとは……感激だな……!
……いやまぁ多分一回死んでるけどね!
「はぁあいつは……まぁいいか。
ミツル、宴会になったらヒイラギを呼んできてくれ……次!」
「ふっ……俺だな。ノアール=レクトロ二アだ。
偵察班をやっている。特技は"混沌の意思"を調律し発現させる事だ。よろし……!?
ぐぁッ!鎮まれ俺の右手……此処で混沌を釈くことは許されない……俺から離れろぉ!」
突如として目の前に現れた彼は、矢継ぎ早に言葉を紡ぎ右手を抑えた。
その手にはぐるぐると黒い包帯が巻かれている。
あぁ……こういう人か。了解了解。
まぁ俺は好きだよ?昔やってたしね……?
ちなみに、この人はさっきの仮面をつけた人である。
黒を基調とした目を覆い隠す仮面に、薄らと赤い線が浮かんでいる。
仮面以外の外見でわかることといえば、黒髪黒目、口元だけの印象でいくと割とイケメンだということぐらいだ。
着ている黒いコートには大量の鎖がジャラジャラとついている。
……十中八九あれだろうなぁ。
中学二年生辺りで発病する、不治の病。
異世界で見ることになるとはなぁ……
厨二病患者。
俺がしみじみとそう思っていると、ノアールさんは他の人達に羽交い締めにされて後ろに連れてかれて行った。
さっきも言ったけど俺は割とすきだよ?面白いしね……?
「よ、よし次に行こう!」
「くくく……私のばんね……」
次は我らのアイドル、まりあちゃんのようだな。
外見としては言わずもがなの美少女、紫色のローブを身にまとった静かな印象を受ける女性である。何がとは言わないがデカい。
「ふふふ……デス・マリアンよ。治療班をやってるわ。
……得意なことは神聖魔法。よろしく……」
「よろしく!」
そそくさと後ろに下がるまりあちゃんに対し、小さく手を振って見送る。
……すると、まりあちゃんがこくりと頭を下げてくれた!
あっ……嬉しい……とんでもなく嬉しい……!
まりあちゃんが去っていった方向を眺め、穏やかな表情で頷く。
……しかし、そんな俺の肩がいきなりガシッと掴まれた。
「よぉーし!次はオレの番だな?
オレはスパナ・クギナット、整備士だ!得意な事は空間魔法だな!こんなふうに出せるんだゼ!」
「あっえっと……!す、すごいで」
「そうだろォ!すげぇよなぁ!で、オレの自己紹介だけどよ!……」
俺を背後から奇襲して、さながら旧来の仲のように肩を組んできた彼は、その特徴的な大きなアフロからスパナのような物を取り出し見せてくる。
その口ぶりから察するに、空間魔法というものによってなされている技らしい。
うん……正直凄いと思う。
空間魔法と言ったらゲームでも高位の魔法である。
それに準拠するなら、おそらくは相当な魔法の腕なのだろう。
ほんとうに凄い、尊敬する。
でも……
なぜそこから出すんだろう……?
その疑問の方が勝ってあんまり褒められないや……!
「ハハッ!オレはスゲーからな!
え?もっとオレについて知りたいって?ジャ、次はオレについて詳しく話していくゼ!」
大きなアフロにサングラス。
焼けた肌に真っ白い歯。我が物顔で着こなしている紫スーツの袖の部分に、いつの時代の遺物だというようなヒラヒラがついている。
そんな彼……スパナさんは喋るのが好きなのだろう、全くもって口が止まる様子がない。
これは合いの手すら挟めないな……マシンガントーク超えてミニガンぐらいの物量である。
「苦手なことは基本的にないゼ?
ハッハッー!その目、疑ってるな?いいだろう。
オレがどのくらいすごいのかを話して───」
「おい、スパナ!後ろがまだいるから止まれ!」
「おっとおっと、そうだった!他の人の自己紹介がまだだったな?じゃあ次の人にかわるゼ!」
よかった。団長が居て心底よかった……!
危うく武勇伝的な何かを聞かされるところだったよ……
俺はほっと胸をなでおろし、次の人に視線を移す。
次に現れたのは金髪でポニテ、つぶらな瞳が印象的な……
「うふん♡ようやく私の番ね♡」
……筋骨隆々のオカマさんだ。
身長が大体200cm以上あるんじゃないだろうか?
顔はごつく目はつぶら。あつい化粧に包まれていて少々……いや、正直に言ってすごいケバい。
とにかくそんなオカマ然とした彼……彼女?は、ずんと俺に手を差し出して口を開いた。
「私はゴンザレス・エル・エレガンツよぉ♡
武器防具長をやってるわぁ〜♡
私、あなたみたいなヒョロい男結構好みよ……きっぺいちゃん♡
よろしくぅ〜♡」
「アッハイ。ヨロシクオネガイシマス……」
うん……言葉で心臓握り潰されたの初だわ。
その位心に来たわ、今の言葉……
あ〜……鍛えよ。すぐに鍛えよ。ムッキムキになろう。
ヒョロい男を卒業するんだ……
ミシミシと軋む握られた手の感覚に新たな決意を固める。
そんな俺の前に、3人のモヒカンが現れた。
三世紀末料理人の皆さんである。
「よぉ新人!美味しい料理を作り終えたから来たぜ!俺はザルザだ。よろしくな」
「ひひっ!おらァゴルゴってんだァ……。よろしくなァ?新人よォ!」
「俺はトビヒサ、料理人だ。料理の事なら任せてくれ」
ふむふむ!
赤のモヒカンがザルザ、青のモヒカンがゴルゴ、そして緑のモヒカンがトビヒサか。覚えたぞ!
それにしてもこの短時間で20人程の料理を作るとは……やっぱりすごい料理の腕だな?
「3人ともよろしくお願いします!」
「おうよ!」
「ケケッ!いいぜェ!色々教えこんでやるよォ……!」
「料理ならば力になろう……」
こんな見た目だけど意外と気のいい人達なのかもしれないな。
やっぱり人は見かけじゃないんですよ!(迫真)
「じゃあ次は……」
「はいはーい!次は私だよ〜」
テルラさんか!これは安心して聞くことが出来るな!
「知ってると思うけど私はテルラ!
警備長をやっていて、盾を使うのが得意かな?
あっ、因みに本名はミルミョル・テルラだよ〜!
テルラちゃんでも、テルラさんでもお姉ちゃんでも好きに呼んでくれていいよ?」
「えっじゃあお姉ちゃん……あっ、やっぱりテルラさんで」
「そう?私は別にいいんだけどね〜?」
「はい、大丈夫ですテルラさんで。いやむしろこれがいいです!」
「そっか〜……残念だぁー」
俺だってざんねんだよぉ!
いやだってさぁ……
周りから感じるとてつもない視線……きっと、殺気と呼ばれているそれを知らんぷりできるほど、俺は勇者じゃないからさぁ!
人間の殺気を浴びたの始めてだよぉ……ちびるかと思った……
……特にねここさんがやばかった……殺されるかと思った。
「ゴホン!……私はネココです。副団長です。
得意な事はキャラバンの運転で、苦手な事は対人戦です。改めてよろしくお願いしますねきっぺいさん?」
「はい!喜んで宜しくお願いさせていただきます!」
怖い…!圧倒的殺気……!
ねここさんには一生逆らわないように生きていこう……!
「よし。次だ!
次は、ついにお前の師匠になる人を紹介するぞ?
……おーいリュウコさ〜ん?」
深く息を吐いた俺に団長が声をかけた。
そして、そのままの流れで部屋の隅のテーブルに呼びかける。
そこには、肩より少し長い緑髪に、あの有名な伝説上の生き物……
龍のような二本角を持った美女が一人静かに酒を呑んでいた。
よくよく見てみれば、どうやら二本角の片方は途中で折れていて、少し短いみたいだ。
ぱっちりとした目の下にある泣きぼくろが印象的で、艶めかしい唇は見るものを魅了する美しさを孕んでいた。
そんな彼女は呼び掛けに気づいたのか、美しい目で此方をみやり……その艶やかな唇をゆっくりと動かした。
「ん゛〜?なんじゃ〜ッ?!
妾は酒を呑むのに忙しいぞぉ〜!?」
「ちょっとリュウコさん!先に飲んじゃ駄目じゃないですか!貴方酒弱いんだから!!」
「妾はさけぇ〜よわくないぞぉ〜?もっと酒持ってこ~い!ヒック……!」
リュウコさんはそう言って、持っていたジョッキを一気に煽る。
するとその数秒後……
ドンッ!と頭から勢いよくテーブルに倒れ込んだ。
「あぁ……またやったよこの人……何回目だ?」
「まぁこういう人だからなぁ……頭はいいんだけどな。しかし酒癖がなぁ……」
一瞬で理解する。
あぁ、残念系の星の元に生まれた人だ……可哀想に。
俺は心の中で深くお祈りをした後、そういえばこの人が師匠だということを思い出した。
そうか……きっと、俺の修行はままならないことになるのだろうな……
「そうだな……この人の紹介は明日にするか」
「そうだねー!
まだきっぺいくん以外の新人を紹介してないからね~?」
「あ、そうですね。それは挨拶しなきゃですね!」
「うむ。じゃあ、新人たち。お前らも自己紹介してやってくれ」
俺以外の新人……どんな人達なんだろうな?
優しくて話しやすい人だといいなぁ……?
そんなことを考えて、団長の後ろからやって来た人達の方を向く。
期待半分怖さ半分の俺の前にやってきたのは……
「あんたがわたしと同じ仮入団?
こんな弱そうな奴を受け入れて古参クランを名乗るなんて……ほんと、呆れるわね!」