第三話『可愛いは正義!』
「取り敢えず、クランの皆が来たら一緒に町に乗せて貰えるように頼んでみますね?」
oh……myGod……
ねここさんに嫌われてしまうなんて……
人生終わった……さっき始まったばっかなのに……
……いや?待てよ?
嫌よ嫌よも好きのうちという言葉がある事を考えると、もしかして好かれているのでは?
もしかして、絶賛好感度上昇中なのでは?!
という事は、あのお耳をモフらせてもらえるということなのではッ?!!
「きっぺいさん聞いてますか??おーい??」
「え?あぁ聞いてました聞いてました!
確か……ねここさんのお耳をモフっていいんですよね!」
「モフ……?何言ってるんですか!
クランの人に乗せて貰えるように頼む話ですよっ!」
「あっ、そっちの話ですね……すみません!」
「この話以外してません!まったく……」
そうだったっけ?
いかんいかん、ケモ耳様に嫌われたショックであらぬ出来事を創造してしまったようだ……。
俺の脳ってばおちゃめさんだぁ……!
「はぁ……もうすぐ戻ってくると思いますので、そこら辺に座って待っててください!」
「いやはや……すみません。
ちょっとぼけっとしておりました!こっからはもうバッチリですよ!」
「ほんとですよ……しっかりしてくださいね?
……これお茶です。どうぞ!」
いつ準備したのかは分からないが、ねここさんはお茶の入った木のコップを渡してくれた。
そういえば、こっちに来てから飲んでなかったな!割と体動かしたせいで喉がカラカラだ!
「おぉー!ありがとうございます!
ちょうど喉カラカラだったんですよー。ありがたくいただきます!」
ねここさんに軽く頭を下げて、手渡されたお茶をぐいっと飲みほす!
いやー、お茶一気飲みするの昔からの癖なんだよね〜。
今、喉を潤してるって感じがしてとっても良きなのだ!
と、そんなことより、異世界のお茶はどんなお味かな……?
ふっふっふ……お茶検定三級保持者の俺を満足させられるかな?
「……これはッ!」
……美味だ!大変美味である!
例えるとすれば、なんか緑茶と麦茶いい感じに混ぜたみたいな味だ!
……いや緑茶と麦茶いい感じに混ぜるってなんだよ自分?
例えが分かりずらすぎるわ!
まぁ……とにかく美味しいってことは確かだな!
「美味しいお茶ですね!ご馳走様です!」
「それは良かったです!
……そういえば、きっぺいさんはなんであの森に?」
おぉう……!一息してるところだったから意表をつかれたぜ!
危うく木のコップを落とすところだった。
いや、そんなのことよりも……ねここさんになんて返そうか?
異世界から来たんですよー!
……違うな!
ちょっと人生を探しにね……。
自殺しに来たと思われそうだな?
ちょっと道に迷っちゃって……森に入るか普通?
うーん?どうしようか。
……もうめんどくさいから正直に異世界からって言うか?
よし!なるようになれだ!
「えーとですね……自分ーー」
「おーい!ねここちゃーんマリアンちゃーん、帰ってきたよぉー!」
「あっ、帰ってきたみたいですね!
……団長!テルラさん!ミツルさん!おかえりなさーい!」
……よし!計画どうり!
時間を使えば人が来ると最初から読んでいたのさ!(動揺)
まぁ……俺の事はこれから考えていけばいいだろ?
さーて、団長ってどんなのかな〜〜と?
ねここさんの視線の先を見ると、森から出てくる三人の人影が見えた。
一人は、重厚な鎧を身にまとった身長の小さい人。
なぜかは分からんが、左手にも右手にも縦に大きい盾を持っている。タワーシールドってやつだな!
ああいうのって普通どっちかの手には武器持つもんじゃないのかな?防御特化の人なのかな?
2人目は、もろ侍って感じの見た目をした男?だ!
顔が中性的だから男か女か分からんが、多分男だと……思われる。
結わえた髪、動きやすく設計された和服、そして何より、腰に携えられているKATANA!
いいね!かっこいいねKATANA!!!
最後に、不思議な笑みを浮かべる男だ。
全体的にすらっとした衣装に、先の尖った細長い剣、所謂レイピアというのを持っている。
顔はイケメンだが、ふしぎな笑み……もとい、ずっと見てると殴りたくなる様なウザイ笑みを浮かべている。
……そして、なんと!
その顔の横には、異世界の定番!エルフ耳がっ!!!!!
ピンと尖った長い耳は男の透き通った金髪とよく似合っている。
いやー!
これは異世界だね、異世界してるね!
「ただいまー!ねここちゃん……と、誰?」
全身鎧の二盾持ちが俺に話しかけてくる。
ていうか、この人女の人か!全身鎧から激烈なかわいいボイスが発せられたぞ!すごくびっくりした!
「この方はきっぺいさんです。森で四腕熊に襲われてるのを助けてきました!」
おっと!突然のかわボに驚いていて自己紹介できなかったァ!
そして、ねここさんにフォローされてしまったぞ!!!
これはまずい。一社会人としてだめだめだ!
弁解を図らねば……!
「そっか~!ねここちゃんえらいねぇ!よしよし~!」
「ちょ、もう子供じゃないんですからなでなではやめてください!」
「え~…私にとってはまだこどもだよ~?」
そんなことを話しながら、二盾持ちさんが全身鎧の兜を取る。
すると、その兜の下には……
「ふぅー!やっぱり外の空気はおいしい!」
低い身長、薄いピンク色の髪にぱっちりとした目、はにかんだ口がほんわかかわいいを成立させている絶世の美少女が現れたのだ!
か……兜を取ったら美少女、だと?!
そんなことがあって良いというのか……?!
……いや、良いッ!とても良いッ!!!!!!
「うわっ、テルラさん汗だくじゃないですか!ちょっと抱きつかないでくださいよ!」
「いいじゃないか〜♡このこの〜!」
……グッ!!!
ケモミミ美少女とばぶみを感じるほんわか系ロリ美少女のじゃれあいが神々しすぎて、話を切り出すタイミングをのがしてしまったぁ!!!じゃれあってる二人が、キャッキャウフフと笑いあって……!?
うわぁぁぁ!?守りたいこの笑顔ッ!!!!!!
「はいはい、そこまででござるよ!ご客人が困ってるでござる!」
胸を抑えて蹲った俺に気を使ってか、KATANAの人がねここさん達を止めに入ってくれる。
……俺としては別に気にしていない、というかもっとやれって感じだったが、この人もこの人で気配りのできるいい人そうである!
しかし……ござる口調!異世界でござる口調が見られるとは……!
このクランの人達個性が爆発してるな……!
……俺も見習わなければッ!
おっとそれよりも、折角KATANAの人が話を止めてくれたんだ。
一生に一度あるかわからないような美少女と話す絶好のチャンスを逃すわけにはいかない!
「あ~、ごめんね?
ついついねここちゃんと話し込んじゃってた〜!」
「いえいえ、お気になさらず!
こちらも美少女が見れて眼福……ごふん。こちらも助けていただいた身ですので!」
「そっかそっか!礼儀正しくていい子だねー!よしよーし!」
「ぐはぁッ!?」
美少女が、背伸びをしてよしよしをしてくれただと……!?
この俺を……!?よしよし……!?
……????!!!!???!??!?!?
「ふふっ、じゃあ私は先に着替えてくるから!
……きみ、覗いちゃだめだぞ~?またね~!」
「テルラさん!そんなことお客さんに言っちゃいけませんよ!て、あぁ……行っちゃった。
うちのテルラさんがすみません。きっぺいさん…」
……ハッ!
「ッいえいえ!とってもお茶目な方なんですね……!
それに、みなさんの仲の良さが伝わってきましたよ!」
「そうですかね?…迷惑じゃないならいいんですが……」
いやもうどんどんやってくれって感じだね!むしろウェルカムだね!!!
さっきのなでなでからの「……覗いちゃだめだぞ~?」ウィンクがマジで破壊力あったね!!!!!
危うく小走りでついていくところだった
いや……嘘だよ?覗かないよ?覗かないから通報はやめてね???
「さてと、これで静かになった。
うちのものは騒がしくていけないな」
俺が心の中の警察に必死に弁解をしていると、今までずっと沈黙を貫いていたエルフ耳の人がそう声をかけてくる。
その様子はとても落ち着いたものであり、大人の余裕のようなものが感じられて……
俺は、きっとこの人がクランの団長なのだろうと理解し、顔に笑顔を作ってにこやかに言葉を返した。
「いえいえ、皆さんとっても賑やかでいい人だと思います!
こんな自分にも笑顔で話しかけてくださいましたし!」
「そうか……ならば良かった」
「はい!ありがとうござ……」
「と、こんな話よりも、だ。
君は確かきっぺいと言ったな……?」
しかし、とても落ち着いた目でこちらを見ていた団長(仮)は、突如として俺の言葉を遮り口元を歪ませた。
そして、一呼吸おいて口を開く。
「……君の目的はなんだ?」
……え?なんかめっちゃ雰囲気重いんだけど?
なんか疑われてる?団長っぽい人になんか疑われてるんだけど何で?
内心でびくびくしながら、言葉を出すことも出来ずにその顔を凝視する。
「さぁ……さっさと答えるんだ……でなければ、実力で……!」
あっ……!?待てよ!?
団長(仮)めっちゃ怖いと思ったけど、よく見たら顔ウザっ!
めちゃめちゃ顔ウザイんだけど?!
なんていえばいいんだ……えーと、形容し難い……
まじでどうやって作ってんだその表情!?
「団長!そんな言い方しないでください!!
……それといつもその顔はやめてって言ってるでしょう?!ウザイんですよその顔!」
「ウザ……?!カッコイイだろうこの顔!キメ顔だぞ!?
ほれ良く見ろほれほれ!」
団長(本物)は、形容し難いウザイ顔でねここさんに近寄っていく。
そして……
「ちょ、ウザ……やめてくださいッ!」
「ブハッァ!?!!」
そんな団長に、ねここさんの綺麗なボディーブローが入る!
団長、吹っ飛ばされたー!!!!!!
「もう、ちゃんとしてくだいよ!団長!」
「ごふっ……!」
あぁ……こういう人ね……了解了解。
顔はイケメンなんだけど行動がってタイプね。
所謂、残念系イケメンってやつね……
「……さて、君の目的はなんだ?きっぺいよ?」
あ、続けるんだそれ。
……ていうか復活はやいな。相当吹っ飛んでたのに。
いや、よく見たら後ろでまりあちゃんが回復してるわ……。
……団長さん、何事もなかった感じにしてるなぁ?
仕方ない。可哀想だし、話ぐらいするかぁ……
「あー、目的ってほどでもないんですけど、ちょっと町まで自分を乗せてって欲しいんですよね。お願いできませんか?」
「ふむ?町まで……?君は森を抜けてきたのだろう?何をするつもりだったんだ?」
うぐ……顔ウザい人鋭い。
だが……!
ここまで来たらはぐらかすしかない!
「いやぁー?適当にフラフラ〜っと旅してたら森に入っちゃってたみたいで〜?」
「ほう?はぐらかすか……」
ギクッ!
「いや、そういう訳ではないんですけど……」
「なら言えるよなあ?」
「えーとですね……」
「ほら、早く早く」
「そのぉー……」
「ほらほら、話すなら今のうちだ……グハゥッ!!?!」
「もー、お客さんは困らせちゃダメだよ?だんちょう?」
「ふぁ……ふぁい……ぐふっ……」
うわぁ……痛そう。
タワーシールドの上の部分勢いよく当たったよ……。
顔面凹んでる……
うわぁ……極力見ないようにしようっと……!
「ごめんねぇ〜?だんちょうが悪いことして……。
あとで叱ってしておくから許してあげてね?」
「は、はい!自分は全然大丈夫ですテルラさん!」
まりあちゃんに回復されてる団長を見ながら申し訳なさげに話しかけてきたテルラさんに、俺は少しだけ恐怖を覚えながら慌ててそう答えた。
すると、テルラさんはその俺の様子を見て、なにかに気がついたようにぽんと手を叩く。
「あっ、あと町まで乗りたいんだよね?
それなら団長に頼まなくても、この私が許可してあげよう〜!」
「まじですか!?ありがとうございます!」
「ふふん!もっと敬ってくれてもいいよー?」
「神!女神!かわいい!一生ついて行きます!」
「うんうん、宜しい!ついてきなさ〜い!」
テルラさんは俺の言葉を受けて、楽しそうな笑顔で胸をぽんと叩いた。
グばっ……!?
なんということだ……かつてこんな可愛らしい女神がいただろうか?
いや、いない!!!!!これこそ世界一の女神さまだ!!!一度も女神なんて見たことないけど!!!!!
そうだ!自己紹介しなければ!
「すみません!そういえば言い忘れてました!自分は田中 吉平と申します!以後よろしくお願いします。」
「おぉ!そうだね忘れてた〜!
私は、ミルミョル・テルラです!このクラン、星の知恵の警備長を任されてるんだよ?」
警備長!だから盾二枚もちなのか?
「警備長なんてすごいですね!」
「えへへ~。そうでしょうそうでしょう!私ってすごいんだよ~!」
小さな体で胸を張って誇らしげだ!
かわいい!すごいかわいい!!
もっと褒めなければ!
「すごい!テルラさんすごい!よっ!警備長!!!」
「うむうむ、よくわかってるね!!褒めてつかわそう〜!」
「ははぁ!ありがたき幸せ!!!!!」
「きっぺいさんまで何馬鹿なことやってるんですか!二人とも挨拶も終わったならもう出発しますよ!」
ねここさんに叱られてしまった!
テルラさんが可愛すぎて遊びすぎた!
「はい!すみませんねここさん!」
「ごめんね〜。楽しくなっちゃってつい〜」
「もう!……さぁ、出発しますよ!キャラバンに乗って下さい!」
そう言って手をひこうとするねここさん。
そこに酷く申し訳なさそうな声がひとつかかる。
「あの〜……すまないでござるが、拙者、まだ自己紹介してないでござる………」
そう、ござるさんの自己紹介はまだ聞いていなかったのだ!俺も言おうと思っていたが本人に先をこされたな!
「……いえ。忘れてないですよ?」
気まずい雰囲気になったねここさんは顔を逸らしながらそう言った。
……うん、忘れてたねこれは!
すごくいたたまれないね!ござるくんの申し訳なさそうな表情がなんともいたたまれないね!
「……えっと。じゃあ、自己紹介させていただくでござるよ?」
「そうだね〜。きっぺいくんがなんて呼べばいいか分からないもんね〜!」
「あっ。じゃあ、先程も言ったんですが自分から……田中 吉平と申します。以後よろしくお願いします!」
やっぱり自己紹介は自分から言わないとね。
「これはどうもご丁寧に。
拙者、星の知恵戦闘班のクサナギ ミツルでござる。……して、田中殿はもしや新録之国の出でござるか?」
しんろくのくに?
まぁ、当然知らないな?
正直に違うって言ってもいいよな?
まぁ、いいだろ!
「いえ。違いますね〜」
「そうでござるか。すみませぬ、少々気になったものでして……」
「なぜそう思ったか聞いても?」
「いや、名前のつけ方が新録之国特有のものでござったので……拙者の出身地なので同郷かと思いつい聞いてしまったでござるよ」
あーそういえば気にしてなかったけどクサナギさんも日本名だな?
日本に似てる地域があるのかな?
だったらいいなぁ……老後はそこで暮らしたいなぁ。
おっといけねぇ、会話の途中だ!
「そうなんですねぇ。
ですが僕の故郷は違いますね。期待に添えず申し訳ない……」
「いえいえ!ぜんぜん大丈夫でござる!
こちらこそつまらない事を聞いてしまいすまないでござる!」
いい人だなクサナギさん。
こっちのことをすごく気遣ってくれる。すぐ仲良くなれそうだ!
「は〜い。自己紹介も終わったなら出発しようね〜。ほら、ねここちゃんもいくよ〜?」
「うぇっ?は、はい!行きます!」
気まずいのかずっと明後日の方向を向いていたねここさんに声をかけて先導していくテルラさん。
それに続く俺とクサナギさんと団長を引きずったまりあちゃん。
キャラバン(魔改造バス)に乗り込んで町まで行くらしい。
安全にたどり着くといいなー!