第四話『異世界って最低!』
ドカンッ!!!!グシャッ!!!!!
「ヒャッッハァァアアーーー!」
「うわっァァァ!コワイィァイイ!たすけぇてぇ〜!?!?」
あぁ……まただ……
何かがキャラバンにぶち当たり、車体が大きく揺れる。それに呼応するように叫ぶ運転手。
……そして、震えながら座席に抱きついて泣き叫ぶ団長。
「行くぜ行くぜ行くぜぇぇぇえッ!?」
「……ッ!危な……!」
運転手の言葉の後に、それまでも凄まじい速度で走っていたキャラバンはよりスピードをあげる。
きっと、もう70km位は出てるだろう。
ドカンッ!!!!グシャッ!!!!!
ドカンッ!!!!グシャッ!!!!!
ドカンッ!!!!グシャッ!!!!!
……
走り出す前はピカピカだったフロントガラスは、いつの間にか何らかの血しぶきで彩られており、大変前が見えずらくなっていた。
「チッ……うぜぇな?」
しかし、それを見た運転手がハンドル横のレバーを引くとたちまち綺麗になっていく。
何かの魔法だろうか?
「おい、テメェら!
死にたく無きゃしっかり掴まっとけよォ?!」
「ちょっおま……それは無…だ……うぇっぷ……吐きそ…あっやばオロロロロロ……」
「だんちょう、だいじょうぶだよ〜よしよし!ちょっと飛ぶだけだからね〜!」
……飛ぶ?
団長を介護しているテルラさんの言葉に、何かと思い外を見る。
すると、その先にはあるはずのものが何も無くなっていた。
先程まで走っていた地面がなくなって、代わりとしてただただ深い闇が広がっていたのだ。
……簡単に言うと谷だね!
それを見て俺はすぐさま座席に掴まり頭を下げ、衝撃に備えた体勢をとった。
怖くなーい怖くなーい……(震え声)
まぁ、声といっても舌を噛まないために喋らないようにしてるんだけどな……!
『ドンッ!!!!!キキィー……!』
「ぐっ……!?」
そうこうしていると、感じていた少しの浮遊感が消えて、代わりに凄まじい衝撃が襲ってくる。
ははっ……軽く首が折れるかと思ったぜ……!
「ヒュー!ギリギリィ!今のはヒヤヒヤしたなぁ?!」
「あぶなかったねぇ〜。でも楽しかった!」
「たのしぐない……うぇっぷ……」
死んでない……俺は生きているぞ……!
ふぅ……ということは落ちなかったということだ!
良かったぁ!まじで良かった!
……よし!首もある!体に外傷も無し!
「生き残ったのか……助かった……!」
この世に生を受けてからというもの、命があることをこれほどまでに喜んだことはないな……!
はぁ……
それにしても異世界って酷い!
何故こんなことがまかり通っているのか……!
……え?何がそんなに酷いのかって?
それはーーー
「ねここちゃーん!
だんちょうが辛そうだからちょっととめてくれる〜?」
「あぁん?もう耐えれねぇのか?」
「もうマジ無理。死ぬ……ヴェェ……」
「拙者も少し用を足したい故、止まって頂けると嬉しいでござる!」
「もう少しも我慢できねぇのか?あ!?」
「ちょっと無理そうでござる!」
「……チッ。
わぁったよ……せっかく楽しくなってきたってぇのに……全く」
ーーーキャラバンの運転手がねここさんって事だよ……
あぁ神よ!
なぜねここさんにハンドル狂人の要素を入れたのですか……?
清楚で控えめな獣耳っ娘、それだけで良かったじゃありませんか!?
「はぁ……なぜなんだ神……」
俺は深くため息を吐いて頭を抱える。
そして、キャラバンに乗り込んだ時のことを思い出した。
ねここさんがキャラバンに乗り込んで、にこにこしながらハンドルを持った瞬間。
どの座席に座ろうかと悩んでいた俺に一言、「早く座れ!じゃねぇと殺すぞ!」っていったんだぞ?
あれまじで怖すぎてちびるかと思ったね!
……まぁしかし、今の俺から言えることはこれだけだ。
ねここさんが悪いんじゃない、こんなけもみみ美少女が悪い訳が無い。圧倒的に世界が悪い。
ハンドル狂人属性をつけた神が憎い……
そうだ、せめてもの抵抗としてこの言葉を残そう。
「異世界って、最低だな……」
そう呟いて、俺は静かに目を閉じた。
「きっぺいくーん!外に空気を吸いに行きましょー!
……あれ?きっぺいくん泣いてる?どうしたの?」
あぁ……異世界って……
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復活!私は乗り越えて帰ってきた!
はい!ということでところ変わって今は休憩中!
テルラさん達に連れられてお外にやって来ました。草原の空気がうまい!
「いやぁ、すみませんでした!ちょっと世界に絶望したもので……」
「そんな簡単に世界に絶望しないでよ!戻すの大変だったんだよ?」
「すみません……
キャラバンの速度がすごく速いって最初に伝えておけば良かったですね……私の落ち度でした。ごめんなさい……!」
「いえいえ!姐さんは悪くありません!
自分が勝手に絶望しただけですので、お気になさらず!それに……そうゆうのもありかなって……おっとなんでもないです」
危ない危ない!
ねここさんに俺が乗り越えた事を知られてしまうところだった!
これを知られてしまったら引かれる可能性大だからな!心底気をつけなければ……!
……何を乗り越えたのかって?
そりゃもうあれよ!
俺を絶望の縁に追いやった、ねここさんのハンドル狂人属性!
それを『そういうのもありだな……?』と、心の楔として自らに植え付けることにより絶望の縁から脱したのだッ!
さっきは最低なんて言ってごめんね異世界!
君のことは今もまぁまぁ好きだよ!
……たとえ何度殺されかけてもなッ!!!
「姐さんって、私のことですか?
……何故私は姐さんと呼ばれてるんでしょう?」
「お気になさらず姐さん!」
「そうそう!気にしないほうがいいよ〜姐さん?」
「テルラさんは馬鹿にしてる気がしますが……別に嫌でもないし気にしない方がいいのかなぁ……?」
ふむ……この反応を見るに、ねここさんは自分のハンドル狂人属性に気づいてないっぽいな?
それならば深くつっこまないようにしよう……やぶ蛇やぶ蛇。
いや……それにしても今回の絶望から立ち直る上で、美少女三人娘には本当に助けられた。
ねここさんの獣耳……まりあちゃんの膝枕……テルラさんのなでなで……!
どれかひとつでも欠けていたら、俺はここまで戻って来れなかったな……!
……そうだ、まりあちゃんにも礼を言わなければ!
「あれ?どこ行くのー?」
「まりあちゃんにお礼を言いに行ってきます!」
首を傾げて問いかけてくるテルラさん(超絶可愛い)にそう答えて、キャラバンの影で地面に布を引いて座っているまりあちゃんに近づいていく。
そして、やってきた俺を見つめてくるまりあちゃんに深く頭を下げた。
「まりあちゃん!先程はありがとうございました!」
「?くくく……私は何もしてないわ……?」
「いえいえ。個人的に助かりましたので!」
異世界を許すために、乗り越えるために!
想い出全力で使わせていただきました!ありがとうございますッ!
「ひひひ……まぁ、何か力に成れたのなら良かったわ……」
「はい!ありがとうございます!」
よっしゃ!これで完璧!
助けて貰ったらしっかりとお礼を言うこと。これはしっかりしなきゃな!うんうん!
……でも、なんでだっけ?
うーん……なんでだっけ?なんか理由があったような……?
「ねぇ、ねここちゃん……きっぺいくんって不思議だねー?
いきなりマリアンちゃんにお礼を言って、そのままなにか考え始めたよ?」
「そうですねぇ……
でも、お礼がしっかりしてるし、いい人なんじゃないですかね?
……なんのお礼かはわかりませんけど」
「そっかぁー……そうだね!うんうん!」
「遅れてすまないでござる!用も足したので出発の準備が出来たでござるよ!」
「おっ。ようやくきたね。じゃあ行こうか!」
「はい!
……では皆さん。出発しますので乗ってくださーい!」
なんでだっけ?思い出せないなぁ……
昔、誰かに言われたような……?
「ほらほらきっぺいさんも乗ってください!出発しますよ!」
「あ、はい!……え、出発?
……はい!わかりました!」
いつの間にかそんな時間になっていたのか……
俺が考え込んでいる間に、休憩時間が終わってしまうとは!
それに、なにも思い出せなかったし……
……しかし、思い出せないことはどうやっても思い出せないし今はもういいか!
そんなことより一刻も早く町に行かねば!
魔法と冒険者組合が俺を待ってるぜ!
「よし全員乗ったな!?出発だオラァ!」
「しゅっぱ〜つ!」
「おらぁぁあ!飛ばすぞぉぉおおおおおおッ!」
……うん、今日も姐さんはかっこいい!
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「よしよし、割と慣れてきたな」
あれから1日半ほどの時間がたった。
最初の頃は声も出せなかった移動だったが、今となってはこの通りである。
ちなみに、街へはあと少しで着くらしい。
なんでも本当は3日かかる所を、整備されてない荒れ道ばかり通って来たおかげで早くなったみたいだ。
……うん、整備されてない道を通ってたんだね。
でも、いくら整備されてない道を選んでいたとしても、崖を飛ぶのはやめて欲しいかな……!
……そういえば、荒れた道を通ってるというのに揺れがあまりないな?
ちょっと揺れはするが、それでも寝られる位の揺れだしなぁ?
「うーん……?」
気になるし、ちょっと聞いてみるか……
そんなことを考えた俺は、とりあえず隣にいるミツルくんに聞いてみようと思い視線を向ける。
……え?ちゃんと話しかけれるのか、だって?
ふっふっふ!心配ご無用!
実は、ミツルくんとはこの一日で軽く話せるぐらいの仲になっているのだ!
どうだ?すごいだろう?
俺は意外とコミュ力高めのお兄さんだからな!どんどん敬ってくれていいぞー?
……まぁ、あっちから声掛けてくれたんだけどね!
「なぁミツルくん。ちょっといいか?」
「ん?なんでござるかきっぺい殿。……あ」
「あぁ、また殿つけた!デコピンだ!」
「またやっちゃったでござるよ……ではどうぞ」
「では失礼して」
苦笑しながらおでこを差し出すミツルくん。
そんな彼のおでこに、俺は容赦なくデコピンをぶっぱなした。
「うっ……!」
パチン!といい音がなる。
見れば指の当たった部分が少しだけ赤くなっていた。
うむ……今のはいいデコピンだった。我ながら100点満点だ……
……これは虐めてる訳では無いぞ!断じて違うぞ?!
ミツルくんが俺の事を殿づけで呼ぶので、それに対して俺が殿つけなくていいよって言ったのだが……
その後に殿をつけてしまったミツルくんが、顔を青くして腹を切りかけたので、俺が慌てて提案した罰ゲームがデコピンなのだ。
……ちなみにデコピンは今ので13回目である。
「いやぁ、いいデコピンでござった」
「そうだな、いいデコピンだった。
……して、ミツルくん。どうしてこのキャラバンは荒れた道を通ってるのにこんなに揺れないんだ?」
ふぅ……やっと本題に入れたぜ。
「あぁそれはでござるね。
このキャラバンが地面に魔法を使って走っているからでござるよ」
「地面に魔法?どういう事だ?」
「えーと、確か道が荒れてる場合、地面に向けて自動で土魔法を使って荒れをなだらかにして走ってるとか……」
「へぇーすごいな?キャラバンってみんなそうなのか?」
「いや、うちのキャラバンは特別高性能でござるね。
うちのメカニックが様々な機能をつけてるでござる」
「ほえー。
じゃあ普通はめちゃくちゃ揺れたりするのか……辛そうだなぁ?」
「そうでござるねー。拙者もこれを体験したあとで普通のキャラバンには乗りたくないでござるからなぁ……」
そんなに揺れが凄いのか普通のやつ……
ラノベとかでも馬車の揺れで尻が痛いとかよくある話だし、初めての体験がこれでよかったなぁ俺!
「おっ!見てくだされきっぺい……くん。
目的地が見えてきたでござるよ!」
「えっマジで?どこどこ?!」
「ほら。あれでござる」
ミツルくんが指さした方向。
その方向には、万里の長城さながらの城壁を見ることが出来た。
加えて、今居る場所が丘になってるようで、その城壁と中にある街並み……
そして、その奥にある大きなお城が拝見できた。
すげぇ……!異世界って感じの城下町!
なんて大きな城壁に城なんだ……!
「あそこに我ら星の知恵の本拠点があるでござるよ!」
「そうなのか!もちろんギルドもあるんだよな?!」
「楽しげだねーきっぺいくん?
あそこにはギルドもあるよー!よかったねぇ」
後ろからひょこっと顔を出したテルラさんが俺の疑問に答えてくれた。
その答えに、俺のテンションは最高潮に登っていく。
「よっしゃ〜!ギルドと魔法が俺を呼ぶ!」
「テンション高いね〜!」
「街に着いたら案内するでござるよ!きっぺい殿!あっ……」
「うえっぶ、だれかぁ……水……テルラぁ」
「はいはいだんちょう、今行きますよー?」
ふふっ……楽しい人達だな?
初めて会えたのがこの人たちでよかった!
よっしゃあ……これから異世界生活頑張るぞ!
「おめぇら!
もうすぐ着くから降りる準備しろよ!飛ばすぜぇえええぇぇッ!」
……うん!今日も平和だな!